ハキダメにつる

アクセスカウンタ

zoom RSS 「クリスマス・ラーメン」

<<   作成日時 : 2009/11/23 01:29   >>

ナイス ブログ気持玉 1 / トラックバック 0 / コメント 13

 待ち合わせのロータリーはすごい混雑だった。

 無理もない。渋谷だ。クリスマス・イブのモアイ像は人の海を見ている。

 風にさらされて、とっくに凍った。わたしの彼はまだ来ない。いつものことだ。

 きゃっ、横にいた女の子が嬌声を上げた。流行のショートパンツにカラフルなレギンスを合わせている。彼女が駆け寄ったのは、B系ファッションの男の子だった。彼らは聖なる夜を一緒に過ごす恋人たち。

 似たようなカップルが次々と合流してはロータリーから抜けた。なんだ。この違和感。

 自分のファッションかしら、ブーツに合わせたスカートを見る。少し長い気がして、ウェストをひとつ折った。けど、わたしにミニは似合わない。

 前から冴えないおじさんがやって来た。それがわたしの彼だった。

 なんでこの人なんだろう? 自分でも思う。

「今日の海はビーチクローズだな」

 会うなり、テンション高めのおじさんがわたしを指して笑った。美容院でブローした髪が風に巻かれて、見るかげもなかったのだろう。

 すかして言えばビーチクローズ、すかさないで言ったら遊泳禁止。浜のタワーに括(くく)りつけられた赤旗の意味だ。赤、黄、白の旗が、風の強さと波のうねりの大きさを教えた。
 赤旗がはためくとき、決まって波の申し子たちが唱える呪文があった。

「どこにいたの? 30分待ったよ」

 わたしが非難がましくおじさんのブルゾンをどついた。そのブルゾンはダウンに見えるけど実は中綿という代物で、近所のジーンズショップの目玉商品だった。

 テンションが急落したおじさんの顔が面倒くさそうに、あっちと、向かいの公衆トイレの前を向いた。トイレの前に喫煙コーナーがある。そこにいたとでもいいたげだ。その横の陸橋を上がり、玉川通りと交差する明治通りを恵比寿方面に行けば渋谷場外(場外勝馬投票券発売所 )があった。

「ナンパされるとこだったよ」

 気を取り直して言ったわたしの言葉に、ないない、おじさんの手の平が目の前の蝿を追うようにした。ほんと失礼だな。

 おじさんの脇の下に挟まれた新聞は競馬新聞だった。

「買ったの? とった?」

「だめだった」

「ふうん。よくお金あったね」

 わたしの皮肉に、不服そうな顔でおじさんが言い返した。「プレゼントの分は残ってるよ」

 うそだうそだ。このおじさんは嘘つきだ。
 会社の運動会だと言って、大切な二人の記念日に平気でゴルフに行くような人だ。そんなのに慣れてく自分がいやだった。

 信号が点滅を始めた。小走りのわたしたちは、あとから来る何人かに抜かれた。

 渡り終えて、ちょうど正面にあった、こじゃれた感じのフラワーショップに入った。

「ほんとにいいの? 花で?」確認するようにおじさんが聞いてきて、

「ほんとにいいの。花で」わたしが答える。

 それがおじさんからのクリスマスプレゼントだった。わたしからのプレゼントは、事前に渡した、今日おじさんが着ている目玉商品のブルゾンだった。ごめんね。今月苦しいんだ。

 それから二人でイルミネーションに飾られた緩い勾配を上がって、宮下公園に続く薄暗い道に折れた。

 坂を下りたところに、わたしたちのレストランがある。

 そこでクリスマス・ディナーだ。

「ラーメン2つね。あと、ビールもちょうだい。グラス2つで」

 暖簾(のれん)を払い上げたおじさんが、席に着くなり注文した。おばあさんが一人でやってる屋台だった。

「ビール? 寒いから、いいよ」

「寒いから、いいんだ。ビール」

 おじさんが強情を張る。こういうときは言っても聞かない。

 早い時間の客は、わたしたちだけだ。

「おっとー」

 ビールより先にでてきたラーメンに、おじさんが盛大にコケタ。それから「ビールビール。ビールちょうだいよ」おばあさんを急(せ)かした。

 おばあさんは湯に麺を投入してからビールを用意するつもりだった。でも茹でてるうちに忘れた。気持ちはわかる。

「ほら」

 おじさんが、わたしの分の割り箸を割って寄こした。 

 受け取るときに膝に置いた花束のパラフィンが音を立てた。花束は嵩(かさ)があって重かった。わたしの歳の数だけのバラだ。

 不思議ね。

 それが、大昔の千円ブーケに負ける。

 そのときのブーケの重さを思いながら、ラーメンをすすった。

「まずい」一口食べておじさんが言った。おじさんはへんなところが正直だ。

「しーっ。聞こえるよ」わたしがおじさんをたしなめる。

 そもそも、この店に決めたのはおじさんなのだ。

「不思議だな」おじさんがわたしに同調を求める。「前きたときは、旨かったよな?」

 そう、美味しかった。

 わたしたちは高校の同級生だった。

 その頃のおじさんは、ふつうの17才で、他の男子たちが当時のアイドル話で盛り上がっていても、そこから一番遠いところにいるようなかんじの人だった。そんなおじさんのことが、わたしはずっと好きだった。
 おじさんの所属する水泳部は、強豪チームでもなんでもない部だったから、部員たちのほとんどは週末ともなると、鵠沼(くげぬま)海岸でサーフィンしてるという噂だった。
 誰からだったか、おじさんにもお気に入りのアイドルがいると聞いたときはショックだった。それは音痴すぎてグラビアにしか登場しないアイドル、小林麻美。それで、わたしはCMの彼女を真似て、一度だけ髪を短くしたことがあった。クラスで「似てる」って言われたときは嬉しかったな。

 でも、何もなかった。告白しないまま卒業式が終わった。

 友だちと門を出たらおじさんが待っていて、気を利かせた友だちがわたしたちを二人にした。
 おじさんは、なかなか肝心の話を切り出さない。永久かと思うほど待たされた。

《今度の日曜、海、来る? てか、来てください。つき合ってください!》





    





 サーフィンと抱き合わせだった。

 それから春と夏と秋が過ぎ、二人で迎えた18のクリスマス・イブ。

 わたしたちは年相応にボンビー(貧乏)で無知だった。

 おじさんからのプレゼントは、駅売りのスタンド花屋のミニブーケで、わたしからのは、徹夜で仕上げた指編みのマフラーだった。
 プレゼント交換のあと、どこの飲食店も満員で途方にくれた。予約が必要だなんて知らなかった。二人してクリスマス事情に疎(うと)かったのもあるし、今みたいにファミレスもなかった。

 歩き回ってガード下に屋台を見つけた。それがここだ。やっとありつけた食事がラーメンでもすごく幸せだった。

 まずいラーメンを前にしておじさんが言った。

「俺たち、結婚して立て続けに子供ができちゃったから」

「うん」

「それに、親父もオフクロもいたし」

「うん」

「二人だけなんて、あんまり、なかったな」

 本当に。

 その子供たちも独立して、同居の義父母も相次いで見送った。

 わたしたちは、久しぶりの二人だけに照れていた。聖夜に激しく照れていた。

「来年は――」言いかけたおじさんの前に、遅くなった瓶ビールが置かれた。

「来年のこと、言っちゃうんだ」わたしが二つのグラスにビールを注いだ。

「いいだろ。言ったって。来年は――」おじさんが、丸めた新聞紙をカウンターに打ち付けて、「大穴、どーん! そしたら、おかあさんの好きなフレンチに行こう。海の見えるレストランとかでさ」

「おかあさんて言うな」

「おまえだって、おとうさんて」

「言ってませーん。子供たちがいなくなってからは言ってませーん。それにフレンチとか、いつの話、してんの。イタリアンだよ。イタリアン。今は、イタリアン」

「そうか」

「そうだよ。何も知らないんだから。知ろうともしないんだから――」

 文句になりかけたわたしをスルーして、

「かんぱーい!」

 おじさんがわたしのグラスに自分のグラスを合わせた。いつもこれで騙される。

 びゅううっ。

 坂を駆け下りる強い風に屋台が震えた。 

 ストレートのオンショア。 

「アーメン・ソーメン・みそラーメン!」

 乾杯返しのわたしのトーンが高くなる。

「うわ。でたっ!」おじさんが大げさにのけ反った。

 それが呪文だった。

 赤旗の浜に立ち沖を見つめる波の申し子たち。入水できないときは恨めしくなる。そんなときは気休めに呪文を唱えた。アーメンに込めた思いは、風が止みますように、うねりが収まりますように。それは海へのラブ・コール。だけど波頭はいつまでも白い。最後はやけくそのコールになった。


 今宵のイブにそれを唱える。

 おばさんがおじさんに唱える。

 やけくそのラブ・コール。
 


――おわり――


11/24やたら改稿。


タワー:海岸の監視塔。
指編み:棒針を使わず自分の指で編む技法。不器用でもできる。
ストレートのオンショア参考URL


おじさんとおばさんのメリクリ物語。

小林麻美がつかいたくて投入。
海をだしたらラーメンが薄くなった。
ラスト強引にラーメンでまとめる。

【今日のBGM】Happy Xmas(War Is Over)by チェキ 


※小学生も視野に入れてフリ仮名つけてます。読みにくかったらごめんなさい。


テーマ

関連テーマ 一覧


月別リンク

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!
ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。
→ログインへ
気持玉数 : 1
ナイス

トラックバック(0件)

タイトル (本文) ブログ名/日時

トラックバック用URL help


自分のブログにトラックバック記事作成(会員用) help

タイトル
本 文

コメント(13件)

内 容 ニックネーム/日時
うわっ!もうクリスマス作品ですか。焦るなぁ(^^;

「おじさん」っていうから援交かと思いましたよ(^^
だんだん謎が解けてきて、ほんわか温かい。いいなぁこれ。
語り手のおかあさんがすごく可愛いかったです。ラストの呪文も可愛い♪
クソまずいラーメンでも、「まずい」って言いあえる時間が楽しいんですよね。

つるさん、あと一作くらい、本番用のネタも隠し持ってるでしょ?
ヤバ、ほんと、焦ってきた!
私もいくつかネタを考えているんですが、なかなか書きだせないよ〜!
ia.
2009/11/23 02:25
おじさんのみおじさんていう呼び方は女のずるさですよ(笑)高校の同級生って言った後もおじさんだから、勘違いしましたよ!

心温まるクリスマスストーリーでよかったです!
しかし、気が早いなあ。
企画はクリスマスソング盛り込みが条件ですか?

>麺を優先して → 麺を湯煎して ?
銀河径一郎
2009/11/23 13:09
■ia.さん
うん。
いくらなんでも11月じゃ、
フライングだったわ。

>援交
文章の騙しとかやってみたかったの。ほら「葉桜の季節に〜」みたいに。

>本番ネタ
子供ものが書きたいけど閃かず。
ちょ〜くだらないのなら閃きました。定番のマライア・キャリーと山下達郎の曲で。でも曲が誰かと被るね。
おっと、「誰か」とか、X'mas企画する気満々じゃん。
つる
2009/11/24 02:40
■銀河径一朗さん
女のずるさかあ。なるほどね。

女性は悪意をもって、同性を「おばさん」異性を「おじさん」呼ばわりすることがあるけど、男性はそれをしないね。紳士だわ。だからこそ男性が「おばさん」を言うときは、本当の「おばさん」なんだなって。これはこれでキツイ。

>クリスマスソング
うん。そうしようと思って。
選曲で年齢がわかるかもね。

>高校の同級生って言った後もおじさん
>麺を湯煎して?
ありがとう。
さっそく手直ししました。
自分じゃわからなかったです。
ずっとよくなったでしょ?オイオイ
上手くなったみたいでご機嫌です。
つる
2009/11/24 03:12
父が急に旅立ちましてしばらく留守にしてました。
コメント書けなくてごめんなさいでしたm(__)m  

おもしろかったです。
年令はそんなに上だとは思わず
ご夫婦だとも感じずに読み進めました。
お〜この馴れ合いは夫婦だったんだと関心しました。
読んでいて情景や地理的な物が目に浮かぶようで
引き込まれましたよ。
いつもなから細かい描写が巧い!

これってクリスマス競作じゃないですよね。
どこかでクリスマス企画があったら御一報くださいませ。

2009/11/27 11:47
■舞さん
お父さまのこと知らなくてごめんなさい。
大変でしたね。
心からお悔やみ申し上げます。

地理的なものと仰ってくださり嬉しかったです。
たまには変わったものも書きたいのだけど、
なかなか、知ってることしか書けません。
最近は、開き直って、知ってるとこ専門でいこうかと。

これってクリスマス企画の打診みたいなものだったんです。
「ご一報」だなんて、舞さんみたいに仰ってくださる方を待ってました。

12月になったら、地味に参加を募ってみようかな。
つる
2009/11/27 23:49
クリスマス作品、来ましたね〜(^-^)
いくつになってもこの夫婦のように、素敵な恋をしていたいですね。年齢は関係ナシ!
「クリスマスにラーメン?」と思ってしまいましたが、これが2人の原点だったわけですね。微妙な味の変化なんかが、二人が歩んできた時間の長さを感じさせますね(^-^)

ところで・・・クリスマス短篇競作、やりますか?
何か用意しておこうかな・・・。
shitsuma
2009/11/28 23:20
■shitsumaさん
ありがとう。
夫婦ものなんてピンとこないよね。でも書きたかったんだ。理想よ。理想。

クリスマス企画、しようと思って。
えっ、用意とか言ってくださる?
うわ、なんか楽しくなってきました。
やろうやろう。

今回はね。
勝手に条件をつけちゃいます。
お題を募ってもよかったんだけど、
メンドクサガリなもんで、
そこは許してほしい。
つる
2009/11/29 03:11
こんにちは。素敵なお話でした。
クリスマス・ラーメンっていう題名だけで、ふいてしまいましたよ。
年の差カップル? → あ、同級生か → 夫婦だったのね!と翻弄されました。
面白かったです。
七花
2009/12/01 08:48
■七花さん
クリスマスは敢えてラーメンとか、そういう精神って、かっこいくない?わたしだけか。

中年のおじさんとおばさんのかっこいい話が書きたかったんだけど、ただの思い出話になっちゃった。
それでも、翻弄したといってくださってありがとう。嬉しいな。
また、頑張ります。

つる
2009/12/01 22:53
■気持玉を押してくださった誰かさん
すごく励みになりました。
本当にありがとう!
つる
2009/12/01 22:55
一見、なんだよそのタイトル〜と思ったものの、なるほどなるほど、おもしろかったです。

つるさんの話は発想が柔軟で飽きないです。
ホムラ
2009/12/05 02:22
■ホムラさん
ありがとうありがとう。
ただの思い出話にならないよう、これでも、何度も書き直したんです。だから、嬉しかった。

タイトルは難しいね。いつも悩みます。タイトルから思いついた話なんて、数えるほどです。
つる
2009/12/05 23:44

コメントする help

ニックネーム
URL(任意)
本 文
にほんブログ村 小説ブログ 現代小説へ 人気blogランキングへ
「クリスマス・ラーメン」 ハキダメにつる/BIGLOBEウェブリブログ
文字サイズ:       閉じる