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zoom RSS 「スノーボーイ」19

<<   作成日時 : 2008/05/21 19:44   >>

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「スノーボーイ」19

 ゲレンデのスピーカーは風に途切れ途切れだった。

「……気象状況をお知らせし……雪。予想最低気温−10……高気温−2℃、湿度75%、北西の風……」

 最低気温にゾッとしながらリフトを降りると、ゲートが見えた。そこから山頂を目指す人の列が続いている。そのほとんどの背にバックパック。中身が気になる。
 しばらくそんなのを見ていると、たまに雪や風が嘘のように止んだりする時があった。
 時計を見ると12時半前だ。待ち合わせまで充分に時間がある。

 もしかしたら下見がてら1本滑れるかもしれない。

 いやらしい気持ちが働くと、スキーを肩にして迷わずその列に加わった。
 登り出すと結構な急斜面だった。前を行く人の足跡に合わせないと滑り落ちてしまいそうだった。スキーブーツの先を蹴り込むようにして登った。
 途中で列を外れて給水する人を横目に、あと少しあと少しと下ばかり向いてブーツを持ち上げた。
 バックパックの中身がようやくわかった。小さなペットボトルの1つも持たずに来たことを後悔する。山登りを少しなめていた。わたしも喉がカラカラだった。
 てっぺんに近づくにつれ、止んだと思った雪と風が強くなっていった。 

「リフト止まるかもしんねえな」「ああ、ゲート開いてただけでももうけもんだよ」

 風に乗って後ろから声が聞こえた。

 尾根にでる頃には吹雪になってしまった。耳が痛い。横殴りの風がニット帽を突き抜けるのだ。やがて前方にうっすらと人だかりが見えてきた。

 山頂は真っ白だった。大きな雪の塊の前に人がいる。そのカラフルなウェアや立てたボードがなければ、雪の塊が山小屋だとは到底気づかないだろう。それほど建物の壁にはびっしりと雪が張り付いていた。
 視界は10mほどしかなくて、来た方向さえすでに怪しい。
 時計を見るとまだ時間はある。山小屋で天候の回復を待つことにした。

 小屋の中は8畳間ほどの広さだった。その空間に10人以上の人がごった返していた。日本語に混じって外国語が飛び交っている。
 窓がひとつあるが、窓枠にへばりついた雪で半分しか見えない。寒暖計は−8℃を示している。
 
 好転しそうもない天気に出て行くのは土地勘のある人か、若(も)しくは陽気な外国人だった。新たに飛び込んでくる人もいる。そんなふうに人の出入りが何回か繰り返された。
 出て行くタイミングが掴めなくて、気付くとわたしと男性2人の3人だけになった。

「僕ら行くけど、どうします?」

「?」

「アンヌプリに下りるけど一緒に行きますか?」

「あ、いいです。わたし東山だから」

 ゲートの前でタロー達が待ってる。アンヌプリじゃ困るのだ。

「じゃ、お先に」

 あっさりと彼らが行ってしまうと自分の態度に少し反省した。
 彼らはせっかく好意で言ってくれた。なのに、わたしはにべもなく断ってしまった。ただでさえ愛想のないところへもってきて、この三白眼(さんぱくがん)だ。誰だっていい気持ちはしないだろう。

 そんなんで、とうとう一人だ。

 又誰か来る、なんて呑気に構えてた。東山方面に下りる人がいるはずだった。そうしたら今度は自分からお願いしようと思った。

 その考えが甘かったと気づくのにそう時間はかからなかった。

 打ちつける風に扉がバタバタと音を立てる。吹雪の激しさは増していくばかりだった。寒暖計は、なんと−10℃。
 おそるおそる外へ出ると、立っていられないほどの強風にのけ反ったまま腕が泳いだ。秒速で小屋に戻った。

 マトリックスじゃないんだからさあ。

 5メートル先も見えなかった。
 次に誰か来たら行き先はどこだっていいと思った。アンヌプリスキー場だってヒラフスキー場だって構わない。もう一人じゃ帰れない。それだけはわかった。
 
 でも誰も来なかった。さっきのアンヌプリ行きの誘いはラストチャンスだった。わたしはそれを棒に振った。

 そうだ! 携帯!

 ポケットから取り出したそれは、フル充電したはずなのに電池マークが切れそうになっていた。バッテリーを外して手や息で温めた。でも、だめだった。凍ってる。

 時間だけが過ぎる。手足の先は痛いのを通り越して痺(しび)れている。

 こんな状況なのに眠くなってきた。昨夜の寝不足のせいだ。壁を背にしゃがむと本当に眠ってしまいそうだった。「凍死」の文字がよぎる。窓枠の白さがお迎えの後光に見えてくる。
 こうなると頭の中は、助かる方法よりも厭世観で占められた。 

 わたしはこのまま死ぬのかな。一人で死ぬのかな。
 人間は生まれてくる時も死ぬ時も一人なんだな。

 だって大自然を前に人は無力だ。わたしはここで死ぬ。



 バターン!



 派手な音がして、狂ったように雪と風が小屋の中を舞った。

 扉が内側の壁にバウンドしてる。

 長方形に切り取られた白いスクリーンに小さな影が2つ映った。


 そう、


 わたしだけのシークレットサービス。






 タローとジローだよ〜 \(@^0^@)/






<つづく> 

マトリックスクリック。そんなシーンがありましたっけ。
厭世観→物事を悪い方にばかり考え、悲観していく考え方やものの見方。悲観主義。ペシミズム。(出典:大辞林)
↓山小屋の中photo byニセコWalker
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スノボー用語集クリック。
ゲレンデ図クリック。
北海道弁参考URLクリック。

担当編集者「ほ〜ら」
つる「なんだよ。ほ〜らって」
担当「ほら、やっぱね〜てことです」
つる「やっぱで悪かったよ」
担当「もう見え見えの展開」
つる「うるさいなあ。みんなが思ってるとおりでいいんだよ。それが売りなんだから」
担当「マジで?」

今日のBGM→クリック。僕達は天使だった

 年齢を問わず読んでいただきたくてお目障(めざわり)かもしれませんが読み仮名を付けます。

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コメント(6件)

内 容 ニックネーム/日時
そうそう!思っている通りでいいんですよ!ここでタローとジローがこなきゃ、話にならないですよね。
きっと生意気に説教されるんだろうなぁ(笑)
携帯電話も凍るほどの寒さってあるんですね。いや〜今日は緊迫感があって、ハラハラしましたよ。
じゃがいもカレー、食べたい。
ia.
2008/05/22 01:48
面白かったです。
事態が悪化していく緊迫感が良かった。
でもお約束の展開って、けっこう大事ですよ♪

いや、もしかしたら、タローとジローだよ〜と思ったら、次回、小屋に熊が乱入かもしれない。
(´・(ェ)・`)クマー。
さて、このあと、どうなってしまうのか!(笑)
火群
2008/05/22 21:57
ia.さん、いつもありがとう。
思ってる通りでいいですか?ですよね。それしかないですもん。あれ?↑上で火群さん何か言ってる。それもアリだった?
>説教
どんだけ言わせてやろうかしらん。
凍る携帯電池はね。↑上記事に小さい方の写真があるでしょ。ニセコWalkerをクリックするとね。実際に遭難しかけた人の経験談が読めます。そこからネタをもらったんです。ほとんどパクリだ〜。
だけど氷点下10度はわたしも経験があります。無風だとそんなに寒くないのに風がでると死にそうになります。
>ジャガイモカレー
このカレーを話題にしたどのサイトも、味には触れてないんです。たぶん可もなく不可もなくってところなんでしょうか。でも逆にわたしもia.さんと同じく食べてみたいんです。
>緊迫感
褒め言葉だわ。励みになります。ありがとう!
つる
2008/05/22 22:50
火群さん、いつもありがとう。
>(´・(ェ)・`)クマー。
ひゃあ!コメにぶっ飛びました。いつになくまぢめちゃんモードで書いていたものだから、そういう発想なかった。かなり心拍数上がりました。
それにしてもあれよ。お約束通りにいくためには、その前に主人公を追い詰めようと思ったのね。そこ、めちゃ書きやすかったわあ。で、思った。わたしのネガティブ思考そのものだって。通りで書きやすいはずだわ。もうバレバレ。私生活の切り売りみたいで恥ずかしい。
つる
2008/05/22 23:11
やはり一人取り残されたか!
そしてタロー&ジロー(フォークか漫才師か)
キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!!!
こういうときって不安になりますよねー。
説教されつつもレース続行なるか!?
レイバック
2008/05/22 23:37
レイバックさん、いつもありがとう。
タロー&ジローは南極観測隊のあれからもらったんですよ。最後は2人を置いて主人公は帰ってしまうからです。主人公を乗せて走るバス。転がるようにそれを追いかける子供達。「さようならああぁ」「さようならー」「さよならーっ。また来てねーっ」小さくなる子供達。ばななはいつまでも手を振り続けました。<終わり>ウソ。はじめはこんなふうになるかな、と思ってネーミングしたんです。
>不安
人間て追い詰められると、普段できることもできなくなっちゃいますよね。死とかオーバーなんだけど自然の中でそう思ったことがあったものだから書いちゃいました。小樽の海でね、そんな経験しました。
みなさん説教を期待されてる…。男の子だからね〜。文句は垂れても弁は立たないだろうな。
え、やっぱレース?そこか。
つる
2008/05/23 02:00

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