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zoom RSS 「毘沙門天AFFECTION」10

<<   作成日時 : 2009/04/21 01:29   >>

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 姉貴に聞いても埒(らち)があかない。こうなったら本人に聞くまでだ。

「おまえ……」長尾さんの後姿に声を掛けた。「どっから来たんだ?」

振り向いた彼女の頭が、投げてやったポップコーンを前に、餌を貰い慣れてない鳩みたくなった。それからみるみる表情が険しくなって、抑えた声になった。

「そなた、新兵衛の弟ではないな?」

 彼女が左肩を引いたときには、もう、右手が柄(つか)にかかっていた。

「そんなこと誰も言ってねえし」

 押し下げられた鞘(さや)の根元を見たまま動けねえ。ジェラード(リバプールの8番)のミドルシュートをくらったキーパーみたい。
 こっちのでかた次第では、抜刀と同時に切り上げられる。そういう緊張感だ。一朝一夕で身につくもんじゃねえ。彼女の小さな動きがいった。リフティングと同じ。それがわかったから、声がうわずった。

「な、なあ。本当のこと言おうぜ。おまえ、誰なんだ。どっから来たんだ。なんであそこにいたんだ」

「名は名乗った」

「嘘だ! だって上杉謙信は男だ」

「うえすぎけんしん?」

 又、長尾さんが鳩になった。それに構わず俺がまくしたてる。「おまえ女じゃんか。おかしいだろそこ」

「嘘を申してどうする」

「じゃ、どっから来たんだ?」

「越後の国じゃ。越後の――」

「ち……」縮緬問屋(ちりめんどんや)かい!

「栃尾城じゃ」

「栃尾城?」

「そうじゃ。わしの城じゃ」

「そ、その城の主が、な、なんであんなところにいたんだ?」

「おまえ……黒田の残党か?」眉をひそめた長尾さんは俺の問いに答えない。

 チゲーヨチゲーヨ! ぶんぶんと首を振った俺が「だ、誰だよ。黒田て。と、とにかく俺は新兵衛の弟でも、黒田の者でもねえ。ただの庶民です庶民」両手を挙げて丸腰をアピールだ。

「そうじゃな。あれだけこらしめたんだ。黒田のわけないか。ふん。新兵衛と同じ髪をしておるから、すっかり騙されたわ」

 長尾さんが憤慨したように言って柄から手を離した。ようやく新兵衛の弟でも黒田の者でもないと理解したようだ。俺の気が緩んだ。

「新兵衛ってこんななのかよ?」

 自分の髪をかき上げて俺が言う。冬休みに茶髪にしてそのままだった。これじゃ志望校を受けさせない、担任に絞られたばかりだ。どういうことなんだ。

「そうじゃ。身の丈も幸四郎くらいある。六尺三寸の大男よ」

 俺は身長187cm。日本代表の中澤佑二と同じだ。中学生でなくてもデカイほう。

「そいつ、いくつなんだ?」

「さあ? わしよりいくつか、歳はくうとるはず。林泉寺の和尚がそう言っとった。わしが生まれる前の年に、弟をおぶうて寺の前に立っておったそうじゃ。捨て子よ。よくある話じゃ。それで、不憫(ふびん)に思った和尚が引き取った。わしが和尚に預けられたときには、新兵衛はもういっぱしの寺男じゃった」

「じゃあ、捨て子でもない、城に住んでるような長尾は、なんで寺に預けられたんだ?」

「わしか? わしのお転婆に乳母が手を焼いたからじゃ」

「……」確かに。

「おまけにこの面(つら)じゃ。嫁の貰い手がないと嘆いた父上が、せめて知恵だけでもつけさせようと、7つのわしを和尚に託したのじゃ。ところが、新兵衛もあのとおりの異相よ。誰からも相手をされぬ者同志、腹いせに墓石を倒したりして遊んでばかりおったわ。ははは」

「そんなことねえよ。おまえ、カワイイよ」

 カワイイなんてもんじゃない。マックスだ。そこまで口にできないのは照れだ。
 けど、なんだ? 俺と似て「異相」ってなんだ? 悪いけど、俺、そういう自覚が皆無なんですけど。「で、その新兵衛はどこに行ったんだ」

「わしを逃がすために囮(おとり)になったのじゃ。ばかめ」

「囮?」

「そうじゃ。囮じゃ。
 わしには体の弱い兄上がおってな。体が弱いうえにもってきて気も弱い。それにつけこんだ従兄弟(いとこ)の長尾政景というのが、その兄上に、あることないこと吹き込みよる。どうせ又、禄(ろく)でもないことを企んでおるのじゃろう。だから、政景にちいとばかし釘を刺しに参ったのだ。
 その帰りのことじゃ。何者かに待ち伏せされたのじゃ。新兵衛の弟が、別に住み込んでいる春日城近くの寺まで、あと少しというところじゃった」

「その黒田って奴にか?」

「いや。違う。おそらく、政景の手の内の者か、わしを快く思わない中越(ちゅうえつ)の豪族か」

「なんだよ。おまえの周り、敵ばっかじゃん。そいつ、大丈夫なのかよ」新兵衛を気づかって俺が言う。

「平気じゃ。あの偉丈夫(いじょうふ)に勝てるのは、わしくらいなものじゃ」

「ふーん」自慢かよ。

「しかし、あんまり帰りが遅くて待ちくたびれた。そばに毘沙門堂があったから休んでおったのじゃ。わしの母上は信仰心の厚いお方での。その影響なんじゃろうな。わしは昔から羅生門天が大好きじゃ」

 あ、俺も。俺が羅生門堂を秘密基地に決めたのはそこだった。基地にしようと思えば他にいくらだって場所はあった。
 毘沙門天は仏教でいうところの天部(てんぶ)の仏。四天王の一尊に数えられる武神だ。甲冑(かっちゅう)に身を固めた像は、両脚で邪鬼を踏みつけにし、右手に宝棒、左手は宝塔を捧げ持っている。その風貌は誰に媚(こ)びることもない、むしろ威嚇(いかく)してる。なのに、どうしてこんなに惹かれるんだろう。

「そしたら、俺が」

「そうじゃ」

 彼女がここまで嘘をつく必要があるのだろうか。いや、ない。ついても仕方がない嘘ばかりだ。でも、越後と品川って離れてなくね?

「お待た〜。タンクになかなか水が溜まらないんだもの。それを待ってたら遅くなっちゃって」出て来た姉貴が、ウンコじゃないよ、と言い訳をした。

 姉貴を見た長尾さんがこそっと俺に、「幸四郎の姉様は、たいへんなべっぴんさんじゃな」と耳打ちするから、

「どこがだ!」姉貴の顔は下ぶくれだった。彼女の言う基準がわからない。

 ホゥー、ホゥー。頭の上で梟(ふくろう)が啼(な)いた。

 品川でそれはないっしょ。

 いくら端っことはいえ、ここは東京なんだ。

 それは、亡き祖父に連れられて寄席で聞いた、江戸屋猫八の梟だった。

 
 




――つづく――


間者→まわしもの。スパイ。(新選 国語辞典/小学館)
→尺(しゃく)は、尺貫法における長さの単位である。東アジアでひろく使用されている。日本では、明治時代に1尺=(10/33)メートル(約30.3cm)と定めた。時代により、その長さはまちまちです。
毘沙門天像→日本では四天王の一尊として造像安置する場合は「多聞天」、独尊像として造像安置する場合は「毘沙門天」と呼ぶのが通例である。参考URL
黒田→長尾氏の重臣でもある黒田秀忠が謀反を起こしたので、元服し、栃尾城主となった長尾影虎はたびたび黒田討伐に出陣しました。参考URL
兄上→長尾影虎の実兄、長尾晴景(はるかげ)。越後の豪族はこの病弱な晴景を侮(あなど)って反乱を起こしていました。この豪族をわずか14歳の景虎は、初陣で討伐(とうばつ)してしまいます。
天部(てんぶ)→仏教における神々。




とりあえずビール。とりあえず更新。

今日のBGM→ 勇気の神様/Clear
今日の動画→時の女神(1/3)えーとですね。言い訳するわけではありませんが、YouTube「世にも奇妙な物語」にはまってました。お話ってこうでなきゃと思いました。お薦めは「時の女神(1/3)(2/3)(3/3)」と「2040年のクリスマス(1/3)(2/3)(3/3)」です。

小学生も視野に入れてフリ仮名をつけます。読みづらかったらごめんなさい。

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コメント(8件)

内 容 ニックネーム/日時
面白いわぁ。
いつもながら、物の例えとか、心の声とか
硬い言葉使いの会話の間に
ホッとさせられたり、プッと吹かせたり
業が巧みだわ。
時代語とカタカナのコラボが心地好かったですよ。

2009/04/21 09:04
続き待ってました!
今回はタイムトラベルの経緯の話ですか。新兵衛の身が心配ですね。無事だといいんですけど・・・。囮になってくれたというのは史実なんでしょうか? 歴史には疎いもので・・・(^-^;)

>日本代表の中澤佑二と同じだ

噴きました(笑)
サッカーの小ネタが相変わらず楽しいですね。
shitsuma
2009/04/22 00:44
舞さん、いつもありがとう。
おさぼりしちゃったら、このワールドに戻れなくなりました。恐る恐るアップしたけど、そんなふうに言ってくださってありがとう。
ご都合主義になりそうで、慎重になってる自分がいます。時代物を得意とされる舞さんはすごいな。
つる
2009/04/22 00:49
shitsuma さん、いつもありがとう。
前回のshitsuma さんのコメントに、「タイムスリップ」とあったから、「9」で、そっちにしました。どうもありがとう。
新兵衛は全然平気よ。なんたってイメージは「YouTube」の「里見八犬伝(予告)」の真田広之が演じた新兵衛からいただいてますから。あの動画、チョーかっこいい。
ああ、史実ね。聞いてくださって嬉しいな。語っちゃうよ。上杉軍には「軒猿(けんえん)」という忍者組織があったそうです。でも囮は作り話です。忍者は敵の情報収集とか地味なお仕事がメインだから、ちょっと活躍させたかった。歴史に疎くてサンキュー。ところどころに投入するリアルエピソード、そこに深く突っ込まれんとこっちが困りますから。
サッカーの小ネタ、うん、世界のナベアツじゃないけど、繰り返すことで浸透させようと思って。なるべくメジャーなものを取り上げるから、付いて来てぇ。
つる
2009/04/22 01:32
六尺三寸=187cm。
一尺が約30センチですよね。私も以前調べたところ、曲尺だと約30センチ、鯨尺だと38センチらしいんですよ。どっちなんだろ?でも司馬遼さんの作品なんかもつるさんと同じ曲尺が使われているようです。やっぱ、こっちかな?
変なとこに食いついてゴメン(^^;
ia.
2009/04/22 21:11
ia.さん、いつもありがとう。
どこでも食いついてくれれば嬉しいです。
尺は、さすがにわたしの世代でもピンときませんね。ただ、大正15年生まれの父が、昔話をしてくれるとき、しきりと大男を六尺三寸と言うの。四寸でも五寸でもなく三寸、なんか、そのが座りがよろしくて、六尺三寸になりました。それが、イコール187cmでないことは確か。
司馬遼太郎はいいね。硬派な文章なのに、人をわくわくさせる。心情を深く掘り下げることはしないけど、そこが逆に想像力をかきたてるわ。そういう意味で、映像では表現できない文章の見せ方とか、いつも考えてます。
つる
2009/04/23 00:26
ここも面白いですね!
その前に前話あげた部分をもう詳しく書くと…。
登場人物も読者もタイムスリップを信じられない霧の中にあって、場面も暗くなり「すり合わされた」て言葉で強引さをカモフラージュしつつ読者に同意させた点がとても巧みでした。

過去にタイムスリップしても、目がぱっちりしてまとまったアイドル顔は、南蛮風情の美人と評判になると思いますが、そこは下ぶくれ最強ってことですね(笑)
それを踏まえて「長尾は確かにひど〜く醜いが、俺が嫁にもらってやろう」と言ってみたい(笑)
銀河系一朗
2009/08/29 16:23
★銀河系一朗さん★
いつもありがとう。
もう少し詳しいとよかった?そうか。なんか足りないのか。自分だけわかっちゃってるからそんなふうになってしまうのね。きっと。反省反省。
ここらへんを書いていたときのことを思い出しました。とにかく、先に進みたくて、でも無視できない点もあって、急場しのぎになりました。たぶん、後半で姉貴が語る。それもどうなることやら。

そうか。南蛮美人ね。そういう考えはなかったよ。長尾さんのお目目とかの表現がもっとあったらよかった。そうそう、下ぶくれ最強説。
>それを踏まえて〜
そういうのわかります。結局、顔なんだわ。↓こんな動画を見つけました。笑った。
http://www.youtube.com/watch?v=C1FfFVaf8ac

時代によって美人やイケメンの基準が変わるってことは、そもそも絶対的な美人やイケメンなんて存在しないってことだわ。ほんと助かっちゃう。そういうの。
つる
2009/08/31 22:52

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