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zoom RSS 「新春大カルタ大会」中編

<<   作成日時 : 2009/01/12 00:50   >>

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「新春大カルタ大会」中編

「さあ。新春大カルタ大会のはじまり、はじまりぃ」

 仰々(ぎょうぎょう)しいお祖母さんの口上に、紀子たちが緊張します。そんな紀子たちをよそにお祖母さんはいつもよりずっと嬉しそうです。

 老眼鏡をかけたお祖母さんが皆を見回して「それではいきますよ」メガネの度が合わないのか、手に持った札を少し遠くにやって読みました。「負けるが勝ち」

「はい!」

 マキちゃんが札に飛びつきました。マキちゃんの「ま」の字だったので、始めからその札に目をつけていたようです。

「のどもと過ぎれば熱さ忘れる」

「はい!」今度は紀子です。紀子だってそうでした。「の」の字。これだけはやっぱり他の人に取られたくありません。取り札を並べるときから狙っていました。

 それから、骨折り損のくたびれもうけや、良薬口に苦し、塵(ちり)も積もれば山となるなど、お祖母さんがよく口になさる言葉の読み札が続いて、紀子とマキちゃんの取った札が、二人の座布団の横に積み重ねられていきました。

「ちきしょー、ちきしょー!」

 トモ君が座布団をゲンコで叩いて悔しがります。トモ君のそばにある札ばかり取られたからです。

「頭隠して尻隠さず」

 次にお祖母さんが読んでくださった札に、紀子とマキちゃんの手が伸びかけて止まりました。二人は顔を見合わせて、取るのをためらっています。だって取り札は、布団から出ているのがふんどし一丁の尻という絵柄です。

「はいっ!」

 その隙にトモ君の手が、二人の手の下にあった札に飛びつきました。初めての一枚です。「やったー!」トモ君は喜びを抑えきれないで座布団の上をピョンピョンと飛び跳ねました。取った札を脇にも置かず左手に握りしめて、次の構えは中腰です。

 あんまり子供たちが騒々しいものですから、女同士でお喋りに興じていた紀子のお母さんも、伯母さんも、由布子姉さんも、カルタ会のほうを向きました。

 トモ君のはしゃぎぶりに、カルタに伸びる紀子の手が遠慮がちになりましたが、マキちゃんは容赦なしに、又、トモ君の近くの札を取りました。「わぁーっ!」彼が足で札を蹴るようにして、畳に置かれた取り札の位置はバラバラになりました。

「トモ! いい加減にしなさいよ」トモ君のお母さんがたしなめるように声を掛けますが、トモ君には聞こえてないみたいです。

「楽しそうだねえ。由布子姉も入れて。ねえ。純ちゃんもおいでよ」

 立ち上がった由布子姉さんが純一さんに声を掛けました。あまりお酒が飲めないらしい純一さんが、飲兵衛(のんべえ)の男同士の中で窮屈(きゅうくつ)そうにしていたのを見かねたのでしょう。「あ、それじゃ、ちょっと失礼します」純一さんが言って、ようよう手をついた柱に、しびれかけた足を堪えるような仕草になりました。そうしてから、由布子姉さんとトモ君の間に足を崩して座り、カルタに加わりました。

「縁は異なもの味なもの」

「え」は「得手に帆を揚げる」で取ってしまいましたから、残る「え」は旧カナづかいの「ゑ」でした。子供たちに旧カナづかいなんてわかるわけありません。しばらく皆の視線がカルタの上を行ったり来たりしました。

「えーと。どこかなどこかな」純一さんが言って「ゑ」の札の上でぐるぐると人差し指を回すようにしました。隣のトモ君に、まるでココだよと教えてるようなものです。

 トモ君が味方を得たのを見て、紀子もマキちゃんも負けられない気持ちになりました。



――つづく――


犬棒カルタ参考URL


 前回の続きです。それは、どんな話かというと、
 昔、小豆島には「餓鬼の飯」という、その日限りは大人の指図をいっさい受けず、少女たちの好きなように煮炊きができる風習があったそうです。それにまつわる話です。
 三人称主人公よりの視点で、その日を心待ちにする少女たちの様子や、当日の失敗談などが語られていくのですが、ラストはこうです。
 発熱で参加できなかった初代のところに咲子たち仲良しさんが「餓鬼の飯」を届けます。

「初ちゃん、ごめんな、ごはんがおかゆになったんで」
咲子がそういうと、初代のおかあさんはすかさずに、
「あ、そのほうがよろしい、初代は病人ですから、やわらかいごはんでないとたべられないのです。どうもありがとう」
 それをきくと三人は、ああよかったというように、ほっと息をつきました。(壺井栄著「餓鬼の飯」から引用)


 ね、いいでしょう?じゃ、次回は「あばらやの星」の紹介です。

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コメント(4件)

内 容 ニックネーム/日時
「自分の名前の文字のカルタは絶対譲れない!」文字を子供の頃にそういう思いがありましたよ。懐かしくなっちゃいました♪
それで小さい子は負けちゃうから面白くないんですよね。純一さんのフォローのさりげなさが良い感じです。
「餓鬼の飯」も良いですね。こちらも友達同士のさりげない思いやりに心が温かくなりました。
ia.
2009/01/12 01:15
うわ、ia.さん、さっそくにありがとう。
平凡な話だから面白くもなんともないんだけど、松の内だから許されて。オチは「餓鬼の飯」みたいな感じです。この掌編が収められている本は、決まって落ち込むと読みます。わたしの元気の素です。
純一さんはなぜかここでフェイドアウト。お正月の賑やかさをだすための脇役でした。
この場に総勢11人がいるんです。お祖父さんとお祖母さんと、紀子のお母さんのお姉さんの家族、紀子の家族、由布子姉さんと婚約者。悔やまれるのは、前編でそれを書けなかったこと。巧い人なら、とっくに紹介し終わってるわ。ああ、凹む。
つる
2009/01/12 01:37
そうそう、子供の頃はゑは習わないからね。
読めなかったなあ。
トモ君の初勝利に拍手(笑)!
銀河系一朗
2009/04/22 19:07
銀河系一朗さん、丁寧に見てくださってありがとう。
犬棒カルタの検索にヒットした、たった一つのサイトからの閃きだけで書いた話です。
あ、長くなった理由は、登場人物の子供たちを、一人一人描写しているうち、簡単に終われなくなったんでした。「後編」に続く。
つる
2009/04/23 02:34

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