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zoom RSS 「高円寺物語」28

<<   作成日時 : 2008/11/22 20:18   >>

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「高円寺物語」28 

 路地を出ると賑やかさが戻って来た。交通規制が解かれたばかりの大通りに車が乗り入れて、車道から追い出された人々は南北それぞれの駅に帰宅を急いでいる。

「あっ」ガードレールの内側の平らな植え込みに、見物客が残したゴミと並んで篠笛と踊り下駄が置かれていた。あたしのだ。気を利かせた誰かが目の高さに置いてくれたのだろう。
 すぐに泥水で墨色になった足袋を脱いだ。裸足に下駄を履いたら、ハップション!

 それから北に向かってウチラの連の衣装を探して歩いた。横道からパル商店街に入ったところでようやく志乃たちに追いついた。

「やだ。みー。どこ行ってたの? 探したんだよ」

「うん。あれから大変だったんだ。緑のパーカーが――やだ、何よ。ニヤニヤして」 

「へへへー。今日ねー。祐太が送ってくれるんだってぇ。だからみーと一緒に帰れなくなった」

「あ、そうなんだ。うん。いいけど。あのさ。アニキのことなんだけど――」

「いいのいいの。全然気にしてないから」

 違うよ。志乃。志乃は誤解している。あたしがアニキにおでんを投げたことを言ってる。そうじゃなくて、あんな怒りんぼのアニキでいいのかってあたしは言ってるんだよ。

「志乃。行くぞ、おら」

「今、行く!」アニキに呼ばれて嬉しそうな志乃。「ほんとはね。(祐太は)今日も飲みに行くはずだったんだけど、いい感じにヤキモチ焼いてくれたから」

「へー」

「まあ、結果オーライだよ」志乃が言って、ふふ、と肩をすくめた。

 そうだった。彼女はO型なのだ。血液型の本によれば、確かO型は結果が全て。もしかしたらアニキとお似合いなのかもしれない。

「志乃がいいならいいけど」

「うん。いいの。それにね。昨日言うの忘れたけど、この間、祐太に話したの。わたしが中学の頃デブだったこと。すごく勇気がいったよ。したら、何て言ったと思う。昔のことは関係ないって、大事なのは今なんだって。なんか嬉しかったよ」

 あのねー、志乃。昔のことを関係なくしたいのはアニキのほう。警察ファイルに指紋を残す、少年課の刑事とお知り合いの男ってどうなのよ。

「そっか。よかったね」

「ほいじゃ」駆けてく志乃の印籠が弾んでる。前で待つ浴衣に追いつく女衣装。

 ああ、いいなあ。




 夕食はおでんだった。
 おでん鍋の上で、おかしなくしゃみを連発する祐二にあたしが言う。

「汚い! 唾、飛んだよ。なんで向こう向いてしないかなあ。あっ、何なの! ちくわぶないじゃん。あたまくんな、もー」

「みー。いつもちくわぶなんて食わねえじゃん」

 ほっぺたをリスの頬袋にして祐二が言った。

「そんなことないよ。食べるよ。食べます。好きです。好きになったんだよ、今日から。えーと、ちくわぶ、命っ!」

「わけわかんねえ。したら、つみれ、やンよ。だから餅巾着くれ」

 つみれは死ぬほど残ってる。こいつ人気ない。

「あっだめ。それはだめだよ。お母さん、お母さん! 祐二があたしの餅巾着取るぅ」

 さっさと食べ終えた祐二がそのままゴロリと横になった。

 あたしは意地になって鍋に絶滅種を探す。「ちくわぶカモーン!」アトランダムに突き立てる菜ばしに、じゃがいもと大根の原形が損なわれた。おおっ、リトルちくわぶ発見! 持ち上げたそれに、タカを真似て下から食らいついた。

「なんですか。嫁入り前の娘がそのお行儀」

 冷やしゃぶサラダの鉢を持ってきた母が言った。

「男って、ちくわぶが好きな生き物なのかなあ」

 あたしの呟(つぶや)きに母が答える。

「そんなことないでしょ。祐太なんかもう見向きもしないもの。子供のころはあんなに好きだったのにねえ。オコチャマの食べるものよ、あれは。ほらっ、祐二。寝る前にお風呂入っちゃいなさい」

「オコチャマか」

 オコチャマなんだ。タカもそうなのかな。

「おらおら、オコチャマ。起きれや!」

 あたしが踵(かかと)で祐二をいじる。

「さわんじゃねえよ。マジで死にそう。ああ、足痛ぇ。腰痛ぇ。でらだりぃ(だるい)。死ぬ死ぬ」




 ちっとも寝た気がしない朝。

「あたたた」起きれない。

 なんだろう。この感じ。関節が痛い。


 うわーん。


 死ぬ。


 熱でた。

 




――つづく――




でら→とても。すごく。めちゃめちゃ。名古屋方面の方言のようです。



 あららー。お熱です。主人公もオコチャマでした。

 今日のBGM→クリック。DAN DAN 心魅かれてく

 今日の動画→クリック。提灯踊りと団扇踊りです。(阿波踊り2008/01:09)

 小学生も視野に入れてフリ仮名をつけます。読みづらかったらごめんなさい。

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コメント(10件)

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ちくわぶって旨い? 俺食ったことない……。俺の好きなおでんダネは、1厚揚げ2竹輪3じゃがいも4牛スジ5餅巾着6タマゴ 要らないのはこんにゃくかなー。
レイバック
2008/11/22 23:03
私はねぇ、1.大根2.タマゴ3.ロールキャベツ♪ 牛スジは関西限定らしいですよ。美味しいのにねぇ。
ありますよね、好きな人が食べてる物が好きになっちゃうこと。私もニンジンが嫌いだったんだけど、好きな人が食べてるのを見て食べられるようになりましたよ。女心ですよねぇ。だけど「こいつ、キモッ」と、その人まで嫌いになることもあります(笑)
ia.
2008/11/22 23:43
レイバックさん、たくさんコメつけてくださってありがとう。
ちくわぶはそんなに人気がないかもしれない。地味です。てか、わたしが好きなんです。
こんにゃく・しらたきはいンだろうがぁ。←突っ込み。
1ちくわぶ・昆布2大根・こんにゃく3じゃがいも・しらたき4ウィンナー・牛スジ5ボール・タマゴ……ああっ!おでんに順位なんてつけられません!みんな好き。日本代表万歳!
つる
2008/11/23 11:42
ia.さん、いつもありがとう。
牛スジ、うちも入れますよ。あれとウィンナーが入るとおでんでも腹持ちがしますから。
そうそう。以前に言ったけど、名古屋の「七福」というメーカーの「白だし」、これと隠し味の砂糖で作るおでんは本当に美味しいですよ。
ニンジンかあ。それで苦手を克服したんだ。
わかるわかる。女は感情の生き物だものね。嫌いな男子が入ったプールで泳ぎたくなくなる気持ちと一緒ね。
つる
2008/11/23 11:49
>つみれ人気ない
(´・ω・`)食べてみれば美味しさが分かるのに。
ショウガとすり身を混ぜ、丸めた物をネギと一緒にダシと醤油で煮たら寒い冬には最高ですよ。

2008/11/23 16:22
鯨さん、いつもありがとう。
鯨さんはつみれの美味しさがわかるのね。渋いわ。そんなふうに手をかけたつみれなら美味しいでしょうね。市販のものは臭いだけです。
おでんて、みんな簡単に考えてるけど、ちゃんと作ろうとしたら案外深いです。
あ、今、思った。タコはどうなんだろ。タコ、美味しいですよね。タコが話題にならなくて不思議。
つる
2008/11/23 21:49
ごぶさた〜w
忙しくてあたふたしている間に
話は進んでいたのね(汗)

良い感じに話は進んでますね。
そして私もちくわぶ命です♪

>ほっぺたをリスの頬袋にして
つるさんのこういう表現大好きです。

2008/11/23 22:45
舞さん、いつもありがとう。
忙しそうですね。きっと年末まであっという間よ。
そうなの。けっこうはかどって、終わりが見えてきました。
あらま。ここにもちくわぶ好きがいらっしゃる。あれっておでんだけじゃなくて煮物に入れても美味しいですよね。糸昆布とかといっしょに。
>リス
うん。フツーにいたんです。こういう子。こどもの友達に。めっちゃかわいかったです。今はもう大きくなってしまいました。懐かしいです。
つる
2008/11/24 01:25
おでんのシーン、
無意識にハイテンションな雰囲気が出ていて、うまい感じです!
熱はなんの熱かな。
銀河系一朗
2009/06/06 10:29
★銀河系一朗さん★
ああ。嬉しいな。知らず知らず浮かれてしまう主人公の気持ちがでてたらよかったです。
熱か。そうか。雨にたたられて、という描写が足りないと思いました。どうもありがとう。あとで工夫してみます。あとになるのは、今夜がウズベキスタン戦だからです。

つる
2009/06/06 21:55

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