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zoom RSS 「毘沙門天AFFECTION」3

<<   作成日時 : 2009/02/02 00:32   >>

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「長尾さん。すいませんけど、そこ、どいてもらえないっすかね。その下に用事があるんすよ」

 立ち上がった俺が彼女の腰掛ける長持ちを指した。それは男兄弟四人で共有する五月人形、等身大の鎧兜(よろいかぶと)を収めた箱だ。そこに遠藤に渡すものが入っている。

「そうか」長尾さんが腰をあげた。狭い堂の中で彼女の肩が俺に触れる。

 ちっせっ!(小さい)

 彼女はすごく小さかった。160センチないと嘆く姉貴より小さいんじゃないかしらん。155とか6とか、そんなものかもしれない。

 長持ちに手をかけたとき後ろで「ちょっと、幸四郎!」という声がした。「満月の晩はココに来たらだめだっていう、おじいちゃんの遺言を忘れ――あっ、ごめん」

 姉貴が言ってバタン! 勢いよく扉が閉まった。なんか誤解されたみたいだ。
 慌てた俺が長持ちを持ち上げる。長尾さんの前でまさかその中身だけ取り出すわけにいかなかった。そのまま巫女装束(みこしょうぞく)の姉貴を追い駆けて言い訳だ。

「違うって!」

「何が違うの? いやらしいわね。あんなところに女の子を連れ込んだりして」

 姉貴がとっとと歩いて行く。俺を見ようともしない。巫女姿は漫画「犬夜叉」の桔梗(ききょう)の衣装だった。神社ならともかく寺で巫女はないだろ。

「だから違うって。聞けよ」あとでオフクロにへんなこと吹き込まれたくない。

「じゃあ何? 開けたら勝手に女の子がいたとでもいうのかしら」

「そうだよ」

「よく言うわ。まあさ、気持ちはわからないでもない。だけど、外(そと)でやりなさい」

 外てなんだよ。外て。外は、

「寒いじゃん。てか姉貴の友達だろ? あいつ俺のこと、しんべえの弟とか言ったぜ」

 姉貴の名前は中澤心。心と書いて「しん」て読む。立ち止まった姉貴が俺を見上げて言った。

「しんべえなんて呼ぶ人誰もいないよ」

 じゃあ、誰なんだ? 

 振り返った俺らの後ろから長尾さんが付いてくる。満月が美しい夜だった。月光に伸びた彼女の影に串が斜めに刺さっている。串は背負った刀だった。

 ぶうう、ぶうう。俺の尻で携帯がブルった。長持ちを置いて出てみる。「もしもし――お、遠藤。今どこ? バナナパンチの前。ふーん。え、うそお? マジで? じゃどうすんだよ?」

 遠藤からの連絡は、新年会をするはずの店がツブレタ、というものだった。「他の店なんて俺が知るかよ。おまえらで探せ。うん。うん。へ〜金子もい(る)んだ? 俺はどこでもいいよ。オマイラの判断に任せる」

 パタンとした携帯から顔を上げたら、姉貴と長尾さんが喋っていた。

 女ってどうしてこう知らない奴と平気で話すかな。

「幸四郎。この子、上杉謙信なんだって。シンベエっていうのは、『軒猿(のきざる)』の一人なんだって。それって忍者集団のことみたい」同時通訳みたいに、話の途中で姉貴がこっちを向いて言ってくる。すぐに長尾さんに顔を戻して「へえ。そうなんだ。シンベエに弟がいるんだ。ここに? ふーん。だからここで待ってたのね――」

 なに言ってんの、姉ちゃん?

 ぶうう、ぶうう。又、携帯がブルったから出てみる。「あ、遠藤か。そんでどうした? どこもない? ちゃんと探したのかよ。うん。うん。ええっ?! なんで俺んち? 本堂に広い座敷があるから。むちゃ言うなよ。あ〜、カラオケね。確かにありますよ。新しい曲なんてねえけど。でもムリだって。ムリムリ。ぜってー(絶対)ムリ! ちょ待てよ! 遠藤? おいっ! 遠藤っ!」

 判断を任せたのがマチガイだった。金のない俺たち、中学生にやさしいバナナパンチで盛り上がる予定だった。2時間千円ソフトドリンク飲み放題。それがだめになって、ウチってなんだ。『食いもんか飲みもん持って、おまえんち集合』遠藤の替わりに出た金子が一方的に言って切りやがった。

「どうしよう、姉貴。親父たち帰って来んの10時ごろだっけ?」

 親父とおふくろは遠縁の不幸に出かけて留守だった。

「どうもこうもないわ。この子お腹減ってるっていうし、そのしんべえとやらが迎えにくるまで、なんとかしてやりましょう」

 そっちかよ。

「ところであんた、それで、なにすんの?」俺の足元の長持ちを指して姉貴が言った。

「余興だよ、余興に使うんだ」嘘だ。 

 長尾さんは俺らの相談をよそに、恥ずかしげもなく着物の裾を割ると、盛大に足を掻きだした。粉が吹いた棒っきれみたいな足に、

 アトピーかよ!





――つづく――


 信頼できる家臣といったら新兵衛でしょ。映画「里見八犬伝」予告編(02:25)でそう思いました。そこ譲れません。



今日のBGM→ほっとけないよ/ naoya750
今日の動画→知ってるつもり「上杉謙信」(02:43)A 

小学生も視野に入れてフリ仮名をつけます。読みづらかったらごめんなさい。


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コメント(6件)

内 容 ニックネーム/日時
お姉さん、動じてないですね。弟が女の子を連れ込んだと誤解した時よりも冷静(笑)
弟くんの能天気さが危うい感じ。何か事件が?
武田新玄と八犬伝って同じ時代だったんですね。私は日本史が弱いので、解説に助けられながら読むことにします。。
ia.
2009/02/03 01:45
小説にとっての大事な要素、それは「新しさ」だと思います。
この作品にはそれがあると思います。
何かの亜流ではないオリジナリティ。
時代考証がしっかりしていれば幅広い層を読者に出来る作品だと思います。
1から2へ急ハンドルを切るようなプロット、センテンスが短く読みやすい文体、などなど大変勉強になります。
ガバチャ
URL
2009/02/03 15:10
ia.さん、いつもありがとう。
お姉ちゃん、まだキャラが安定してません。どういうふうにもっていくか思案中。待ってて。
弟キャラは「あの」中澤先輩だから、わたし的には固まっていて、やりやすいな。事件ねえ。事件、ないのよ。新年会のシーンを書きたかっただけなの。でも、なんか足すかな。ああ、そうすんと入れておかなきゃいけなかったことがでてくる。どうしよう。10話じゃ終わらない。あーどうすっかなあ。悩む悩む。←けっこう楽しかったり。
あらっ。「南総里見八犬伝」はそういえば戦国時代でした。わたし、この話、大好きなんですよ。「ドラゴンボール」ってこの話をパクってませんかね。わたしもパクるけど。ほら、伏姫の数珠が飛び散るところ。「仁・義礼・智・信・忠・孝・悌」と書かれてありました。って、あ〜、しまったー!主人公の名に一文字入れるのを忘れてました。とほほ。

つる
2009/02/03 23:36
ガバチャさん、来てくださってありがとう。
なんか照れた。そう大したもんではありません。
それに、時代考証しないで済むよう、ごまかすことばかり考えてます。
そういえば、ちょうど昨日、そちらに伺ったんです。コメント欄がわからなくて帰ってきちゃいましたが、「神無月の頃」ほんとに面白いです。わかりやすくて読みやすい、謎も気になるし、何よりロケーションがすごくいい、だからついつい先が読みたくなります。
そうだ、他のみなさんにも宣伝してしまおう。
ガバチャさんは、和歌山を舞台にしたエンターテイメント小説を書かれてます。キーワードは「つむじ風剛右衛門(つむじかぜのこうえもん)の埋蔵金」よ。なんだか読みたくなるでしょう?主人公は両親を亡くした高校生の浩也です。高校生、そこもツボ。
つる
2009/02/04 00:09
景虎がリアルッぽいのでウケましたよ。

姉が驚かないところからすると、姉と話す時の口調は今風だったんですかね?
これからどんな事件が起きるのか、楽しみです。
銀河系一朗
2009/08/13 02:14
★銀河系一朗さん★
そうなの。驚かないの。へんでしょう。このあともへんなところいっぱいでてくるのよ。困ったわ。
お姉ちゃんは歴女なんです。今、流行の。「犬夜叉」からマイブームがきたわけなんだけど、そのへんが薄いと思いました。あとでコッソリ滑り込ませておきます。そういうのを疎かにしたらだめね。
事件ちゅう事件は起きないの。そういうスケールのデカイ話だったらいいんだけど。
つる
2009/08/13 23:13

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