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zoom RSS 「高円寺物語」1

<<   作成日時 : 2008/08/29 19:59   >>

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「高円寺物語」1

 大好きな夏がくる。アホになる夏がくる。

 夏になると、あたしたちの町で大きなお祭りがある。2日間で延べ120万人を集めるという「阿波おどり」だ。70を越す参加連が、桟敷席(さじきせき)の設けられた大通りや商店街を練り歩く。今年で、もう52回を数える。
 その町に、ぞめき囃子(ばやし)と呼ばれる「鳴り物」が聞こえてくるのは、そのずっとずっと前からだ。
 たったのニ日間、アホになるために、ウチらの一年がある。 
 


 女踊りの練習の帰り、いつもの駅裏で志乃にバイバイすると、近道をしようとガード沿いの道から路地に折れた。暗い道。背の低い男が一歩ずつ近づいて来る。上半身裸のハーフパンツに、

 やだっ!

 踵(きびす)を返そうとして、裾さばきが悪くなった。つんのめって派手にダイブ。はだけた前裾に手をついたら、その横に大きな影ができた。

「だ、誰かきてえ! へ、へんな人がいますよおっ!」

 来たばかりの道に四つん這(ば)いになって手を伸ばした。

「おい、ふざけんなよ! へんとか言ってぶっ殺す!」

 振り向いたら、両手を時計の3時(の方向)にした男の背が伸びた。低いんじゃない。腰を落としていたのだ。その男の声に、「なんだなんだ」「殺せ殺せ」端(はじ)から仲間のような声がして、人影が集まるのがわかった。

「きゃーっ!」殺されちゃう。

「あ、なんだよ。小兵(こひょう)じゃん」

 誰かが言って、暗い路地に「小兵だ小兵だ」が伝染した。きっとあたしの浴衣を見た。それは所属連のもので、えび茶に連名入りの江戸文字が散らばしてある。
 なあんだ、小兵を知っている「連」の関係者か。起き上がるあたしの前に3時の男が立った。

「小兵のお富(とみ)さんだぁ!」3時の後ろで、仲間の陽気な声が上がった。

「お富さん、違うし!」そっちに言い返す。

「違わねえし」 言い返した場所から、あたしを指差す男が出てきて、3時の右に並んだ。

「違うし!」また、あたし。

「違わねーし! 小兵でそう言われてんだろが」 しつこく右が言ってくる。

 た、確かに。

 アニキがあたしを「ひとみひとみ」と呼んだから、それが「おとみおとみ」に聞こえて、いつのまにかウチらの連で、あたしは「お富さん」になった。

 まだ何か言いかける右を、左手でさえぎるようにして3時が言った。

「じゃ、なんていうんだ?」

「ひとみだよ。瞳」

 あたしが言って、裂(さ)けた身八つ口をつまむ振りになる。太股(ふともも)まで見られたかもしれない相手を前に、その顔が見れない。

 ふん、ひとみか、と鼻を鳴らすように3時。

「警察よ! 警察呼んだから来るわよ!」

 路地の入り口から甲高い女性の声がした。その声にしんとなった路地。かすかなピーポーが空をすり抜けた。

「やべっ!」彼らはチーターに追われるインパラ(小型草食獣)のように反応すると、路地の奥へ走り出した。連なった鎖の最後で3時が振返る。睨まれた。

 あっという間に誰もいなくなる。

「だいじょうぶ?」

 聞き覚えのある声に振り向いて「あー、志乃かあ。よかったぁー。まだいたんだ?」

「うん。メールチェックしてたら叫び声がしたから慌(あわ)てたよ」

「そっか、そんで警察て――」

「ああ、嘘だよ。みーの大ピンチみたいだったから」

 ふだんは「みー」と呼ばれてた。瞳(ひとみ)の「み」と、髪型がムーミンに出てくる「リトルミィ」に似ているからだ。

「じゃ、あれは?」遠いピーポーに人差し指を立てるあたしに、

「ぐぅーぜーん!」と志乃が笑った。「あいつら、『タカ・トシ』だったね。何してたんだろ、ここで。練習かな?」

「え、そうだった?」

「左がタカで、右がトシ。忘れちゃった? 去年の――」

「覚えてる」

 若水連から枝分かれした「若独楽連」(わかこまれん)創設3年目にして、去年の「東京都知事賞」をかっさらった。その若独楽の二枚看板が「タカ・トシ」だった。タカなんとかと、トシなんとかという名前の2人は、人気お笑いコンビ「タカアンドトシ」に因(ちな)んでそう呼ばれていた。
 祭りのときの彼らは、白地に黒で染め抜いた喧嘩独楽の半被(はっぴ)だったから、ふつうの格好が想像できなかった。

「あれ、すごかったねえ。提灯(ちょうちん)」 まるで昨日の出来事のように志乃が言った。

「うん」

 若独楽の粋な提灯さばきが蘇(よみがえ)る。
 この連の「売り」は男踊りだ。若手主体のメンバーは、経験不足をカバーするように威勢が良かった。 
 特にこの2人。隊列のツートップ先頭で目立った。不機嫌そうなほうがタカで、ジャニーズばりに愛想をふりまくのがトシだった。3時はきっとタカだ。
 
 面白くない気持ちが残る。

「どした? への字口で」襟を整えるあたしを覗(のぞ)きこんで志乃が聞く。

「お富さんて言われた」

「え? 誰に? あいつらに? なんでそんなこと知ってるんだろ」

「そんでもって、ぶっ殺す、言われた」

「えー?!」

 振り返ったアイツの顔が目に浮かぶ。

「バカにしてんだよ。小兵のこと。きっと」


 言ってるうちにだんだん悔しさが募(つの)ってきて、




 あいつらなんかに負けたくない! 




――つづく――



江戸文字クリック。
リトルミィ→この子→クリック。
タカアンドトシ→「欧米かっ!?」クリック。
身八つ口 (みやつぐち)→袖つけ止まりからわき縫い止まりまでの12〜13センチくらい手前で縫い残しているあきの部分。着付けのときに、ここから手を入れて襟を整えます。身八つ口は女性もののみにあり、男性ものにはありません。参考URL


 こんなふうに(男踊りお手本その1You Tube 00:15)近づいてきたんですよ。きっと。
 
 今日のBGM→クリック。The Easy Winners

 小学生も視野に入れてフリ仮名をつけます。夏休みですからね。読みづらかったらごめんなさい。



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コメント(12件)

内 容 ニックネーム/日時
つ、つるさん。この冒頭、多少無理があるのでは?携帯電話を持った十代らしき少年たちは「♪死んだはずだよ、お富さん〜♪」を知らないのではないでしょうか?もしかして最近流行ってるのかな?
ia.
URL
2008/08/30 00:15
ia.さん、いつもありがとう。
や、やっぱ無理があった?じゃあ、違うパターンにしてみます。大体ね、高校生が語るのに、出だしからして若くないんですよ。ちょうどよかったです。待っててね。アドバイス、助かります。
つる
2008/08/30 01:18
私はちょっと前の話かなって思ったけど
でも前は携帯無かったよね(汗)
親とかが言ってたとか?
おじさんたちにからかわれてたのを聞いてたとか?
でもお富さん的からかい方私は好きなんですけどね。
結構笑っちゃいましたよ。

2008/08/30 08:22
今度は踊りですか?
某朝ドラもダンスだし、流行に乗ってますね!

>両手が3時(の方向)になった男
これがいまいちわからないんですが(^^;
両手をこちらから見て真左に伸ばしてる?

5行目 線としては、総武線より中央線にした方がいいと思います(総武線は各駅停車なので、普通は中央線の快速使います。たった2駅の差ですけど^^)
銀河系一朗
2008/08/30 16:25
舞さん、いつもありがとう。
全然!バリバリ今年の話ですよ。見に行って、ビール片手にした途端、妄想特急に乗車してました。
からかわれるのはいやだなあ。なるべく、いじられずに、そっとしておいてほしいタイプ。
おじさんは、「小兵連」にたくさんいますよ。でも、書くのが面倒だからね。ほんの少しにするつもり。
つる
2008/08/30 19:42
銀河系一朗さん、いつもありがとう。
え?朝ドラがそうなの?知らんかった。昔、自分が何年か踊ってたんですよ。そういう話を家族は誰も聞いちゃくれません。だから、ここで。
>両手が3時
ああ、こういうコメはほんと嬉しいな。「時計の」を入れてみました。怪しさをだすために、「阿波踊りの手振り」とは書けなかったです。これが今の限界。
>中央線
 そうなんですよ。マイナーなとこ使ってみた。でもその描写はやめました。話に入りにくいと気がついたからです。「中央線」はあとで使わせてもらいますね。だって、お祭りの「本番」にいくらでも描写できるって気がついた。でね、

直したら、すごく良くなった〜(ホントカヨ)
つる
2008/08/30 20:00
お。新連載だ。
キッチリ取材してそうですねぇ。結局今年は祭りにも花火大会にも行けず、夏の残り香を慈しむ今日この頃ですから。ここで夏気分を味わせてもらおうっと^^
レイバック
URL
2008/08/31 09:44
レイバックさん、いつもありがとう。
>取材
しましたよ。ていうか毎年見に行きます。でも外側から見るのはさみしいね。現役が一番。
調べもののほうは「スノーボーイ」で懲りたからね。そっちは楽チンだった。
夏の残り香だぁー?お望みのものが伝えられるのかしら。想像力MAXで読んでね。動画もなるべくつけますんで。よろしく。
つる
2008/08/31 20:24
お、お富さん。そんなお釈迦様でも知らないことを、現代のヤングなメンな自分が分かるはずないじゃないですか。

URL
2008/09/01 00:40
鯨さん、いつもありがとう。
し、知ってるし、お釈迦様!ヤングとかチョー怪しいんですけど。
「お富さん」は、名前にインパクトつけようとして、それきり使い道がない〜
つる
2008/09/01 21:46
めちゃくちゃツッコミ食らってますねー。
いつもながら遅いけど読んでいきます。
しかし、つるさんの話は、ポジティブな登場人物が多いですね。元気になるわな。
火群
2008/09/19 01:11
火群さん、いつもありがとう。
皆さんのおかげで、ぐっと読みやすくなりました。来てくださるだけで嬉しいですよ。だって一年前に比べたら夢のようです。
>ポジティブな登場人物
読んでいて応援したくなるような感じだと、こうなりますかね。自分自身も仕事中はテンション高いです。でもね、以前、言われました。「楽しそうにしてる人って嫌われる」んだそうです。あは。
つる
2008/09/19 23:05

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