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zoom RSS 「スノーボーイ」7

<<   作成日時 : 2008/04/20 22:51   >>

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photo by NFS 07'フォトギャラリー
↑バックの山が蝦夷富士です。


「スノーボーイ」7

 早めの夕食を呼ばれて、わたし達は嬌声を上げた。
 ホールのテーブルは、頑丈な作りだけが取り得のような一枚板で、そこにわたし達を含めた4組の食事の用意があった。洗いざらしのランチョンマットが人数分敷かれている。
 温かいパンとビーフシチュー、サーモンのバジルソース、デザートはブラマンジェだった。北海道の味覚に、しばし無言になる。
 ビーフシューの黄色い芋はキタアカリという品種で、男爵イモとツチヤイモを掛け合わせたものだ。メークインと違い、煮込み料理に向いてないかもしれないけれど、男爵イモなんかよりずっとカロチンやビタミンCを含んでいる。カロリーが低いからダイエットにも適している。サービスをするおばあさんが教えてくれた。
 他にもある。北海道で「芋」といえばまずジャガイモのことで、里芋やさつま芋など他の芋を指さない。CMで使われる「うまいしょ」も北海道の人は使わない。「おいしいしょ」もしくは「うまいべさ(や)」と言うのだそうだ。

「なまらうまいべさ〜」紗季が覚えたての北海道弁でふざけた。 

「どちらからいらしたんですか?」
 
 食後の珈琲を待つわたし達に、話しかける人がいた。景子の顔を見ているロン毛の男性は、確か、端っこに座っていた2人連れの片方で、彼らは常連さんらしかった。もう1人は短髪だった。

 紗季と顔を見合わせたわたしはホッとする。何故なら、3人でいると、必ず景子目当ての男性から声をかけられる。それが決まって紗季かわたし。景子に直接いかない。ターゲットにダイレクトでいかないのは若い子が多い。そういうまわりくどい手を使わないから、このロン毛の人は見た目より大人なんだろう。30代くらいか。

「そんなに変わっちゃったんだ、中野?」

 珈琲を持ってきたオーナーがロン毛の人に言った。彼らと話の途中だったようだ。
 景子に向いていたロン毛の人が、オーナーを見て言った。

「ええ、ブロードウェイのマニアックな専門店にヲタクが集まっちゃって、北口から向こうはアキバ(秋葉原)並み」

「俺が高校ン時はそうでもなかったけどなあ」珈琲を置きながらオーナー。それをレディファーストで送ってくれながらロン毛の人が答える。

「サンプラザ前の広場も、夜はミュージシャンの溜まり場みたいになっちゃって。そんでも町事態は変わらないんですよ。人が変わったいうんのかな。だんだん僕らの居心地が悪くなるっていうか。帰ってないんですか? ご実家」

「ないな〜。それどこじゃないよ〜」オーナーが首をすくめた。

 その会話でオーナーは道産子(どさんこ)じゃないとわかる。どうりでタロー達ほど訛(なま)らないわけだ。

「変わったと言えばゲレンデのコース、ずいぶんなネーミングですね〜」短髪の常連さんが言った。

「そう、今シーズンからね。プリンス系からアメリカ資本になったらさ。訳のわからないことになっちゃった。こっちはいい歳だろ? 新しい呼び方に慣れなくて、つい昔ので言っちゃう」オーナーがミルクを勧めてくれる。

「同感です。だってリミテッドワン(LMD1)のほうが絶対良くないですか? それが、スーパーステイションだもんなあ。あと、だべさとか、なまらとかって。なんだかなあ」残念そうに短髪の人が言った。

「まあ、こんだけ外国から来る人が多いんだ。日本ぽいほうがいいと思ったんじゃない? いかにもアメリカ人の発想だよ」ロン毛の人が、わたし達も参加できるように話を振った。

「そうそう。みそしる、じゃがいも、っていうコースもあって笑えた」景子がうまく混じる。

「みそしるとか、ありえないんですけどぉ」紗季がおどけたふうに相槌を打って、その場が和(なご)やかになった。

 流れで、景子と常連さんの2人は、薪ストーブの前に移動した。
 明日の天気を尋(たず)ねた紗季は、オーナーと連れ立ってホールの一角だ。そこにあるPCコーナーで検索を始めた。

「ねえ、入れて」

 わたしは後ろのテーブルの子供達に声をかけた。
 タローとジローが、ファミリーで来ている幼稚園くらいの男の子を相手に、バンカースゲームをしていたのだ。
 ジローがお尻をずらせてわたしのスペースを空けてくれた。ちょっと意外そうな顔をしたタローも、すぐにわたしの分の車(駒)を用意してくれた。
 バンカースは古いものらしく、お札なんかヨレヨレだった。そのお札を数えたり、引いたカードの字を読んであげたりするタローとジロー。自分達よりも小さい子に、まめまめしく世話を焼く様子に微笑(ほほえ)ましくなる。

 そのうちタローの車が「結婚する」のマスに止まって、「ミユウちゃんとだあ!」ジローがはやしたてた。

「ちげーっ、ちげーっ」タローがムキになる。

「あっ。好きな子なんだ〜」わたしも調子に乗った。「どんな子? かわいいの?」

「ばななのおねえちゃんに似てンべ」ぼそっとジロー。

 言われて黙ったタローが、自分の車の助手席に、ピンクのピンを刺した。ピンクがお嫁さんの印だ。彼のアカギレの頬に、色のない産毛(うぶげ)が透ける。照れたのかそうでないのかは、わからない。

 子供が6人も産まれたわたしは、車の後ろに刺さりきらないピンを横積みにして、駒を進める。何度もピンが落ちて、その度にジローが宣言する。

「ハイ! シボー!」

 死亡て――。

 それから4人の誰かが宝くじに当たったり、山火事に見舞われたりした。「ずりぃ!(ずるい)」「オー、ノー!(Oh,No!)」何度も歓声があがる。

 ねえ。バンカースゲームってこんなに楽しかったっけ。

 ルーレットに伸びたタローの手が止まった。その視線の先がわたしの後ろにあって、わたしとジローが振返る。
 そこには、大きなプラズマの画面があって、“First Descent(ファースト・ディセント)”の映像が流れていた。宿泊客の誰かがDVDをセットしたのだろう。
 アラスカの前人未到のテレインに、世界のトップボーダー5人が挑戦する危険なマウンテンライド。ショーン・ホワイトがまるで落ちていくように滑る。何度見ても圧巻のこのシーンは、元カレと一緒に数え切れないくらい見た。

 画面を見つめるタロー。瞬きもしない。それで確信する。昼間のあれは、やっぱり彼なんだ。


 見たい。



 タローの本気が見たい。
 


 もうそれだけ!




<つづく> 

「First Descent(ファースト・ディセント )」クリック。「予告編」が見られます。

ブラマンジェ→牛乳プリンみたいなデザート。
道産子(どさんこ)→1 北海道産の馬。2 北海道生まれの人。
ヲタク→オタク。
北海道弁参考URLクリック。

担当編集者「センセ。これでどのくらいきましたかね」
つる「そうだな。起承転結でいうところの“起”かな」
担「ええっ?!」
つる「ええっ?!ってなんだよ。ええっ?!って」
担「だって」
つる「仕方ないじゃん。登場人物の紹介とかもあったんだからさ」
担「このあと“起”×4の長さじゃないでしょうね」
つる「そんなになんないと思うよ」
担「頼みますよ。ホント」
つる「わかってるよ」
担「ナゲ〜んだから」
つる「ナゲ〜とか言うけど、こっちだってメンドいんだよ」
担「ほんとかなあ」

今日のBGM→クリック。夢で逢えたなら…



 年齢を問わず読んでいただきたくてお目障(めざわり)かもしれませんが読み仮名を付けます。




【オマケ】
<給食レシピ―ブラマンジェ4人分>
粉ゼラチン8g 水24g 牛乳200g 砂糖10g 生クリーム40g
@水に粉ゼラチンをふりいれる。
A牛乳を80℃に温め砂糖を加え溶かし、@を加えよく溶かす。
B火を止めて生クリームを混ぜ、型に入れ冷やし固める。
これにイチゴやマンゴーなどのフルーツソース(ミキサーする)をかけます。粉ゼラチンの量で固さが調節できます。減らしてもいいかな。

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コメント(8件)

内 容 ニックネーム/日時
旅行に行って泊まり先の食事が美味しいと、それだけで幸せになりますね。やっぱり食べるのって大事。
照れるタロー可愛いよ、タロー(*´Д`)

URL
2008/04/20 23:23
タローの本気、ぼくも見たいです!(笑)
>バンカースゲーム
ぼくも実家に戻ってきてから、甥っ子にせがまれて、ときどきやってます。最初は懐かしくて楽しかったんですけどね、さすがに毎週やってたら飽きました^^;「出した本がベストセラーになる」のコマに止まれるとうれしいんですけどね。
最近この連載を読んでいるおかげで、無性にスノボをやりたくなってきました^^; 3年間ほどご無沙汰ですが、次の冬こそはっ!
shitsuma
URL
2008/04/21 00:13
鯨さん、いつもありがとう。
なんだろね。美味しいものを口にすると、生きる勇気みたいなの湧きますよね。たとえ極貧でも(それ、うちだよ)
タローを可愛いと言ってくださってありがとう。実際にいた子を思い浮かべて書いてます。ほんとに一瞬なんだよね、子供って、可愛いのが。
つる
2008/04/21 00:29
shitsumaさん、いつもありがとう。
>バンカースゲーム
いろんなヴァージョンがあるそうです。今のはわからないのでこうなりました。こうするしかなかった。
ベストセラーか。そんなのがあるんだ。夢がありますね。
スノボをされるのですね。
遠のくのはわかります。だんだん環境が変わりますもんね。わたしがスキーしてた時もそうでした。
>スノボがしたくなる
これ最高の褒め言葉です。嬉しくなりました。うまく書けなかったらごめんよ。


つる
2008/04/21 00:40
お、盛り上がってきた。
臨場感あふれる描写に期待。
>ブラマンジェ
いいね。作ったことありマス。いわゆるゼラチン系の冷菓はアレンジが多様で、いろんなもの投入したりして、出来たものが、なんだこりゃとか(笑)
火群
2008/05/04 01:45
火群さん、連続コメありがとう。気を遣わせてしまいました。
え〜臨場感あふれる描写は無理。ふつうに書いて、あとはスノボ経験者の想像力に頼っちゃうつもりです。あはは
>ブラマンジェ
デザートまで作るの?ポイント加算しておきますね。
ほんとのブラマンジェは練って作るみたいなんだけど、これは学校から配布された給食レシピなので嘘っこの作り方です。しか〜し、そのレシピには歴代の人気メニューが列挙されていて、決してあなどれないんです。ドライカレーなんて、もー!
つる
2008/05/04 02:05
そうなんだ、うまいしょは言わないのか。
CMで見るとあるように確信してましたよ。
一つ前の説明もっさりはね、むしろ自分の長編の説明を思い出してのコメでした。あれをすっきりできないかなと考え込んでたので。気にしないで下さい。
銀河系一朗
2008/05/17 23:08
銀河系一朗さん、いつもありがとう。
うん。道産子が言ってました。「うまいしょ」は言わないって。
もっさりはね。自分でも書きすぎたかな〜と思っていた部分だったのでいいんです。見直すきっかけになりました。読んでもらう対象にも寄るんですけど、本当は足りないくらいの方がいいんです。きっと。
本音言うと、わたしは自分の未熟な文章やストーリーの矛盾なんかをズバリ突っ込んでもらいたいかな。
また、読んで下さい。
つる
2008/05/18 00:18

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