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zoom RSS 「高円寺物語」9

<<   作成日時 : 2008/09/23 19:51   >>

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「高円寺物語」9 

 それからあっという間に夏休みになった。

 あたしは短期のアルバイトで働き始めた。ちびっ子連の、さつきちゃんのママの紹介だった。
 それはどんな仕事かというと、小さな工場で、「ドモホルンリンクル」みたいな帽子を被(かぶ)って、揚げ饅頭(まんじゅう)や煎餅(せんべい)を箱に詰め合わせる軽作業だ。志乃も一緒だった。

 阿波レンジャーに約束したバイト代はすぐにクリアした。でも、半月ほど頑張った。それは篠笛と踊り下駄を手に入れるためだ。

 アルバイトの給料が出た日。

 おじいちゃんの知り合いの一人、三味線のお師匠さんのところに笛を取りに行ってから、晋さんの下駄屋さんに寄った。

 晋さんが奥から出してきた踊り下駄は、漆(うるし)塗りで、鼻緒の部分が紅白のねじりんぼうのようになったものだ。
 それから晋さんは、あがりがまちに胡坐(あぐら)をかいて、大きな目打ちを取り出した。それを使って鼻緒の裏地をしごいたり、前つぼと呼ばれる部分を何度も引っ張ったりした。
 出来上がった下駄をこちらに向けて、彼が言った。

「初めてのお祭りだから、志乃ちゃんのは気持ちひとつぶん、多く弛(ゆる)めておいたよ」

 鼻緒の紅白に「なんかオメデタイ感じのする下駄だね」受け取った志乃が試し履きをして、「それでも、きついや」と訴えた。

「下駄ってぇのはそういうもんさね。なあに、すぐ慣れるさ」晋さんが笑った。

 あたしも下駄に足裏を合わせた。おろしたてのそれは、ひんやりしている。少し硬い鼻緒が、すぐそこにいるお祭りを教えてくれた。


 阿波おどりの練習は週2回になった。

 地域センターの練習のあとは、大きな倉庫へ移動して、鳴り物だけの合わせ練習だ。
 習いたてのあたしたちの篠笛は、ときどき調子っぱずれな音を出した。すると、いい歳をしたオッサンたちが盛大にずっこけた。悔しいから自主練もした。阿波レンジャーのことなんて言えなかったんだ。

 その阿波レンジャーはどうしたかというと、自分たちで特訓を始めた。

 たまに銀行の前で練習する彼らを見かけた。
 見てて恥ずかしいくらいだった彼らが、どんどんうまくなっていくのがわかる。それでも、「若独楽連」には勝てないと思った。向こうだって当然のように腕前を上げてくンだろう。
 それを考えるとあたしのマグマは熱くなった。

 そんなふうに夏休みが過ぎていった。うん、よくちびっ子連の子供たちと遊んだ夏だった。

 さつきちゃんのママがくれた「船の科学館 流れるプール券」で、子供たちと泳ぎに行ったときのことだ。
 いつのまにか、ちびっ子連にコースチャの妹のシャラポアがいた。いっしょにつかんだ浮き輪の向こうで彼女が、ほんとはпапа(パパ)も阿波ダンスがしたいんだよ、だってпапЫ папа(パパのパパ)は、有名なコサックダンサーだったんだ、とはにかんだ。
 それを聞いて、そうだね、阿波ダンスとコサックダンスはこういうところが似ているね、と水面から両足を出して真似たら、足がつった。
「はい! ――ポワン――潜水禁止です! 当プールは、潜水き――ポワン――っす!」やっとのことで水面に顔を出すと、スピーカーからハウリング音の「潜水キッス」が聞こえた。
 あたしを見て笑いすぎたシャラポアが、水を飲んでむせた。


 
 そうだ。

 一度だけお祭りの前に、アーケードでタカを見た。

 それは8月の、この夏一番の暑さだったという日。

 電器店の前に斜めに立つ彼がいた。トップスのポロシャツは体にまとわりつくほど薄くて、反対にボトムのジーンズはが腰から落ちそうなくらい厚地ものだった。その深みのあるインディゴブルーに胸を突かれた。驚くほど好みだったからだ。
 彼が見つめていたのは店頭を飾る大型液晶テレビ。画面は本場徳島から阿波おどり(2008/8/12〜15)の光景を伝える夕方のニュースだった。
 斜め見で動かない彼のバックで、商店街の煩雑な色が虹色に変わった。虹に縁取られたショートヘアとふてくされた横顔に思ったのは、

 本当に阿波おどりが好きなんだな。

 コホンコホン。隣で志乃が咳払いをした。
 彼女と目が合ったから、メール送らなくていいの? と彼女が手にする携帯を顎(あご)で指した。例の「タカ・トシ情報」のことだ。
 あ〜、それならもういいの、というふうに彼女が首を振って笑った。

 

 
 それから「ふれおどり」の金曜日はすぐきた。その日は、冴(さ)えない薄曇りだった。




――つづく――





ドモホルンリンクルクリック。
二枚下駄→裏の歯が二枚のもの。
前つぼ→台と鼻緒の接合部分であり足の親指と人差し指の間に来る部分です。
船の科学館のプール→船の科学館の敷地内にあるプールです。夏になると、ここのプール券を新聞屋さんから「ただ」で貰うわけです。残念なことに老朽化したプールは、今年で閉鎖だそうです。
ハウリング→音響再生の際、スピーカーから出た音をマイクが拾い、それをまたスピーカーが再生するということを繰り返し、大きな騒音が連続して発生する現象。
3D(スリーディー)→スリー・ディメンション【three dimensions】 のこと。三次元。また、立体写真。立体映画。(大辞林)
踊り下駄↓参考URL
画像









 彼のショートヘアはきっとギャツビーテクニカルデザイングレイ(ショート編)を使ったんですよ。
 そうそう、コサックダンス(→クリック/00:06)と、これ(→クリック/00:25)なんだか似てませんか。どちらも強靭な足腰が必要なようです。

 今日のBGM→クリック。日めくりカレンダー
 
 小学生も視野に入れてフリ仮名をつけます。読みづらかったらごめんなさい。


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コメント(14件)

内 容 ニックネーム/日時
『ドモホルンリンクル』みたいな帽子って。描写に手を抜きましたね(笑)今度、使おう♪
下駄の鼻緒を選ぶシーンはワクワクしますね。一応、私も女の子。こういうのはウレシイ(^^
タカ、凛々しいじゃないですか!つるさん、イケてますよ〜!
ia.
URL
2008/09/24 01:45
なんか情景が浮かぶような感じです。
つるさんの細かい情報は嬉しいです。
私も赤がチラッと見える鼻緒のほうが好きです。
粋な感じがしますよね。

タカさんのかっこよさを1人で妄想中(笑)

URL
2008/09/24 08:50
ia.さん、いつもありがとう。
ドモホルンリンクルは、その言葉自体にインパクトがあるから、通常会話でも、けっこう使える(笑いをとれる)奴なんです。
下駄の鼻緒のシーンをそういってくださってありがとう。よく調べたら、今は「踊り下駄」っていって、祭り用のものがあるそうなんです。だから、ココの部分はあとで書き直しになります。チキショー!「色っぽい」が使えなくなったーっ!って独り言です。
それでも、ちょうどよかったかもしれない。文章も長ったらしいし、タカの描写もたどたどしいし、なんかへんなとこばかりなのにアップして恥ずかしいです。近々、訂正します。
つる
2008/09/24 22:08
舞さん、いつもありがとう。
舞さんも鼻緒のところに触れてくださってありがとう。↑でも、上コメのような事情で書き直します。ごめんね。いい加減で。
「粋」といえば江戸っ子ですよね。舞さんは時代物を書かれるから、そのへんはよくご存知でしょう。以前わたしが所属した「江戸っ子連」は、徳島の良さと江戸の粋を合わせたような、いなせなチームでした。
つる
2008/09/24 22:18
ドモホルンリンクル、ペタッと貼れるせんねん灸みたいな形ですか?(マイ発想が古い…笑)

下駄の細かい描写がいいですね!
いよいよ、本番も近づき、期待が高まりますね!
銀河系一朗
2008/09/25 00:38
銀河系一朗さん、いつもありがとう。
ドモホルンリンクルは化粧品なんですが、それに携わる方たちが、髪と耳を覆う白い帽子を被っているんです。CMがメジャーだと思ったので、使ってしまいました。
下駄のところ、矛盾が発生しましたので、書き直しました。いつもこんなことばかりで、恐縮です。

つる
2008/09/25 22:34
いよいよ祭りも目前に迫ってきましたね。阿波おどりのニュースにじっと見入っているタカがいいですね。お祭りで主人公とどう絡んでくれるのか、楽しみです^^
あ、ちなみに「目次」からバックナンバーを読んでたんですが、「高円寺物語7」からリンクが1話ずつズレてましたよ〜^^;
shitsuma
2008/09/26 00:46
shitumaさん、いつもありがとう。
楽しみと言ってくださってどうもありがとう。
ただ粛々と祭りが進んでいくだけなんです。なのに、前半がもったいぶっちゃったかもしれないです。わたしね、現実の世界でよく「話、大きい」と言われます。だから起こるとしても、ありがちな出来事です。
>ズレてましたよ〜^^;
ああ、現実もそうです。そういうので、今日も昨日も一昨日も仕事で失敗しました。
リンク、さっそく手直しします。気がついてくださってありがとう!
つる
2008/09/26 22:17
いよいよ祭りですね。
コースチャは良い子。だけど阿波レンジャーに共感できるのは何ででしょ?
一度やめても戻ってくるだけ偉いよ。

URL
2008/09/26 23:15
鯨さん、いつもありがとう。
鯨さんが、こうして登場人物の子どもたちを、よいふうに解釈してくださるから、いつも感謝してます。阿波レンジャーは「タチの悪い子」ではないんだけど、中学生って、まだ人の気持ちとか深く考えられなくてチャランポランなところがあるから仕方ないです。ツボってくれたらいいんだけど。てゆーか、鯨さんはこの先が見えてるね。ヤダ。
つる
2008/09/27 00:33
必要な情報を説明する回と、軽めの会話で終わる回、読者の事を考えてくれてるので、読んでて負担に感じないっすね。いよいよお祭りかー。しかし天候は冴えない薄曇り。波乱を暗示しているのか!?
レイバック
2008/09/27 00:34
レイバックさん、いつもありがとう。
>必要な情報〜
まままま、マジでぇ?面倒くさいから駆け足にしたら、粗筋みたくなった回です。そんなふうに言ってくださってタナボタだわ。
天気はね。今年の本番は雨だったのよ。それがかえって、わたしの妄想に拍車をかけたんです。
へんな話、あれからひと月も経つのに、お祭りの微熱がとれないんです。「しつこい」て言うなよ。
つる
2008/09/27 00:44
コサックダンスと阿波踊り。
似てるような似てないような(笑)

踊り下駄っていうのがあるんですね。
踊りやすく作ってあるのかな?
前の切り込みがポイント?

そんなところに食いつかないで
無いように食いつけって(^^;

2008/09/27 09:51
舞さん、いつもありがとう。
よくぞ、切り込みのところに触れてくださいました。そこに金物が打ちつけてあるでしょう?前金っていうんだけど(受け売り)、その部分が、歩いているうちに取れてしまうのね。つまり前金がついてるってことは新しい下駄だという証明なんだそうです。おしゃれな江戸っ子はそういうのにこだわった、と品川宿の下駄屋さんで聞いたことがあります。
だから、台に切り込みを入れてあるということは、前金を取れにくくしているんじゃないかと推測しました。どうでしょう。
>無いように〜
見なかったことにします。サービスです(笑)
つる
2008/09/28 00:15

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