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zoom RSS 「高円寺物語」5

<<   作成日時 : 2008/09/10 01:32   >>

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「高円寺物語」5

 その次の練習日に、又、祐二も来ていた。コースチャの付き添いなんだそうだ。子供の頃は踊っていた祐二、まんざら知らない場所でもない。

「大きくなったなあ」「男前になったんじゃないか」

 晋さんをはじめ顔見知りの大人にそう声を掛けられ、やたら照れている。はじめのうちこそ、ドア横の壁に張り付いたまま居心地が悪そうだった祐二も、コースチャが手招きして、一旦男おどりに混じってしまうと、とうとう練習の最後まで踊っていた。


 駅へ続く帰り道のことだ。
 志乃とあたしの後ろを歩く祐二とコースチャの声が弾んでるなと思っていると、祐二が喋りかけてきた。

「みー。練習でもバイト代、でんの?」

「なに言ってんの。でないよ。本番だけだよ」

「うわ、でたよ」

「でた、ってなによ。でた、って」

「おれ、バイト代、いらねえ」と横からコースチャ。

「なげーな。祭りまで」

「え? アンタやンの?」

「えへへ」

「へーーっ! どういう風のふきまわしし?」

 踊っているうちに気が変わったようだ。洋服の試着と同じだと思った。そんなに欲しくない服でも、着てみるとなんだかその気になる。

「コースチャ。今日どうだった?」と先輩ぶって志乃。彼女もまだ始めて一年。去年、観(み)にきてくれたお祭りの後であたしが誘った。

「なんかムズい(難しい)もっと簡単かと思った」

「わたしもそうだったよ。手と足を一緒に動かすなんて、できるわけないとか思ったよ。最初」

「そーそー」

 阿波おどりは右手がでたら右足、左手がでたら左足がでる。歩いたり走ったりするのとは、手と足が逆だ。
 男踊りと女踊りの基本は同じだ。つま先をちょんとしてから地面に足を置くことと、手振りの肘が肩より下がらないことだ。違うところといえば、
 女踊りは脚を掻(か)くようにして足を運ぶけれど、踵(かかと)は決して地面につけない。つまり、地面につくのは下駄の先と前歯だけで、踊っている間はずっとつま先立ちのままということになる。
 対して男踊りは、つま先をつけてから踵を内側に捻(ひね)るようにして歩を進める。手の振りは女踊りよりももっと大きい。

 始めのうちはどうしても手と足のどちらか片方に気がいってしまうから、もう片方がおろそかになってしまう。

 覚えたての振りを復習するようにコースチャ。長い手足が邪魔して決めのポーズが流れてしまう。その横で偉そうにコーチングする祐二も腰が引けている。なんだか道のりが遠そうな2人を見てあたしが言った。

「まあ、ともかく2人とも早くうまくなってさ。若独楽(わかこま)をギャフンて言わせてよ。ギャフンて」

「みーってば若独楽とか言って、よっぽど『タカ・トシ』が気になるみたいね」と志乃。

「気になってなんかないよ。ちょっと言ってみただけ」

「『タカ・トシ』って、若独楽連にいんの?」話に割り込むように祐二が言った。

「あいつらのこと、知ってんの?」そう言った志乃が、祐二に視線を移した。 

「うん、まあ。ドラッグストアで会ったことあるから」

「そうなんだ。うん。彼らに『追っかけ』だっているよ」

「へー」

 コースチャの身振り手振りをはやしたてながら4人で銀行の前を通りかかった。昼間は店の駐輪スペースになる場所で、3人の男子がストリートダンスの練習をしていた。店内の内側に下ろされたシャッターでガラス面がミラーになっている。そこに自分たちを映して踊っているのだ。
 その中の一人が振返るとこっちに向かって「おう!」と言った。こっちからも「おう!」と祐二とコースチャ。知り合いのようだ。

「何してんよー。ダブルデート?」どうやら志乃とわたしを勘違いした。

「何言ってんだよ。姉ちゃんだよ」

「なんだ。みーか」

 一人が生意気言うと、あとの2人も続いて言った。

「あ、みーだ」「あ、こんばんわー」

「なんだ『ブーフーウー』じゃん。しっかしあんたたち、背ぇ、伸びたねー」

 それは同じ中学に通う祐二の幼馴染たちだ。「よしのぶ」と「ふうすけ」と「うちだ」3人合わせて「ブーフーウー」てあたしがつけた。彼らが小学校のころはよくシメたけど、あたしが高校に入ってからはそんな機会も減った。だから、こんなふうにたまに出会うと軽く驚いてしまう。それは向こうも同じかもしれない。

「そうだ。オレら今年、阿波おどりすンよ。良かったら、おまいらもやんねえ?」

 コースチャが言うと、あっ余計なことを、という顔を祐二がした。

「こうか!」

 ブーがシュワッチのできそこないをした。彼なりの阿波おどりのポーズだったんだろう。

「こうだよ!」車から飛びのいたような格好のフー。

「これは? これは?」ウーが内股のヒゲダンスでふざけた。

 3人とも、たった今まで身体を動かしていたせいかノリがいい。

「こうだよ」レスリングみたいな構えの祐二。「こういうのとか」バンザイにしか見えないコースチャ。

「あんたたちね……」

 あたしに、閃(ひらめ)きの神様が舞い降りる。
 5人を何度も指差した。言葉にするまでの時間差が歯がゆい。


 そう、アレ。


 まさに、アレ。



「ヤットー戦隊、阿波レンジャー!」



 とか新しい呼び名をつけてみる。





――つづく――



ブーフーウー →「3匹のこぶた」の登場人物です。いうまでもありませんでした。



つる「やばっ!10回なんかじゃ終わんねえ。お祭りまで全然遠いし」
担当編集者「誰も10回で終わるなんて思っちゃいませんよ。センセてば、しつこいもの。年内にでも終わってくれれば」
つる「あ、そうなの?しつこいの、わたし?」
担当「そうなの」
 
 今日のBGM→クリック。君にできるなにか/ウルトラマンコスモス

 小学生も視野に入れてフリ仮名をつけます。読みづらかったらごめんなさい。



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コメント(10件)

内 容 ニックネーム/日時
>女踊りは脚を掻(か)くようにして足を運ぶけれど、踵は決して地面につけない。つまり、地面につくのは下駄の先と前歯だけ
て、女の方が大変じゃないですか!

>阿波レンジャー
はまりすぎのネーミング、いいですね(笑)
銀河系一朗
2008/09/11 22:38
にぎやかになってきましたね。書くのが大変そうだぁ。超大作になりそうですね。編集さん、腹くくってますもんね(笑)
キメポーズもできたし、いよいよ「小兵」の始動ですね!
ia.
URL
2008/09/11 22:54
大丈夫です! 20回でも30回でもお付き合いしますよー^^ そういえば「3」で何か鋭い指摘をしてしまったようですが……う〜ん、どう影響してくるんでしょう? まだまだ展開は読めません^^;
ちなみに前回の最後にあった高周波音、なんとか15000Hzまで聴けました。でも逆に100Hz以下の低周波音がまったく聴こえなかったんですが……大丈夫なんでしょうか……。
shitsuma
2008/09/11 23:42
銀河系一朗さん、いつもありがとう。
そうなんです。女踊りは、慣れないと一日で足の親指と人差し指の間が切れます。半べそで踊っていたりするんです。
「阿波レンジャー」は1人ずつ名前を書くのが億劫で、ひとまとめにする苦肉の策です。だから深い意味もないし大した活躍もしません。「ヤットー」は、阿波おどりの掛け声なんですが、それ、書くのを忘れました。だはは。
つる
2008/09/12 00:08
ia.さん、いつもありがとう。
に、20回にはならないと思うんだけど、説明しきれてないのに5回も使ってしまったから、長くなりそうな気配なんです。あらすじは決まっているのだけど、いざ書き始めるといつもこんなふうで、おつき合いくださる皆さんに申し訳ない感じです。
前半に、なんかこう、うまく引っ張れる事件が書けるといいんだけど。

つる
2008/09/12 00:16
shitsuma さん、いつもありがとう。
おお、心強いコメントをありがとうございます。なるべくテンポをあげて頑張ります。
「3」のことは逆に皆さんが覚えていてくださると、あとででてきたときに、突飛な印象にならなくて良い感じになりそうです。
>高周波
やっぱり若いなあ。低周波はどうなんでしょうね。日常生活に不便がなければ問題ないのではないでしょうか。あんまりウチの話もなんなんですけど、聞こえる範囲が狭いと耳鼻科で言われた子供がいるんです。「パイロットか音楽家にでもなるんなら別ですけど、ははは」院長が笑いました。
つる
2008/09/12 00:27
今年いっぱい楽しめるならOKですよ〜♪
どこまでもお付き合いしますので。

それにしても阿波踊りの説明詳しいわぁ。
つるさんは踊れるんですか?

2008/09/12 22:22
舞さん、いつもありがとう。
今年中はかからないと思うけど10回は越えそうなんです。だからご了解をいただく形です。わたし、本を読む時も残りのページ数が気になるんですよ。いまのがクライマックスなのかなとか、まだ何かあるのかなとか。
阿波踊りは若いとき「連」に入っていたので、男踊りも女踊りも両方踊れますよ。すっかりオバサンになったけれど、笛でもいいから今だってやりたいんです。
つる
2008/09/13 13:14
なるほど。
阿波踊りもナンバの動きなのかー。
(最近、気になってる)

>晋さんをはじめ顔見知りの大人にそう声を掛けられるとやたら照れた。

ここは視点が裕二の方へブレているように感じられます。

>晋さんをはじめ、顔見知りの大人にそう声を掛けられ、やたらと照れている。

おそらく15回〜20回の間に落ち着くとみた(笑)
よーし。じっくり人物把握したから気合入れて読むぞー。
レイバック
2008/09/15 10:20
レイバックさん、ここにもありがとう。
ああ、そういうところでブレるんだ。わかりました。ここも直してしまおう。
>おそらく15回〜20回
あ、そんな感じです。気合入れて読む、だなんて作家冥利に尽きるわー。て、作家きどりかよ!
つる
2008/09/15 20:13

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