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zoom RSS 「高円寺物語」30

<<   作成日時 : 2008/11/29 18:39   >>

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「高円寺物語」30

 会えるほうがミラクルなんだよ。

「――昭和32年当時、参加者38名観客2千人からスタート致しました阿波おどりも、何度かの存続の危機を乗り越え、第52回を迎えます今年の参加連は史上最多の77連、参加人数はおよそ7400人、動員観客数120万人を数える一大イベントに成長致しました――」

 ちびっ子とシリトリをしながら次の待機所へ行く途中で街頭マイクが言った。

 ほらね、無理。120万分の1の確率だ。

「たぬき。き!」「きつね。ね!」「ねこ。こ!」と続いて「コイン!」と言ったさつきちゃんのお兄ちゃんがしまったという顔になった。「はい、しっぺ。しっぺ」さっきまで彼から容赦ないしっぺをくらっていた女の子たちが騒いだ。
 パパン。横道から破裂音がして男の子二人がしっぺから逃げるように駆け出した。彼らに続いて他のちびっ子たちも、わっと走り出した。元気だなあ。

「みー姉ちゃん。行ってみよう」「しーちゃんも早くぅ」

 シャラポアとさつきちゃんに袖を取られて、あたしと志乃は小走りになった。

「なーんだ」「もう終わっちゃったのかぁ」

 先に着いた女の子たちが口々に残念がる。音のした場所には爆竹の主はすでにいなくて、やはり先に着いた男の子二人が燃えカスを踏んでいた。
 硝煙が消えた路地先の大通りに、ちょうど勇ましい毛槍が通りかかった。突き上がっては反転する毛槍が珍しいのか、わあっと言って、又、ちびっ子たちが駆け出した。
 あたしたちもつられて走った。立ち見の観客の中から「アホアホ」という声が聞こえる。

「アホアホだってえ」「うふふっ」

 シャラポアとさつきちゃんが顔を見合わせて笑った。薄化粧を施(ほどこ)された子供の横顔は、神々しいほどきれいだ。

「――阿波踊りの囃子言葉にありますように、女踊りは『踊り踊らば、しなよく踊れ。しなの良いのを嫁にとれ』と申します。
 さあ、お次は『しなよく』『豪快に』を合言葉に、阿呆阿呆連の皆さんの登場でございます。
 阿呆阿呆連は、昭和23年、空襲で焦土と化した徳島で結成されました。伝統を守り続けた差し足技法は、地元徳島の正調郷土芸能に指定されています。連員は180人を数え、徳島では「娯茶平(ごじゃへい)」と双璧をなす名門連でございます。
 ひとくちに『しなよく』『豪快に』と言っても、それを表現するのは並大抵ではございません――」

 スピーカーの声に志乃が背伸びした。足の痛みも忘れたように人垣の低いところ低いところと頭が動く。あたしも背伸びになった。
 それはテレビで見た有名連だった。そう。タカを商店街に見つけたあのときだ。その彼らが振興協会に招かれて四国からやってきた。

「見えないよ、見えないよ」

 ピョンピョンとちびっ子たちがジャンプを繰り返した。

「小さい子がいるんです」「この子たちだけでも前にやってくれませんか?」

 あたしたちの訴えに、好意で大きめの空間が用意された。そこに子供たちと一緒に滑り込む。

「いいな、いいな。女踊り」「着たいな、着たいな。あんなの」

 前で踊る小学生くらいの女衣装を見て、シャラポアとさつきちゃんが言った。

 ここ地元連のほとんどが子供用の半被だけで子供用の女衣装を持たなかった。予算の関係だ。大人の反物で子供の衣装は作れない。仕立てたときに柄が合わないからだ。子供用の版下(はんした)から起こす必要がある。それはもうひとつ新しい衣装を作るようなものだったから、それができるのは運営資金に余裕のある連だけだった。

 徳島名産の阿波藍に赤い小物をピリリと利かせた阿呆阿呆連の衣装は、女の子だったら誰でも憧れてしまいそうだ。脱いだ片袖が帯のお太鼓にかけられて波頭のようにヒラヒラと揺れた。
 小学生に続いたのは女踊りだった。

「ほえ〜」言ったきり志乃が固まった。

「なんじゃ、こりゃ〜」松田優作ばりに言ってあたしに鳥肌が立った。

 その流れるような動きの艶(あで)やかさに圧倒された。それも全員が高いスキルを持っている。徳島ではこれが普通なのか。

 どこが違うんだ。どこが違うんだ。

 編み笠の傾き、体の残し方、肩の入れ方、肘の高さ、手の角度、指先のしなやかさ、足の蹴上げ、それらが混然一体となって、

「うーーーーん」

 あたしと志乃を唸(うな)らせる。

「きれいに揃ってるわねえ」「うわ。すげー迫力」

 18メートル道路をフルに使うパフォーマンスやダイナミックなお囃子に周囲から感嘆の声が漏(も)れる。見る人それぞれで感動のツボが違う。

「がんばれーがんばれー」

 ちびっ子たちが阿呆阿呆連に声援を送った。それに気づいた女衆が編み笠の先でお礼を言い、後ろに続いた男衆が、こちらに寄り道をして得意の差し足を披露した。
 すっかり嬉しくなったあたしたちは、手が痛くなるほどそれに拍手して見送った。

「あ!」ミラクルキター!

 ふいの出来事に胸を突かれた。
 連と連の切れ目、ちょうど真向かいのガードレールにタカが立っていた。隣の誰かと笑っている。冗談でも言い合っているのだろうか。

「――中学生くらいになったらきっと着れるよ。ねえ、みー」

 へー。あんな顔もするんだ。
 
「ちょっと、みー?」

 なんだ。見たことなかったよ。

「みーってば!」

「ああ、うん。そう。ほんと、そう。志乃の言う通りだよ」

「なにが?」

「えーとえーと」

「聞いてないでしょ」

「えへへ」

「もう戻らなくちゃ」「早く早く」

 気まぐれなちびっ子たちが、あたしと志乃を急(せ)かした。なんて目まぐるしいこどもたち。

「わかったわかった。わかったからそんなに引っ張らないでよー」

 痛そうな足を引きずって志乃が言った。

「わっせわっせ」

 ふざけたあたしが志乃のお太鼓(結びの帯)を押した。その両手に力がこもる。

 あたしの元気は、あんなところにいた。

 ガードレールの向こう側に、あたしのお太鼓がお礼を言うよ。

 ありがとう。あたしに元気をありがとう。



「こう。こうしてこう。そんでもってこう」

 志乃は真面目ちゃんだ。ちょっとの待ち時間に、自分が映った横のウィンドウで、さっき見たばかりの女踊りを復習する。器用だから、すぐにそれらしくなった。
 
「しなの良いのを嫁にとれ、かあ。いいなあ。志乃は」あたしは全然だめ。色気もへったくれもない、よく父にそう言われる。
 
「あれ? みー。お札が取れそうだよ」

「ありゃ、もう粘着力がなくなっちゃったか」

 垂れ下がった冷えピタシートをむしり取ってあたしが言った。

「ちょっ! 何それ! い、いやらしいっ!」志乃があたしの額に顔をしかめた。

「へ?」

「なんかものすごっくいやらしいものが書いてある。何なの、それ?」

「いやらしいってなによ。いやらしいって。失礼だな」フェイスペイントのつもりだった。そこじゃねーよ。

「ま、まさか。う、うまか棒とかいうんじゃないでしょうね」



 やーね。どう見たってちくわぶでしょう。







――つづく――




阿波おどりの歴史参考資料。
版下(はんした)→木版・印判などを彫るための下書き。参考URL
阿呆阿呆連→架空の連です。
阿波藍クリック。


 踊り手はなかなか他連を見る機会が少ないです。文化祭と同じ理屈ですね。
 え、ちくわぶですか?いい仕事してくれてます。

 今日のBGM→クリック。あなたのとりこ
 今日の動画→クリック。(鳴門市阿波踊り20080809l/01:03)奴凧踊りです。

 小学生も視野に入れてフリ仮名をつけます。読みづらかったらごめんなさい。


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コメント(6件)

内 容 ニックネーム/日時
女踊り、きれいで艶やかなんですね。これ読んでると、私も憧れちゃうなぁ。
ちくわぶ(笑)ぷぷっ。カッコわる〜。
ia.
2008/11/30 00:13
ia.さん、いつもありがとう。
わたしは、はじめの頃、女踊りなんてみんな同じに見えました。でも上手い人は全然違うんです。それはやっぱりセンスなんです。
阿波おどりにも流行があって、今はアップテンポなものが好まれています。わたしは昔ながらの正調のほうが好きかな。
ああ、そうだ。徳島の人は普通の人でも踊りが上手いです。そんな動画を見つけたので、次回、貼り付けます。
ちくわぶに触れてくれてありがとう!
つる
2008/11/30 01:45
ちょっとぐぐって阿波踊りの画像を色々と見てきたんだけどさ、阿呆連の人たちの踊りって静止画でも迫力あるねー、すごいねー。やっぱ祭りっていいなぁ。ほんとまじで憧れる。子供のころから祭りのある地域で暮らせた人はとても幸せだと思う。って前もこんなコメ落としたような気がしますが(笑)
レイバック
2008/11/30 02:29
レイバックさん、いつもありがとう。
まあ、よく阿呆連が実在する連だとおわかりになりましたね。彼らの躍動感はすごい。ほんと、静止画でも伝わってきます。
このお話の中で、主人公が有名連より無名連に注目するようにしたかったけど、なんかそこうまくいかなかったです。インパクトを強くだせなかった。
>前にも
うん。聞いた聞いた(笑)子供だったらお祭りは楽しいと思う。わたしは大人になってから係わったから、いろんなしがらみが煩わしかったです。あるのよ。なんやかんや。
ご案内しますよ。8月の阿波おどりと6月の品川神社大祭。品神の宮入は凄いですよ。神輿が急階段を上がります。毎年興奮。この話も小学生ものできっと書きます。
つる
2008/11/30 23:18
ユーチューブ、見てると、うまい人は指先の動きがしなやかできれいですね。
しなよく踊ってるってのが納得できます!

カタール戦、最初の相手オウンゴールなきゃ負けじゃないですか。俊輔はがんばってたけど、他の選手が突破できないと…。
銀河系一朗
2009/06/11 00:34
★銀河系一朗さん★
いつもありがとう。You Tubeご覧になったのですね。しなよく、とはよく言ったものです。わたしもそんな言い回しを初めて聞きました。調べものでの、思いがけない掘り出しものでした。

カタール戦がドローは意外でした。ホームだったから。6/6ののウズベキスタン戦はアウェイだったし、芝も深くてパスまわしのボールが走らなかったと聞きました。アウェイはきびしい。次の6/17もアウェイだなあ。
つる
2009/06/12 01:37

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