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zoom RSS 「スノーボーイ」22

<<   作成日時 : 2008/05/28 18:07   >>

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photo by Niseko Village


「スノーボーイ」22

 光速の筋斗雲と時速60kmの熊では、筋斗雲の勝利でした。光の速さで飛んだばななはタイムトラベラー。ラベンダーの香りのトンネルを抜けると、西荻窪の交差点に着地しました。「あらま、1ヵ月前に戻っちゃったよ」何故わかったのでせうか。目の前に、信号待ちの黄色いハマーがありました。左ハンドルにもたれた元カレ、助手席に長澤まさみ似の女。2人は楽しそうに笑っています。<完全につづく>ラベンダー【昔、(はい、昔でました)NHKの“時をかける少女”で主人公がタイムトラベルする時にこの香りがキーになりました】

「スノーボーイ」22

 ゲレンデに人影が見え始めたのは、ゴンドラが動いているからだ。
 相変わらずの雪だったが、ここまでくると風の影響はそれほど受けなかった。

「レディ……」

 もったいぶった声で言うと、わたしは前についたストックに重心を預けながら、片足のスキーを後ろへ振り上げた。

「ゴー!」

 タローがスタートを告げると、軽くジャンプして谷へドロップ・インした。
 2人共ほとんど同時だった。
 タローとの一本勝負。「スーパーステーション」は最高斜度35度、平均斜度13度、距離970mの非圧雪コースだ。去年まで「リミテッド1」と呼ばれたそこは、この後に続く「リミテッド2」「リミテッド3」――もとい(元に戻る)オーナーの口癖がうつった――現在の「じゃがいも」「みそしる」コースと合わせて東山の看板をしょっている。
 そんなゲレンデは、わたしが午前中にインスペ(インスペクション)した時より積雪量が増していた。

 タローのカービングに派手なスプレーが舞い上がった。それが雪の深さを物語るのか、彼の膝の柔らかさの成せる技なのか、もうこうなるとわからない。

 前を行くタローに「なんちゃってウェーデルン」で張り付くと、わたしの顔にパウダーがまぶされた。離されまいと急斜面を駆け下りたあとの緩斜面は直滑(ちょっか)りだ。さっきのおんぶで膝が笑っている。押さえが甘くなった板の先端が、カタカタと音を立てた。

 途中で抜こうと思えば抜けそうなシーンもあった。だけどタローが取るラインがベストなのがわかるし、知らないコブも怖い、ゲレンデの人も増えた。慎重につかず離れず滑って行く。
 フラットな面が見えて、そろそろスーパーステーションも終わりかなと思えた時、ふいに飛び出したボーダーを避(よ)けようとタローが大回りになった。その横をかすめて抜くと、アンヌプリヒュッテの横でフィニッシュを決めて彼を待った。

「俺の負けだわ」

 カクンとなった。あっけらかんと彼が負(ま)けを認めたからだ。彼はハンデの言い訳さえしない。スイッチもそう、板だってそうだ。わたしが借りたのは大会競技用のそれなのに、彼のはアルペンボードでさえなかったのだから。

「ちょっと来んベ」

 何でもなかった顔で言うと、立っている場所から横に逸(そ)れてオフピステの雪面を滑り出した。すぐにわかった。確か常連さんが言ってた、じゃがいも・みそしるコースの傍にいくつかあるという「いい斜面」てやつだ。滑走可能なツリーエリア。林間コースと違い人の手が入ってないと聞いた。

 アトランダムに立ち並ぶトド・マツ等の針葉樹林を、低くなったり腕で枝葉を払ったりしながら抜けていくタロー。角付けされたエッジが小気味のいい音をたてる。その後について、2人で森の静寂を切っていった。
 やがて、思いきり体を倒したブレーキングのタローが言った。

「ここ!」

 剥(む)き出しになった土を指している。そこは根こそぎひっくり返った倒木の谷側にできた祠(ほこら)のような場所だった。
タローの急ブレーキに対応できないわたしは、少し先で止まって板を踏み直しながら戻った。

「何?」

 そう聞くと、彼はなんだか嬉しそうにしている。

「俺らの秘密基地だべ」

 そこに体を半分突っ込むと「あったべ」と言って、ビニールの袋を手にして出てきた。そこからドングリのような木の実を無造作にばら撒(ま)いた。

「?」

「こうすっと、ちゃんこいエゾリス来(く)んべ」

「エゾリス? リスって冬眠しないの?」

「しねえべ。ふつう」

「へえっ! 見たい見たい!」

「したけど、人がいんと来(き)さらんさ」

「そうなんだ、残念」

「今度、見してやんべ。リスもキタキツネも。そいから洞爺湖も大雪山も。てっぺんから」

 タローの言葉が白い息になって伸びた。それが雪に取り込まれていく。

「……」うん、が言えない。




 反則だよ。




《――内地の人が『また来る』言わさっても、そうなかなか来れるもんでねえべさ。そったらことの繰り返しでガッカリすることも多いんだわ》
 

 「うん」と「また来る」は同じだと思った。さっき勝負に勝ったわたしは、大人が嘘をつかないことを証明したばかりだ。簡単に「うん」が言えないでいる。 

 今度て――

 今度なんてあるのか。わたし達は明日、東京に帰る。

 見上げた空はグレー。そこに乱れる無尽蔵の粉雪たち。森が静かだなんて嘘だ。そこは雪降る音に満ちている。
  
 タローの優しい反則に泣きそうになった。




 
 視線を戻すと、わたしの返事を待っていたようなタローと目が合った。彼は黙ったままトントンと飛ぶと、谷に垂直に板を向けた。それからわたしとタローは同じタイミングで滑り出した。
 2人の間には距離がある。ちょうどそれぞれの片手をあげたくらいだ。そんなふうに隣でラインを取った彼は、わたしのストックワークを合図にカーヴする。

 言わなくてもわかる。

「一緒に滑ろう」て言ってる。 

 等間隔にとられた2本のシュプールが後ろに引けていく。




 きっと下までこのままだ。







<つづく>


 
ちゃんこい→小さい。
オフピステ→ゲレンデ以外の滑走エリア。圧雪の入らない場所。
インスペクション→競技スキー用語。下見のこと。参考URL
スーパーステーション・じゃがいも・みそしる→コース名です。詳しくはゲレンデ図参照。
アルペンボード→アルペンボードは、フリースタイルに比べてスリムな形状で、トップは半円形状、テールは板に対して垂直にカットされているため、一般に外見ですぐに前後が認識できる。元々は旗門競技用に開発されたため、滑走安定性が高く、正確で高速なターンを得意としている。参考URL
角付け→エッジを立てること。
スノボー用語集クリック。
ゲレンデ図クリック。
北海道弁参考URLクリック。

 あともうちょっとだわあ。

今日のBGM→クリック。わがままジュリエット

 年齢を問わず読んでいただきたくてお目障(めざわり)かもしれませんが読み仮名を付けます。

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コメント(12件)

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反則だよぉー!
そうか。つるさん、これが書きたかったんだ。やられました。
ミステリ、書けますよ(^^
ia.
2008/05/29 00:46
ia.さん、いつもありがとう。
ミステリ書ける?ほんと?殺人とかムリなんすけど。そのうち挑戦してみます。
連載物はむずかしいです。前に書いた部分を自分が忘れてることも多いし、なのに読み手さんには覚えていてほしいところはあるしで、毎回アップの度に少し緊張します。
思ったより長くなってしまった。会話が多いとどうしてもね。そこがネックだ。
あと3回おつき合いください。
つる
2008/05/29 20:20
また、裏が続いてるよーー^^ たまに思うけど、博識ですよね。
>>ハンデの言い訳さえしない。
反則といい、タローはイイ男の素養がありすぎだな。きっと未来はかなり女性泣かせるな( ´艸`)
火群
2008/05/30 00:53
火群さん、いつもありがとう。
いっそ「裏」メインで。
知ってるのは、皆さんが生まれる前のこと。最新情報や専門知識は若い方に及びません。及ばないどころかアホ。
>イイ男の素養
前半にどんだけクソガキぶりを投入できるかが勝負だったんです。だって後半は活躍しちゃうんですもの〜
カッコよすぎもへんだよな〜て、あとからとってつけたみたいなのが、ゲレンデでジローを怒ってしまうシーン。欠点も書きたかったのね。あと、ばなな。一人称だから、主人公がお利口ちゃんになり過ぎないように、こちらも欠点が書きたかった。でも、ちょっと失敗。ネガティブになり過ぎた。
でもね。タローみたいな子はたくさんいますよ。一緒に生活してないと、よその子は皆カッコ良く見えます。無口で。はは。
無口と言えば、このシーンでタローが喋らないのは、寒過ぎて口を利くのが億劫という設定。自分でも必要最低限の会話になった経験からです。
火群さんだって泣かせてるし。(ミタノカ?)世の中、目の前で泣いてくれる女ばかりぢゃありませんて。あっしまった!おばさんにありがちのコメの何倍返しものコメレスになってる。
つる
2008/05/30 21:22
なにをいってるやら、経験は力ですよ。
今は最新情報や専門知識は、根性と新しいものを学ぶ姿勢さえあれば、ネットと検索でかなり補助されます。だから、ますますその人の個性、経験、見識が重要になってますからー。

>>目の前で泣いてくれる女ばかりぢゃ
うん、そうですねー。弱みを絶対見せるもんかってタイプもいる。でも、そういう子ほどホントは傷つきやすくて、案外寂しがり屋が多かったりする気もするけど〜。
…女泣かせじゃないですヨ、僕はo(*≧◇≦)o
火群
2008/05/30 22:53
優しい反則か。
弱いなぁこういう展開。ちょっとじんときて鳥肌立っちったよ。勝負のシーンが少し淡白に感じられたなぁ。昔スキーヤーに混じってGSやったことあるけど、全然歯が立たなんだ(笑)だってストックで漕げるんだもんズルイや。
レイバック
URL
2008/05/31 00:19
火群さん、ありがとう×2。
知ってるだけじゃね。昔の話なんて誰も聞いてくれませんよ。だからその昔話を小説にしてるんだ〜
泣くのはね。嬉しくて泣くのも「あり」ってことですよ。職場だったりで、失敗なんかの後にちょっとしたフォローを受けるでしょう。家に帰ってリラックスしてる時に、ふいに思い出してジーンてする。そういうイメージ。でも、ふつうは「女を泣かす」と言ったら、そっちのいいほうじゃないね。
やさしくして泣かせちゃダメよ。
つる
2008/05/31 00:43
レイバックさん、連コメありがとう。
じんとしてくれたなんて感激。なかなか自分が受けた感動はうまく伝えられないわ。自分の技術のなさに凹んでたから励みになります。
>勝負
やっぱ短かったかなあ。そうなんだろうな。少し言い訳。自分の中では「非滑走エリア」で3人が滑るシーンが大きかった。ここ(勝負)もそのくらいにするとラストがボケるかなって小さくしたの。あと、自分がスキー履いて勝負をイメージしたら、やっぱりレイバックさんのGSじゃないけど、タローに勝っっちゃうのね。すぐ終わっちゃう。だって、スキーのほうが断然有利なんです。だから、おんぶで膝が笑ったばななとまあまあの勝負かなって。
でも、言ってもらってわかったことがあります。前半であんだけ勝負を謳うなら「メインをそこに持ってきて勝負シーンを膨らませる」、はじめから勝負を重要視しないなら「勝負にこだわったような記述を少なくしておく」べきでした。う〜ん。またひとつ勉強になったわ。「勉強になります」というフレーズは好きじゃないけど、今回ばかりはそうとしか言いようがないもの。あ!またおばさんになって長くなりました。
つる
2008/05/31 01:15
別れのときが、すぐそこに……。旅行先で出逢った人と別れるのは寂しいですよね。たぶんもうこの人に逢うことはないんだろうな、なんて想いに捕われたこと、ぼくもよくあります。タローとばななの、ちょっとだけぎこちないやりとりが、切なさを増幅させてよい感じになっていると思います^^
このまま終わっても余韻があっていい感じだな、と思ったんですけど、あと3回続くんですね。もう少し、ばななとタロージローのやりとりを楽しませていただきます^^
shitsuma
2008/05/31 11:35
shitsuma さん、いつもありがとう。
別れね。誰もが経験してる感情を文字にするのはむずかしい。平凡になりがちの話、流れのどこを切り取るか、いつも悩みます。
>よい感じ
本当?真に受けました。けど、ちゃんとわかってるんです。やさしい皆さんが想像力を増幅させて読んでくださってるって。調子こき過ぎないで、このあとも頑張ります。
>このまま終わっても
そお?う〜ん。まだ鼻がムズムズしてるところだから、やっぱりこの後に大きなくしゃみをさせなければ。そこが一番の悩みどころ。
つる
2008/05/31 19:02
いい感じで盛り上がりましたね!
ここをもう少しふくらませて終わってもいいぐらいの感じだけど、あと3話、お楽しみがあるのもいいですね^^
スキーがスピード有利なのは、ストックで板の外に重心をかけられるからなのか。
銀河系一朗
2008/06/09 22:37
銀河系一朗さん、いつもありがとう。
こういうコメントはほんとに嬉しいです。やはりshitumaさんやレイバックさんの言われたように、ここのところで収束もありだし、膨らませるのもありだったのですね。構成がイマイチだったと思いました。もう少し工夫してみれば良かったな。わたしのプロットてね。テキトーなんですよ。「勝負 ばなな勝つ 秘密基地 エゾリス 反則」箇条書きなんです。
銀河系一朗さんは、スキーされるでしょう?この部分、なんかへんな記述はなかったですかね。どうでしょう。
つる
2008/06/10 01:17

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