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zoom RSS 「毘沙門天AFFECTION」14

<<   作成日時 : 2009/05/23 01:45   >>

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 青鹿毛はデカイ馬だった。

 それまで俺が見たサラブレッドのどれよりもだ。それに、やたら蹄(ひづめ)が大きくて脚も太かった。違った。太く見えたのは脚を保護するプロテクターのせいだった。

 俺がサラブレッドを見るのは、もっぱら家族とでかけるトゥインクルレースでだけだ。それは毎年3月から11月までの間、2・3週おきに大井競馬場で開催するナイター競馬のことだ。
 イルミネーションを駆ける馬たちの四肢は細い。500キロもの馬体を支えるとは思えないほどだ。早く走ることだけを求められる彼ら。骨折したら最後、薬殺される。

 彼らの脚を思えば、プロテクターのぶんを差引いても青鹿毛の脚は頑丈そうだった。折れるどころか、そのひと蹴りで、ウチの有難い腰掛け岩だって砕くだろう。

 バイクの輪を逃げたくて、プロテクターの四肢が円周の内側を速足になった。走る青鹿毛の馬体が波を打つ。その勢いに押されハンドルを外側に切るバイクがあったりして、その輪がいびつになった。

 なにかの合図で、一斉にエンジン音とフォーンが止んだ。馬を遠巻きにしたバイクたちがスタンドを立て始め、前輪が、傾けた車体とは反対に角度がつけられる。前輪の真上に取り付けられたヘッドライトはついたままだ。それが楕円の内側を一斉に照らし出した。中央にライトアップされて青鹿毛が立ち往生になった。

「ふーん」

 ルーフで長尾さんが声を漏らす。そこで高みの見物を決め込んでいる彼女は、まるで等身大のフィギア。すっと半歩出した足のほうに体重をかけたような姿勢だ。

 やがて国道中央の沈黙と引き換えに、楕円の外からクラクションが吠えた。この空間に足止めされて東西に伸びだした後続車輌だ。

 光の中に浮き上がった青鹿毛が、落ち着かないような仕草で何度も首を振った。

「あれ、なにしてんだ?」俺がルーフに聞く。パンツは見えそうで見えない。
 
「銜(はみ)を合わせとる」長尾さんが答えた。

「はみ?」

「なんじゃ。銜も知らんのか。馬に噛ませる棒状の轡(くつわ)のことよ」

「痛くないのか。それ」

「馬はのぅ。前歯と奥歯の間に歯の生えない部分があるのじゃ。そこに渡した銜を、馬自ら首や頭を動かして安定させるのじゃ」

「へえ」

 いくら競馬場で馬を見たといっても、馬のことなんか全然知らないと思った。

「へいへーい!」

 動きが無くなった中央ステージをけしかけたのは姉貴。いつのまにか長尾さんたちと同じ車両ののボンネットに腰掛けている。その踵がサイドボディに、タ・タン、タ・タン、元気なギャロップを刻んだ。

「だめだってばよ!」姉貴を戒める俺がガードレールを跨ごうとして、

 跨ぎ損なった。不恰好にコケル。急に伸びた身長。まだこの体に慣れない。どうかするとこの有様だ。

 姉貴がけしかけたステージに、トコトコと現れたのは二つの作業着だ。厩舎(きゅうしゃ)の関係者だろうか。

「よーしよし。よーしよし」

 手馴れた感じで馬に声を掛けながら近づいていく。そのまま馬の前にまわった一人が垂れ下がった手綱を拾いあげた。後ろのもう一人も、腹の下に引きずるだけになった胴体カバーのようなものを拾おうとした。
 パッカン。すごい音がして、跳ね上がる馬のケツの延長線上に、カバーを持った一人が流れ星になった。
 直後に不自然なくらいに馬の首が捻(ひね)られて、その遠心力で手綱と手綱に連結された一人が空中に弧を描いた。我慢できずに手を離したそいつが、シャトルになってさようなら。

「あらあら。音と光で興奮しちゃったんだわ」

 そんな馬の様子におばさんが言った。

 ぼっくん、ぼっくん。

 青鹿毛の蹄が派手に鳴った。しきりと足踏みを繰り返す。跳ね上げた尻尾はリズミカルに左右し、乱れたタテガミが面(つら)の半分を隠した。
 
「ほほう」
 
 ルーフの上でそそられたような声を出した長尾さんが、新兵衛をちらりと見た。

 どっちがやる? 

 一旦長尾さんから視線を外した新兵衛が、ステージに流し目をくれてから、くいっと小首を傾けた。

 先でいい? 

 「ちっ!」長尾さんが舌打ちした。

 
 蹄を鳴らす馬の背に鞍はない。




――つづく――


 とりあえず更新。むりやり更新。参考資料を読んだらまた加筆・修正します。



 移送中の馬には、シートをかけたり、足にプロテクターをつけたりするそうです。
 馬の気性の激しさを書こうとしたけどあまりうまく書けませんでした。がっかりだよ。

今日のBGM→シェリーに口づけ/★みほ★
今日の動画→CABALLO FRIESIAN BAILANDO/00:09ピアッフェという速歩の一種。極端に収縮し前進を伴わない、その場で足踏みをするような動作。参考URL青鹿毛は、こんな動作をしたってことで。


小学生も視野に入れてフリ仮名をつけます。読みづらかったらごめんなさい。

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コメント(6件)

内 容 ニックネーム/日時
青鹿毛の表現がリアルでいいですね!
長尾さんや姉貴に俺。
ぼけとつっこみを見てるようで、ますます目が離せません(^^*)



rain
2009/05/23 13:25
★rainさん★
馬、侮ってました。パカパカ走らせればいいってもんじゃなかった。ここ、ムズかったです。
>ぼけとつっこみ
あ、よかった〜。有り得ない設定だからコミカルにいきたかったのよ。見てくださってありがとう。

つる
2009/05/24 00:53
さながらホラー小説ような不穏な幕開けですね(笑)馬って真直で見ると圧力感じますよね。
「馬に歩く作業着が二つ現れた」?ここちょっと意味がわかりづらかったです。
次の犠牲者は誰かな?(笑)それともイケメン新兵衛がいいところを見せてくれるのでしょうか?
ia.
2009/05/26 02:40
★ia.さん★
いつもありがとう。
不穏な感じだった?入れ込みすぎたか。作業着のところと合わせて、ちょっと直してみます。もっと素直に書いたほうがよかったのね。助かります。
よく考えたら、どんなに調教されてる馬でも、近くで見たらこわい。馬を知らない人はいないから、過剰な描写は必要なかった。
この部分は、主人公が馬から受ける印象が、他の人とは違くて、どっちがほんと?って読み手に思わせたかったんだけど、うまくいかなかった。一人称は難しい。語り手の思い込みを読み手に刷り込ませたり、逆に「ちがうだろ」って突っ込ませなきゃいけなかったり。いまさらだけど悩みまくりです。
つる
2009/05/27 01:23
馬の背中はけっこう高い位置なんですよね。
振り落とされて、下に石でもあったらヤバイと思うと乗馬する気になれないチキンです。
有名なのはスーパーマン演じた俳優さんが半身不随でしたね。
大井競馬の馬たちも青鹿毛も同じサラブレッドだから脚の太さはほぼ同じに思えます。というか近くの大井競馬の青鹿毛が逃げてきたのかと思ってましたが違うんですね。
銀河系一朗
2009/09/10 00:48
★銀河系一朗さん★
いつもありがとう。
落馬は怖い。ホッキャードーで乗ったことあるんですよ。観光用。だけど怖かった。4本足から繰り出される振動が想像を越えていました。跨ってるだけで体力の消耗。
ああ、青鹿毛はたぶんサラブレッドとしては異端なかんじでデカクしてみました。移送中に逃げ出した設定だったけど、そうか、競馬場から脱走させてもよかったんだ。もうそのへん無計画なもんで。はじめと最後しか決めてないから、いつも途中で煮詰まる。
つる
2009/09/10 02:59

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