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zoom RSS 「高円寺物語」19

<<   作成日時 : 2008/10/24 23:27   >>

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「高円寺物語」19

 いや、四元数は前にいた。

 立ち上がって歩き出したら路地の切れ目に誰かが現れた。

 出口の手前にステンレス製の車止めがある。そこに人影が腰掛けた。地下足袋の開脚っぷりに、すぐ誰だかわかった。タカだ。彼のキムタク巻きが少し揺れて、

「なあ!」と言った。

 なあ! がビルの壁にピンボールして夜空に駆け上がっていく。

 二三歩あとずさりになったのは怯(ひる)んだからじゃない。いきなり立った、今ごろの立ちくらみだ。

「女なんだ。やっぱ」彼が言う。 
 
「お、男に見えんの?」

 この衣装で、それはない。立ちくらみを踏ん張る。
 
「ふざけんなよ」

 タカのその言葉でようやく気がついた。彼が言ったのは、今年は女踊りなんだ? だ。アホ。

「あ〜〜〜」また校長先生になる。「そ、そうだね。女踊りだね。何で? この前も聞いたよね、ファーストフードの店で。何でそんなこと聞くの?」

「べつに」タカのシルエットが横向きになった。 

「あっそ!」だったら聞くなよと、再び首が寝ちがえて、彼の横を強行突破しようとした。

「いや〜ん、ひとみちゃん。もっとやさしくしてぇ〜」

 行く手を封鎖したのは、それまでビルに張り付いていたもうひとつのキムタク巻きだ。全然気がつかなかった。ふざけたオカマ言葉はトシだった。

 あたしはこういうのがだめ。人をおちょくった態度にカチンときた。

「なに、通せんぼ? いい趣味してるね」

 まわれ右をしかけた。

「うう〜ん、通せんぼじなんかじゃないわ〜。待ってたのぉ。ひとみちゃんが来ないかな〜って」トシがオカマ言葉を止めない。

「う、うそばっか……」

「したらぁ、ほんとに、ひとみちゃんが来てぇ」

「……」

「そこでウンコしたのぉ〜♪」

「するかよ!」

 ナグッタロカ。右手が笛にかかった。
 
 もういいよ、もう行こう。トシとあたしのやり取りにウンザリしたようなタカが、車止めの上で体を反転させた。「待てよ」タカの背に向かってトシ。待たないタカ。追い駆けようとしたトシの顔がアチャーとした。それからトシは、さっきまでと全然違う顔と声であたしに言った。

「あのさ。もうちっと人の言ってること聞こうよ」

「聞いたよ。耳、あるし」

「チゲー。そういうンじゃねえ」トシが呆れたように言う。「せっかくこっちが話してンだからさー。もちっと、こう、なんかないの? ほら。やさしさつーかそういうの。じゃねーと、傷つくわけ。いちおー(一応)、俺らも」

 ハ?  

「や、やさしくしなきゃいけない決まりでもあんの?」

「あんの」

 むかー。

 き、傷つくとか、よく言うよ。自分たちが話しかければ、女子は誰でも喜ぶと思ってるんだね。

 なんという、驕(おご)り。

「……」頭にきすぎて喋れない。

「そゆーわけで、よろしく」そう言うと、タカを追うトシ。
 
 取り残されるあたし。駆けてく2つの影を見て思う。


 はん! 待ち伏せでイジメかよ。しかも陰で人のこと見てたなんて、


「ちきしょーっ、ストーカーーー!」

 ちきしょーとストーカーがピンボールになった。

 

 わかってた。

 あたしの態度だ。 

 見えなくなった彼らとステンレスの車止めを見比べる。

 

 もう話しかけてこない。



 そんな気がした。 

 


――つづく――


キムタク巻き→バンダナのようにして、タオルで頭を包んで巻く“キムタク巻き”。96年放映のテレビドラマ「協奏曲」で、建設現場で働く木村拓哉がタオルを頭に巻いていたことから火が付き、ファッションとして広まった。


 やっちまったなぁ。

つる「『土方巻き』じゃ通じないからさ〜、『キムタク巻き』に直しちゃった。ふふっ」
担当編集者「ちょ、待てよ!」

 今日のBGM→クリック。真夏の果実

 小学生も視野に入れてフリ仮名をつけます。読みづらかったらごめんなさい。


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コメント(8件)

内 容 ニックネーム/日時
キムタク巻き〜萌えぇ。
男っぽくて好きなんですよ。

ビルの壁に言葉がピンボールするって
とっても新鮮な表現だわ。
特に夜は雑踏の騒音が無いから響きますよね。
なんかとってもその場の空気が伝わってきました。

2008/10/25 00:22
アンとギルバートみたいですね。なかなかうまくいかないもんだ。
「ビーンボール」って死球?私は最初「やっちゃったな」というつもりの「死球」だと思ったんですけど、舞さんの言うように、やっぱ「ピンボール」の間違いでしょうか?
ia.
2008/10/25 01:12
舞さん、いつもありがとう。
ピンボールピンボール、そうよ!ピンボールよ!ほんと、やだ、わたし。ありがとう!
ロマンチックな波の音も、星降る夜空もないけど、ウェストサイドストーリーのように(まだ言ってる)林立するビルの合間にだって、恋の根性大根は芽生えます。
つる
2008/10/25 21:44
ia.さん、いつもありがとう。
そう、死球をね、支給されたわけだ。違う違う。間違えました。ピンボールです。ピンボール。前にね、ピストン輸送をピンポン輸送って間違えたくらい恥ずかしかったわ。
アンとギルバート!それよ!それそれ。よく固有名詞がさらっとでてくるなあ。最近ね、わたし、人の名前と横文字がでてこなくて困ります。
意地っ張りだったり素直じゃない性格って、成育歴に関係してると思うのね。屈折した人生をおくるとそうなるのよ。きっと。それ、わたしか。
ここでは主人公が兄弟に挟まれて負けん気が強いということでお願いします。
つる
2008/10/25 22:12
ん〜、歯がゆい歯がゆい^^;
ぼくにもありましたね、こんな時代が。10年くらい前、素直になれなくて、いろいろありましたよ。
なるほど、成育歴。ぼくの人生も確かに屈折してました。あ、今もですけど(笑)
shitsuma
2008/10/26 22:52
あ、ここにも!shitsumaさん、ありがとう。
その10年くらい前の話、いつか読みたいです。じれったいの大好き。
この2人なんですけど、さっさとうまくいったら、誰も阿波おどりの話なんて読まないと思う。だからやむなくこうなった。
屈折はパワーを生む、わたしは信じてるんだ。
つる
2008/10/26 23:55
ピンボールの表現、いいですね。

どうでもいい質問の裏には、聞きたいけど聞けない本気な質問があったりしますね。
うん、こういうのは、本人は大変なんだけど、第三者としては楽しいですね。
銀河系一朗
2008/12/27 22:00
銀河系一朗さん、いつもありがとう。
いや、はじめ、ビーンボールだったから……トホホ
相変わらず、皆さんに助けてもらってます。

丁寧に見てくださってありがとう。本気の質問か。うまいなあ。言葉にするのが。そうそう、そういう感じです。
男子って、女子に比べて、言葉が足りずに誤解されることが、圧倒的に多いでしょう?小学生のころ、そういう男子がいっぱいいました。同窓会で彼らに会ったりすると、いまさらながらだけど、それに気づきます。みんないい奴。

それにしても久しぶりにこの辺(19)に来ました。恥ずかしい。よくこんなのアップしてるなあ。このあとも、アンマ面白くないのよ。さっさと読み飛ばしちゃってください。
つる
2008/12/28 22:22

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