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zoom RSS 「スノーボーイ」13

<<   作成日時 : 2008/05/06 22:29   >>

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photo by NFS 07'フォトギャラリー


「スノーボーイ」13

 2人がアタックを始めた場所に立った。かなりの急斜面。いくら新雪で覆われているとはいえ、斜度なんて35度を越えてるんじゃないか、そう思った。
 眼下に羊蹄山と温泉街が見える。まさにわたしにとってファースト・ディセント(First Descent)。ボードのノーズを谷に向けた。

「とーっ!」

 バフン、と斜面に下りると視線はタローとジローを追った。彼らは伸びた「く」の字に滑って行く。まるで鋭いナイフで雪を削り取るようなライディングだ。2人のシュプールが作り出す薄いさざ波が、根雪の表面を撫でて谷へと流れて行った。
 ヘタなターンもスピードを落とすこともできない。深い雪に板が埋もれるからだ。
 わたしは後ろに荷重してノーズを浮かせると、できるだけスピードを殺さない角度で下りて行った。落ちてく? そんな感覚だった。
 
 そこを抜けると大きくうねったような起伏のある場所に出た。中央へ出ようとするわたしの袖を、横から滑ってきたタローが掴んだ。引かれるままその場所を迂回する形になった。
 ――危険なトコだったんだ。

 やっと3人が揃うと、ジローが「見てるべさ」と、先陣を切った。

 張り出した岩をキッカーに見立て緩いS字でアプローチして行く。
 ワンメイクは刺すようなスティフィー。両足ボーン(伸ばす)でグラブ(板をつかむ)という身体の柔軟さが求められる技だ。
 後方にピンと張られた腕が可愛いらしい。だけど空中でバランスを崩した。着地は背中から「わーっ!」だ。岩の真下から吹き溜まりの雪煙が上がった。

「あははっ!「ふふっ!」

 わたしにもできそうな気がしてジローに続いてトライする。「えいっ」中途半端な態勢でグラブし損なうと、「きゃあ」と、ジローの横に沈んだ。

 ザンッ! 頭上でリップを切る音がした。

「あ!」 

 驚いた。仰向けの空にエビ反りのライムグリーンが静止している。

 タローだった。エアーのピークでグラブした彼が無重力になった。そのままスローモーションでわたしの視界を横切って行く。ワンクッションおいて降ってきたのは、彼のテールが蹴り上げた雪塊だった。

 そう、メソッド。ただのメソッドだ。

 なのに胸が熱くなった。あんなの見たことない。まさにフライングバナナ。 

 タローの柔らかい着地にパウダーが散って、そこから抜け出たお手つきのラン(run)は、グローブと板から二本のスプレーを上げた。

 ジローと二人で急いでタローを追う。心が躍り出すのがわかった。
 わたしはパークが苦手だからこんなふうに誰に見せるんでもないフリーランが大好きだった。スキーだって山スキー。新潟にいる祖父母の裏山で、お兄ちゃんと滑るのはいつだってオールマウンテンてやつだ。
 先を行くタローが雑木林を抜けると小さなジャンプをした。

「ニャー!」

 タローが鳴いた。水平に一回転しながら彼の両手が猫耳になる。サブロク(360エアー)だ。それを見てわたしとジローが笑った。

「ニャー」が沢にこだまして、少し遅れた笑い声も同じようにこだました。

 それからはジャンプのオンパレードだ。タローとジローは倒木だってレール代わりにした。そんな彼らのワンメイクは、決してスタイリッシュなんかじゃない。乱暴でめちゃくちゃだ。チョー怪し気な3D(スリーディー)系トリックなんかも飛んだ。失敗なんてこれっぽっちも怖れない彼らのアグレッシブなエアーに、わたしは鳥肌が立った。

 すごいなあ! ホント凄い!
 
 頭の中はもうそれだけ。
 ずっとクサクサしてた。フラれてから何をしても楽しくなかった。ボードもそう。あんなに夢中になっていたのに。それを始めたキッカケは元カレだった。ボードが好きなのか、カレとするボードが好きなのか、わからなくなった。
 でも、今ならわかる。

 アシタカは好きだ。でも人間を許すことはできない。
 ボードは好きだ。でもカレを許すことはできない。

 ボードが好きだ。

 スキーもボードもわたしが自分で身につけた。それは確かなものだ。それに比べて男女の恋愛なんて不確かなものだと思う。好きだとか嫌いだとか、愛してるとか愛してないとか、そんなのもう関係ない。
 それに勝るものがあるってタローとジローが教えてくれた。それから、わたし達はいたる所でナチュラルトリップを繰り返した。




 やがて一般コースと合流する地点が見えると、3人で三つ編みするように滑った。すれ違う彼らの息づかいがわたしにリズムをくれる。
 ジャ! とスプレーを上げてジローが止まると、同じようにスプレーを上げたわたしを振返った。

「おもし(面白い)かった?↓」



「うん!」



 おもしかった!
 



<つづく>



↓ばなな目線のタローのメソッド。こんなでした。
画像


 
キッカー→ジャンプ台
ノーズ→スノーボードの前部分の名称。
テール→ボードの後端部分を言う。
シュプール→ ソリ・スキーの滑った跡。(独語:Spur)
パーク(スノーボードパーク)→ジャンプ台などで構成されたスノーボード専用のコース。
スティフィー→グラブしながら両足を伸ばす技。
グラブ→ボードの一部をつかむ動作。
メソッドエアー→前の手でヒールエッジをグラブしてエビ反りするトリック。
ワンメイク→ストレートジャンプ。
フリーラン(フリーランディング)→大会、ハーフパイプ、ポール、ルールなどを気にせずにいろいろな地形の上で自由に楽しむスノーボードのこと。
サブロク(360エアー)→水平方向に一回転する技。
3D系トリック→縦回転と横回転を組み合わせた技。
エアー→スノーボードでは一般的にジャンプ全般を指す。ハーフパイプではエアーターンと同義。
スノボー道場クリック。いろいろな技が動画で見られます。
スノボー用語集クリック。
ゲレンデ図クリック。
北海道弁参考URLクリック。


 専門用語ばかりでごめんなさい。主人公がボーダーという設定なので、敢えて語らせました。そのほうがずっと「それらしい」んですもん。は〜チカレタ。横文字は頭に入らない。歳です。

今日のBGM→クリック。風邪のレジェンズ

 年齢を問わず読んでいただきたくてお目障(めざわり)かもしれませんが読み仮名を付けます。

オマケショーン・ホワイトのスロープスタイル02:55

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コメント(14件)

内 容 ニックネーム/日時
おや、珍しく1番乗りのようです^^
スノボの技の名前は正直あまりわからないんですが(解説でなんとなくイメージは掴めましたけど)主人公とタロー&ジローが雪山を楽しんで滑っている様子が目に浮かぶようです。立入禁止の急斜面を滑るというタブーを犯す設定が、ハラハラ、ワクワクしますね(危ないですけど^^;)
失恋したときは好きなことに夢中になって気を紛らわせるのがよいですよね。特に身体を動かすと、心身ともにリフレッシュ、という感じになりますよね。ぼくもかつて……(略)
shitsuma
URL
2008/05/07 00:06
斜度35度は結構なものですね。体感では崖を落ちていくように見えますよ。
ばなな良い方向に吹っ切れると良いですね。
次も期待するっしょ。

URL
2008/05/07 00:23
shitsumaさん、いつもありがとう。
>ぼくもかつて……(略)
バッティングセンターでフルスィングですね。ニコッ!
そう、そうですよね。一遍にエアーの名前がでてきても困りますよね。少しずつ書いておけば読み手の頭に残ったんだろうけど、ちょっと失敗しました。なので少し減らしました。もう小難しい名前は出さないつもり。スノボー物語じゃないからね。
ま、ばななが気持ちを立て直すというストーリーです。
身体を動かすのも大事。そして時が経つのも大事。ふ〜(トオイメ)

つる
2008/05/07 01:17
鯨さん、いつもありがとう。
斜度ね。ゲレンデ図を見るとね、「スーパーステイション」コースの最大斜度が35度なんですよ。だからいいかなあ、と思った次第です。ゲレンデも滑り台も、自分の身長を加えるから、大人からするとトンデモナイ角度に見えますよね。
え、次に期待?
この緊張の後で、また例のダラっとした展開ですよ。どう工夫したら読んでもらえるかなあ。
つる
2008/05/07 01:24
好きな人が好きなことって、興味持ちますよね。で、別れた後も好きなままで。わかるなぁ、ばななちゃんの気持ち。
でも正直言って、スノボの技はイメージできなかったです。ゴメンナサイ。「エアのピークでグラブした」ってどんな感じなんでしょう?
ia.
URL
2008/05/08 02:02
ia.さん、いつもありがとう。そうそう。女性ってそういうところ、ありますよね。趣味が一緒だと話が弾みますし一体感を感じます。
>「エアのピークでグラブした」
ほんとだわ。説明が足りてないわ。なんかケムに巻いた感じになってます。反省。
えと、これはですね。ジャンプして飛び上がるでしょう。それが上方向。でも同時に下方向に引力も働いてます。両方がプラマイ0になる一瞬、無重力状態になるそうです。それをピークとでも言うんでしょうか。つまり、止まって見えたんです、ばななにもわたしにも。それでグラブっていうのはボードを掴む仕草なんですが、映像なんかを見るとヘタな人はジャンプしてすぐグラブしちゃうみたいなんです。高く飛んでエアーに余裕があるっていう意味でタローはその動作をジャンプのピークに持ってきた、みたいな感じですかね。かなり見せるっていうか、ビヨ〜ンて。何言ってるんだろ。説明ながっ。確かバスケで滞空時間が異常に長い選手いましたね。マイケル・ジョーダンだっけ?あんなイメージです。
誰にでもわかりやすい文章を心がけるよう精進します。また、見てください。
つる
2008/05/09 02:42
ども^^専門用語もちゃんと勉強してますねぇ(笑)パウダーの日は怪我しないから、練習になるんですよねぇ。雪好きとしては自分も一緒に滑ってる気分になって楽しめました〜☆
レイバック
URL
2008/05/10 11:24
レイバックさん、いつもありがとう。
今回ね、書くより調べもののほうが時間とりました。疲れたよ。
怪我といえば、スキーよりスノボーのほうが怪我の確率、多くない?2本の足を1枚の板に乗せる、やっぱ納得いかないんだわ。未だに。
>一緒に滑ってる気分〜
嬉しくて何度も何度も読み返してしまいました。社交辞令だなんて思わない!
つる
2008/05/10 21:00
スキーヤーは下半身。ボードは上半身の怪我が多いっすね。手首とか肩とか鎖骨。脳震盪とかね。ボードは上級者でもこけるのが当たり前だからなぁ(パークとか入ってるとね)。アンバランスさが楽しいのだ。あとカービングの感覚はバイクのコーナリングと似てるよ^^
レイバック
2008/05/12 23:19
レイバックさん、ありがとう。
ああ、やっぱりそうなんだ。ボーダーのブログで右肩脱臼とあったので、脱臼より鎖骨骨折のほうが男の子の怪我っぽいかなあとそうして正解だったのね。良かった。でも、脳震盪は怖いね。ショーンのお母さんも、彼の怪我を1番心配してると、何かで読みました。本当ならタローとジローにもメットをかぶせたほうがいいのかもね。でも正ちゃん帽の彼らも捨て切れないんです。
>カービングがバイクと似てる
なるほど。レイバックさんて、ボディバランス良さそう。

つる
2008/05/13 02:37
スノボの技っていっぱいあるんだなぁ。

>>男女の恋愛なんて不確かなものだと思う。好きだとか嫌いだとか、愛してるとか愛してないとか、そんなのもう関係ない。
……なんか、いい感じ。解き放たれたようだ。
「あの子を解き放て、あの子は人間だぞ」(笑)
火群
2008/05/15 01:43
火群さん、いつもありがとう。
スノボの技、いっぱいありすぎてわかりません。動体視力0ですから、その違いさえもわからないです。しかも巧い人ほど、いとも簡単にやりますからね〜。できそうな気がしてしまいます。
主人公の心の叫びはね。恋愛至上主義に反旗を翻してみました。なんかどうでもよくなる時ってありませんか?ヤケになってるとも言えるし、それ以外の世界に気づいてしまったとも言えるし。そんな感じ。
>「あの子を解き放て、あの子は人間だぞ」(笑)
そう言ってるあなたは人間じゃないのね。
つる
2008/05/16 01:50
スノボーはつるさんの筆とは関係なく、想像しやすいところとしにくいところがあるな。
彼を許せないなら、スノボーはしないというのが、ありがちな女性心理かと思いましたが。
まだまだ修行が足りませんな(笑)
銀河系一朗
2008/05/28 20:56
銀河系一朗さん、いつもありがとう。
いや〜いいんですよ。この回はね。ほんとわかりにくいんですよ。これでも書き直してマシになったほう。もっとうまくなったら他の表現方法も見つかるでしょう。(いつだよ)
>彼を許せないなら、スノボーはしないというのが、ありがちな女性心理かと思いましたが。
それを言っちゃうと、この話自体が成立しないんです。困ったなあ。スノボーを辞めないのはね。もともと主人公がスキーをしていたことと、このずっとずっとあとに出てくる、パソコンで元カレを引きずってるシーンで匂わせたつもりなんだけど、もっとはっきり前半で打ち出しておいたほうが良かったのかもしれない。
こういうコメントは有難いです。
つる
2008/05/28 22:30

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