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zoom RSS 「スノーボーイ」21

<<   作成日時 : 2008/05/25 15:31   >>

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photo by Niseko Village



「スノーボーイ」21

「きんとう〜んっ!(筋斗雲)」タローが叫ぶと光速で綿雲がキマスタ。間一髪でばななを拾うと空高く舞い上がります。「うわ、なんだこれ。ネバネバする」雲に手をついたばななが言いました。そうです。それは綿飴でできていました。上からジローの声がします。「食ってもいいぞ〜」クレヨンしんちゃんの口調です。ばななを乗せた綿飴雲が、タローとジローの熊に追いつくと、両者の競争になりました。<つづく>

「スノーボーイ」21

 山頂ゲートまではスキー場管理区域外の急斜面だった。そこには先人の形跡もない。
 トップバッターはジロー、わたしを挟んでタロー。一人ずつ距離を置かずに滑り出した。10mも離れると相手が見えなくなる。10m下っては3人が揃うのを待ち、また10m降りるといった具合だった。
 下から突き上げる地吹雪に、もう下りているんだか押し戻されてるんだかわからない。

「タロー! ジロー!」

 前後の2人が少しでも見えなくなると呼んだ。何度声を張っただろう。雪の合間に微(かす)かに揺れるライムグリーンに守られて、それでも少しずつ少しずつ下りて行った。

 やがて最終リフトの降車駅が見えた。リフトは止まっている。そこまで来ると風は幾分和(やわ)らいだ。でも油断できない。時折突風に叩かれた。
 視界もマシになってスピードがついた時だった。

「あっ!」

 前を行く雪煙が止まった。ジローの転倒だ。深い雪にエッジを取られたらしい。

「大丈夫?」

 追いついて、うずくまったジローに声を掛けた。

「タローっ! 来て!」 

 ネックウォーマーをずらしてわたしは後ろに大声だ。雪の粒が容赦なく口に飛び込んでくる。
 ジローはしかめっ面だ。痛さに声も出ないようだった。

「立てる?」

 ううん、と頭(かぶり)を振るジロー。タローが来て、

「立て!」

 また、ううん。
 それが何度か繰り返されて、焦れたタローがジローの腕を引っ張った。途中まで上がりかけたジローがヘナヘナと腰を落とした。

「立つべっ!」

 怒鳴るタロー。どうにもならない状況でそんなタローを見ると、やはり子供なんだと切なくなる。

 見える範囲に誰もいない。リフトは止まっている。このゲレンデにはもうわたし達3人しかいないのかもしれない。携帯は通じない。

 ボボッ! 強烈な風が襲って、わたしもタローも腕でそれを避(よ)ける。今のでジローが半分見えなくなった。次で間違いなく埋(う)まる。
 大人はわたしだけ。今度はわたしの番だ。

 ジローの谷に回り込むと、山側にエッジをブチ込んだ。それから彼のビンディングを外し始めた。

「何すんべ?↓」そう聞くタローに、逆に「ジローのボードとわたしのストック持てる?」と聞いた。

 うん、と頷くタロー。事情が飲み込めたようだ。
 恥ずかしがるジローをおぶった。立ち上がると意外に重い。ウェアを通してジローの骨格を感じる。細く見えても男の子は案外と骨太だ。
 遠慮がちなジローの膝裏を持ち上げてわたしの体に巻きつけた。彼のお尻に手を当てるとそこが居心地悪そうにモジモジと動いた。だけどお尻がどうとか、そんなこと言ってられなかった。

 先導するタローが横滑りしてコースを作ってくれる。そこをボーゲンで滑った。しばらく向かい合わせで滑っていたタローは、わたしのシュテムターンをきっかけに前を向いて滑りだした。大丈夫とみたんだろう。彼のスタンスは左足が前だった。

 やだ、スイッチじゃん!

 気がつかなかった。彼は約束どおり、てっぺんからスイッチスタンスで滑っていたのだ。なのに、みるみる引き離された。

「ジロー」
「なん?」
「飛ばすよ。しっかりつかまってて」
「うん」

 首もとのジローの息があったかい。ぎゅうと力を込めてしがみつくのがわかった。
 彼を支える手がフリーになると、両手で膝を倒した。これでエッジをコントロールする。ジローの重みでターンの踏ん張りが利かなかったのだ。幅広のパラレルでタローを追った。 

「あっこだべ。あっこ」

 タローを見失いそうになる度、ジローが教えてくれる。声が弾んで面白がっているのがわかる。冗談じゃない。こっちは必死だ。ジローを支えられる限界まで膝を入れた。

 なんという、なんというぶざまな滑降格好! 土俵入りじゃないんだからさあ。





 ゴンドラ終点の駅舎に着いた。
 係員に事情を話して、下りのゴンドラにジローを乗せてもらえることになった。パトロール隊にも連絡がついて下で待機してくれるそうだ。
 わたしもそこで携帯を借りると、景子達に遅くなると伝えた。彼女達も下の駅舎に駆けつけると言う。このパトロール隊絡みの状況を「紗季が喜んでる」と、景子は受信口の向こうで笑った。

 ジローと係員を乗せたゴンドラを見送って、わたしがタローに聞いた。

「何で乗らなかったの?」 

「したけど、まだ終わってねえべ」

「何が?」

 と聞くわたしに、タローが目を細めた一瞥(いちべつ)をくれる。



 ちょ……


 

 膝が抜けそうになった。




 ……勝負かよ。





<つづく> 



→山側。斜面の上方向をいう。
→谷側。実際に谷じゃなくても下方向をいう。
ボーゲン(プルークボーゲン)→スキー板をハの字にしてすべるすべり方。参考URL
シュテムターン→スキー板を開きだしてターンを始動させ、ターンをするに従い板をそろえていく滑り方。参考URL
パラレル→両方のスキーを平行に位置させた状態のこと。その状態で行うターン技術をパラレルターンという。
横滑り→エッジをはずすことです。決して横方向に滑ったわけではありません。
スイッチスタンス→後ろ足を進行方向に向けて滑走すること。タローはグーフィー(右足が前)なのでスイッチだとレギュラースタンス(左足が前)になります。
スノボー用語集クリック。
ゲレンデ図クリック。
北海道弁参考URLクリック。

 ストックてうまく使えません。どんだけヘタなんだって感じです。でも子供をおぶって滑ったことあります。さすがに3年生は無理だけど。
 左利きの主人公はこれで2人目だわ。なんか惹かれるのよね、左。野球ではサウスポー、サッカーではレフティっていってる気がする。両利きの子もいますね。頭の中、どうなってるんだろう。

今日のBGM→クリック。ROUTE34

 年齢を問わず読んでいただきたくてお目障(めざわり)かもしれませんが読み仮名を付けます。

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コメント(8件)

内 容 ニックネーム/日時
土俵入り(笑)笑っちゃいました。雪山遭難も無事切り抜けられましたね。
って、今から勝負ですか!?無理だべ?
ia.
2008/05/27 02:17
ia.さん、いつもありがとう。
「土俵」どうですか?例えに「土俵」とか使うと、若い主人公らしくないですか?「スキー靴」も「スキーブーツ」にコソコソと変更したりしました。
やはり主人公の年齢は、書き手の実年齢と近いほうが楽ね。言い回しとかさ。だけど、おばさんが主人公ならば、よほど魅力的な人物に書かないと共感してもらえそうにないわ。しょせん、おばさんだもの。あ、徒然草思い出しました。花は盛りに、月はくまなきをのみ見るものかは。はい、脱線しました。
>勝負
一応、しておこうかなって。
つる
2008/05/27 20:35
冒頭の裏スノーボーイが続いてる…(笑)

ばなな、けっこうパワフルですな。
そうか、勝負するのか、忘れてた(オイ!)
火群
2008/05/28 08:59
火群さん、いつもありがとう。
>冒頭
本文がマヂメにいっちゃってるので反動現象が……
うん。まあ「勝負」て書いちゃったからね。勝負そのものがどうこうっていうんじゃないんです。
>忘れてた(オイ!)
褒められた〜(ホントカ)
よくミステリであるでしょ。目先の出来事を追ってるうちに肝心な伏線を忘れてて「あっそうきたか」ていうの。ちょっとー、わたしミステリ書けるんじゃな〜い?(シネヨ)
つる
2008/05/28 19:00
土俵入りかよ(笑)
雲竜型か不知火型か。
それだけでも教えてくだせえ。
さぁ勝負だ!
わくわくするなー( ´艸`)
レイバック
URL
2008/05/31 00:12
レイバックさん、いつもありがとう。
>雲竜型か不知火型か。
か、勘弁して!お相撲は千代の富士が引退してから興味が薄れてしまったの。
やはりココの部分は「スクワット」にすれば良かったなあ。でも、「スクワット」と「ビリーズブートキャンプ」は「理想の高校生」で使っちゃったからシクシクこんなです。
つる
2008/05/31 00:34
中学時代、自転車で帰る途中、吹雪で視界が2、3メートルしかなく、道を通り過ぎたことがありますよ。
土俵入りはきつそうですね。
さあ、勝負勝負!
銀河系一朗
2008/06/07 23:37
銀河系一朗さん、いつもありがとう。
じ、自転車で吹雪て……。いいネタお持ちで。
それって可能なんですか?道、見えないんでせう?
ヤー、だけど男子ってホント無茶しますよね〜。だから、お話にもなる。
>土俵
皆さん、もう止めてぇ!この単語を出してしまったこと、今では後悔してるのよーーーーーっ!
つる
2008/06/07 23:52

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