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zoom RSS 「スノーボーイ」2

<<   作成日時 : 2008/04/08 19:35   >>

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phto by ようこそさっぽろ


「スノーボーイ」2

 お目当てのペンションはすぐわかった。
 木立の切れ目に大きな雪だるまが立っていたからだ。首に「ペンション スノーマン」のプレートが掛かっていた。
 雪だるまの頭に乗せた青いポリバケツに書かれた文字は「りゅうたろう」、子供の名前だろうか。胴に刺した小枝の両手に、ピンクの炊事用ゴム手袋を被せてあった。

 そこを左折したら、広い雪原に細い道が続いていた。細いと言っても車一台が通れるくらいの幅で除雪された道だ。そのタイヤ痕(こん)に薄く積もった雪を鳴らして歩いた。

 左手は厚めのレースカーテンを引いたような風景。ぼんやりとなだらかな斜面が見える。その手前に雪が盛られていて、お揃いのライムグリーンを着た子供が2人で寄りかかっていた。

「こんにちわあ!」

 紗希が子供達に声を掛けた。彼女は子供好きだ。声を掛けずにいられなかったんだろう。
 こちらを向いた正ちゃん帽の子供達は、突っ立ってるだけのノーリアクションだった。男女の区別さえできない。

「まあ、返事もできないのかしら」と小さくつぶやいて「あのお! ここ、ペンヒョン、シュノーマン、れしゅかあ!」

 そうだとわかってるのに、紗希は寒さでよくまわらない口でもう一度言った。たぶん、意地になった。普段からどんな子供でもなつかせる自信がある、と豪語している。

 小さい子がコクンと頷くと、大きい子が正面を差した。そこにサイロ風の建物があった。
「誰が見たってアソコじゃん」 無口な子供達に肩をすくめた沙季がわたしを見る。無理だよ、というふうにわたしは首を振った。だって、小学生は未知の分野だ。いくらわたし達が児童教育学科でも、実習はまだ未就学児だけしか経験がなかった。




 「ごめんくださ〜い」「こんにちは〜」

 二重扉の内側で、外気との温度差にほっとしながらわたし達は中に声をかけた。何度も鳴らした表のピンポンが故障らしく勝手に入ってしまったのだ。
 
 広めにとってあるたたきの三辺にスノコ。右側の半開きドアのあちらは乾燥室らしい。ぶら下がった洗濯物の向こうに、ボードやブーツが見えた。

「すいませ〜ん」「どなたかいらっしゃいませんか〜」

「ああ、あがって待っててくださ〜い」

 わたしたちがもう一度声を張ると、上から男の人の声がした。正面に10段ほどの階段。声の主は、そこから右上へと続く2階にいるようだ。

 ボーン。
 壁の振り子時計が鳴った。その黒いボディに金箔の文字で「アンヌプリ工芸社(株)新工房落成記念」
 下駄箱の上から大きな鳥の剥製がわたし達を見ている。
 
「あがれってさ」
「どこへ」
「そっちじゃん?」

 フロアの左に開口部があった。ホールが見える。荷物キャリーとボードの板をそのままにして、あがりがまちの野菜のダンボールを除(ど)けると、プラスチックケースの中からスリッパを選んだ。

 食堂らしいホールの中央にでんと黒い薪ストーブが据えてあった。
 ガンガンに焚かれたストーブのまわりにぐるりと木のベンチが置いてある。ストーブの上にはピアノ線か何かで吊った四角い木枠があって、そこに輪っかのついた洗濯ピンチが通してある。ピンチに挟まれた手袋や帽子がだらんとぶら下がっていた。

 ストーブの奥に大きなプラズマテレビがあり、その前に座る小さなおばあさんがわたし達に気づいた。

「おや、いらっしゃい。気がつかなんだわ↓。耳が遠いもんだから」
「あ、予約した工藤です。よろしくお願いします」
「はいはい」

 あまり聞いてないふうに、おばあさんはさっさとキッチンのほうへ消えてしまった。

「ちょっとお。なんかパンフレットと違う」紗希が小声でつぶやいた。
「いや、外観は合ってる」「そうそう外観は合ってる」
 紗希は明るいけど気分が落ち込むのも早い。上がるのも早いけど。わたしと景子は慌ててフォローにまわる。
「ごめん。ペンションいうから暖炉とかあると思った。2人ともガッカリしたよね。よね?」
「ドンマイ。安いから仕方ないよ」「こういうのも面白いよ」
「そうかな?」
「そうだよそうだよ」「考え方ひとつだよ」

 ベンチに腰掛けたわたし達も先客に倣(なら)い、空いたピンチに濡れた小物を吊るさせてもらうことにする。ストーブに乗る寸胴(ずんどう)を見た紗季が、手袋のままで蓋を持ち上げた。

「やめな。お行儀が悪いよ」たしなめる景子。

 開けた蓋から、ふわぁと湯気が上がって、肉を煮込むいい匂いが立ち上った。

「わあっ。ポトフかなあ」紗季がはしゃぐ。

 お行儀うんぬん言ってた景子もわたしと同時に寸胴を覗き込んだ。

「ポトフもいいけどクリームシチューがいいな」「わたしビーフシチュー」景子とわたしが笑顔になる。

 昼食は空港の売店のサンドイッチで簡単に済ませた。だから、今夜の夕食になるかもしれない寸胴鍋にわたし達の期待は高まった。現金なものだ。

「しばれたべさ。あったかいもんでも飲むかい?↓」

 振り向くと、おばあさんがトレイに3つのマグカップを乗せて来る所だった。おばあさんの少し下がる語尾に北海道に来た実感が湧いてくる。

「あ、どうもすみません」「ありがとうございます」「いただきまーす」
「なんもなんも」
 
 しっかり膜が張ったホットミルクは味が濃くて美味しい。北海道の牛乳はみんなこうなんだろうか。 




<つづく>



正ちゃん帽クリック。
寸胴(ずんどう)鍋クリック。


つる「やべえ! 長くなりそう」
担当編集者「何ですって! だって3泊4日の話でしょう?」
つる「そうなんだけど一日めが全然終わらなさそう」
担「たまらないな。旅行記じゃないんですから」 

 今日のBGM→クリック。もりのくに/激愛我家族
 今日の面白動画→世界のCM(00:40)

 年齢を問わず読んでいただきたくてお目障(めざわり)かもしれませんが読み仮名を付けます。

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コメント(12件)

内 容 ニックネーム/日時
こんばんは。
ペンション(風の山小屋)の表現が素敵です。
素朴感が伝わってきます。
そして、何話で完結を迎えるかが、すっ

(約5秒)

…ごく気になります。笑
けビン
URL
2008/04/08 22:25
りゅうたろう名前だけ登場しましたね。
次回は姿を見せてくれるのかな?

URL
2008/04/08 23:11
けビンさん、そんなふうに言ってくださってありがとう。でもあんまりうまく山小屋風に描写できませんでした。自分でもガッカリ。しかも書いてても読んでもイマイチ面白くない回になってしまった。
>(約5秒)
けビンさんのセンスを感じます。
全何話か。そこが問題だ。10話以上にはなる、きっと。いつものように始めとラストだけ決めて寄り道しながら進みます。
つる
2008/04/09 01:24
鯨さん、いつもありがとう。
うん。「りゅうたろう」はお兄ちゃんのほうですね。次は出ますよ。なんたって主役ですもんね。一話を読んで苦にならない長さにすると、話はなかなか進みませんね。
つる
2008/04/09 01:30
おお。家族経営の小さなペンションの雰囲気が良く出てますね。こういうとこあるある(笑) ただ、若干情景描写に力が入りすぎてて、読む人によっては冗長に感じるかも知れません。個人的な印象ですが、もう少し描写の部分をスッキリさせると、もっと良くなりそうな気がします。
レイバック
URL
2008/04/09 23:06
レイバックさん、いつもありがとう。
こういうコメント待ってましたよ。今日ね、会社行ってからも「昨日アップした記事つまんなかったなあ」って気になって仕方なかったんです。まあ、つまらないのは昨日に限らないんですけどね。描写がイマイチだったのね。いっそ「ここは北の国かよ!」くらいで良かったのかもしれない。あとで直しちゃおう。
>もっと良くなりそうな気がします。
優しさを感じました。「もっとマシになりそうな気がします」そう言われないよう頑張ります。
つる
2008/04/10 00:41
わあ、おいしそ〜!ポトフかなぁ。おでんかなぁ。北海道のミルクって味が濃くておいしいのか?
旅先のお料理ってワクワクしますよね。
ひなびたスキー宿の、楽しげな様子が伝わってきますね。
ia.
URL
2008/04/10 21:51
ia.さん、いつもありがとう。
ホッキャードーの牛乳は美味しいですよ。北海道フェアとかあると少々割高でも買っちゃいますもん。こっちのは薄いです。わたしの父なんかは、ご飯に牛乳をかけて食べていたそうですよ。ま、大正生まれの言うことだから、話半分で。
旅先がどんな場所であれ、美味しいものがあれば他に言うことないですもんね。わたし、アメニティとかにこだわらない派です。寝られればいい。
つる
2008/04/10 23:04
描写がキレイですね。
あー、北海道は、いまだに行く機会が無いなぁ。そのうち行ってみるかな。五稜郭とか史跡とか、ちょっと見てみたい。
そういえば、僕も子供になつかれる系です。まぁ、脳内が互角なのかもしれんが(笑)

シチューが食べたくなった。
火群
2008/04/15 01:03
火群さん、いつもありがとう。
日本はこんなに広いのに、なぜか北海道には、行く機会が多かったです。親戚なんかもいましたしね。五稜郭は何ていうか鳥肌がたちましたね。新撰組が好きだったし。明治維新の頃の近代史って面白いもんね。群馬はね。社内旅行とかスキーで行きましたよ。
火群さんも子供になつかれてしまうのか。なんかわかるような気がする。
シチュー?まずはポトフをつぶマスタードで。余ったらシチュー。さらに余ったらクリームコロッケ。三段活用でいかが。
つる
2008/04/15 02:25
民宿風のペンション?のリアリティーを感じる細かい描写がよかったです!

マイ田舎の雪は水分多いからギュギュ鳴りますが、
北海道はパウダーだから、音も小さそう。


銀河系一朗
2008/05/09 23:17
銀河系一朗さん、いつもありがとう。
描写はね。けっこう削ったんです。アップ当初のを見たら読むのが「うわ、めんどい」と思われたことでしょう。
雪が鳴く音ね。片栗粉を揉むような感じなんですけど「ギュッギュッ」より「キュッキュッ」のほうがそれらしかったかなあ。「ブリッ」とも聞こえるし。擬音語は難しいわ。
つる
2008/05/10 00:07

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