ハキダメにつる

アクセスカウンタ

zoom RSS 「高円寺物語」10

<<   作成日時 : 2008/09/27 23:36   >>

ブログ気持玉 0 / トラックバック 0 / コメント 9

「高円寺物語」10 
画像






今年、この画像が団扇になりました。
by 高円寺ルック商店街




 それまで遠慮がちだった鳴り物の音が、今日から大手を振ってまかり通る。
 待ちきれないカンとピュウとドドンガドンが、町中をフライング気味に鳴ったり止んだりしていた。

 商店街の着物屋さんは地元連の人だ。毎年、地元振興協会の所属連に、着替え場所として広い2階を提供してくれてた。あたしたちはそこでいつも着替える。
 ガンガンにクーラーを利かせた和室で、ちびっ子や女衆の着付けを手伝ってくれるのは、着物屋さんのおばさんと町内会の婦人部の人だ。
 大勢の帯を締めるおばさんたちの額から汗が落ちる。それはあたしたちも同じだ。この暑さでこの衣装。下半身の蹴出しに上半身は衿(えり)付き肌着と短い着物の2枚重ね。何本も巻かれる下帯。それに上帯と帯締めと帯揚げだ。慣れないとホント苦しい。
 仕上げは自分たちだ。印籠(いんろう)をぶら下げ、肘までの手甲をはめ、笠枕のついた編み笠の紐を顎の横で結ぶ。三面鏡の前で笠の角度を調整した。

 おしっ、やるどっ! 

 早めに町へ繰り出したつもりなのに、阿波おどりの扮装にたくさん行き交(か)った。皆、同じ想いだ。
 駅北の銀行の前に阿波レンジャーがいた。すでに彼らは「晴れ、ときどきブタ」。それは学芸会の演目だ。小3の彼らが、本番の出待ちにあんまりはしゃぐので、担任のホシノが舞台袖でボコった。その様子が前列生徒席から丸見えだったから、舞台より受けた。6年だったあたしたちのクラスも死ぬほど笑った。

 子どもじみた騒ぎの彼らに近づいて、あたしが言う。

「Hey(ハーイ)! 盛りあがってるかーい?」人のこと言えなかった。

 コンクリートの車止めに乗っかって、小学校時代の校長先生を真似てみる。

「あ〜〜〜」あ〜〜〜と3秒くらい、もったいぶるのが先生のクセだった。似てないから阿波レンジャーからブーイング。「皆さん、今日からいよいよ待ちに待った遠足阿波おどりです。お友だちと力を合わせ、それぞれが自覚を持って行動してください。それでは最後まで事故のないよう頑張りましょー!」

 ぴょんと飛び降りてから、袂(たもと)に忍ばせていた大入(おおいり)袋を彼らに配った。「大入」と書かれたポチ袋に約束のバイト代が入れてあった。
 へへー! 最後に、ひょうきんもののブーが押し頂くようにして受け取ると、もう大騒ぎだ。

「Yeah (イエー) ! 」阿波レンジャーが口々にガッツポーズ。

「よっしゃー、今日は勝つどー!」

 彼らのテンションに乗ったあたしが勝ちどきを上げる。

「Yeah ! 」

「勝つどーっ!」

「Yeah ! 」

「勝つどーっ!」

「Yeah! 」

 オマイラ何人(ナニジン)なんだよ。

「ちょっと、勝つとか、何言ってんの、みー?」あたしの印籠の紐を引いた志乃が言った。

「うん? 東京都知事賞に決まってんじゃん。今年はウチらの連が取るよ。どっかの連に負けるわけにはいかないからね」

「どっかの連て、どっかの連が取るに決まってんじゃん」

「ドッカノレンガトルニキマッテル……何で?」

「地元振興協会に所属する27コのチームは、どの『賞』だって取れないんだよ」

 東京都知事賞の他にも杉並区長賞 、東京都議会議長賞 、杉並区議会議長賞 、提携市町村の友好賞などなどがあった。

「へ?」

「他所(よそ)のチームが取るんだってば。そういう決まりなの、お約束の。祐太が言ってた」

 祐太はあたしのアニキだ。ときどき、おじいちゃんの代理で、副連長の晋さんと振興協会に出入りしていた。阿波おどりの参加連は70を超える。確かに地元ばかりが賞取りしたら他連は面白くないだろう。他連が参加してこそ、ここまでの規模になった。

「そ、そんなあ! だって『若独楽(わかこま)』は去年、取ったじゃん」

「知らないの? あそこは隣町の連だよ。だから振興協会にも入ってないんだ」

 隣町――妙に納得。もしも、タカ・トシが同じ町だったら、夏休み中にもっと彼らと出会っていてもよさそうなものだったからだ。

「そうなんだ……」

 どこへ持っていけばいいんだ、この気持ち。

 頭上を横切る商店街の横断幕。《踊る阿呆に見る阿呆、同じ阿呆なら踊らにゃソンソン》

 ほんと、アホだ、あたし。




 それから18時になって、北商店街の演舞場を2つ流してから駅に戻った。次は南に伸びるパル商店街だ。
 途中に人だかりがあった。輪踊りってやつ。ちょうど鉦(かね)が二拍子から一拍子に変わって、見せ所のようだ。
 にぎやかに打ち鳴らされる鉦(かね)と腹に響く太鼓に聞き覚えがある。

 若独楽連だ。

「やーーっ! やーーっ!」

 輪の中から見得を切る掛け声がして、わあっと拍手が起きた。


 ウチらよかよっぽど受けてるし。


 その拍手に、妬(や)けた。





 ガードをくぐると――



担当編集者「長い長い長い長い長い長い長い長い長いから――つづく――と」

つる「そ、そんなあ!いいとこなのにー!」






――つづく――



演舞場マップクリック。
蹴出し(けだし)→ 和服用の下着の一種で、裾よけと同じ意味。 腰巻の上から足首までの長さのもの。 長襦袢の略式にもなり縮緬などが用いられます。
見得を切る→見得を切る(みえをきる) 1.芝居で、役者が「見得(=歌舞伎での決めのポーズ)」の仕草(しぐさ)をする。2.自分を誇示するような大袈裟な態度を取る。自信のほどを示す。
↓手甲。
画像






 長いです。
 
 今日のBGM→クリック。I'm in the Mood for Dancing
 今日の動画→クリック。阿波踊りBOY'Sヴァージョン(01:20)後半の2拍子から1拍子になるところがミソです。

 小学生も視野に入れてフリ仮名をつけます。読みづらかったらごめんなさい。


テーマ

関連テーマ 一覧


月別リンク

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!
ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。
→ログインへ

トラックバック(0件)

タイトル (本文) ブログ名/日時

トラックバック用URL help


自分のブログにトラックバック記事作成(会員用) help

タイトル
本 文

コメント(9件)

内 容 ニックネーム/日時
祭りの前の喧騒が伝わってくるようですね。始まる前から浮かれちゃいます。「晴れ、ときどきブタ」センス良すぎー(笑)
勝ち負けじゃないよ、瞳ちゃん。目一杯楽しんじゃえ!
……そんなあ!いいとこなのにー!(笑)
ia.
URL
2008/09/28 01:42
ia.さん、いつもありがとう。
>喧騒
ほんとう?祭りが3日間あるから、あんまりはじめから詳しく書くとネタがなくなっちゃう。そんなんで薄めに描写。それでも長い。なんでだろ?
瞳はお兄ちゃんと弟に挟まれた勝気な性格設定。勝ち負けにこだわることで、それが出せたらいいんだけど。
つる
2008/09/28 20:03
まさかの不戦敗。
( ゚∀゚)アハハ八八ノヽノヽノヽノ \ / \/ \
踊るしかねーぜ!

URL
2008/09/28 23:05
鯨さん、いつもありがとう。
勝負はやっぱり1:1がいいね。勝負とか賭け事って、圧倒的に男のほうが好んで見たりやったりしますね。脳が違うのかな。
踊るのは脳が空っぽになっていいかもね。考えすぎると、いろんなことが億劫になってくる。オールで踊ってたころが懐かしいや。そんな体力もなくなりました。
つる
2008/09/29 00:10
地元は賞取れないの?
何かありそうな予感はするけど。

喧騒に祭の雰囲気が伝わってきますね。
銀河系一朗
2008/09/30 22:22
銀河系一朗さん、いつもありがとう。
そうなの、取れないんの。ハッ!今、気づきました。「獲る」は、なんか捕獲するイメージでした。さっそく直そう。ありがとうございます。
何かあるとしても、ありふれたお祭りの出来事ですよ。そうそう、このシーンはね、路地でそんなのを見かけたんです。穏やかなその光景に、内心は「もっと揉めろー!」って思いました。
つる
2008/10/01 00:13
銀河系一朗さん。↑上コメの路地に触れたレスは次の回と勘違いしてしまいました。いつもこんなふうに早とちりです。ごめんなさい。
つる
2008/10/01 19:11
祭り直前の浮き立つような感じがよく出てますね。読んでてもわくわくするよ。数年前に岸和田のだんじり祭を観てきましたが、やはり熱気というか街そのものが躁状態になっていて、祭りっていいなと、つくづく思いました。部外者なのが少し淋しかったです。
レイバック
2008/10/04 08:56
レイバックさん、いつもありがとう。
え、ほんとう?書いている自分はすでにどっぷりと祭りにはまってるので、そのへんの感じがうまく伝わってるか心配でした。なんか嬉しい。
だんじりのことなんですけど、あれってずっと全速力で走ってるんですかね。TVで見る限りそんなふうじゃないですか。死ぬな、と思います。マジ、死ぬ。暑いでしょ。夏のお祭りは、立ってるだけでシンドイと思うんですよね。
>部外者
そうなんです。あのさみしい気持ちったらなんだろう。抜けようとした改札が閉まった気持ち。
つる
2008/10/04 21:55

コメントする help

ニックネーム
URL(任意)
本 文
にほんブログ村 小説ブログ 現代小説へ 人気blogランキングへ
「高円寺物語」10 ハキダメにつる/BIGLOBEウェブリブログ
文字サイズ:       閉じる