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zoom RSS 「わたしが死んだらノート」2

<<   作成日時 : 2008/07/11 23:53   >>

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「わたしが死んだらノート」2

 ノートの始めの数枚が破り取られているのは、ご愛嬌だ。私と兄はいつもノートを無駄遣いした。
 もったいながり屋の母は、チラシの裏が白紙だったりすると、同じ大きさに切りそろえてメモ帳にするような人だったから、まっ白なページの残るノートを捨てられるわけがない。
 兄がグラス片手に、近いところのノートを読み始めた。

「《わたしが死んだらノート。わたしが死んだら、このノートを見てください。ここに、うちのいろんなことを書いておきます。これさえあれば、バッチリよ》なんだ、これ。おまえのほう、何て書いてある?」

「同じようなもんだよ。通帳、実印、年金手帳、保険証券の在処(ありか)とかカードの暗証番号とかだね。《大事なものは全部、スーツケースに入ってます。泥棒もまさかこんなところに我家の貴重品が隠されてるなんて気がつかないでしょう。ふふふ》とか、書いてあるよ。スーツケースて、あの海外用キャリー?」

「知るかよ。感のいい泥棒にそのままゴロゴロ持ってかれたらどうすんだ。浅はかだな。だけど、こっちには、貴重品は仏壇の左の引き出しに入れてある、て書いてあんぞ」

「考えが変わったのかな。他には? 他に何て書いてある?」

「ええと。《今年度の学級費の残りを預かっています。それは学期末の茶話会で田子(たご)先生に贈る花束の予算です。学級部のファイルに、封筒に入ったお金と連絡網がありますから、副部長の小田さんに連絡して封筒を渡してください》田子てあの中学ン時のタコ(田子先生)か? 花なんてやるなよ!あー、やなこと思い出した。あの先公、マジで嫌いなんだよ。で、小田って誰だ」

「オダマリ(小田真理)のお母さんだよ。それ、古いね。わたしが中学の時だもの。そう言えば、お母さんて、いつも何かの役員してたね。それよかノートの裏っかわにナンバーふってない?」

「ああ、こっちは『3』だ」

「私のは『7』」

「お、『9』見っけ。なんか進化してんぞ。マーカー使ってる。目次も登場した」

「『13』これが一番直近のものかな? 14はないし」

「13か。縁起でもない数字だな。読んでみろよ」

「うん。章毎に分かれてる。どれがいい?」

「どれって、何があんだよ」

「第一章大いなる遺産、第二章本当のこと、第三章宝くじのこと――」

「じゃ、大いなる遺産」

 そう言われたのに、声に出すのを忘れて読みふけってしまった。兄に「おい」と催促されて気がついた。

「何だよ。早く読めよ」

「聞きたい?」

「もったいぶんなよ」

「《うちに貯金はないです、ごめんね。あってもお父さんとお母さんの葬式代くらいでしょうか。学資保険や定期預金を崩したりして、2人の大学までは何とかなったんだけど、意外だったのは太一が大学院に進みたいと言ったことでした。そんなに勉強が好きだなんて思わなかったからね。本人がそう希望するからには叶えてやりたくて頑張ったけど、途中から奨学金を借りちゃいました――》」

「何だよ、その顔」

「お兄ちゃんてさ。勉強が好きで大学に残ったわけじゃないよね。確かもう2年待てば、教員採用枠が広がるとかで、取り合えず繋(つな)ぎ的な感じじゃなかった?」

「何が言いたいんだよ」

「別に。ただ、それで貯金が無くなっちゃった、て書いてあるようなもんで、あっ……」

「ちょ、貸せよ」

「やだ!」

「貸せ!」

 兄はノートをひったくると、私の手が届かないようにダイニングチェアの座面に立ち上がって、続きを読み始めた。これが現役小学校教師の実態だ。この人が担任として3年1組の生徒達に道徳を語るというのだから呆(あき)れる。

「《陽子の振袖と卒業旅行も奮発しちゃいました》って、おい!」

「知らないよ。振袖なんてレンタルでいい、て言ったんだよ。でも、知り合いの着物屋さんだとかで、お父さんが見栄張って、総絞りを買っちゃったんだよ」

「ふーん。そんで卒業旅行て、どこ行ったんだよ」

「……ヨーロッパ」

「ヨーロッパぁ? おまえさあ!」




《――だけどね。2人に文句言ってるんじゃないのね。あなた達にしてあげられた喜びのほうが大きいの。だから、大いなる遺産はあなた達2人なんです》






――つづく――



 こんにちは。ずいぶんと更新をさぼってしまった。先日「クライマーズ・ハイ」を観ましたよ。なんか熱かったよ、悠木も佐山も。だからってわけじゃないけど、なんかね、自分の書いてるものがショボくてショボくて。テンション上がりきりません。

 今日のBGM→クリック。ピアノバージョン

 年齢を問わず読んでいただきたくてお目障(めざわり)かもしれませんが読み仮名を付けます。

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コメント(10件)

内 容 ニックネーム/日時
面白い。下手なプロの小説より面白い。このお話。二人が手繰るページの内容に引き込まれてしまいます。続きが気になるわぁ。
>第一章大いなる遺産 
すげぇ大作が始まるかとオモタw
レイバック
2008/07/12 08:30
母ちゃんいいこと言うなぁ(;;)
大いなる遺産を求めてジョーンズ博士ばりの大冒険を繰り広げるのかと思ってしまった(-_-)

URL
2008/07/12 09:30
これ、ホント面白いです。ユーモアあふれる中に、たくさんの母の愛を感じますね。
お母さんのノート、すごい進化してますね(笑)
余談ですど、友達が小田って人と結婚した時「子供の名前は真理にしないぞ!」って言って笑ってました。
ia.
URL
2008/07/12 20:10
レイバックさん、いつもありがとう。
ほんと? やる気モードを失いつつある今日このごろ、励みになるコメをありがとう。少し上向きになってきましたよ。
>大いなる遺産
冗談が好きなお母さんだったということで。ちょっと大げさでした。でも、ここから脱線していくのもありですね。
つる
2008/07/13 00:55
鯨さん、いつもありがとう。
大冒険かぁ。書くのに体力がいりそうだな。でも、そんなワクワクする展開だったら、書いていても面白いでしょうね。ダイニングキッチンで始まって、ダイニングキッチンで終わる話ですよ。ちっせえ。
つる
2008/07/13 01:00
ia.さん、いつもありがとう。
お母さんのノート、ポケモン並みに進化を遂げています。自分で書いてるノートもそうです。始めは真面目に書いているんだけど、だんだん調子こいてくるんです。
>小田
やっぱり。わたしのクラスメイトがそういう名前だったんです。彼女がちょっとでも出しゃばると、男子が「オダマリ!」言ってました。奴らは口がたたないですからね。正攻法で女子に敵わないと知るや、そっちから攻めてきます。油断ならない。

つる
2008/07/13 01:21
私が死んだらノートを13冊も書くところが
まず、すごいですね!
「大いなる遺産」むかーし、文庫を読んだ気がする。
ほとんど記憶残ってないよ(^^;
本当のことが大問題を起こすのかな?
銀河系一朗
2008/07/15 00:03
銀河系一朗さん、いつもありがとう。
13という縁起の悪い数字を使いたくて、でも13年も毎年書いていたなんて心配性とも言えますよね。彼女が書き残そうと思ったのには、訳があるんですよ。
大問題は起きません。ただ、知ってるようで知らなかったお母さんの気持ちを、皆が知るだけという小さいお話です。
つる
2008/07/15 23:43
ちっさくないですよー。家族は社会の最小単位で、ある意味、縮図でもあるし。
何気ない家族の一場面を切り取って、なにかを誰かに伝えられたら、それが小説ってもんさー。なんつって。
おもしろかったです。ユーモアのバランスがいい。
火群
2008/07/17 02:02
火群さん、いつもありがとう。
ふーっ!蒸し暑いね。この湿気が更新しない言い訳にならないかしらん。
ユーモアのバランスがいい……マヂですか?死を扱っているんだけど、重たくしたくなかったから、そう言ってくださって良かったです。はたから見ると深刻な状況でも、当事者は案外と普通に日常を刻んでいたりするんですよ。そのへんの面白みが出せたらいいな。それが難しくて足踏みです。
つる
2008/07/17 22:29

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