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zoom RSS 「高円寺物語」36

<<   作成日時 : 2008/12/27 19:45   >>

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「高円寺物語」36 

 しぶしぶと輪踊りの中へ出てきた阿波レンジャーが、互いに顔を見合わせて脱力系のステップを踏みだした。気が乗らないのはわかる。そりゃそうだろう。だって、あんなスゴイのを見せられたあとだ。

「こちら、阿佐ヶ谷警察署です! 中央広場を占拠するそこ! ただちに撤収しなさい! ポワン」

 怒鳴るマイクロフォンに、救われた顔になる阿波レンジャー。コースチャが天を仰いで十字を切った。

 えー、なに、それ? 周囲が騒いだ。さっきと違う、上から目線の呼びかけにカチンときた。

「えーーー、オホンオホン!」どうやら言い直すようだ。「あと十分で一般車両の進入開始となります。どうか速(すみ)やかにお立ち去りください」

 しばらくの間、不服そうなざわめきが続いて、ようやく、仕方がないと人々が動きだす。「偉そうに言いやがって」「俺らの税金から給料もらってるくせしてなんだよ」目の前を歩いて行く集団が、高飛車な警察官の指示にボヤいた。皆、おもちゃを取り上げられてしまった子供のような表情だ。

 とんてんかん、あたしの足元が揺れた。足場の解体にふるわれる金槌の音だ。段取りを支持する職人さんの声が罵声に聞こえる。あちこちで聞こえる、とんてんかんが、夜空に共鳴した。

「お嬢さん、悪いんだけど、どいてもらえんかね」日焼け顔のおじさんに言われて、

「ああ、すいませんでした」ぴょんと最後の一段を飛び降りた。

 威勢のいい掛け声とともにメキメキと板を引き剥がす音がする。右に行く人左に行く人。広場はもうごった煮みたいになっていた。小兵も若独楽も散り散りになった。もうどこに誰がいるんだかわからない。

 おーい。志乃を探して、手にした笛を振った。

 彼女を見つけることが出来ないまま、駅に向かう人の流れに乗った。ぶつかりそうになったのは流れに逆らう横向きの肩だ。その大きな肩が回って、いぶし銀のクロスが小躍(おど)りした。見上げたらタカ。彼の目元が緩んで、かくれんぼを見つけた小学生みたいになった。

「俺、今年で、男、終わりなんだ」

「エッ!?」心臓が止まりそうになる。「ひ、引っ越すの?」

「ちげーよ」

「じゃ、なんで?」

「来年は太鼓だ」

 お囃子の鳴り物は、どこも人手不足だ。他連から借りることだってある。
 そうしている間にも、帰り客に押されたあたしたちは、くっついたり離れたりした。

「そっかぁ」

「笛だろ? 瞳もさ」

 きゃ!  だってぇ! 

 自分にひとりビンタをくれてみる。あとはシドロモドロだ。

「ふ、笛か。う、うん。そう、笛ね。やるかもしれないやらないかもしんないどっちだかわからない」

 彼が言ったのは、こういうことなんだろう。サンは森で、わたしはタタラ場で暮らそう。共に生きよう。タカは若独楽の鳴り物で、あたしは小兵の鳴り物で、一緒に阿波おどり頑張ろう。

 オーライオーライの声と共に工事車両が進んでくる。その途端、どどっと人が押し寄せた。あたしたちは人に揉まれて遠くなった。「安寿」「厨子王」「安寿!」「厨子王!」

 離れた所で彼の片腕が挙がった。じゃ、また。

 次々と押し寄せる波。腕は素っ気なく波頭の向こうに消えた。

 お、終わりなの? あたしたち、これで終わりなの? 来年まで会えないの?

 もみくちゃの末に、駅前のコンコース付近でようやく集団から吐き出される。ほとんどの人は改札と切符売り場の混雑に向かった。

 ここは地の果てアルジェリア。あたしは花屋の前にいた。目の前をお祭りの余韻を引きずった人々が通り過ぎる。ここにいたってタカに会えるわけでもないのに、店先を離れられない。間が持てなくて手にした笛を振る。何度も振って、筒に溜まった唾を切る。
 花屋は店じまいの最中だった。空っぽの傘立てみたいなアルミ缶がいくつも置いてあった。中身がないのは完売の証拠だ。その銀色のひとつにポップが貼られていた。「ワレモコウ 入荷しました」

 ワレモコウ(吾亦紅)。それはバラ科の秋を告げる草花。

 終わりなんだよ。いやでも夏は終わるんだ。

 ポップの踊り文字が、未練たらしい気持ちに終止符を打った。


 うん。

 またね。

 また来年会いましょう。


 さようなら、さようなら。また会う日までさようなら。



担当編集者「――おわり――と」
つる「ちょ、まだなんだけど」
担当「んだかなあ!」



――つづく――

撤収(てっしゅう)→@とりはらって、しまいこむこと。A軍隊が施設などを取り去ってひきあげること。「徹収」と書くのはあやまり。(新選 国語辞典)
安寿と厨子王丸(あんじゅとずしおうまる)→原作は「山椒大夫」詳しくは、クリック。姉と弟なんですね。この二人は悪者に引き裂かれます。わたしの読んだ絵本のワンシーンでは、分かれ分かれの小舟の上で名前を呼び合います。
サンは森で、〜→言わずもがな、「もののけ姫」アシタカのセリフですね。
ここは地の果てアルジェリア→「カスバの女」の一節です。昭和30年に流行りました。ウマレテナイシ
↓ワレモコウ(吾亦紅)画像







 今年の阿波おどりの感動を伝えるブログがありました。ご紹介します。

 今日のBGM→クリック。NEARER MY GOD TO THEE
 今日の動画→クリック。(2008/8/14 阿波踊り 徳川連 葵連 鳴り物 ぞめき 両国踊りロード/08:34)マニアックな鳴り物だけの映像を見つけました。好きでなかったら見ないほうがよろしい。8分。苦痛以外のなにものでもありません。ただ思う。このオッチャンたちのスナップ、ハンパネエって。

 小学生も視野に入れてフリ仮名をつけます。読みづらかったらごめんなさい。

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コメント(4件)

内 容 ニックネーム/日時
「笛だろ? 瞳もさ」

ムフフ( ´艸`)
レイバック
2008/12/30 01:32
レイバックさん、ここにもありがとう。

うわー。ちょー恥ずかしくなった。穴があったら入りたい。
つる
2008/12/30 22:22
おなごの場合は好きな相手に呼び捨てにされて嬉しいんだねえ(笑)
男はあまり嬉しくないかも。親しくないのに呼び捨てされると、変な感じでしたw
銀河系一朗
2009/07/21 03:14
★銀河系一朗さん★
>おなごの場合は
嬉しいんだねえ、これが(笑)
男は親しくない相手に呼び捨てされたら変な感じ?まー。おなごのバヤイは、変な感じじゃ済みません。きもっ!

この呼び捨てのシーン。コメントくださった二人が触れてくださって意外。自分的にはワレモコウがお薦めでした。
にしても、この回、後半でふざけすぎ。調子乗った自分を反省しました。

つる
2009/07/22 01:32

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