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zoom RSS 「毘沙門天AFFECTION」13

<<   作成日時 : 2009/05/16 00:57   >>

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 ガードレールの内側に、ところどころ立ち止まる人がいる。
 ウォーキングとか通勤の帰りとかそんな感じ。成り行きを見守っている。

 馬は黒かった。タテガミはもっと黒かった。

「何をしているのかしら?」立ち往生の馬を取り囲む暴走族を見て、姉貴が言った。「いじめかしら?」

 平成の俺らにもわからない。

「あっ! あれ、遠藤の言ってた馬じゃね?」俺が、犯人はオマエだ!

「ほう。青鹿毛(あおかげ)かあ」

 俺の横で言った人がいる。スポーツウェアを着たおじさんだ。そのまた隣にパンチパーマのおばさんが並んでいる。二人は夫婦なんだろうな。スポーツウェアはお揃いのネイビーだった。あ、深夜の通販番組で紹介された、着るだけで劇的に汗をかけるという、K-1 EXリアルサウナスーツ(男女兼用)だ。小型犬を抱き上げたおばさんが、

「やあねえ。うちのジャスミンがビックリしちゃったじゃないの」怒った口調で言った。

 ホーンに煽(あお)られるたびに馬が二・三歩ダッシュになった。

「サラブレットにしちゃ珍しいなあ」

 又おじさんが言った。おおかたニュースを見て国道に出てきた。いかにも馬を知ってます。誰に聞かせるんでもないそのつぶやきに、

「え? そうなんですか?」姉貴が釣られた。「てか青鹿毛てなんですか?」

「毛並みよ。鹿毛(かげ)や黒鹿毛(くろかげ)よかもっと黒いのをいう。鹿毛は多いのよ。鹿毛は。サラブレットに。ああ、ほら。ディープインパクト。知ってんだろ? あれがそう。そういうのが全体の40パーセントを占めてる。それに比べて青鹿毛は2、3パーセントしかいない。ハイセイコーがそうだったよ」

 知るかよ。ハイセイコー。

 感慨深げなおじさんに向かって「ハイセイコーってなんですか?」姉貴の質問に、おじさんは植木等みたく心象風景を断ち切られたようにずっこけた。

「知らないのか? ハイセイコー」おじさんががっかりした声で言う。「あいつはさ。1972年に、すぐそこの大井競馬場。そっからデビューしたんだ。ああ。無理ないか。おたくらじゃ」それからお話にならないわというふうに首を振った。

「♪チャラポコ、チャラポコ、チャンチャンチャラポコ♪」

 おじさんがなんかの音頭を口づさんだ。酔っている。手には500mlの缶ビール。

「音痴なんだからやめなさいよ。恥ずかしい」おばさんがおじさんを睨んで言った。

「あんな跳ねっかえり、わしがもう少し若けりゃ、どうってことないで」

 おじさんのセリフにリアリティはない。第一、馬を指す指が定まらなかった。

「ほんとうか?」長尾さんが釣られた。

「おうよ。こう見えても昔はスターじゃ。尾張(今の愛知)でわしを知らん奴はモグリよ」

「よく言うわ」おばさんが、おじさんに横槍を入れてから愛犬に話しかける。「おーよちよち。こわくないでちゅよー」

「尾張。尾張のどこじゃ? わしは越後じゃ」長尾さんがおじさんに興味を持った。

「わしゃ、高浜よ。沢渡町(さわたりちょう)の春日神社近くに住んどった」

「小さな町なのよぉ。毎年10月になると、おまんと祭りっていうのがあるの」おばさんがおじさんの補足になった。

「そんときゃよ。あたりの町が、み〜んな、馬を出しよる。それを円周100メートルほどの柵の中に放るのよ」

 長尾さんが、ふーん、とする。

 俺らは彼女に祭りを否定した。おじさんたちは彼女に祭りを暗示する。

 どちらが本当なのか、決めかねた長尾さんが、「どれどれ」自ら確かめるように、ガードレールをステップにして、駐車中の乗用車の屋根に飛び乗った。

「だめだって!」俺が言っても遅かった。

 すぐに垂直飛びになった新兵衛が長尾さんの横に並んだ。乗用車の屋根がガクン、彼の重みの分だけ沈んだ。

「そこを若衆が馬といっしょになって走る。馬は柵ん中を10秒で一周よ。馬に跳ねられて毎年怪我人がでる。意識を失う奴もいる。だけど捻挫や骨折してなんぼ。そん中でわしは誰よりも長いこと走ったもんだ」

 それまで聞いてた長尾さんがいなくなって、今度は俺に言ってくる。聞いてたら長くなりそう。断ち切るように、屋根の二人にもう一度怒鳴った。 

「違うって! おい! 最後まで話を聞け。これは、おまんと祭りなんかじゃねえんだ!」

「♪おいせまいたか チョイチョイ   のんだか さけを あら よいせ〜 そこせ〜  あまのな〜 いわとの よ〜い それはよ きくざけを ♪」

 おじさんが本格的に歌いだした。その目は焦点が合ってない。 


 全然知らない歌だった。
.




――つづく――



【お断り】*加筆・修正を繰り返しながら更新します。


K-1 EXリアルサウナスーツこれ。テレビ通販大ヒット商品。優れものらしいです。
おまんと祭り 参考サイト。
おじさんが歌ったのは:「おまんと祭り」で歌われる「ひけのうた」歌です。「ひけ」というのは、お祭りが終わって「下(しも)の神社」(旧八剣社)に引き上げることだそうです。このとき、大人や子供が声を揃えて歌うのがこの歌なんですね。雰囲気あるわあ。




 上杉謙信の愛馬・放生月毛(ほうしょうつきげ)は白毛だったそうです。
 馬っていいです。わたし馬に縁があると思う。父方の祖父はたくさんの輓馬(ばんば=競走馬ではなく荷車やソリを引かせるための馬)で商売をしていました。いわゆる博労(ばくろう)です。裸馬に乗って育ったちゅうのが父の自慢です。顔も馬面(うまづら)だし。そのせいか、実家では週末になると競馬中継が流れてますし、わたしの子供たちも馬が好きですね。大井競馬場が近かったせいかな。上の子は中三のとき、本気でジョッキーになるって言いましたっけ。

今日のBGM→草競馬/魔法使いの弟子
今日の動画→ハイセイコーディープインパクト輓馬(ばんば)

小学生も視野に入れてフリ仮名をつけます。読みづらかったらごめんなさい。


【You Tube覚書】
ハイセイコー(ハイセイコー。大井競馬CM/00:58)
ディープインパクト(ディープインパクトすごい追い込み/00:59)
輓馬(宮城県涌谷町・・・東北輓場競技大会/02:43)

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コメント(8件)

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馬キタ━(゚∀゚)━!!!!!
いつ出してくるかとウズウズしながら待ってました。

昔は競馬もサラブレッド系とアラブ系の二種類あったんですよね。新聞では「サラ系 3歳 千八百メートル」「アラブ系 3歳 千八百メートル」のような表記で両者を分けていました。それが今では……。アラブにはアラブの良さがあるのに(´・ω・`)ショボーン

白毛は絶対数が少ないためこれといった競走馬が居なかったんですが、とうとうユキチャンという重賞馬が出まして。芦毛は多いんですけどね。

クロフネ
http://www.youtube.com/watch?v=y-BBvE4rck0
怪我で引退しなければドバイで世界一になれた逸材だっただけに(´・ω・`)ショボーン

ディープインパクトの追い込みに対抗するのは、ブロードアピールしか居ない(`・ω・´)
http://www.youtube.com/watch?v=0z27q6z-izA

URL
2009/05/17 01:22
★鯨さん★
やっぱこういうネタは男の人に任せた方がいいわね。毛色は知らなかったから取りあえずWikiで調べました。だから深く掘らないで。
ユキチャン、クロフネ、ブロードアピール、サンキュウ。ググってわくわくしました。彼らは夢を与えてくれますね。
ハイセイコーとディープインパクトはメジャーすぎるけど仕方なかった。も少しマイナーなものをだすと説明がいるし読むのが億劫になる。長尾さんたちが馬をふんづかまえるきっかけでだしたにすぎないから、本筋からそう離れなかったことでよしとしよう。言い訳です。とにかく毎回、必死よ。
つる
2009/05/17 02:32
出た!パンチパーマのおばさん(笑)タンナさんも濃いキャラなんですね。
「おまんと祭り」は京都の「流鏑馬」みたいなお祭りでしょうか?おじさんの調子の良さに、楽しさとウザさの両方を感じちゃいますね(笑)
サラブレットには人間の夢とエゴが詰まっていて、おじさんも語りたくなっちゃいますよね。
そう言えば青鹿毛の有名なサラブレットは少ないですね。思いつくのはウイニングチケットくらい?
ia.
2009/05/18 00:55
★ia.さん★
早めに出しました。パンチパーマのおばさん。
「おまんと祭り」の動画は「12」にあるの。フライングになったわ。ここにリンクするんだった。「流鏑馬」もそうだけど、日本の祭りで馬が主役になるところって多いですね。「流鏑馬」は生で見てみたいなあ。必ず風物詩としてニュースになりますもんね。
>ウィニングチケット
やん。ia.さんもけっこう知ってるんだ。うん、エゴの部分は見たくないね。武豊はそういう世界に生きているのに、なんであんなにさわやかなんだろう。なんにでも言えるけど、一流の人って余計なことは語らないよね。
つる
2009/05/18 01:42
長尾さん、いよいよ街に出てきましたね。タイムトラベル(スリップ?)ならではの、長尾さんのちょっとズレてる感じがおもしろいですね(^-^)
ここで伏線のあった馬の登場ですか。馬・・・長尾さん・・・珍走族・・・展開が見えるような、見えないような(^-^;)
shitsuma
2009/05/18 08:51
★shitsumaさん★
うん。長尾さんはズレる。それにまわりが慣らされる。そんな感じ。転校生と同じよ。
え?展開が見えちゃった?う〜ん。するどい。きっと当たってるわ。参りました。
つる
2009/05/19 02:24
いるいる、馬キチおやじ、どこでもわいてくるよ(me too 笑)
世代によってアイドルホースが違うんですよね。テンポイント、ハイセイコー、シンボリルドルフ、私はサイレンスズカからディープインパクトだな。
ディープインパクトは素質があったうえに接着蹄鉄のおかげで異次元の走りでした。しかし、馬主の金儲け作戦のために早々と引退。ここでファンはもっと怒るべきだったな。
銀河系一朗
2009/09/08 23:27
★銀河系一朗さん★
あら。馬キチだったんだ?しかも「おやじ」ついいてる。
うんうん。みな聞いたことある名前です。歳がわかっちゃうわ。
確か、蹄がすごく薄い馬がいましたよね。こどもが言ってました。特殊な方法で装着するとかなんとか。それがディープ〜なのか、ちょっと確認してこよう。……やっぱりそうだ。ディープ〜でした。まあ、知ってるなんていっても、そんなもんです。でも、ディープ〜の馬主てやな奴ね。汚れたわ。ディープ〜が。
金持ちほどケチていうけど、ファンの夢を折らないような、懐のデカイ金持ちていないのかな。
つる
2009/09/09 03:09

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