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zoom RSS 「スノーボーイ」18

<<   作成日時 : 2008/05/19 23:43   >>

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photo by ニセコ Walker山頂の山小屋。


「スノーボーイ」18


 3日目は朝から雪だった。紗季の言った通りだ。

 朝食後の廊下でわたしを待っていたタローに声を掛けられた。

「1時にゲート前でいいしょ↓」

 今日の勝負の待ち合わせだ。最終リフトを下りた所に山頂へ向かうゲートがある。

「何で午後なの?」

 思わず聞き返した。朝からそのつもりでいたわたしの気が削がれたからだ。
 タローは、午前中で帰る宿泊客からリフト券が貰えるのだ、と言った。

「わかった」

 ちょうど良かったかもしれない。わたし達は紗季の提案で、アンヌプリヒュッテで昼食を取ろうと予定していたところだ。
 アンヌプリヒュッテは、東山ゲレンデの標高1000m付近にあるレストハウスだった。その横に最終リフトの乗車場がある。早めの昼食を取れば、すぐリフトに乗れる。待ち合わせ場所まで何分もかからないだろう。





「え? 今日スキーなの?」

 乾燥室で景子が言った。わたしがスキーブーツを履いたからだ。

 ――いけない。言うの忘れてた。

「ごめん。いいかな?」

「どした?」紗季。

「うん。ちょっと1本だけ勝負することになっちゃって」

「誰と? あ、まさかあの子達?」

 うん、とわたし。

「何でまたそんなことになったの」呆(あき)れたように景子。

「わからない。ただ、わたし達の名誉と大人の嘘がかかってる」

「何だ、それ」わっかりませ〜ん、と紗季が肩をすくめた。

「いいよ、いいよ。行って来な。こっちこそへたっぴぃにつき合わせて悪いと思ってたんだ。スキーでもスノボーでもばななの好きに滑ればいいよ」横から景子。

「いや、1本だけだから。すぐだから。あとは一緒に滑るし」

 ――ほんと勝手言ってごめん。

 なんだか納得のいかない様子の紗季を景子が肘で小突いた。それでわかった。景子は誤解してる。たぶん、たぶんだけど、ばななはスノボードをすると元カレを思い出して辛いんだ、そんなふうに勘違いをしてる。
 いいや。あとで説明しよう。もう平気なんだよって。全然なんだよって。





 ゲレンデは大雪だった。それでも土曜日なので混んでいた。混んでると言っても本州のそれとは違う。ちょっとリフトを待つくらいだ。ゲレンデに出てしまえば気にならない。
 午前中は3人でだべさコースを中心に滑った。だべさは初心者用の林間コースだ。そのコースの両側には雪が張り付いていて、ウォータースライダーの中を行くような感じだ。ふかふかの雪にエッジがよく利いて、景子も紗季もご機嫌だった。

 わたしは久しぶりのスキーだった。
 タローに借りた競技用スキーは、わたしの持っている板より長い。取り回しにコツがあったけど、直滑降はかなり安定している。慣れるのにそう時間はかからなかった。

 途中でスーパーステーションを1本滑った。非圧雪エリアの極上のパウダースノーに、ゲレンデを独り占めしているような錯覚を覚えた。その錯覚が思い知らせてくれる。
 一人なんだって。人間なんて所詮一人なんだって。
 聞こえるのは自分が雪を刻む音だけだ。

 



 それから3人でアンヌプリヒュッテに行って、名物のジャガイモカレーを食べた。紗季がパソコン検索で見つけて食べてみたいと言ったゲレ食だ。
 窓の外は大雪。ふつうのカレーがロケーションによって特別なものに感じる。色だけの珈琲を飲み終えると12時だった。

「そろそろ行ってくるね」

「ほいよ」「下にいればいいね」

「うん」

「何かあったら携帯に連絡しなよ」「気をつけてね」

「うん、わかった」

 そんなにかからないと思った。リフト4分、ゲートから山頂まで徒歩で20分、滑り降りて6分、合計30分。もし途中で何かあったとしても、迂回コースで下りると言う紗季達をそんなに待たせることなんてないはずだった。

 2人と分かれてリフトに乗ると相変わらずの雪。風も出てきた。ネックウォーマーを鼻まで引き上げるとゴーグルで押えて風除けにした。
 ブランとさせた両足の下にボーダーが見える。数珠(じゅず)つなぎに落ちる雪の合間で、彼らがコマ送りのように進んで行った。



 リフトは昨日より揺れた。頂(いただき)は雪で見えない。





<つづく> 


↓ジャガイモカレー
画像


photo by Flat Outニセコ東山の画像より。



ゲレ食→ゲレンデの食事メニュー。
スノボー用語集クリック。
ゲレンデ図クリック。
北海道弁参考URLクリック。

担当「だけど、ばななっていつも説明不足ですよね。友達に対しても、子供達に対しても」
つる「そお?余計なべシャリが少ない主人公のほうが支持されると思うけど」
担当「いんや、センセの場合、書けないだけでしょう」
つる「狙いだよ、狙い。『冬ソナ』のチェ・ジウをごらんよ」
担当「ほんとかなあ」
つる「ほんと、ほんと」

今日のBGM→クリック。ハナミズキ

 年齢を問わず読んでいただきたくてお目障(めざわり)かもしれませんが読み仮名を付けます。

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コメント(2件)

内 容 ニックネーム/日時
こんばんはー。
一人滑りいいすね。

>非圧雪エリアの極上のパウダースノーに、ゲレンデを独り占めしているような錯覚を覚えた。その錯覚が思い知らせてくれる。
 一人なんだって。
 人間なんて所詮一人だ。エッジが雪を刻む度(たび)に、わたしの心に『一人』が繰り返された。

なんだか力の入った一文ですねぇ。これがなんらかの伏線に……ならないか(笑)

僕も一人で滑るのが好きなんですが、なんだか野生に帰るような気がしますね、ガツガツ滑ってると。本能のままに動いてて、いつのまにか笑ってて。
スキーでも一緒かな??
レイバック
2008/05/22 23:29
レイバックさん、いつもありがとう。
この記事はコメがなかったから嬉しいです。そして、するどい!この「一人」が後にでてくる「独り」に繋がるんです。鯨さんのところで読んだんですよ。肝心なことは案外小さく書いておけって。スーパーステーションを滑るついでにチラと入れてみました。力、入ってた?書き直そうかな。だってレイバックさんに見つけられちゃったもの。どうもありがとう。
>本能のままに
わかる。でもそれが本来の自分なんじゃないですか。人といると、多少相手に合わせてしまいます。社会性が身についてるとも言えるけど。
少し前に「おひとりさま」って言葉が話題になったでしょう。主に女性に対して使われてたみたいです。自立ってお金を稼ぐことだけでなく、決断とか行動が一人でできることも入ると思うんです。それでね。この主人公はたぶん自立できてないんです。それにはまず一人を自覚しなくちゃいけない。というわけなんです。
つる
2008/05/23 01:29

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