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zoom RSS 「高円寺物語」34

<<   作成日時 : 2008/12/23 02:19   >>

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「高円寺物語」34

 肩越しにアニキに一瞥(いちべつ)をくれたタカが、それをスルーして、あたしのおでこをじーっ。

「なんだよ。ちくわぶ?」

 彼に言われて、慌てて額に手を当てた。ない! 新しく貼り直したはずの冷えピタシートがない。いつのまにか又剥(は)がれた。でも、わかるんだ。彼にはわかるんだ。ちくわぶってわかるんだ。すっかり嬉しくなって、

「そうだよ。ちくわぶだよ。ちくわぶが好きなんだよ」愛の告白だった。
 
「へえ。俺、あんま、好きじゃねえ」

「え〜? 昨日、食べてたじゃない」

「あれとコンニャクっきゃ、(残って)なかったんだ」

「ア、ソウナノ――」彼を知ったつもりでいた気持ちが急速に萎(な)えていく。ちくわぶが好きなのかとばかり思っていた。「じゃ、そっちのそれは、なんなの?」

 あたしが彼のフェイスペイントを指す。ずっと気になっていた。人差し指のフェイントに、彼のまつ毛が盛大にしばたたかれる。

「無視してンじゃねえよ!」再び、アニキ。「てめ! 志乃だけじゃなく、瞳にまで@*θ?#☆∞!」

 まつ毛の下で彼の瞳が落ち着きなく揺れる。それはフェイスペイントに対してなのかアニキに対してなのかはわからない。あ。アニキにだ。一点に定まった瞳が、怒鳴り声に向けてゆっくりと動いた。下方を見る彼は横顔で、シルバーアクセだけがあたしに向いている。そのペンダントヘッドは、いかにも手彫りの十字架のモチーフ。それが遠心力みたいにクルンとしたら、彼の地下足袋はもう桟敷を蹴っていた。

 赤影参上!フルイヨ

 アニキの前に着地した彼が、緩んだ膝を伸ばし、二人は睨み合いになった。その普通じゃない雰囲気に、帰り客の足が止まりだした。

 いけない! だめ!

 慌てたあたしが桟敷を下り始める。駆け上がった勢いはWhere are you? 小さい子のように危なっかしく片足ずつだ。濡れた桟敷の板が、磨り減った下駄の歯を滑らせる。足元と二人を交互に見た。
 混雑の広場にぽっかりと現れたミステリーサークル。その中心にタカとアニキがいる。

 二人の睨み合いを指差す中には、アニキにクスクスする人もいた。昨日、志乃がすがってもげた、アニキの片袖を笑っていた。「いい年してまだ(ケンカ)やってるの!」お母さんが怒って繕(つくろ)おうともしなかったそれ。知っていても知らなくても訳ありの袖。
 クスクスを分け入って、喧嘩独楽の半被が次々と人垣の前に出てくる。さっきまでタカといた仲間たちだ。二人を取り囲んだシャットアウトがいってる。ここから先の展開に誰も口を挟ませない。

 ピピー。警察官の笛が鳴ってマイクロフォンだ。

「間もなく交通規制が解除されまーす! ポアン この場所から速(すみ)やかに移動願いまーす!」

 向かい桟敷の下から、わらわらと湧いたのはニッカポッカの職人さんたちだ。解体作業のために裏側でずっとスタンバっていた。彼らはいつだって、未練たらしいあたしたちの心を断ち切るように、さばさばと片付けてしまう。

 あと一段、残したところで下りるのを止める。サークルの内側をぐるっとガードした喧嘩独楽が、詰めるような動作になったからだ。
 黒白の喧嘩独楽を押しやって、えび茶色の衣装たちが現れて弧を広げた。それはウチら小兵連の半被と浴衣だ。浴衣を身につけているのは鳴り物衆だった。
 晋さん、金ちゃん、鉦や締太鼓のおじさんたち、前歯のない仁丹(注:参照)もいる。いつのまにか阿波レンジャーと志乃も並んでいた。皆、中央の二人を止めるでもなく、成り行きを見守っている。

 なぜ? これじゃ、いつかの二の舞じゃない!

 四年前、仁丹とアニキ、その仲間たちが阿波レンジャーのように踊っていた頃。晋さんが言う「小兵の黄金期」に、血の気が多いアニキたちが起こした若水連とのトラブルは、小兵連の阿波おどり生命を脅(おびや)かした。オーバーだよ。事件は振興協会に知るところとなって、ウチらの連は除名寸前までいった。それを食い止めたのは、もちろんおじいちゃんだ。連長自らが各方面に頭を下げまくった。その姿はかわいそうなくらいだった、お母さんが今でもこぼす。

 次の年から、仁丹とアニキは大太鼓になった。彼らなりに責任を感じたのか、一旦は小兵から離れた。でもだめだった。やっぱり阿波おどりが好きで戻った。だから、懲(こ)りてるはずなんだ。

 仁丹のごっつい手が、自分の大太鼓の留め金をゆっくりと外しにかかる。

 アニキは肩こりでもほぐすようにして、タカにメンチを切った。

 タカ! そんな挑発に乗らないで! お願い!

 へへっ。アニキが嬉しそうに手の甲で鼻をこすった。喧嘩の始まりにするいつもの癖。一種のセレモニー。もう片方の手が、たくし上げた浴衣の裾を帯に入れ込んだ。

 それを見て、タカの顔がいっそう険しくなる。前衿に手がかかった。


 おおっ! 


 周囲のどよめきが、灰色にけぶる空を向く。


 そこに、


 喧嘩独楽の半纏が乱暴に舞った。





――つづく――


ニッカポッカ→ニッカボッカーズ。詳しくはクリック。
注:仁丹→あだ名。本名、小林仁。瞳のアニキの悪友の一人。当時の仲間はすでに阿波おどりから離れてしまった。今は彼とアニキが小兵の大太鼓を担当している。「高円寺物語2」に、そのへんのところを追記しました。
赤影→「仮面の忍者 赤影」赤影、白影、青影っていうのがいたんです。ええ、昔の話よ。



担当編集者「でました!お得意の帳尻合わせ。新キャラ(仁丹)登場にびっくりだよ」
つる「わたしもびっくりしちゃった。ふふっ」

 今日のBGM→クリック。I Was Born To Love You
 今日の動画→クリック。(鳴門(なると)/00:16)大田区役所くすのき連の男踊りの高速回転踊りです。若独楽連は、このくすのき連の提灯踊りと、天水連の太鼓(天水B/00:42)をミックスしたようなイメージで書きました。

 小学生も視野に入れてフリ仮名をつけます。読みづらかったらごめんなさい。


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コメント(5件)

内 容 ニックネーム/日時
火事と喧嘩は江戸の華!今回は華やかですね〜。過去の因縁もわかって、スリリングです。
タカの様子がいいですね。最初から熱い仁丹や兄貴と違って静から動へ。
どうなるの?「ちくわぶ」に気づいてくれてた前半のやり取りを読んでいるだけに、切なさ倍増です!
ia.
2008/12/24 01:33
ia.さん、いつもありがとう。
ia.さんはコメントが上手だわ。なんだかその気になってしまった。そんなこと全然ないのに。でも、阿波おどりに、江戸の色が感じてもらえたらこんな嬉しいことはない。だって、わたしのいた江戸浮連がまさにそうだったから。阿波おどりは徳島のもののはずなのに、高円寺で育ったそれは江戸っ子風味なんです。べらんめえ調ってやつ。
静から動、静から動……あ!いけない!あれ忘れた。瞳が逆にタカのフェイスペイントを突っ込むところ。とほほ。ちくわぶの話をするところは、よく映画にあるじゃない?大ピンチなのにTlove youをささやくシーン。オマイラそれどころじゃねえだろ!みたいな。ああいうのが書きたかった。
つる
2008/12/24 21:56
【シーンの追加】
>「じゃ、それ、なんなの?」〜
2行、追記しました。
つる
2008/12/29 17:40
フッ、読めたぜ。
タカのペイントは、天才バカボンのほっぺのナルト巻きの真似だな。絶対に。

な〜んちゃって、「瞳」しかないでしょ?
違うのかな〜。
銀河系一朗
2009/07/13 01:25
★銀河系一朗さん★
いつもありがとう。天才バカボンか!その発想はなかったよ。サッカーファンが国旗のフェイスペイントするでしょ。そんな感じ。「瞳」は当たってるわ。このマークについては「27」のラストで暗示させるだけできちんと解明しなかったの。いま思えば中途半端な謎解きだったわ〜
つる
2009/07/13 22:39

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