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zoom RSS 「高円寺物語」33

<<   作成日時 : 2008/12/16 22:17   >>

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「高円寺物語」33

 若独楽だった。

 トップを張るのはもちろんタカ・トシ。対照的な二人だった。恐ろしく無愛想なタカと笑顔をふりまくトシ。彼らが男ばかりの隊列を引き連れてあっという間に広場を独占した。

 勢いよく放たれた喧嘩ゴマが桟敷の関心を一気に集めた。隅々に散った彼らの提灯が、上下に威勢よく操られる。要所要所の小さな決めポーズに、何度も歓声が湧いた。悔しいけどすごい。

「本年の阿波おどりも残りあと十分を切りました。中央演舞場のラストを飾るのは若独楽連でございます。3年前に若水連から枝分かれした若手主体のメンバーは、そのフレッシュな魅力で昨年の東京都知事賞を獲得しました――」

 一拍子が連打されてアナウンスがかき消された。今流の鉦と太鼓だけのお囃子。それが周囲を圧倒する。
 黒と白だけのコントラストの強い半被が躍動する。彼らは、体中で阿波おどりが好きだって言ってる。それは互いの息がぴたりと合った振り付けだった。一糸乱れずとはこういうことをいうんだろう。全員が左右に大きく足を振り出していたかと思うと、くるっと身を翻(ひるがえ)して頭の上で提灯を一回転させる。タカの提灯なんて二回転だ。かっくぇー。
 鉦が一瞬止む。「やーっ!」全員の声が揃って、ふりかざした提灯で見得を切る。見事な静止に腰から下げた印籠の房だけが地面を掃(は)いた。また早鉦。狂ったように舞う喧嘩独楽たち。
 睨むように静と動を繰り返すタカ。その険しい顔つきに、押えても押えても熱いものが込み上げてくる。
 ずっとずっと考えていた。あたしだけの四元数の概念。今わかった。それはものすごくシンプルな解だ。


 タカが怒って見えるのは、マジなときなんだ。


「さーっ!」タカが声を振り絞る。「さーっ!」それに答える仲間たち。

「さあーさあーっ!」「さあーさあーっ!」

 雨を切るように振られるショートヘアが仲間を勇気づける。彼らの熱気に当てられた周りの観客が次第に前へせり出して広場を小さくした。

「お時間もあと一分を切り――た。もうまもなく終了で――最後まで、皆様最後まで――のほどよろしく――」

 アナウンスなんてもう聞こえない。乱れ打つ太鼓と打ち鳴らし続ける鉦に、見ていただけの観客も堪えきれずに踊りだした。それを団扇や手拍子が更に煽る。崩れた人垣を、両手を広げて制止する警察官はなぜか笑顔だった。

 張りめぐらされた提灯とサーチライトが、広場を煌煌(こうこう)と照らしだしている。明かりにショーアップされた雨がスターダストになって群衆に降り注いだ。
 
 ねえ、この気持ちをなんて言ったらいい?

「それでは皆様ご一緒に、じゅうっ、きゅーっ、はちっ、ななっ、ろくっ、ごーっ」

 スピーカーの声量が大きくなった。それに会場中の声が揃った。カウントダウンに合わせて夜空に突き立てられる指、指、指。
 誰もがこの興奮を共有したい。感動の臨界点を越えた人々が中央に押し寄せた。入り乱れた人々の頭にもうもうと湯気が立った。

「よんっ、さんっ、にーっ、いちっ、ゼロー!」

 わぁああああっ!!!

 歓声と同時に傘の乱舞。ううん。傘だけじゃない。団扇、ビール缶、サンダル、手拭い、そんなものが空中を飛び交った。知らない人同士がハイタッチを繰り返す。みんなが笑っている。会場全体がこの興奮を分け合えた喜びで満ち溢(あふ)れた。
 ここだけじゃない。それぞれの連がそれぞれの場所でそれぞれのフィナーレを迎えた。

 横で志乃が泣いている。

 あたしも心の震えが止まらない。

 しょっぱい汁が唇に下りてくる。

「ねえ!」

 気づいたら人波を掻き分けて走っていた。もうひとつところしか見えてない。
 その人を見失いそうになって桟敷席に駆け上る。一段二段。人のいないところいないところを狙って三段四段、帰り客に逆行するように走った。

「ねえっ! 待ってっ!」

 あたしの声は興奮の余韻に取り込まれて届かない。それでも仲間と後姿を見せるその人を追う。五段六段、桟敷を蹴る下駄の歯で板が鳴いた。

 タカ! タカ! 

 心が呼んでも声に出せないヘタレだよ。

「待ってってばっ!」

 仁王立ちの最上段で声を限りに彼を呼ぶ。見下ろした彼はキョロキョロとしている。すぐにそれがあたしで止まった。
 あたしの肩が上下する。彼を見つめて上下する。伝えたい伝えたい。だから彼を止めた。

「カ、カッコよかったよっ!」他に何が言えるんだ。胸がいっぱいで続かない。あとは自分に聞かせるだけになる。「スゲー……カッコよかった……」

 斜めにこちらを見上げた彼の顔は不満そうだ。聞こえないといっている。

 その不満顔がいきなりダッシュになる。ダン! ダン! 一段抜きで桟敷を上ってくる。
 ショートヘアのつむじが、あたしのひとつ下の段で止まった。上げた顔はいっそう恐い。あたしを見る彼は、雨をうざがって、何度もショートヘアを振った。飛び散る雨粒が宝石になる。

「……」自分を映した彼の目に、あたしは何も言えなくなる。

「……」彼もあたしの言葉を待っている。

 もう一度同じことなんて言えないよ。そっちが何か言ってよ。

「コルァ!」

 言ったのは、もっと下。

「てめっ! 下りて来いやぁ!」

 ウチらを指して怒鳴るアニキに、




 サイテー……
 



 

――つづく――




 お、スランプ脱出。バトリそうだと筆が進むし。

 今日のBGM→クリック。明日へ/ 虎のジョナサン
 今日の動画→クリック。(高円寺阿波踊り2007、フィナーレ/02:22)中央演舞場の賑わいです。ああ、これ見るとわかりますね。人々の頭に湯気なんて立ってませんし傘も乱れ飛んでません。妄想もいい加減にしろ。。
 もっとご覧になりたければ大通りのフィナーレ(2007高円寺阿波踊りフィナーレ/04:23)もどうぞ。

 小学生も視野に入れてフリ仮名をつけます。読みづらかったらごめんなさい。


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コメント(11件)

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今回、すごくいいですね。瞳ちゃんの思いが溢れ出すみたいで。タカもカッコイイ!
と思ったら、アニキ出てきちゃったよ〜(笑)
ia.
2008/12/17 00:33
ia.さん、いつもありがとう。
ほんと!嬉しい!よかったー。そんでも調子にのらないようにしよう。
アニキね。失敗した。ここアニキ一人じゃだめなのよ。小兵の大太鼓にアニキの悪友とかいたほうが絶対よかったんです。そんなわけで、最終回直前に新キャラ登場。ぶはは。

これ、もうすぐ終わるけど、やっぱり後悔があるんです。ベタだけど、小兵連と若独楽連が対立する形のほうが良かったなって。そうはいっても、そっちの形もムズイです。いまさらいっても仕方ないね。ごめん。
それでは、あと、もうちっとだけ、お付合いくださいね。
つる
2008/12/17 23:57
>小兵連と若独楽連が対立
そんな設定があったんですか。そちらも読みたかったなぁ。多彩なキャラが登場するのに瞳ちゃんの恋愛だけじゃさみしいと思ってたんですよ。いつかまた、楽しみにしてます♪
ia.
2008/12/18 23:20
まーっ!ia.さん、コメレスにくらいついてくださってアリガトー!今日は語ってしまおうかしらん。
ええ、そうなんです。はじめは「ウェストサイドストーリー」を真似て、そのほうが絶対に面白いと思ったんです。「若独楽連が若水連から枝分かれした」って書いたんだけど、それは瞳のアニキたちと若水連の連中がトラブったことが原因にしようとしたの。確執のあるグループ同士のヒロインとヒーローの恋バナのほうが面白いものね。でも、そうすんと、悪童がいっぱいでてくるから「池袋ウェストゲートパーク」みたいなことになるでしょう。人物の書きわけができるわけないし。話が大きくなるから無理なのね。実際にウチの子供たちを見ていると、他人とそうはモめないのよ。今は、波風立てずに穏やかにやるのが主流みたいです。わたしも男子の取っ組み合いなんて高校時代に一回見たきりだわ。そうそう、一年くらい前だったかしら。まさに目の前で、乗用車が配達のバイクのおにいちゃんを追い抜いて危うく事故りそうになってりました。「出てこいや!」ってなって、→つづく
つる
2008/12/19 00:14
→つづいた罵りあいのあと二人が車道で胸元をつかみ合いました。ママチャリを止めてガードレールをまたぎました。誰が?わたしが。だって深夜の第一京浜ですよ。後続が危ないじゃないスか。「やめて」って言いました。「わたしのために争わないで!」←ここ言ってない。「両方ともなんともなかったんだから、アンタたち二人運が良かったんだよ。わたしがアンタたちのお母さんだったらそう思うよ」と言いました。2人共シラケてました。今、考えたら、ヤらしときゃあ面白かったよ。ネタ的にね。失敗した。ケンカ慣れしてないと加減を知りませんからね。ちょっとこわかったんです。ウチの子?兄弟間はモめます。ああ、とどめの寸前でやめてるようです。だけどそれも最近では少なくなりました。逆につまんないわあ。話がズレたね。いつか長編にしたいかも。おばあさんになった時の楽しみにとっておこう。たまにお喋りすると長くなります。読んでくださってありがとう。
つる
2008/12/19 00:22
うわー今回めっちゃいい!鳥肌立ったわマジで。いやぁ文体もキレてるし、情景もぶわりと蒸気のようにページから立ち上がってくる。な、なのにアニキィィィィxー(;´д` )
レイバック
2008/12/21 10:35
レイバックさん、いつもありがとう。
なんか嬉しいなあ。うまく書けなかったことや、自分の気持ちがこの話から離れてしまいそうになったことが嘘のように報われます。ほんと、ありがとう。
>アニキ
ださなきゃ、もったいないかなと。

そう、それで、ia.さんが情報をくださった例の奴なんですけど、やっぱり締め切りに間に合わないです。残念。日頃から少しずつ書きだめしておこうって思いました。
↑上のia.さんに向けたコメ返しにオチつけるの忘れてました。ここで披露。
「お母さんね。今日、殺人事件を未然に防いだよ。どうだ。すごいだろう」得々としてわたしが家族に語りました。「うわ、きもい」ですって。「だって、おばさんがでてくんだろ」ファイティングスピリットが萎えるんだそうです。確かにそんな感じだった。じゃ、聞くけど、ミニスカートの藤原紀香だったら違うん?
つる
2008/12/21 22:08
つるさんの実話エピソード、面白〜い!「おばさん・ファイター」で1本書けそうですね。アクション&人情話で。ミニスカの藤原紀香よりカッコイイかも。声援は「萌え〜」ならぬ「萎え〜」ですね(笑)
ia.
2008/12/22 19:43
わあ、ia.さん、ありがとう。
「おばさん・ファイター」いいですねえ。これなら等身大で書けるわ。
ia.さんのコメントを読んで、以前レイバックさんが仰っていたことを思い出しました。ia.さんは編集者向きだってこと。ほんと、アイディアマンだと思うわ。特に「萎え〜」これ流行るんじゃない?てか、流行らせましょうよ。
つる
2008/12/22 22:08
この盛り上がり、サイコーですね!
歯切れがよくて、踊る方のも、見てる方のも、熱い気持ちが伝わってきました!

筆が(キーボードが?)乗ってますねえ!


P.S.体調はいかがですか?
銀河系一朗
2009/07/07 01:41
★銀河系一朗さん★
いつもありがとう。
思い出しました。この部分はイメージがはっきりしていたから苦もなく書けちゃったんだわ。それに引き換え、この前後は苦しみました。

体調はボチボチでんな。そろそろ更新します。訪問もできず申し訳なかったです。


つる
2009/07/08 00:04

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