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zoom RSS 「高円寺物語」12

<<   作成日時 : 2008/10/01 21:00   >>

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「高円寺物語」12 

 南のスタート地点になるパル商店街の入り口は詰まっていた。
 
 南商店街は、アーケードのあるところがパル商店街、ないところがルック商店街で、そこに3つの演舞場がある。それらは繋がっていて長い長い一本道になっている。

 入り口横に嬌声を上げる集団があった。そのうちの一人がこっちを指差すと全員がこちらを向いた。中学生くらいか。

「ねえねえ、気のせいかな。あの子たち、こっちを見てる」

 あたしが隣の志乃に言うと、「ああ、例の中学の後輩」とそっちを見ないで返事をした。

「いいの? シカトして」

「いいのいいの。もう関係ないから」

「え、なんで?」

「タカ・トシ情報、送らなくしたら感じ悪いんだ」

「そんなんだ。あのさ、聞こうと思ってたんだけど、何で送らなくしたの?」

「だってもう、あっちはあっちで楽しくやってるみたいだしさ。もういいかなって」

 そっか。楽しくやってるんだ。

 黙っていると志乃が続けて言った。

「それにちょっと思うとこもあったし」

「思うとこ……」何だろ。

 聞こうとしたら、出待ちのウチらの連が動いた。スタンバイする。

 アーケードの下に、にょきにょきと生えているのは先を行く連の竿だ。しなる竿の先で提灯が揺れる。高張り提灯といって、連名入りの長提灯は各連の看板のようなものだった。

 ウチラの前に細長い通路が伸びる。両脇は何重もの立ち見客でいっぱいだった。

 カンカンカン。鉦(かね)が鳴って、客の前にウチラの鳴り物衆が等間隔で立っていき、隊列を迎え入れるような形でお囃子を始めた。
 正調派のメロディが流れる。二拍子に聞こえるそれはふつうのお囃子とは少し違う。厳密にいうと主旋律の笛は8分の6拍子で、その笛の伴奏をするのが三味線で、そこに締太鼓と大太鼓が裏打ちでついてくる。それが旋律に微妙な揺らぎ感をかもしだした。「ぞめき囃子」といわれる由縁(ゆえん)はそこにあった。

 音に合わせて子どもたちが踊りの構えをして拍子を取るようにした。

 その子どもたちの前で竿を支えているのは、荒物屋のおじさんの金ちゃんだ。
 金ちゃんが、あらよっというふうに長竿を真上に投げて、落ちてきたところを前帯で受け止めた。
 金ちゃんの差し足に、しなった竿の先で提灯がゆさゆさとした。けれど提灯は進まない。出るタイミングがある。前の連が近すぎると、先頭のちびっ子連が向こうのお囃子に気を取られてしまうからだ。
 
「やっとさー」後ろの誰かが言って「やっと、やっとー」

 足踏みで待つ間に少し間隔が取れた。

「やっとさー、やっとさー」「やっとさーっ、やっとさーっ」

 頃合いを見計らって、全員の息が合ったら出発だ。

 
 鳴り物衆が奏(かな)でる空間を、後ろを見ながらの金ちゃんが進んで、まずちびっ子連、それから女踊り、男踊りと続いた。男踊りの最後から、合流するように鳴り物衆がついてくる。隊列は二列だ。

 ちびっ子が進むそばから微笑ましい笑いが起きる。先頭はおしめが取れたばかりの金ちゃんちの2歳くらいの女の子だ。その愛らしい仕草に、人垣の中から何本も伸びた腕が写メを取った。
 隊列の前でフラッシュをたく人がいた。それに気後れしたおちびちゃんが固まった。おちびちゃんにサッと駆け寄ったのは、シャラポアたちおねえさん組だ。おちびちゃんをうまいことなだめると隊列に取り込んだ。その光景にパラパラと拍手が起きる。

 拍手に気をよくしたちびっ子連の掛け声は元気が良かった。懸命さが伝わってくる声だ。華のある十数人の女の子に混じって男の子もニ人いた。晋さんちの下の子と、さつきちゃんのお兄ちゃんだ。そのニ人が女の子に負けないように出す声が、いい感じでアクセントになっていた。

 手振りをしながら志乃がこっちを見た。北側の演舞場と様子が違うからだ。うん、そうなんだよ、と笠越しに頷いた。
 あっちは、踊り手の横をフツーに人が行き来する。お祭りを見慣れている人たちだった。だからへんな緊張が少なかった。

 こっちは違う。誰も彼もが踊り手の一挙手一投を見ているのだ。
 
「は、やっとぉー!」 

 高めの声出しは、男踊りのOLさんだ。

「やっとやっとー!」全員が合いの手を入れる。

「やっとさー、やっとさ!」「やっとさー、やっとさ!」

「男わぁー!」「こひょーっ(小兵)!」 

「あ、女もぉー!」「こひょーっ!」



 ウチらは両脇からたかれるフラッシュの花道を進んで行った。





 

――つづく――



荒物屋→日常生活に使う雑多な品物。ざる・桶(おけ)・はたき・ほうきなどを売っている店。雑貨屋。



 今日は、スタート前後の動画2つをお届けします。
 胸の高まりとは逆に踊り手は緊張の面持ちです。子ども、かわいいな。ココ(高円寺阿波踊り/00:57)とココ(Awaodori(Japanese traditional dancing)1/01:15)です。

 今日のBGM→クリック。崖の上のポニョ


 小学生も視野に入れてフリ仮名をつけます。読みづらかったらごめんなさい。


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コメント(6件)

内 容 ニックネーム/日時
なんかものすごく威勢が良くてかっこいいです。
この掛け声初めて聞きました。
踊りの列や周りの光景が目に見えるようですよ。

ちなみに私、三味線(箏もです)弾けます。
なので和の音は大好きなんです♪

2008/10/01 23:04
舞さん、いつもありがとう。
三味線が弾けるなんてすごいじゃないですか。粋だわ〜。そういうことが時代物を書くことと繋がっているのかしらね。三味線といえば、あの吉田兄弟が出てきてから世間のイメージが変わりましたね。津軽三味線は昔からあるのに彼らが伝導することでメジャーになった。日本だってけっこうロックじゃん!みたいな。

あと、動画も見てくださったんですね。載せた甲斐がありましたよ。今回You Tube探すほうが長いんだわ。hahaha
つる
2008/10/02 01:07
志乃ちゃんは6の「ヤキモチ発言」で瞳ちゃんの気持ちに気づいて、9で沢尻エリカたちと距離を置き始めたんですね。続けて読むと良くわかりました。
このままで良いと思いますよ。途中で作者に質問する私ほうが悪いんです(^^; ごめんなさい。
ちびっ子連、可愛いですね。シャラポア譲もいい味出てます。
ia.
URL
2008/10/02 20:27
ia.さん、いつもありがとう。
うわ、再読してくださったんですね。ありがとう。いいんですよ。初読みで印象に残さなければ意味ないですから、ほんと参考になります。途中で聞けるコメントはすごく嬉しいんです。だって粗筋は決めてあるけど、細かいところは行き当たりばったりです。自分だけわかっちゃってる文章は、自分読みしてるとわからないんですよ。
ちびっ子、ほんとはちびっ子の世界も書きたいよ。超つまんないこと喋ってるようで、超おもしろいんです。そっち(子どもたち)に脱線させても戻ってこられる筆力さえあれば、いつだって書きたいです。でも、無理。
つる
2008/10/02 22:49
お久しぶりです。
>ぞめき囃子
そんな細かいテクニックが駆使されていたんですねえ、ためになりました。

掛け声と踊りがいきいきと呼応して、とてもわくわくしましたよ!
銀河系一朗
2008/10/14 18:52
あっ、銀河系一朗さん、いつもありがとう。
心配していました。
>ぞめき囃子
もうね、このへんでウンチクもいい加減にして、本筋を進めないとちっとも面白くないんですけどね。そんなふうに言ってくださって、ありがとう。
銀河系一朗さんはいつも丁寧に読んでくださるから、くすぐったいです。まあ、そのへんは登場人物の志乃と同じ心境です。ですから、どうかテキトーに、ご覧くださいまし。
つる
2008/10/14 23:07

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