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zoom RSS 「高円寺物語」7

<<   作成日時 : 2008/09/19 22:28   >>

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「高円寺物語」7 

 コースチャを除いた阿波レンジャーは、週1の練習に来たり来なかったり、遅刻もよくした。いまいち気が乗らないのはわかってる。だって、バイト代に目がくらんだだけだ。
 
 本番に向けて隊列や構成が決まりだすと、練習に穴をあけるわけにもいかなくて、19時の始まり時間に間に合うよう、あたしは近所に住む彼らを迎えに自転車を漕(こ)いだ。
 大抵は、家で呑気(のんき)に寝ているか、途中の公園で友達と溜まってるか、そんな具合だった。
 そんなある日、練習を終えて、地域センターを出たところで祐二が言った。

「なあ、みー。俺らのヤキトリって、ないの?」

 ヤキトリっていうのはウチラの連でそう呼んでいる団扇(うちわ)のことで、よく焼き鳥屋さんが使うような少し大振りなものだ。渋柿色の表面に、暴れるような墨字で「小兵」と書いてある。
 古参の連員さんが2枚のヤキトリを器用に操る「団扇踊り」が余程羨(うらや)ましかったんだろう。練習場ではそんな素振りも見せなかったくせに、外に出ると身内の気軽さで、いいたいことを言ってくる。

「手振りも満足にできないでよく言うよ」

 阿波おどりに決まった形はないけれど、それでも各連には伝統のようなものがある。特に小兵の男踊りは「正調武士の踊り」の流れを組んだ、前傾姿勢と「差し足」がポイントの独特のものだ。まともに踊れるようになるまで3年かかると言われている。
 はじめのうちこそ、その姿勢に腰痛や太股の筋肉痛を訴えていた彼らも、多少慣れて欲がでてきた。 

「お富さん。そう固いこと言わさんないで、やらせてやったらどうだろう。重要なのは技術云々(うんぬん)より、やる気なんじゃないか」

 あたしたちの会話を聞いていたのか、自動ドアの横で一服していた晋さんが言った。そのとき、ガーとドアが開いて、中から帰りがけの連員さんが出て来ると、その向こうのロビーに、おじいちゃんの姿が見えた。晋さんがそこに向かって声を張った。「連長! 確かまだ、ヤキトリの余分がありましたよね?」

「ああ、あるよ。誰が使うんだい?」とおじいちゃん。

「この子たちにやらせてみようと思うんですけど」閉まりかけた自動ドアをキープするようにマットに片足を置いて、晋さんが中に答える。

「そりゃ、頼もしいな。小兵の団扇を継いでくれるのかい」嬉しそうに笑った。

 やったあ! と飛び上がる阿波レンジャー。

「うっせーっ!」 おじいちゃんの横にいたアニキと仁丹がこっちに向かって同時に怒鳴った。

 地域センターは住宅街にある。センターの終わる21時までならともかく、それ以降は、なるだけ騒音に気を遣(つか)わなければならない。センター周辺の住民の全てが、お祭りに寛容とは限らないからだ。それはどこでも同じだろう。

 溜息と一緒にあたしが言った。「じゃ、特訓だね。塾のない日とかで、皆の都合のいい日を祐二がまとめて、あたしに教えて。場所はそうだな、あそこがいいや、あんたたちがいつも溜まってる銀行のとこ。それならいいでしょ」

 ええーっ!? と口々に驚愕する阿波レンジャー。閉まりかけたドアがガシっというふうに
止まる音がして、そのガラスの向こうに目をやった彼らが、一目散に逃げ出した。アニキだった。

「てめえら、うっせーつっただろーが! はっ倒すぞ、この野郎っ!」

 うるさいのはアニキのほうだ。

 やっと車がすれ違うくらいの道を駆けてく集団の後ろで、同級生より頭ひとつ大きいコースチャが振返った。
 すぐに直って前を追う彼の背に、誰かが重なった。呼び起こされる路地裏の光景。


 ――じゃ、なんていうんだ。
 ――ひとみだよ。瞳。



 その出来事は、ありふれた毎日に上書きされて、ひと月しないで、昔になった。

 懐かしさに胸が軋(きし)む。



 タカの名前は、なんていうんだろう。
  




――つづく――





古参(こさん)→ずっと以前からその職や地位に就いていること。また、その人。
ヤキトリ団扇こんなの。渋うちわのこと。別名「柿うちわ」面に柿渋を塗って、丈夫で耐水性があり強い風を起こすのに適しており、昭和のころまでは一般家庭の台所や今でもうなぎ屋、やきとり屋さんで炭火を使っての料理で使われています。



 なかなかお祭りにならないです。(汗×2)今日は練習風景(→クリック 。女踊り構成練習/0:28)をご紹介します。普段着ではピンときませんね。ところが本番(→クリック 。徳島阿波おどり女踊り編/0:17)ではきっとこんなふうになります。練習って大事。 

 今日のBGM→クリック。アオノミライ

 小学生も視野に入れてフリ仮名をつけます。読みづらかったらごめんなさい。


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コメント(6件)

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どんなに焦っても、きっと500枚くらいの大作になるに違いない(笑)
アニキって、瞳ちゃんのお兄さんかな?タカと友達でしたよね。お兄ちゃんも阿波踊りやってるんならモテるのかな?
ia.
URL
2008/09/20 00:18
ia.さん、いつもありがとう。
ご、500?(☼Д☼)
「アニキ」は「2」でチラッと登場した5歳年上のお兄ちゃんです。名前は「祐太」なんですけど、そこ触れてない。瞳の弟の祐二が、タカと顔見知り程度ということで。アニキがタカと友達だとストーリーの都合上まずいんです。
わたしね、「阿波おどりをしている」と言ったら「川崎で?」と聞かれたことがありました。「泡おどり」ちゃうよ! 阿波おどりって、どこかしら軽くみられるようなところがあるんです。だから、お兄ちゃんがモテるかどうかはわからないです。お祭り好きの人なら、いいと思うかもしれない。
つる
2008/09/20 11:19
今回はサビに差し掛かる前のブリッジのようなエピソードでしたね。焦らされるわぁ(笑) 焼き鳥団扇いいっすね。渋い。年食うと、こういう和の物に弱くなってくる^^;
レイバック
2008/09/21 00:18
レイバックさん、いつもありがとう。
和の物っていいですよね。障子とか一輪挿しとか。焼き鳥でレイバックさんの「ファイヤーバード」思い出しました。あの店でも使ってますね、きっと。
前半、長かったかもです。大した事件も起こりませんでした。あとでバランス考えます。(お得意の修正)
次の次が本番だー!
つる
2008/09/21 11:45
あれは普通の団扇じゃなくて、防水仕様のヤキトリ団扇だったんですねえ、ためになります!

ia. さんへのレスの川崎の泡おどりにウケてしまいました。人から少し聞いたことあったので。野球選手とかもお得意さまらしいです。
銀河系一朗
2008/09/21 21:51
銀河系一朗さん、いつもありがとう。
下調べをそうやって評価してくださるから、つい披露したくなる自分がいる。自戒しないと、くどくなるから気をつけねば。
泡おどりね。二十歳くらいだったから、意味がピンとこなくて、わかったあとに赤面しました。失礼な奴だったわ。それにしても、野球選手には、がっかりだな。わかるんです。でも、夢を売る商売ですから、やっぱりね。
つる
2008/09/21 23:04

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