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zoom RSS 「高円寺物語」11

<<   作成日時 : 2008/09/28 18:10   >>

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「高円寺物語」11 

 ガードをくぐると、駅前はけっこうな人込みだった。パル商店街までびっしりだ。
 この駅はJR在来線が高架を走る。ホームから見えるのが桟敷(さじき)席だったから、改札を抜ける人はどうしても桟敷のある南側に流れてくる。そこがパル商店街の入り口だった。

 それにしても「前日運行」の「ふれおどり」がこんなに混むなんて、週末は崩れるという天気予報は当たるのかもしれない。

「まあ、かわいい」「わあ、きれい」志乃と歩いていると、すれ違う見物客のささやきが聞こえてくる。今日だけは自分もいい気分になった。着物のせいだ。

 小兵の衣装は粋だった。えび茶ベースに千社札のような「小兵連」が散って、肩のところに白抜きの「上り藤」の紋があるデザインだ。
 上身ごろ半分が白地部分で仕立ててあったから、ぱっと目には片袖を脱いでいるように見える。帯の黒に、帯揚げと帯締めの濃いピンクがよく映(は)えた。腰巻は淡いピンク。

 スタートまで少し時間があった。女衆の時間潰(つぶ)しはドラッグストアだ。一人だと意気地がでないくせして、大勢だと平気で試供品コーナーを利用できた。あたしは、まつ毛専用美容液をつけてみた。

「足が痛くなっちゃった」新色リップでプルルンとした唇の志乃が言う。

「足袋のところ?」

「うん」

「なら、コハゼをはずそうか。あたしも同じだよ」

 店を出て横の路地に入った。ここらへんにはそういう細い路地が何本もあって、商店街と平行する大通りを繋いでいる。大通りというのは、本番になると交通規制がかかる、駅と青梅街道を南北に結ぶ高南通りのことだ。

 ビルに片手をついてコハゼを外(はず)していたら、なにやら前方が騒がしい。言い争っているようだ。和装と洋装の混じった人垣に、たくさんの車椅子も見え隠れする。一体なんだろう。

「――だめだめ。だからだめなんだよ。ここで踊っちゃあ」

 タカピーな調子の爺(じじ)ぃが言っった。
 片袖の腕章は有志ボランティアの目印だ。彼らは町ぐるみのイベントに、交通誘導や町案内で活躍した。

 このお祭りにはルールがあった。決められた場所以外で、鳴り物や踊りを披露することは許されない。町ぐるみの取り組みに、どんなに振興協会や商店街組合が根回ししても、中には騒音を快く思わない人がいるからだ。そんな人たちはいつだって、警察や自治体に直接苦情を持ち込んだ。

「ふざけんなよ!」集団の中から怒号が飛んだ。そうだそうだ、ふざけんな、同じような野次が続いた。

「何度言わせるんだ。決まりなんだから、守れや。勝手なことされちゃ、みんなが困るんだ。わかったか? えっ?」青筋を立てた腕章爺ぃが唾を飛ばす。

 ブッ! みんな、とか祐二かよ。あたしが吹いた。

「解散! 解散!」少しも譲る気がない爺ぃがわめいた。よくいるマニュアル人間てやつ。
 とうとう、「なんだ、やンのか、このクソじじぃ!」集団の中から血の気の多い半纏(はんてん)が飛び出して、爺ぃを突き飛ばした。そのしるし半纏の模様は喧嘩独楽。
 トシだ。野次を飛ばした仲間たちが、今度は「やめろ」と彼の半纏を掴(つか)んだ。
 バラバラっとあたしの横を腕章の二人組が走っていく。応援に駆けつける気だ。爺ぃより若い。どうなることかと見てると、一人はよろけた爺ぃを支え、もう一人は、まあ落ち着いてと両手で抑えるような仕草をした。それから丁寧(ていねい)な物腰で言った。

「どうもどうも。皆さん、ご苦労さまです。まあここはひとつ穏便に願います。
 我々もあれです。これも仕事なもんだから目をつぶるわけにもいきませんでね。例外をひとつ認めちゃうとね、あれなんですよ。皆が俺も俺もになりますからね。そんでもって収拾(しゅうしゅう)がつかないことになります。
 まあ、そういう事情であれだ。申し訳ないんですが、ここはひとつ協力してもらえませんか。なんとかお願いしますよ――」

「ここはひとつ」と「あれ」を多用した依頼系のごもっともな言い分に、威勢の良かった連中も納得はできないものの、引かないわけにはいかないという雰囲気になった。
 ここで揉(も)め事を起こしたら面倒なことになる。そしたら踊れない。その時歴史が動いただ。

「なあ!」怒ったような声で腕章たちに対峙(たいじ)したのはタカだった。

「この人たちは『見れない』って言ってンだ!
 今日はふれおどりなんだろ? 混んでる土日に来れない人でも見れる日って聞いてる。少なくとも俺はそう聞いた。なのに見れない。だから踊った。場所なんて関係ねえ。
 あんたら、俺らに規則を押し付けンけど、だったらその前にこの人たちが(ふれおどりを)見れるようしてくれよ。それが仕事だろ。あんたら本来の。違うかよ?」

「そうだそうだ」と勢いを得て、又、半纏たちが騒いだ。

 咽元にグウと熱さが込み上げてくる。

 そうなんだ。タカってそういう人なんだ。

「この人たちは全然悪くないです」清潔感のある身なりをした女性がタカたちを庇(かば)うように言った。それまで黙っていた車椅子の人たちも口々に、そうなんです、を繰り返した。「いいんです、もういいんです。こんなに混雑するなんて知らずに来てしまったわたしたちが無知でした。だからもういいです。ほんと皆さん、ありがとうございました。楽しかったです」

 最後のほうのセリフになると、もう腕章なんて無視した女性が半被たちに向かって何度も頭を下げた。周りから賛同の拍手がパラパラと起きた。

「わかりました。じゃあ、そんなことで」と応援の腕章が締めくくって、すぐ何もなかったように集団がバラけた。

「凄かった、凄かった。やっぱり生(なま)の踊りは迫力が違うねえ」

 あたしたちの横を通り過ぎる車椅子のおばあさんが興奮した声で言った。そのハンドルを押しているのはさっきの女性だ。

「ええ。お義母(かあ)さんがそう言ってくださるなら、来て良かったです。わたしね、お義父さんにもアレ、見せたかったわ」

「ほんとうね、ほんとうね」

 お義母さん呼ばれたおばあさんがハンカチで思わず目を押えた。わけありだ。きっとお義父さんに何かあったんだろう。
 
「ちょっと、感動」肘であたしを小突いた志乃が言った。

「うん。あたしも」おばあさんの涙にじんときた。

「良いわ、良いわ。タカって」 

 そっちかい!

「だけどザンネーン! わたしには祐太がいるからなー」

 ちっとも残念そうに見えない志乃が言って、「みーの気持ち、わかるよ」と笑った。


 そう。あたしの気持ち。


 彼らに勝つとか負けるとか、小さなことを考えてた。


 自分が恥ずかしい。



 そっちかい!(皆さんご一緒に)





――つづく――



桟敷(さじき)→ 「さずき」の転。[1] 祭りや相撲などの興行物を見るために高く作った見物席。さんじき。 [2] 劇場で、平土間に対して左右に一段高く設けた席。桟敷席。(Yahoo!辞書より)
こはぜ→足袋の止め具。
タカピー→高飛車な人のこと。参考URL
↓上り藤(のぼりふじ)と千社札(せんしゃふだ)
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 鉦(かね)と太鼓だけのお囃子(はやし)てどんなだと思われます?そんなお囃子を奏(かな)でる主なチームは「苔作」「天水」「双六」などです。今日は、その中の「天水連」 (天水連B/00:42)をご紹介します。
 カミングアウトするとですね、今年は、この連を「追っかけ」ました。

 今日のBGM→クリック。B・BLUE
 今日の動画→もっと長い「天水」をご覧になりたければココ。(第51回高円寺阿波踊り -2007/02:09)


 小学生も視野に入れてフリ仮名をつけます。読みづらかったらごめんなさい。


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コメント(7件)

内 容 ニックネーム/日時
タカトシのたちの若さゆえの正義感が良く出てますよね。ルール違反は事故に繋がる恐れがあるから、好意だとしても危ないですし。
おっさんもちゃんと説明しろよ。建前ばっかり気にしてるからやり込められるんだよ、って感じですね。
ところで瞳ちゃんのタカへの思いは志乃にバレバレなの?いつのまに?
ia.
URL
2008/09/30 01:10
ia.さん、いつもありがとう。
わたしね、自分ができないもんだから、ルール違反できる子に憧れてます。尾崎豊が好きなのもそういう理由かもしれないです。話が飛びました。
志乃は「只今恋愛中」なので、そういうことに敏感ていう設定です。「9」と「6」の最後のほうに匂わせたんですが、少し薄かったと思いました。いつもia.さんのコメントに助けられてます。またお願いします。全体のバランスを見て、あとで見直したい場所がたくさんあるんです。
つる
2008/09/30 22:13
ありがちないざこざ、
こういう事件も臨場感を盛り上げますね

更新まめですね。
最近はアメリカのニュースに振り回されてるのでと更新遅れの言い訳(^^;
収支がつかない→収拾がつかない ?
銀河系一朗
2008/10/03 00:52
銀河系一朗さん、いつもありがとう。

チッチャイいざこざはたくさん目にしました。観客だって自分の前に誰かが立ったら、いちゃもんつけてます。なんかみんな熱くなってました。でも、目の前の阿波おどりに帳消しなってしまう。

更新はね、早くなんてないですよ。キー打ち、おせーし。前記事が長すぎたから、2つに分けただけなんです。
>アメリカのニュース
(´-ω-`;)ゞポリポリ 株とかやってないし、正直いまいちわかんねえ。
てか、「吸血鬼」の続きが気になります。
>収支がつかない→収拾がつかない?
た、助かります。ほんと、いつもありがとう。


つる
2008/10/04 00:38
タカトシ最高!
やべ。軽く泣きそうになった。
肝心なときに吹っ切れるのが本物の男。
若いやつの熱さを見ると涙腺が緩むわ。
(ノ_<。)
レイバック
2008/10/04 09:04
レイバックさん、連コメありがとう。
え〜?意外だった。わたしはこんな男の子が好きだけど、まさか男性からそんなふうに言われるとは。男性からしたら珍しくもなんともない出来事でしょう。ああ、今、わかった。きっとこのあとの、わたしが狙ってる部分が逆に受けない。そんな気がしてきました。きっとそう。
涙腺はね、だんだん緩くなりますよ。初めて経験する感動はもちろん大きいけど、何度経験していても、人の心の機微がわかってからの感動ていうのもバカにできない。この感動の大きさは前者に勝ることもあるって思ってる。
つる
2008/10/04 22:08
WOW just what I was searching for. Came here by searching for _
Rashad
URL
2017/08/19 14:55

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