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zoom RSS 「毘沙門天AFFECTION」12

<<   作成日時 : 2009/05/10 01:38   >>

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♪ひろい・せかいの・かたすみでえ〜♪

 表通りから聞こえるホーンが歌った。

「おっ!」長尾さんが目を見開いた。

 すぐに音に向けてダッシュになった。なんという好奇心。たなびく彼女のツインテールを新兵衛が追った。

「おい! おいっ!」俺がそっちに向かって声を張り上げる。「だめだって!」

 敷地の外に折れる二人のうしろ姿に、姉貴がそばにあったママチャリのスタンドを外した。追い駆ける気だ。サドルに跨ろうとして、思ったほど広がらない着物の裾に四苦八苦している。その生足を横目に「なんなんだよ。もう」二人を追って俺も駆け出した。 

 寺を出てすぐは旧東海道。それと交差したバス通りに青物横丁の商店街が並ぶ。それを2ブロック行くと第一京浜だった。

♪パパラ・パラリラ・パラリラリー♪
 繰り返されるニ小節はゴッドファーザー愛のテーマ。暴走族が好んでつかうフレーズだ。

 音を見るたびツインテールが揺れた。その音は建物に阻まれて見えない。けど決まってる。音の主たちは、いつだって品川(方面)からやって来て八潮(方面)に向かうからだ。

 八潮は京浜運河の向こうの埋立地で、その真ん中を鉄道の引き込み線路がぶった切っている。海側は大井埠頭、陸側は人工の都市。シンボルになった清掃工場の煙突の根元には生活圏が広がる。それ以外の広大なスペースは海浜公園になっていて、有事の際には、城南地区住民の緊急避難場所に指定されていた。
 それらを区画するのが無駄に車線の多い道路だ。通行車両もなくなる夜間ともなれば、スピード狂の恰好の社交場になった。騒音に悩まされたマンモス団地の住民が騒いで、慌てた自治体が周辺道路にハンプを作った。けど敷地の隅々にまでは手が回らないと聞いている。

 どういうことなんだ。普段ならあっという間に過ぎ去るはずの愛のテーマが、いっこうに止(や)まなかった。 
 
 長尾さん、新兵衛、俺、姉ちゃんの順でバス通りの歩道を駆けた。すれ違う人が好奇の目が俺らを追った。そいつらからしたら俺らが異様、俺らからしたらそいつらの表情のほうが異様だ。
 
 突然、新兵衛の背中がコンクリートの壁に変わる。きっと前を行く長尾さんが大通りに突き当たった。コンクリにはじき飛ばされた俺が大の字でひっくり返った。そこを後ろから来た姉貴に轢(ひ)かれた。

「Ouch!」said Tom.黒いチューブが俺を縦断する。

 起き上がった俺の息は粗い。あれっぽっちしか走らないでこれだ。受験勉強で体が鈍(なま)ってた。

「どうすんだよっ、これっ。はあはあ」お気に入りのSTUSSYにタイヤ痕がついていた。その裾を引っ張って見せて姉貴をなじった。

「どうって……」言いよどんだ姉貴が、パッと閃いたように言った。「新しいデザインだね」

「なんじゃ。これは?」

 俺ら兄弟にお構いなしで長尾さんが聞いてきた。前を向いたままだ。

「第一京浜だよ」「今の東海道だよ」

 俺と姉貴がハモった。

「祭りか?」

「ちげー」「違うの」

 長尾さんが言ってるのは、成人の日の祝日で国道が空(す)いているのをいいことに、道幅いっぱいを使って時計回りをしているバイクたちのことだった。
 マフラーを吹かす十数台の単車。そのタンクやフレームには、派手なステッカーがこれみよがしに貼ってある。一人乗りもあればタンデムもあった。タンデムの後部シートの奴らはみんな長い物が好きだった。手にしているのは木刀か金属バット。背中に「のぼり旗」まで差している。そこに書いてある漢字は画数が多くて読めねえ。奇声をあげたそいつらが、両車線を跨(また)いで悠々と周回していた。

「見ちゃダメ見ちゃダメ」言いながら姉貴が自転車のスタンドをかけた。

「二人とも聞いて。いい? ここはね。平成なんだ。あなたたちがいた時代よりずっとずっと後の世界なわけ」姉貴が長尾さんと新兵衛の前を塞(ふさ)いで立って、「あ〜。もおっ。なにから説明すればいいのかしら」焦れったそうに額に手を当てた。

「うむ。明治のあとの大正のあとの昭和のあとの平成じゃな」

 長尾さんは賢かった。俺が一回しか言わないことを覚えてる。しかも時系列に並べ直した。

「え〜とえ〜と。平成には――」姉貴の声に愛のテーマが被った。「平成の第一京浜には――」♪パパラ・パラリラ・パラリラリー♪「愛を探す人たちがいるんだ」ちげーよ。

 新兵衛を見上げた長尾さんが、

「変わった馬追いじゃのう」相槌を求めるように言って、

 新兵衛がそれに頷いた。
 



 愛の中心に馬がいた。





――つづく――


ハンプ→自動車の速度を抑制させるための路面の凸部。
STUSSY(ステューシー)→そういうブランドのTシャツです。平らに発音します。もしも「テュ」にアクセントを置いたら、若い人から軽蔑です。
ハモる→ハーモニングの略。



 怠けてました。怠けてました。調べものも滞っていたし、「ハンプ」がでてこないでショートした頭がケム出しました。頼りの「品川ガイド」は2006年度版。古いじゃん。だめじゃん。これ、今年の成人式の祝日の設定なんです。どうしても1月12日じゃないとだめなんです。
 とりあえず更新&現在進行形で改稿します。

今日のBGM→ 愛のテーマ / S’定食
今日の動画→高浜 おまんと祭り 沢渡町カスター/01:19暴れ馬です。

小学生も視野に入れてフリ仮名をつけます。読みづらかったらごめんなさい。

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コメント(8件)

内 容 ニックネーム/日時
「音を見るたび」っていう描写がいいですね。長尾さんの興奮が伝わってくるみたいです。暴走族さえ、長尾さんたちには楽しげに見えるんでしょうね(^^
最初は異物感、次に好奇心、そしてどんどんこのキャラたちが好きになってきます☆
ia.
2009/05/10 01:55
仕事が終わって、ツインテールでブログを見ています
え、長尾さんかよって?^^*
「毘沙門天AFFECTION」いつ再開するか楽しみにしてました!
ちなみに私も、愛を探しています。

rain
URL
2009/05/10 19:28
★ia.さん
うお!ほんと?!よかったー!
長尾さんは感情の起伏が激しい設定。まだこのへんは彼女の行動に一貫性がないように思えてアップするのもおそるおそるです。しかも、ここまでに矛盾してるところを発見して凹みました。
キャラが好きと言ってくださって嬉しかったです。セリフより行動でそういうのを見せていきたいんだけど、これがまた難しい。
NHKの「サラリーマンNEO」を見てて、コメレスがこの時間になりました。あ、言い訳です。あれ、面白いですよね。
つる
2009/05/11 01:49
★rainさん
ツインテールですか。わたしは低めの位置のツインテールでメガネです。ヤンクミと呼んでください。
このお話が滞っていたのは怠慢以外のなにものでもありません。反省しきりです。初心を忘れていました。週1〜2回が更新目標。誰だってイマイチな一日がある。そんな日に少しでも元気のお手伝いができるブログを目指してます。よかったらまた見てやってください。
つる
2009/05/11 01:57
これは驚くだろう!
「どこの軍勢じゃ?」と聞いてほしいな。

あのホーン、うるさいけど、選曲がのどかで妙に笑えますね。
あ、君が代もいいかも。国歌は勇ましいのが多いけど、日本は恋の歌でユニーク。
もう少し歌詞が長いといいのに、短くて国歌斉唱時間でいつも負けてるw
銀河系一朗
2009/09/05 00:02
★銀河系一朗さん★
いつもありがとう。
軍勢のほうがよかったかなあ。そしたら、回り道しないで済んだかも。こっから「20」まで長くなりました。

そうそう。あのホーンてお茶目ですよね。強面のパフェ好き、みたいなギャップ。
国歌ねえ。昔からなんかいまいちと思っています。上杉軍が、旗を「毘」と「龍」で使い分けたように、「君が代」の他にももう一つ、景気のよい国歌があったら面白いのに。それは、オリンピックやワールドカップのときにつかうの。
え、恋の歌だったの?
つる
2009/09/06 19:45
もうひとつの国歌、面白い発想ですね。
なるほど、国際試合は勇ましいのを使うんですね。

個人的な見解ですが、君が代は恋の歌、それも求婚の返歌に思えます。
出典とされる古今集の初期の文献では「我が君は千代にましませ」らしいです。
王の求婚を受けた女性が承諾の証しに「あなたの命が永遠にあるように」と詠んだ歌なのではと想像。
銀河系一朗
2009/09/08 00:41
★銀河系一朗さん★
は〜なるほど。返歌ね。返歌のDNAとかあるんじゃない?ほら、メールのお返事が早い人とか?

王からの求婚。うわ。玉の輿だけど、いろいろとメンドくさそう。断るにしても返歌だったらマイルドでいいかも。
つる
2009/09/09 02:53

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