「毘沙門天AFFECTION」16

「たわけ。正面からいきおって」  ぴょんとルーフから飛び降りた長尾さんが俺に並んだ。 「だめなの?」並ばれた俺。 「馬は臆病なのじゃ。だから後ろから近づく。なのにそれをいつもしない」  吐き捨てるように彼女が言った。  アスファルトに叩きつけられた新兵衛は、黒いガムかすになってしまった。ガムの髪を嗅ぐように…
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「毘沙門天AFFECTION」15

 どんっ!  ルーフから新兵衛が跳んだ。まるで獲物に向かう猛禽類(もうきんるい)。  その姿に、確か梟(ふくろう)も猛禽類だよな、関係ないこと考える。  距離を稼ぐように空中を掻いた足が、ぐんと引き上げられて、前方に揃えた形で突き出された。そこへ体がかぶさった形になった。着地はひどく乱暴だ。  その気配に青鹿毛の…
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「毘沙門天AFFECTION」14

 青鹿毛はデカイ馬だった。  それまで俺が見たサラブレッドのどれよりもだ。それに、やたら蹄(ひづめ)が大きくて脚も太かった。違った。太く見えたのは脚を保護するプロテクターのせいだった。  俺がサラブレッドを見るのは、もっぱら家族とでかけるトゥインクルレースでだけだ。それは毎年3月から11月までの間、2・3週おきに大井競馬場で…
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「毘沙門天AFFECTION」13

 ガードレールの内側に、ところどころ立ち止まる人がいる。  ウォーキングとか通勤の帰りとかそんな感じ。成り行きを見守っている。  馬は黒かった。タテガミはもっと黒かった。 「何をしているのかしら?」立ち往生の馬を取り囲む暴走族を見て、姉貴が言った。「いじめかしら?」  平成の俺らにもわからない。 「あっ! あれ…
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「毘沙門天AFFECTION」12

♪ひろい・せかいの・かたすみでえ~♪  表通りから聞こえるホーンが歌った。 「おっ!」長尾さんが目を見開いた。  すぐに音に向けてダッシュになった。なんという好奇心。たなびく彼女のツインテールを新兵衛が追った。 「おい! おいっ!」俺がそっちに向かって声を張り上げる。「だめだって!」  敷地の外に折れる二人…
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「毘沙門天AFFECTION」11

 屋根瓦の縁で鳴く梟。それに、耳だけ傾けた長尾さんが、確信に満ちた声で言う。 「新兵衛じゃな」  他に誰がいんだよ。  ばさぁ! 薄闇を暗幕の塊が舞い降りた。  長尾さんの足元に猫の着地を決めたそれが、すぐに面(おもて)を上げる。丸めた上半身は、それでも長尾さんの腰よりずっと上だ。それが新兵衛だった。 「な…
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「毘沙門天AFFECTION」10

 姉貴に聞いても埒(らち)があかない。こうなったら本人に聞くまでだ。 「おまえ……」長尾さんの後姿に声を掛けた。「どっから来たんだ?」 振り向いた彼女の頭が、投げてやったポップコーンを前に、餌を貰い慣れてない鳩みたくなった。それからみるみる表情が険しくなって、抑えた声になった。 「そなた、新兵衛の弟ではないな?」 …
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