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zoom RSS 「死ね死ねバレンタインデー」4

<<   作成日時 : 2009/03/10 20:15   >>

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「こんばんはー、こんばんはー」

 チャイムの故障かと思って大きな声になった。ウンコの家の前にウンコの自転車があったから、てっきり家にいるもんだと思った。やっと出てきたおばさんが、

「あらあ、勘太くん。どした。今日は? 珍しいね。何か用?」 

 用がなかったら来たらへんみたいに言うから、咄嗟に大嘘がでた。

「え〜と、クラス会。そう。クラス会のことで――」

「美鈴ならいないわよ。もう帰って来ると思うけど。上がって待ってる? なんだったらお風呂も沸いてるけど」

 おばさんが俺の言葉に被せて言ってケラケラと笑った。

「ははは」

 お愛想笑いでつきあったけど、からかわれたのと、ありもしないバレバレのクラス会に、いたたまれなくなった。

「つ、ついでに寄っただけだし、全然急がないし、いつでもいいし」

   *

 ウンコんちの前で俺がウンコ座りになる。

 もう帰る、おばさんの言葉を信じてこうしてるわけだ。

「う〜、さみい」

 近所だと思って油断した。自転車で5分だからとウィンブレ一枚だった。

「ちきしょ〜。早く帰れよバカヤロウ……」

 寒さに歯の根も合わない独り言が、針の雨の中に綿菓子になる。その雨に雪片が混じった。

 幼稚園のころからウンコと俺の親は仲が良かった。そんなんで互いの家を行ったり来たりなんてしょちゅうだったし、お泊りごっこで風呂も入った。プールや英語教室なんかの習い事もいっしょだった。冗談で親同士に婚約までさせられた。

 その頃の俺とウンコは、互いを「勘太君」「美鈴ちゃん」って呼んでた。

 いつからだろうな。それが「中村君」と「おまえ」になったのは。

 下の名前で呼び合っているのを小学校で冷やかされた。それ以来目が合っては「あやしい」、並んでも「あやしい」、何をしても「二人はあやしい」ってなった。
 それがどんなに嫌なことだったか、そうなったことがない奴に言われたくない。

 は〜。綿菓子を量産する俺。

 手持ち無沙汰に袋からマドレーヌを取り出してみる。向こうからカートを引いてきたくホームレスと目が合って思わず「これどうぞ」
 俺の唐突な行動にホームレスの人は手を出さない。立ち上がった俺がその人のダウンコートにマドレーヌを押し付けた。ダウンの胸には、見たらいけないような鳩の糞がこびりついていて、その場から離れて来た道を戻った。

「なんで土曜にかぎっていないかな……あ!」

 英会話教室なんだと思った。それは大井町にある。俺はとっくに辞めたけど、ウンコはまだ通ってると親から聞いた。そっか。バスなんだ。
 自転車に跨(またが)り国道に向かった。

 大井町発渋谷行き。
 大井町から来る停留所は反対車線の歩道橋の下だった。チャリを引いて下手の横断歩道に回った。
 赤信号を待つ間に袋のマドレーヌを確認する。残りは4個だった。4ってどうなの。「死」とか縁起悪くね。1個試食することにする。

 まずうっ!

 へんだな。焼きたての1個はウマウマだったのに。

 俺の隣に、同じ信号待ちの傘が2つ並んだ。小さいほうの傘を差したガキが俺を見上げるのは何故だ。咥(くわ)えたマドレーヌだ。ガキと繋いだ親の手が引っぱるようになって、見るんじゃありません。

「クフ?(食う)」ガキに向かってマドレーヌが落ちないように喋った。

「うん!」

 袋から1個渡すとガキが調子こいた。「ママの分もちょうだい」仕方ないからもう1個渡す。

「あらっ、すいませーん。ほらっ、こういうときは何て言うの? ありがとうでしょ?」

「ありがとう。おじさん」 

 ずっこけたケツにパイプが突き刺さる。俺のチャリにサドルはなかった。路駐で盗まれたきりパイプのままだ。そううわけでいつも立ち漕ぎだった。

「おにいさんでしょ、おにいさん。いやだわ。この子ったら。おほほほ」

 顔の形が変わるほどガキの頬が捻り上げられる。

 路線バスが反対車線を左から右に行き過ぎて信号が青に変わった。

 そそくさと歩きだした親子連れのあとから歩き出して、通り過ぎたバスを見る。バスは歩道橋の下で止まっていた。
 バスを下りて歩道橋を上る人がマフラーをしていた。それがマスタード色に見えた。ウンコか? ウンコなのか?

 急遽横断歩道を引き返し、こちら側の歩道橋に急いだ。階段の根元に自転車を止めて駆け上った。

 階段の上は雪雪雪。闇から無尽蔵に湧いてくる細かな雪が、国道の上で踊り狂っている。そのドラマチックに声もでない。

 その中を、マフラーに顔を埋めたウンコが歩いて来た。近づいて来たそいつを通せんぼするように、

「これ」

 コンビニ袋を下げた腕を伸ばした。

 袋を一瞥したウンコの視線が、歩道橋から遠ざかるバスを追う。そのテールランプを見ながら言うには、


「No,thanks.」



 ええ〜?!



 俺は驚いたね。

 ウンコの発した「th」は、

 限りなくネイティブだったんだ。
 




――つづく――

 

No, thanks.→"No, thank you(ノーサンキュー)"のくだけた言い方。 改めて調べたら、No, thank you.は<飲食物などを勧められて断るときの文句>なんですね。お断りに全てに使うわけではありません。

発音にかい!

今日のBGM→ヨーヨー・マン〜気づけば雪が降る/時乃
今日の動画→Heavy Snow - 2008/00:48


小学生も視野に入れてフリ仮名をつけます。読みづらかったらごめんなさい。



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コメント(10件)

内 容 ニックネーム/日時
幼馴染みが急に意識し始めてぎごちなくなる、私も経験がありますよ。男の子は特に「女なんて」という時期があるみたいですし。二人に距離ができたのは世間の荒波でしたか(笑)
マドレーヌは1個ずつ減っていくところが、童話みたいで良いですね。こういうの、好きです♪
せっかく渡せたのに、もう一波乱?
ia.
2009/03/11 01:28
なんか記憶の彼方にあるわ〜
幼馴染と帰る下校をからかわれたこと。
それからかなりよそよそしくなって……
そんで今でも会うと照れくさい(笑)

マドレーヌが減っていくからドキドキしたよ。
いったいどーすんのよ〜って。
なのに最後の1個、いらないってナニ?

2009/03/11 18:04
ia.さん、いつもありがとう。
幼馴染とかベタな設定、使いたくなかったけど仕方ないです。閃かなかったんですもん。
その代わり、このあとは日常のミステリにしてみました。知られざる過去!解き明かされる謎!ホントカヨ
それにしても、例え登場人物に欠点があったとしても、芯は悪い奴じゃないふうに書くのは難しいですねえ。
つる
2009/03/11 22:47
舞さん、いつもありがとう。
あら、皆さん経験者でいらっしゃる。
昔を知られてるっていうのは気恥ずかしいものですね。どんなに取り繕っても繕いきれない感じ。
最後一個のマドレーヌ、渡して終わりじゃつまらないからこんなんなりました。
つる
2009/03/11 22:53
3まであったのに気づかず、あらためて読んだ。
で、まだ、終わりじゃなかった(笑

さてさて、ウンコさんのびっくり言葉に
この後がなにがおきるやら。。
見習猫シンΨ
2009/03/12 08:29
見習猫シンΨさん、ありがとう。
連載でごめん。たぶん、はじめと最後だけ見ればいいと思う。大した話じゃないです。意に反していつも長くなる。本当にモウシワケナイ
つる
2009/03/12 23:52
気恥ずかしくなるんですよねぇ。
うんうん。分かるぞ。
俺もあの頃の純粋さを取り戻したいもんだ。
いったいどこで落としてきたんだろう?
それにしても。
めっちゃ次回が気になるなぁ。
レイバック
2009/03/13 18:18
レイバックさん、連コメありがとう。
>どこで落としてきたんだろう?
落とす、とか。も、持ってたんだ!ウソウソちょっと突っ込んでみた。
その落し物のことなんですけど、真面目な話、自分も落としてる。拾って歩きたい気もする。だけど、それと引き換えに手にしたものもある。ビミョーだわ。
次回?見て見て!
つる
2009/03/14 03:39
むむっ、余裕でお返しに行った雰囲気だった
のに、拒否られて、形勢一気に逆転ですか!

ま、押しては引いて、引いては押される、
恋の基本的流れに流されてるということか
もしれないですね。
銀河系一朗
2009/03/14 23:51
銀河系一朗さん、いつもありがとう。
そうなんです。余裕こいてるからお仕置きよ!
その流れなんですけど、不本意なのがほとんどです。

競作終わって思いました。恋愛と関係ないキャンディ工場生産ラインのオーバー残業悲話にすればよかったって。皆さんと同じ土俵じゃ無理だったのよ。
ちょっと愚痴ってみました。
つる
2009/03/15 00:16

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