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zoom RSS 「スノーボーイ」24

<<   作成日時 : 2008/06/03 17:55   >>

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photo by Niseko Village


「スノーボーイ」24


 ばななは少林少女のように反転すると、ハマーのボンネットと平行に回し蹴りをお見舞いしました。フロントガラスに放射状の細かいヒビが広がります。「カーッ……」ばななが咽を鳴らしました。「?」シートベルトを外そうともたつく元カレの手が止まります「ペッ!」彼女はそのアホ面(づら)目掛けて痰を吐きました。なんということでしょう。それから筋斗雲で再びラベンダーのトンネルを抜けると、そこは30世紀でした。<つづく>

「スノーボーイ」24

「おばんでーす」「おばんでしたぁ」

 デザートの杏仁豆腐を食べている時だった。
 玄関に声がしたと思ったら、ホールに慎二さんともう一人、昼間お世話になったパトロール隊の人が入ってきた。

「おう、花火行くべ。花火」

 タロー達を誘っている。

「行く行く!」

 紗季が返事をすると、子供達が「え?」という顔になった。

 そう言えばガイドブックに書いてあった。
 シーズン中は週末毎に「冬花火と雪灯かりキャンドルサービス」がある。それは東山の隣のアンヌプリスキー場で行なわれる観光客向けのイベントだった。
 キャンドルサービスの応援に駆り出された慎二さん達が、途中でここに寄ったというわけだ。

 子供達は返事もそこそこに奥の座敷へ行った。わたしも便乗できそうな雰囲気にウキウキしてきた。景子も、ロン毛の常連さんが夕方に帰京してしまったから、紗季が向けた視線に「ほんじゃ、行きますか」なんて笑った。

 おばあさんが、捻挫したジローの為に松葉杖を持って来た。子供用の小さなものだ。きっとこういう怪我は初めてのことじゃないのだろう。
 タローも花火は久しぶりだ、と嬉しそうだ。案外、地元の人はそんなものなのかもしれない。





 行きのワゴンは子供2人とわたしの3人が奥のシートに収まった。子供達はなんだかいつもよりお喋りだ。特にジロー。ひとしきりTVアニメとクラスメイトの話をして、しまいに歌いだした。
「♪あるぅ貧血、森のな浣腸、くまさんニンニク、でやぁ短足〜♪」全国共通のようだ。「♪はなさっくも〜り〜の〜な〜浣腸、熊さんに〜でやぁっタンコブ♪」
「おまえだら浣腸好きだな〜」慎二さんが言って車内は大爆笑だ。
 よく考えたら、車内の皆に接点があった。ジローの怪我。どうかすると会話が途切れがちだった前の席が、ジローの歌をキッカケにあっという間に和(なご)やかになった。
  




 パパーン! パパーン!

 アンヌプリ山の上に花が咲く度に、白いてっぺんがあらわになった。昼間の吹雪に見たそれと違い、とても穏やかでそして幻想的な眺(なが)めだった。
 花火を見上げるタローとジローの顔は真剣だ。それを照らす不規則な光は、まるで交換前の蛍光灯。色が変わる度に思う。子供の横顔ってきれいだな。
 不意に2人の顔が暗くなる。次の花火を待ってわたしも闇に目をやった。 


 ドーン! 派手な花火が上がると見物客から「おー」と喚声が起きた。
「『コロボックルの大合唱』でございます!」
 ゲレンデのマイクが花火をそう言った。蕗(ふき)の葉の下にいるという小人が、どんなに大合唱しても、こんなに大声じゃないだろう。ネーミングのミスマッチに失笑が漏れる。
 上空の破裂音が大気を震わせて、去年の夏を連れて来た。

 しまった、ちょっと気を抜くとこれだ。
 
 あれは隅田川の花火大会だ。
 地下鉄の階段を上がると、浅草の町の熱気に軽い息苦しさを覚えた。メイン通りは人でいっぱいだった。
 群青(ぐんじょう)に暮れる空、交通規制の吾妻(あずま)橋、ウンコビル、ショーケースの「デンキブラン」、大提灯の下の記念撮影、客引きに熱心な車屋さん、ゴザに陣取る人、ワンカップをあおるオッサン、青っ洟(ぱな)の迷子。
 そぞろ歩きで大通りを折れると、仲見世通りを冷やかして回った。井桁(いげた)模様の背にうちわを差した彼がわたしに買ってくれたのは、わたしが着る綿紅梅(めんこうばい)の柄とおそろ(お揃い)の金魚の根付けだった。

 ――いいこともあったんだ。
 
 けど、混雑に繋がれた手はずっと遠い。

 交際の始まりは、もう忘れた。でも、確かにつき合ってた。いつだってわたしの隣に彼がいたし、サークルの仲間だってそう思ってたはずだ。そうじゃないと言うなら、何故皆の前で肩を抱いたりキスしたりしたんだろう……。


 だめだなあ。


 わたしは長いこと前に進めないでいる。

「ばななぁ」

 情けない顔で紗季がわたしを見ている。景子の帽子もこちらに向いた。その横でタローとジローもわたしを見ている。何だよ、みんなして。花火はあっちだよ。
 
 どうやらわたしは泣いていたようだ。
 紗季と景子の目が赤いのは、たぶんもらい泣き。子供達は黙って立っている。

 ごめんよ。シラケさせて。

 手袋を外した紗季の手がわたしの頬に触れた。温(あたた)かいその右の手が涙を拭いてくれる。景子がわたしの頭をいい子いい子、と撫(な)でた。 

 今わかった。

 人間は所詮「一人」かもしれない。だけど「独り」なんかじゃない。

 嬉しさが込み上げて、こぼれる涙が止まらない。紗季と景子、タローとジロー。そのみんなに泣けた。

 4人の足が見える。誰かさんの手から渡されたティッシュで鼻をかんだ。

 花火が終わると、キャンドルを持ったスキーヤー達が大きく蛇行しながらゲレンデを滑り降りてきた。あの中に慎二さん達もいる。知ってる人がいる。

「わあっ。きれいねえ!」

「新婚旅行で又来るとかっ?」

 景子と紗季が明るい声を出した。ガンバレて言ってる。



 引いては消える光の残像が涙で滲(にじ)む。

 この映像をわたしは一生忘れないだろう。





 帰りのワゴンは、行きが嘘みたいに子供達が喋らない。けど、こういう沈黙は嫌いじゃなかった。
 タローはかったるそうにドアに、ジローはわたしに凭(もた)れていた。ウトウトしているジローがビクっとするのは、

「きゃはっ! やだあ!」「違いますよぉ」

 前の座席が盛り上がる時だった。





 風呂の後で、わたしはおばあさんにアロエ軟膏を貰うと頬に塗った。凍傷にはこれが良く効くのだそうだ。
 わたしの周りを半袖のタロー達が走り回る。タローを追うジローはケンケンだ。おばあさんがつけようとする軟膏から逃れようとしている。
 ガンガンに焚(た)かれた薪ストーヴに室内の寒暖計は摂氏30度。逃げる子供達の額に汗が光っている。
 こっちはヘタレ雑巾だというのに、彼らは寝る寸前までトップギアなのかもしれない。

 もうすぐ一日が終わる。



 長い一日だったな。



 夕食? 忘れてたよ。

 ジャガイモとほうれん草とベーコンが入ったキッシュ、それから石狩鍋だった。

 なしてあったらうまいんだべ。





<つづく>



おばんでした→「こんばんは」北海道弁は過去形なんですって。
キッシュ(キッシュ・ロレーヌ)→まあ、洋風茶碗蒸し?こんなの。
デンキブラン→「神谷(かみや)バー名物のブランデーベースのカクテル。舌が痺(しび)れますよ。レポートはココ。
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綿紅梅(めんこうばい)→格子状の太い糸の間に細い糸を織り込むことで全体が薄いにもかかわらず生地を丈夫に出来る、夏物の高級品です。
根付けこんなの。
コロボックル→アイヌの伝承に登場する小人。詳しくはココ。
↓通称ウンコビル→○サヒビール吾妻橋ビル。通称名でもタクシーで通じる。
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スノボー用語集クリック。
ゲレンデ図クリック。
北海道弁参考URLクリック。

担当編集者「センセ!『キス』でました!ずいぶん思い切りましたね」
つる「エヘへ。ついでに『キッシュ』も入れてみました」
担当「……。だけどあれだ。今更『室内は30度』とか『半袖』とかの説明はないでしょう」
つる「いやだなあ、羽鳥君たら。子供達はパワフルでした、ていう人物の描写ぢゃないか。ははは」
担当「前半にこういうの書くの、忘れてただけじゃないんスか?」
つる「……」
担当「それに『あたたかい右の手』て、まんま壺井栄ですやん」
つる「題名だけじゃん。うるさいなあ」

今日のBGM→クリック。マリンスノウ

 年齢を問わず読んでいただきたくてお目障(めざわり)かもしれませんが読み仮名を付けます。

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コメント(14件)

内 容 ニックネーム/日時
今日はぐっとくる見せ場でしたね。冬の花火。ばななの回想シーン。涙。温かい友人達。読みごたえがありました。ゲレンデの花火もいいもんですよね。
レイバック
URL
2008/06/03 23:35
レイバックさん、いつもありがとう。
読みごたえと言ってくださって素直に嬉しい。ネガティブ思考のばななの胸中をバッサリ切って、行き帰りの車中シーンを入れました。心情は少なく淡淡と進めたほうが雰囲気でるとココで学習しました。
もうすぐ花火の季節ですね。ユーミンの歌にも花火がでてくるのありましたっけ。確か「ジャコビニ彗星の日」華やかな花火を静かに想うくだりがいいです、とっても。これもそんな感じがでてるといいな。
趣は違うけどゲレンデの花火も負けてないですね。ああいうのって、ほんの僅かな時間の出来事なのに、いつまでも覚えてるもんです。
つる
2008/06/04 01:27
キャンプファイヤーの夜みたいですね。いえ、冬のスキー場ってわかってますけど(笑)どんなにはしゃいでもさみしくなる気持が、このシーンで伝わってきました。
ia.
2008/06/04 02:11
ia.さん、いつもありがとう。
ああ、嬉しいな。さみしい気持ちが伝わって。きっとia.さんはアンテナの感度が良いんですよ。だから、わたしの不足分を補ってくださってる、と思います。
寂しさとか、おセンチに留まればいいのだけど、この話は底辺にベターと暗いものが張り付いてる気がするの。もっと軽い感じにしたかったんだけど、このへんは又あとで言い訳します。
>はしゃいでも
うん。以前、学校の先生が仰ってました。お調子もののように振る舞う子ほど、寂しがり屋さんだって。わかる気がします。そんなこと思い出しました。
つる
2008/06/04 21:53
花火が登場して、3泊4日のスノボ旅行もいよいよクライマックスといく感じになってきましたね。花火は「夏」というイメージがあるんですけど、冬山の花火もなかなか絵になりそうですね。見てみたいです^^
>くまさん人参
どうでもいいことですけど、ぼくの周りでは「くまさんニンニク」が主流でした^^; どの地域でもこの替え歌ってあるものなんですね。
shitsuma
2008/06/04 23:00
shitsuma さん、いつもありがとう。
>>くまさん人参
ひゃああああ。。。。。どーでもよくないです。ニンニクです!ニンニク!「ええ、ローマです!」くらいの勢いでニンニクです!どうもありがとう。もうこうしてね。皆さんにいただくアドバイスで成り立ってるようなブログなんです。助かります。
>花火
夏の代名詞みたいなものですから、スキー場では敢えて「冬花火」と謳ってるところが多いみたいです。花火は花火なのに。
つる
2008/06/05 00:23
別れが近づいてる気配ですね。
冬の花火は良いですよ。地元の雪祭りは、かまくらで焼肉食べて、腹が一杯になったら花火を見るのが定番でした。

URL
2008/06/05 22:47
鯨さん、いつもありがとう。
そろそろお別れです。湿っぽいのは好きじゃない。「泣くのはいやだ 笑っちゃおう ススメー ひょっこりひょうたんじーま ひょっこりひょうたんじーま ひょっこりひょうたんじーいーまーあー」でいきます。(ナゲーヨ)
>焼肉とかまくら
なんちゅう組合せ。腹一杯の花火て。切なくもなんともないじゃーん。
かまくらかあ。何年入ってないんだろう。あ、ちょっと切なくなりました。
つる
2008/06/05 23:55
話も終局か。どんな着地するのかな。
ばななは、まだまだ、ひきずりそうだね⌒〇⌒;
曖昧な付き合いと曖昧な別れは、心のキズの修復が長引くんだよね。
ちょっと多忙で、コメが遅くなりました。
ラストは、またの楽しみで……zzz。
火群
2008/06/10 02:06
火群さん、いつもありがとう。
アタタタ、ひきずるかもしれないけど、最終回にそれ書いてないわ。「曖昧な付き合いと曖昧な別れ」が曖昧な気持ちでオワテルよ。
火群さん、忙しそうですね。わたしも週2くらいの更新ペースでいきたいのだけど、なかなかそうもいかなくて不定期です。皆さん、涼しい顔してアップされてらっしゃる。

つる
2008/06/10 22:38
そうですね、祭は賑やかなだけに、ブルーな思い出はいっそうダークブルーになります。
理由はわかんないのかもしれないけど、ばななに優しく距離をおくタロージローがいいですね!
ウンコビルのウンコは、温暖化で海面上昇した時に備えての「浮き」じゃないかと迷推理。
銀河系一朗
2008/06/10 23:26
そうだ、目次のリンクがへんみたいですよ。
銀河系一朗
2008/06/10 23:27
銀河系一朗さん、いつもありがとう。
そうなんです。その反対もありませんか。不謹慎だけど「お葬式」という映画は逆にクスリと笑えました。人って相反することを考えてしまいますよね。
>タローとジロー
ばななの勘違いとも取れるんですよ。だって一人称だし、心が弱ってるとそう思いたいじゃないですか。だから、真実はわからない。でも、信じないと前に進めない時があるかなって。
>ウンコ
そこ触れてほしかったー!これホントへんてこなビルなんですよ。でも浅草の景観になくてはならないオブジェなんです。「浮き」という発想に脱帽。わたし頭、固くなっちゃった。銀河系一朗さんなら、それだけで一本書いちゃいそう。それはともかく、鯨さんのところの記事にあった800字の怪談てやつに挑戦しませんか?わたしも前向きに検討中です。
つる
2008/06/10 23:49
銀河系一朗さん、リンクの件、ありがとう。
ウェブリへんなんですよ。6月の記事はまだこれで一本目だから「1」のはずなのに、アドレスはなぜか「2」でした。助かります。
つる
2008/06/10 23:52

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