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zoom RSS 「高円寺物語」32

<<   作成日時 : 2008/12/13 22:32   >>

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「高円寺物語」32 

「やっとーっ!」澄んだ女声が響いたら、「やっとやっとー!」子供たちが金ちゃんの背中に大声になった。

 阿波レンジャーの声も混じっている。昨日までの蚊の鳴く声とは大違いだ。まるで学芸会の二日目。「晴れのちブタ」もそうだっけ。

 女踊りが両腕を挙げる。左手が前なのは始めに振り出す手が右手だからだ。真上にした右腕の袂が編み笠の縁を擦(こす)る。俯(うつむい)いて見えるだろう笠の角度。でもその内から誰もが先を見据えている。

 いよいよだ。桃園・中央演舞場の終点はホームから見えるあの大桟敷。最終日の、しかも終了時間まであと30分のこの時間帯。
 ウチらのラストがここだなんて、いっとう美味しいとこ貰った!
 
 片側二車線の18メートル道路。そこを四列縦隊になって進んだ。
 桃園演舞場の両脇は二段の桟敷席だ。いつもは人でびっしりの席も、まばらな立ち見客しかいなかった。それでも精一杯の拍手をくれる。

 そこに振られる白いハンカチ。コースチャのお祖母さんだ。何か言ってる。きっと激励の言葉だ。シャラポアがそっちに手を振り返す。
 演舞場の先に指を咥(くわ)えた男子がはみだした。指笛の嵐。さっきの阿波レンジャーの同級生たちだ。彼らのブラボーに後ろの祐二が応(こた)えた。「ヘップッシュ!」

 ちびっ子の腕が元気に雨を切っていく。中のお姉さん組は何度も横を見た。よそ見じゃない。小さい子たちの歩みに合わせてラインを整えている。彼女たちの真剣な眼差しが、小さい子たちの上を行き交った。

 横にいる志乃の顔は見えない。笠の下の口元はスタートから真一文字に引かれたままだ。
 
 スローとアップテンポが繰り返されるうち、ウチラのヤットー(掛け声)がひっきりなしになった。少しでも間が空くとすぐに次だ。応(こた)える合いの手も自然と大きくなった。それぞれが自分で自分に気合いを入れてる。

 本部テントの前で向きを変えて足踏みになる。審査員席に自連のアピールだ。地元連だからどうせ賞は取れない。でもいい。だからこその意地だ。ウチラの正調さをたっぷりと見せつける。

 桃園からそのまま中央演舞場に入った。残り時間がないから前後の連がおしくらまんじゅうだ。やかましくてもう自連のお囃子が聞こえない。途切れ途切れに聞く音を拾って自連の旋律にする。それは決して空耳なんかじゃない。

「――降り続く雨にもかかわらず、皆様の温かいご声援、ありがとうございます。さあ、盛り上がるのはこれからですよ。次は小兵連の登場です。昭和53年に結成された小兵連は、正調を基本に個人の個性を尊重したチームです。男踊りは豪快に、女踊りは優雅に、が合言葉です。阿波民謡を演出に組み込むなど新しい方向を模索しながら、次代を担(にな)う子供たちの育成にも力を注いでいます――」街頭マイクにくすぐったい。

 ゴール前の広場は、何段もの高い桟敷席だ。そこに傘が瓦屋根になっている。それまで雨を嫌ってアーケードにいた人たちが、ラストが近づいて押し寄せた。どよめきと歓声、ウチラを煽(あお)って上下する無料団扇。

 最後の見せ場。

 ヒュルルー。奏でられるのんびりとした笛の音。小兵連が最も得意とするテンポだ。先頭のちびっ子たちがスローモーションの動きになる。
 女踊りはため踊りだ。しな垂れる柳のように腕を振り、持ち上げたふくらはぎは、どんだけ〜っていうくらいもったいぶってから前へ落とす。
 そうやってちびっ子たちに追いついてから、反対向きになって男踊りを待った。

 男踊りが腰を落として進んでくる。お尻が完全に踵(かかと)の上だ。そこから繰り出す差し足が、これでもかこれでもかと続く。まだ続く。まだまだ続く。彼らの辛抱強さに、桟敷席から感嘆の声が上がった。それにOLさんや古参の連員さんたちは笑顔になった。だけど阿波レンジャーは笑わない。きっと歯をくいしばってる。

 よくここまできたなあ。

 咽がつんとする。さぼりがちだった彼ら。練習日になると迎えに行った。

 男踊りのどんじりにおじいちゃん。年寄りに拍手が湧く。違う。目配りひとつで広場を魅了した。

 おじいちゃんに関心がいってる間に、鳴り物衆がゴールを背にして立った。一転して一拍子。鳴り物衆は膝で拍子を取っている。もうバウンドするような感じだ。ドドンガ、ドドンガ。その鳴り物にあたしたちは操られる。男踊りと向かい合ったまま、一拍子を跳ねた。

 それから、ちびっ子とあたしたち女踊りが、男踊りと交差するようにすれ違い、何度も練習した広場用のフォーメーションになっった。イメージは鳴門の渦潮。豪快な一拍子に夢中で踊らされた。だからそこから先はふわーとして覚えていない。そういうわけで省略。

 気づいたらゴールしてた。「あ〜あ」誰もが溜息しか口にしない。その中で「あたたたっ!」ブーがひっくり返った。またこむらがえりだ。

 名残惜しくて振り返る広場に、ウチラに続く小規模連だった。目がそれを追っても頭は空っぽだ。

 終わったんだ。終わっちゃったんだ。もうそれだけ。

 観客から笑いが起きた。ウチらのあとに続いた小規模連にだ。広場の中央でひょっとこ踊りが繰り広げられる。それぞれの連に十八番(おはこ)がある。観衆の関心いつだっては目の前にしかない。


 ドドドドド。


 地鳴りがした。ひょっとこのうしろから、力強い太鼓に追われた最後の連が雪崩(なだれ)込んできた。





――つづく――



 やっと書いたべさ。長くなっちっち。


 今日のBGM→クリック。TSUNAMI/赤点王子
 今日の動画→クリック。(2008高円寺阿波おどり その3/03:54)こんなふうにテント前を通過するわけです。
 もひとつ動画→クリック。(2008 徳島阿波踊り V/00:56)こんなため踊りは初めて見ました。


 小学生も視野に入れてフリ仮名をつけます。読みづらかったらごめんなさい。

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コメント(11件)

内 容 ニックネーム/日時
とうとうブログデザインが冬になっちゃいましたよ(笑)
いよいよ阿波踊りの見せ場。今回は気合が入ってますね!
客席から振られるハンカチ、指笛などが盛り上げてくれますね。阿波レンジャーも立派になって。「もうひと頑張り」と応援したくなっちゃいますよ。
でも"ハンカチーフ"はないでしょう、つるさん(笑)オバサンぽくなってるよ。
ia.
2008/12/14 00:56
ia.さん、いつもありがとう。
エッ!プログデザイン?きゃっ!金魚どこ行った?
ちょっと間があいてしまったので、話に乗っかれたかビクビクのアップです。なのにこうしてコメントくださって本当に嬉しいです。
今回つくづく思いました。見たまんま書くのって簡単なようでむずかしいのねえ。
おお!ハンカチーフ!高校生が語っているのになんとしたことでしょう。ボロがでたわ。ハンカチにしようっと。どうもありがとう!
ここだけの話、すっかり寒くなったものだから、はじめはネッカチーフなんて打ち込んでいましたよ。アホ
つる
2008/12/14 11:28
恋人よ、僕は旅立つ〜
涙拭く木綿のハンカチーフを用意して二人の行く末を見守っています。

URL
2008/12/15 00:46
鯨さん、いつもありがとう。
あっ、その歌知ってるんですか。ほんと物知りだわ。あの歌が流行っているころ、太田博美の透きとおった歌声を聞くたび、いもしない自分の彼が都会の色に染まっていくんじゃないかと気を揉んだものです。その頃からすでに妄想癖があったようです。
鯨さんは二人にどうなってほしい?あ、いけない。また、話題をふっちゃった。わたしは織姫と彦星でいいんじゃないかと思ってるんですけどね。

つる
2008/12/16 01:21
今回は入魂って感じですね。かなり念入りに描写されているので、連続写真を見ているような気分でイメージが膨らみました^^ で、今高円寺阿波おどりの動画観たんだけど、面白かったー! やっぱり演じてる人が楽しんでると、その熱気が伝わってくるよね。ほんま生で観たいと思った(笑) 
レイバック
2008/12/16 21:52
レイバックさん、いつもありがとう。
この部分はしんどい気持ちをもっと書きたかったけどうまくいかなかったわ。ここにくるまでもっとさらっと、ここは倍くらいにしてもよかった感じです。悔やまれるわ。
動画はつけて正解だわ〜。文章の足りないところを補ってくれてます。そうね、そうね。本場の阿波おどり観たいわね。瀬戸内の浜風に乗った阿波おどりは東京のそれとは趣がずいぶんと違うのでしょうね。何度も言うけど、高円寺のだったらご案内しますよ。
つる
2008/12/16 23:36
どうやら一番おいしい時間に一番おいしいところで
踊れたみたいですね!
そりゃあリキ入りますねえ!
盛り上がりが伝わってきましたよ!

昨日の試合、豪州にまさかの1−0から1−2の前回の再現負けとは、なんだか進歩ない感じがつらいです。
せっかくサイドを突破してもゴール前に飛び込もうと構えてる選手がいないのはいただけません。
銀河系一朗
2009/06/18 18:42
★銀河系一朗さん★
いつもひとつずつ丁寧なコメントをありがとう。そういえば高円寺の町にはもう、お囃子が聞こえ始める頃だわ。一年て早い。

代表戦は主要選手が大幅に抜けていたから仕方ない。中澤が体調を崩してたって聞いて泣きましたよ。イチローじゃん。
来年の開催までにウルトラすごいFWとか現れないかしら。岡田監督の、選手の人選も、選手交代の遅さとかも嫌い。つくづく、オシムだったらなあ、と思う。めっちゃファンタジスタな日本代表が見られるのに。うまく機能しなくたって許せる。そんな気持ち。
つる
2009/06/24 22:56
★銀河系一朗さん★
コメントを返すのが遅くて失礼しました。梅雨時はいつも体調を崩します。大好きな夏の気配がするころ、復帰します。
つる
2009/06/24 23:36
つるさんの文を読んでいると、ラストの熱い、熱い時間が蘇ってきます・・・
>桃園・中央演舞場の終点はホームから見えるあの大桟敷。
一番おいしい場所ですよね。いつも混んでいてあの場所で見れたことがありません.

阿波踊りの季節が待ち遠しいです。
お体、気を付けてくださいね^^


rain
2009/06/25 06:26
★rainさん★
いつもありがとう。
そうそうあの大桟敷をキープするということは、他の選択肢を捨てるということですからね。わたしにはできない。いつもそぞろ歩き派。いつかなんて、駅前の白木やが18時までに入店したらビール半額だっていうから、景気づけにちょっと飲んで、さあ、行くかって腰を上げたら、阿波おどりが終わってました。
体調ね。どうもありがとう。いつもこの時期胃を悪くします。これは母方のあまり嬉しくない遺伝子だわ。おまけに気管支炎とやらで芯熱がとれません。ヘタレだわ。
そんなわけで、お返事が遅くてごめんなさい。
つる
2009/06/27 00:54

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