「障子貼り」中編
「まず糊を煮ます。
鍋に、ひとつかみのご飯と、たくさんの水を入れてから火にかけます。粘りがでるまで気長に煮ました。時々焦げないように木ベラで鍋底をこそげなくてはなりません。
おかあさんは、洗濯物を干したり、お隣に回覧板を届けたり、何度もキッチンからいなくなるので、その間はわたしがその役目をしました。
出来上がった糊は売ってる透明のものと違って白く濁っています。お粥の失敗作みたいなかんじです。
糊を冷ましているうちに電話が掛かってきて、おかあさんが長電話になりました。
電話が終わったおかあさんが、すっかり糊を忘れているみたいなので、
『おかあさん、糊、糊』とわたしが言うと
『ああ、そうだったわね』とおかあさんが言いました。
おかあさんは、一度、糊をそのままにしてカビを生やしたことがあります。三日も四日も経ったカビは、緑色だったり紫がかったピンク色だったりしました。
あれ? 頭、痛いの?」
聞いてるはずのおかあさんが、こめかみのあたりを中指で押さえていたので、虹子が尋ねました。
「誰のせいなの?」おかあさんが恨めしそうな視線を虹子にくれて「続けてちょうだい」
「それから、わたしは弟の天馬と二人で、外した障子の破れていないところにパンチしました。
それは、おばあさんが生きていたときから、わたしと弟の仕事です。
障子は全部で四枚、廊下に面した大きい障子が二枚と、庭が見える窓の、中くらいの障子が二枚です。
天馬がパンチしたところの桟がばきっと折れて、天馬はおかあさんにものすごく怒られました。
破れた障子全体に霧を吹いて古い紙を剥がしてから、濡れ雑巾を使って桟をそうじしました。
それから、天馬が折った部分をセロテープで修理しました。
じゃじゃーん。
いよいよ、わたしとおかあさんとのバトルです。
おかあさんが大きいほうを二枚、わたしが中くらいのを二枚、どちらが早く上手に貼れるか競争です。
わたしはおかあさんに勝つ自信がありました。おばあさんが貼るのをいつも見ていたからです。おかあさんは忙しがってばかりいるから見ていませんでした。
おかあさんは障子を立てかけたまま、わたしは障子を床に置いてやりました。
障子は、貼り合わせの継ぎ目に埃が溜まらないように下から貼るのだそうです。おばあさんが言ってました。だから、床に障子を置いたわたしは、障子の上下を間違えないように気をつけました。
簡単そうに見えて難しかったのは、ハケで桟に糊を塗るところと、桟の横棒に紙を平行に渡していくところと、端っこの部分で紙をカットするところです。つまり全部です。
始めに貼った一枚は、ハケをよくしごかなったので糊がつきすぎてしまったり、紙のロールがへんな方向に転がってしまったり、せっかく貼った紙が糊で湿っていて、うまく切れなかったりしました。
うまく貼れだしたのは二枚目の障子に突入してからです。やっと調子がでてきたところで終わりました。三枚目があったらもっとうまく貼れたのにと思いました。
わたしはおかあさんより早く終わったので『勝った』と言いました。
そしたらおかあさんが、
『負けた~』と言いました。『降参降参。とてもじゃないけど虹子に敵わないわ~』と言ったので、
『これから、全部、わたしがやろうか』と言いました。
――つづく――
カビを生やした部分はノンフィクションでお送りしています。
そうそう。小4の作文にしては漢字が多いだろとかの突っ込みはナシで。
平仮名ばかりだと読みにくいのよ。
今日のBGM:街でのひととき/ゆむみ
鍋に、ひとつかみのご飯と、たくさんの水を入れてから火にかけます。粘りがでるまで気長に煮ました。時々焦げないように木ベラで鍋底をこそげなくてはなりません。
おかあさんは、洗濯物を干したり、お隣に回覧板を届けたり、何度もキッチンからいなくなるので、その間はわたしがその役目をしました。
出来上がった糊は売ってる透明のものと違って白く濁っています。お粥の失敗作みたいなかんじです。
糊を冷ましているうちに電話が掛かってきて、おかあさんが長電話になりました。
電話が終わったおかあさんが、すっかり糊を忘れているみたいなので、
『おかあさん、糊、糊』とわたしが言うと
『ああ、そうだったわね』とおかあさんが言いました。
おかあさんは、一度、糊をそのままにしてカビを生やしたことがあります。三日も四日も経ったカビは、緑色だったり紫がかったピンク色だったりしました。
あれ? 頭、痛いの?」
聞いてるはずのおかあさんが、こめかみのあたりを中指で押さえていたので、虹子が尋ねました。
「誰のせいなの?」おかあさんが恨めしそうな視線を虹子にくれて「続けてちょうだい」
「それから、わたしは弟の天馬と二人で、外した障子の破れていないところにパンチしました。
それは、おばあさんが生きていたときから、わたしと弟の仕事です。
障子は全部で四枚、廊下に面した大きい障子が二枚と、庭が見える窓の、中くらいの障子が二枚です。
天馬がパンチしたところの桟がばきっと折れて、天馬はおかあさんにものすごく怒られました。
破れた障子全体に霧を吹いて古い紙を剥がしてから、濡れ雑巾を使って桟をそうじしました。
それから、天馬が折った部分をセロテープで修理しました。
じゃじゃーん。
いよいよ、わたしとおかあさんとのバトルです。
おかあさんが大きいほうを二枚、わたしが中くらいのを二枚、どちらが早く上手に貼れるか競争です。
わたしはおかあさんに勝つ自信がありました。おばあさんが貼るのをいつも見ていたからです。おかあさんは忙しがってばかりいるから見ていませんでした。
おかあさんは障子を立てかけたまま、わたしは障子を床に置いてやりました。
障子は、貼り合わせの継ぎ目に埃が溜まらないように下から貼るのだそうです。おばあさんが言ってました。だから、床に障子を置いたわたしは、障子の上下を間違えないように気をつけました。
簡単そうに見えて難しかったのは、ハケで桟に糊を塗るところと、桟の横棒に紙を平行に渡していくところと、端っこの部分で紙をカットするところです。つまり全部です。
始めに貼った一枚は、ハケをよくしごかなったので糊がつきすぎてしまったり、紙のロールがへんな方向に転がってしまったり、せっかく貼った紙が糊で湿っていて、うまく切れなかったりしました。
うまく貼れだしたのは二枚目の障子に突入してからです。やっと調子がでてきたところで終わりました。三枚目があったらもっとうまく貼れたのにと思いました。
わたしはおかあさんより早く終わったので『勝った』と言いました。
そしたらおかあさんが、
『負けた~』と言いました。『降参降参。とてもじゃないけど虹子に敵わないわ~』と言ったので、
『これから、全部、わたしがやろうか』と言いました。
――つづく――
カビを生やした部分はノンフィクションでお送りしています。
そうそう。小4の作文にしては漢字が多いだろとかの突っ込みはナシで。
平仮名ばかりだと読みにくいのよ。
今日のBGM:街でのひととき/ゆむみ
この記事へのコメント
ここ、笑った。いかにも小学生の作文らしくて、ほのぼのしました!
小学生らしくしたつもりはじぇんじぇんありません。
脳みそが小学生なんです。
糊ってカビるんですね。緑やピンクの糊を想像してゾッとしました(笑)
舌切雀の雀が食べちゃう糊ですよね?
材料は何だろう?穀物?それとも海藻?
おかあさんの頭痛は虹子のせいなんです。そこ足りなかったから補足しました。いつも助かります。ありがとう。
舌切雀のウンチクはおばあさん絡みで入れようかと思ったんですがやめました。又、回り道になりそうだったから。
材料は冷ご飯よ。小麦粉でもできる。餃子を包むとき小麦粉をつかうものね。澱粉質のものならなんでもいけるんじゃん?