ハキダメにつる

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zoom RSS 「毘沙門天AFFECTION」8

<<   作成日時 : 2009/03/22 00:28   >>

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 トイレに行くだけなのに、長尾さんは本堂の入り口に置いてあった刀を手にした。

 どんだけの危機感よ。

 持ってやろうか、と手を出した俺に長尾さんが首を振る。小さな独り言が「新兵衛がおらんと、おちおち用足しにも参れん」そう聞こえた。

 あいにく母屋のトイレは塞がっていた。
 中から、腹の具合が悪いと言ったきり、コンドーが出てこない。

「だから無理して来んなつってんだろ!」

 ドカンとドアを蹴り飛ばして俺が言う。

 仕方ないので、刀を背負った長尾さんを連れて玄関から出た。
 満月に淡い群青の雲がかかっている。境内(けいだい)の薄闇を横切って、離れに向かった。
 離れは、昨年相次いで亡くなった祖父母が住まいにしていた平屋で、そこのトイレは和式だった。鎖の紐を引いて水を流すという旧式のやつだ。長尾さんが嫌がるかもしれない、なんて考える。
 端の物干しで、洗濯物を取り込む姉貴が見えた。

「ひゃあ!」

 姉貴がいた場所で素っ頓狂な声が上がって、干してあったシーツが引っぱられたような形になった。それを見て、いつものおふざけかと思う。俺がお化けがダメなのを、姉貴は知っているからだ。 

「た、助けて! こ、幸四郎!」

 竿受けから外れた竿が、落ちた地面にバウンドした。その向こうで歯がイジメ羽交(はが)い絞めにされた姉貴が暴れている。姉貴を抑える影と、姉貴に止(とど)めをさすような格好の影が2つ。

「姉ちゃん!」

 俺の声に振り向いた手前の影が、「はい、そこ!」俺らにチョークを投げつける数学の石戸谷みたく、腕を振った。

 ひゅん。俺の頬を何かがかすめて、行きかけた足が止まった。

 う、嘘だろ。

 背にした樹齢400年の大銀杏(おおいちょう)に、がっつり食い込んでいたのは手裏剣だった。漫画にでてくるような卍型の黒いそれ。
 手裏剣て水平に投げるんじゃないのか。あまりのことに全然関係ないこと考える。

 横にいた長尾さんが沈んだと思ったら、もう駆け出していた。次の手裏剣を避けて低い姿勢だ。

 どへぇぇぇ!

 彼女がかわした手裏剣が、又、大銀杏に刺さった。俺の髪が逆立って、その場にうずくまる。
 走る彼女と物干しの間に「こしかけ岩」があった。その昔、弘法大師が休んでいかれたという有難い言い伝えのある岩だ。その岩にぴょんと飛び乗った彼女の二歩目が、踏み切り板を踏むようにした。先に出した足が真一文字に伸びて相手の頭にヒットする。影は、手裏剣の構えのままで1メートルほど遠のいた。

 姉貴を羽交い絞めにしていたもうひとつの影が姉貴をリリースする。背中の刀に手を掛けるようなシルエットになったときだ。地面に手をついて着地した長尾さんが、振り返りざま刀をはらう格好になった。
 バシュ! 遅れて、必殺仕掛け人のアフレコみたいな音がして、その影が二つ折りなって崩れた。静止した長尾さんが手にしていたのは物干し竿だった。つえっ。

「幸四郎!」

 どしんと姉貴が俺に体当たりしてきた。それを支える俺も、(フィジカル)つえっ。
 そのまま離れの軒先まで二人で撤退した。その間にも、竿を真ん中に持ち替えて頭の上でくるっとした長尾さんが、起き上がってくる影に応戦していた。金物がかち合う音だけが境内に響く。

「なんだよ。なにがあった? 誰だ。あいつら」目の前で起きてることが信じられない俺が姉貴に聞く。

「知らないよ。だけどこれだけは言える。あたしを間違えたんだ」

「誰とだよ」

「長尾影虎とだよ」

「な、長尾って。あいつ?」

「そうだよ。そう言ったもの。貴様、長尾影虎だな? って」

「マジかよ」

「マジだよ。きっと、あたしが長尾さんの着物を着てたから狙ったんだ。敵方だね。敵方の刺客。つまり忍者。ねえ、ほんものの忍者の衣装って黒じゃなくて茶なのね。その方が闇に紛れて見えにくい。理に適(かな)ってる」

 なに言ってんだか。

 長尾さんがスタスタとこちらに歩いて来た。持った竿の尻を地面に引きずったままだ。何もなかったように澄ました顔は、小鼻が少し膨らんでいるくらいで息ひとつ乱れてない。

 物干しの場所では、2つの影が支えあうようになっていた。その2つが、毘沙門堂に続く小径へ逃げるように急ぐ。途中の大銀杏で、自分らが放った手裏剣の回収作業も忘れない。

「待てよ!」追い駆けようとする俺に「もう良い」長尾さんが言った。

「なんでだよ。なんで逃がすかな。また来たらやばいじゃん」

「背を見せた相手じゃ。深追いすることもなかろう」

 横目でそいつらに言った長尾さんが、俺に竿のはじっこを寄こしてきた。それから空いた両手で、外れたヘッドフォンを直し、スカートの土をパンパンと払った。
 胸に結ばれた刀紐を解きながら、

「姫鶴を抜くまでもない相手よ」手にした刀に言い訳めいたことを言った。愛刀の名前だろうか。
 
 それを、お付きの者が受け取るのが当然という仕草で横に突き出したから、

 それを姉貴が恭(うやうや)しく受け取った。





――つづく――


用足し→@用事をすませること。A大・小便をすること。(新選国語辞典/小学館)
こしかけ岩→静岡県三島市大社町にある薬師院というお寺に、弘法大師が座したと伝えられる「こしかけ岩」があるそうです。いただきです。
姫鶴一文字→上杉謙信の愛刀。上杉家独特の鍔(つば)の無い打刀拵(こしらえ)となっています。その他の上杉謙信の愛刀として、備前長光の「小豆(あずき)長光」「高木長光」などがあります。参考URLここでは、元服間もない長尾影虎の刀として登場しますが、実際、この頃に使われていたかは定かではありません。



ミクミク(初音ミク)はヘッドフォンが標準装備ですから。

今日のBGM→四方八方肘鉄砲/ いわっちMMX
今日の動画→Ninja stars/00:40短いバージョン
       →Ninja Shuriken Demonstration/02:53長いバージョン

小学生も視野に入れてフリ仮名をつけます。読みづらかったらごめんなさい。


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コメント(4件)

内 容 ニックネーム/日時
ようやく通常営業ですね。「長尾さんトイレ洩れちゃうよ」と心配していました(笑)
お、追手が...!びっくりしました。緊張感ありましたよ〜。舞台がお寺なので時代劇風が似合いますね。
いよいよ長尾さんが事情を話してくれるのかなぁ。楽しみです。
ia.
2009/03/24 00:34
ia.さん、いつもありがとう。
そうなの。通常営業はよそいきの顔をしないでいいから気もちが楽だわ。なんて。
うん。長尾さんは飛び蹴りでちびったと思う。でも、なにしろ可愛いミクミクですから、そこに触れません。
舞台がお寺。これから町にでるのにどうしよう。ただでさえ、部屋の照明に驚くであろう長尾さんの描写をスルーしてます。問題が山積みです。
つる
2009/03/24 01:34
トイレかと思いきや、活劇シーン突入、面白いですね!

教師はチョーク投げにした方が手裏剣と親和しそうですが、あれって都市伝説ですよね。実際は見たことも聞いたこともないw 大体投げた後のチョークどうすんだ(笑)
銀河系一朗
2009/08/26 20:35
★銀河系一朗さん★
ほんと?面白かった?わーい!
素直に喜ぶ。なんかここ難しかったんですよ。よかった。

あ、チョーク投げかあ。うん。そっちにしよう。その方が縦の感じがずっと濃いわ。もらってもいいかな?てか、もらっちゃいます。ありがとう!
わたし、チョーク投げ、見たことある気がするんですけど、そういうのってあとからの刷り込みですかねえ。小学校の一年のときの担任がそういう教師でした。ビンタとか平気であったわ。
投げられたあとのチョークは生徒が持ち帰って使うのよ。ローセキ代わりにして。そういえば地面にイタズラ書きもできない世の中になりました。こどもが小さい頃はまだ許されてるところがあったのに。わたし、悟空とか書かせたらうまいですよ。
つる
2009/08/27 01:24

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