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zoom RSS 「高円寺物語」3

<<   作成日時 : 2008/09/03 22:12   >>

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「高円寺物語」3

 「連」の練習は一年中だ。場所は学校の体育館や公共スペースを利用して、オフシーズンでも月ニ回、それがお祭りの前になると週一回になり、夏休みは週ニ回だ。

 次の練習日。
 地域センターの前で一服している副連長を見て、あたしが突っこんだ。

「晋さん! ここ禁煙!」

 晋さんはたぶん四十代。子供はまだ中学生と小学生で、下の子の小学校のPTA会長もしている、商店街の下駄屋さんだ。鳴り物の中でも一番リズム感を必要とされる締太鼓を担当している。

「やあ、お富さんか。固いこと言うなや」

「いまどきの公共施設は、敷地内だって禁煙なんだよ。そんなの常識」

 生意気言うあたしに、やれやれと肩をすくめた晋さんは、携帯灰皿に吸殻を折り曲げると、ひと足先に自動ドアのマットを踏んだあたしの横に並んできた。

「そうそう、こないだはご苦労さん」

「あー。いえいえ」

 毎年この季節になると、阿波おどり振興協会では街頭宣伝用の団扇(うちわ)を作る。その団扇に所属連の写真が使われる。今年はウチラの番らしく、晋さんから頼まれて、志乃と二人でモデルになった。

「小兵もついにメジャーデビューだな」

「あはは」

「振興協会で、さんざ羨(うらや)ましがられたよ。ウチらの(連の)べっぴんさんをさ」

「それ、志乃」

「いやいや、それがどうしてどうして――」晋さんがロビーの合皮ソファに置いた袋から団扇を取り出して見せた。「お富さんだってまんざら捨てたもんじゃない」

「へー、もうできたんだぁ……うそっ!」

『東京阿波おどり』と書かれた文字の隣に、女踊りに扮装した二人が写っている。上半身を横から撮ったもので、ピントが合っているのは何故か手前の志乃でなく、奥のあたしだった。

「こうやって黙ってればなあ」

 よく言われる。

「ひどーい!」

 団扇とあたしを交互に見比べる晋さんの背中を、照れもあって、思い切り叩いてしまった。

 きっと、おじいちゃん。おじいちゃんが小兵連(こひょうれん)の連長をしているから、振興協会が気を遣(つか)ったんだろう。お囃子が聞こえる階段を上りながら、そう思った。

 あたしのおじいちゃんは、阿波おどりの本場、徳島で生まれた。徳島では大抵の人がこの踊りをするという。結婚式なんかの祝い事があればすぐ「阿波おどり」だし、県内の小学校では運動会でフツーに「阿波おどり」を踊るんだそうだ。

 そのおじいちゃんが上京して住んだこの町に、お祭りとしての「阿波おどり」が誕生したのは今から51年も前のことだ。当時は「阿呆(あほう)おどり」といって、隣駅の阿佐ヶ谷「七夕まつり」に対抗して始まったのだという。何年か試行錯誤するうち、今のスタイルになった。

 おじいちゃんが「小兵連」を立ち上げて三十年。小兵は地元のちびっ子からお年寄りまで幅広い年齢層が集まった中規模のファミリー連だった。

 小兵を含め地元連の多くは、この町の「阿波おどり振興協会」に所属している。25余りある「連」は、100人を越すメンバーがいる大規模連から、20人もいない少規模連まで様々だ。 そして、それぞれの連ごとに個性がある。

 阿波おどりに、特別、決まった型はなかった。腰を落として豪快に踊る「男踊り」と、優雅に踊る「女踊り」のニつだ。このニつで個性がでるとしたら、なんといっても男踊りのほうだろう。
 奴凧(やっこだこ)を模した激しい動きが特徴の「奴踊り」を筆頭に、「提灯踊り」「団扇踊り」などがある。最近は男も女もこの「男踊り」をするけれど、「女踊り」は、基本、女しか踊らない。

 お囃子のスタイルもそれぞれだった。「鳴り物」と呼ばれる、笛、太鼓、鉦(かね)、三味線、それらによって鳴らされる「ぞめき囃子」も、近頃は、鉦と太鼓だけの迫力あるリズムが人気で、そういうお囃子を奏(かな)でる連が増えてきた。
 
 て、語る間に、とっくに階段を上りきってしまっただろう、て心配する読者もいンだろう。でもね、どこかで語らなければならない。仕方ないんだよ。



 リハーサルの音合わせのような不揃いな鳴り物が聞こえるドアを開けると、祐二が立っていた。

「どしたの? あんた?」

 聞いたあたしに、あっち、と祐二が左手の親指を向けた。そこに異国のファミリーがいた。なんてミスマッチなファミリー! すぐにコースチャの家族だってわかった。

 重量挙げの選手みたいな彼のお父さんが、うちのおじいちゃんに不器用なお辞儀をした。よろしくといってるようだ。お母さんとコースチャとシャラポアは、もう興味津々(きょうみしんしん)で辺りを見回している。

 そうだね、地球はひとつ。人類はみな家族だ。 

 カーン、カーン、カーン、「鳴り物」の鉦が三回スローに鳴って、練習の始まりを告げる。



 コースチャ。


 
 ファミリー連「小兵」に、



 ようこそ! 






――つづく――





つる「ねえ、『阿波踊り』の表記から『阿波おどり』に変えたよ。だってそうなってるんだもの、参考サイト」
担当編集者「またかよ!」

「鳴り物」の紹介です。お時間ありましたら是非、音をお楽しみください。 

 今日のBGM→クリック。高円寺駅発車メロディー(阿波踊り)


 小学生も視野に入れてフリ仮名をつけます。読みづらかったらごめんなさい。

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コメント(10件)

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へえ、阿佐ヶ谷の七夕祭と張り合ってできたんですか?初めて知った。

>お囃子が聞こえる階段を上りながら、そう思った。←がかかるのは直前だけでいいと思いますよ。
あとの打ち消し文はなくて全然オーケー。
心理の時間と客観の時間は一致させなくてもいいと思うし、リアルな観点からも、そもそも登場人物に対してでなく読者に対しての説明なのだから、さらに作者の視線が出て来てわざわざ客観視させる必要はなさそうな気がする…。
人により違うかもしれないので個人的印象です(^^;
銀河系一朗
2008/09/03 22:33
あちゃ〜コースチャ、はまっちゃいましたね。
なんだかとっても楽しそうです。
盛大な阿波踊りの列、なんか想像しちゃいました。
もしも近くにそんな集まりがあるのなら私なら絶対に参加します。
もちろん団扇にも写りた〜い!
(私に焦点合わせてね^^;)

URL
2008/09/03 23:08
銀河系一朗さん、いつもありがとう。
えー?ほんとう?直前で大丈夫かしら。わたし、いつもそんなふうに思って読んでしまうほうだから、ブログだし、斜線引いて遊んでみました。いらなかったか。そうか。
それにしても、皆さん、説明の取り込み方がうまいなあ、て思います。
わたしは面倒くさがりなので、関連づいたところで一気に説明を終わらせたいんだけど、ちびちびと出したほうが効果的なのか、いつも悩みます。お話が終わってみないと、わからないです。
つる
2008/09/04 00:38
舞さん、いつもありがとう。
本場、徳島には敵わないかもしれないけど、東京の阿波おどりもいいですよ。町の熱気がすごい。
えー?焦点、合ってもいいの?じゃ、わたし、ボケたほうで。
つる
2008/09/04 00:45
ようやく追いつきましたよ!
新シリーズはお祭りの話ですか。お祭りって、夜店を歩いたっていうくらいの経験しかないので、イメージしづらい部分もあるんですけど、楽しそうな雰囲気は伝わってきます^^
コースチャ、いいですね! ロシア人ですか。シャラポワみたいな妹って、うらやましいですね(笑)向こうは子供でも、わりと大人びて見えますしね。
そういえばニックネームがついた登場人物が多いですけど、これは意識して書いてるんでしょうか? キャラがイメージしやすくて、よいですね^^
shitsuma
2008/09/04 01:23
おお、「小兵」はチーム名だったんですね。私、そういう浴衣の柄があると思っていました(^^; (こんな風に書くと、つるさん気にしそうですが、ここでそれが明かされるのは全然問題ないと思いますよ。このほうがテンポ良いですし)
ひとみちゃん、コンプレックスと情熱が複雑に交差して可愛らしいですね。
ia.
2008/09/04 09:56
shitsumaさん、いつもありがとう。
お祭りの話は少し季節がずれちゃったんです。もっとタイムリーに書けたらよかったんだけど。

>ロシア人
強調するなよ!
>向こうは子供でも、わりと大人びて見えますしね。
ああーーーーーーーっっっ!!!聞こえない、聞こえない!
以上2点。「shitsumaさんが、するどくてビックリした件」

ニックネームはね。たくさんの人がでてくるから、こんなです。芸能人の名も借りてしまうけれど、プロじゃないから技術もないし、仕方ない。
ブログならではのお遊びと思って許してほしい。
つる
2008/09/04 21:37
ia.さん、いつもありがとう。
ほ、ほんとだ!自分だけわかっちゃってて、浴衣のところが、あんまり書けてませんでした。検討の余地あり、とみた。ありがとう。
最後の2行、嬉しいです。状況説明なんかで行を取られてしまうと、どうしても登場人物の説明が不足してしまうの。こういうふうに言ってくださると、助かります。
つる
2008/09/04 21:46
お久しぶりです。
遅れを取り戻すべく読んでいきます。
なるほど。阿波おどりについてはあんまり知らなかったので、けっこう勉強になりました。
火群
2008/10/15 02:29
あっ、火群さん、いつもありがとう。
なんか最近、忙しそうですね。お時間取らせて申しわけない。
阿波おどりね。知ってることと、調べたことを、たくさん書きたかったんですよ。でもね、連載しながら、たまにこうして戻るとね。やっぱクドイかなー、って思ったりします。わかんないんですよ、書いてると。
とにかく早くしなくちゃ、夏の話が冬になっちゃう、それだけはわかる。
つる
2008/10/15 23:47

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