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zoom RSS 「スノーボーイ」1

<<   作成日時 : 2008/04/04 20:35   >>

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photo by 全力オレゴニアン國保選手の板「Burton CUSTOM X 」




「スノーボーイ」1

《Good morning, ladies and gentlemen.
Thank you for flying with ○NA airlines flight Haneda to Sapporo.
We will be taking off shortly.Please make sure that your seat belt is securely fastened.Your captain is Tanaka ――

 皆様、本日は○日空4711便、札幌行きにご搭乗いただきまして誠にありがとうございます。まもなく離陸致します。シートベルトをお締め下さい。当フライトの機長は田中、私は客室を担当いたします雨宮でございます――到着予定は08:15となっております。なお現地の天候は晴れ、気温−3℃――》

 滑走路に向かって動き出した機内に、アナウンスが流れた。

「なんだ。意外と飛んでる時間て短いんだね」右隣の席で、景子が言った。
「うん。ほんと」と、わたし。
「近いね〜。ホッキャードー」左隣の紗希。

 わたしたち3人は同じ短大の児童教育部教育学科に在籍する仲良しだ。
 冬休みに『どっか行こうか』という話になって、何となく決まった。
 ツアー名は“パウダースノーを満喫。ニセコ東山で過ごす3泊4日ペンションの旅”だ。パウダースノーは魅力的だった。これに一日目のリフト券もつく。格安だった。

『ばなな、いい?』『いいよね? ばなな』2人がわたしに了解を求めた。“ばなな”はわたしのニックネームだ。『うん。いいよ』ちょうど気分を変えたくて即答した。彼女達が了解を求めたのは、多少ボード(スノーボード)をするわたしを当てにしたからだ。


 飛行機が離陸して高度が安定すると、ようやく東京を離れる実感が湧いた。東京から離れられる、そう思うだけで肩の荷が軽くなった。どんよりとした冬日が続き、だめになりそうな1ヵ月だった。今から1ヵ月ほど前に、2年つき合った彼にフラれた。彼はボーダーだった。

「あ〜あ〜、耳へんになった」「わたしも」「わたしなんてへんどころか痛いよ」

 気圧の関係で3人とも耳がおかしくなった。

「唾飲んでみ、唾」「そうだよ」「飲んでもだめ。助けて〜」

「何か飲み物、貰いなよ」「そうしな」「まだだめだよ。シートベルトのサインが消えてないもの。やだなぁ、着くまでずっとこうなのかな」

 家に1人でいると碌(ろく)なことを考えなかった。こうしてこの2人の間に挟まれたわたしは、両横のテンションにはなかなか追いつかないけれど、気持ちが上がっていくのがわかる。
 2人とも、わたしの失恋を知っていた。
 こんな辛気臭いわたしを、それでも誘ってくれてありがとう。

《――機長の田中です。皆様、本日も世界一安全な航空会社、スターアライアンスメンバー○日空をご利用戴きまして誠にありがとうございます。
 お客様のきびきびしたご搭乗と、弊社の地上職員、整備士の努力により、当機は定時通りに出発しております。
 本日の飛行ルートの天候は、おおむね良好との報告を受けておりますが、時折天使の気紛れで、軽く揺れる場合がございますが、揺れましても飛行には、まっ……》

 5秒ほどだろうか。機長のアナウンスが途絶えて、機内は『あれ? マイクの故障かな』という雰囲気が流れた。わたし達と向かい合わせで腰掛けたフライトアテンダントが、口元を押えて笑いをこらえた。

《……ったく影響ございませんので、どうぞご安心くださいませ。
 完璧な操縦で、皆様に快適で安全な空の旅をお約束致します――》

『何だ。ジョークか』思いがけない機長のリップサービスに安堵の空気が流れた。ワンテンポ遅れて『わっ』と、和(なご)やかな笑いが起きた。

 あ、いい旅になりそう、そんな予感がした。

 窓に無機質な翼が見える。その向こうに突き抜けるようなブルー。そして雲海。
 それを見て昨晩までの気持ちは何処(どこ)へやら。不思議なことに「離れる」というより「向かってる」という気持ちになってくる。




 千歳空港から無料シャトルバスに揺られ、3時間弱でニセコに着いた。そこは空と地上を繋げたように雪が降っていた。
 わたし達はホテル前で降車すると、ペンションに向かって歩き出した。まるで遭難者。それほど東京では想像もつかない雪の降り方だった。
 パラパラとひっきりなしにダウンを打つ粉雪。湿度が低い雪は服に張り付かず滑り落ちていく。傘なんていらなくて笑える。
 国道は除雪こそされてはいるものの、車道と歩道の区別がつかない。両脇に高く除(よ)けられた雪が、轍(わだち)を歩くわたしたちをハーフパイプのボトル(底)にいる気分にさせた。

 ザッッ!!!

 額の上を右から左に何か飛んでった。

「ちょ、ちょっと見た? 今の」わたしは後ろの2人を振返る。
「何?」
「どした?」

 2人は足元に気を取られて、見逃したようだ。わたしは手袋で空中を指(さ)して言った。

「い、今ね。今、誰かココ通った」
「嘘だぁ」
「まさか」

 だよね。わたしもそう思う。

「でも」

 じゃ、これを何て説明するんだ。

 雪壁のリップから、今のジャンプを物語る雪片が落ちてきた。

 瞼の残像はソール(板底)のばってん(X)マーク。バートンのCUSTOM X だ。

 


<つづく>


飛んでったイメージクリック。
フライトアテンダント→客室乗務員
ハーフパイプ→フリースタイル・スノーボード用の雪でつくられたコース。
リップ→ハーフパイプの壁のトップの端の部分。以上参考URL

担当編集者「こんな機長いますかぁ」
つる「サイトで見たんだよ。○NAに名物機長がいるらしいよ」
担「へえ、そうなんだ。で、今度は何の話です? 小学生の女の子の話じゃないんですか?」
つる「へへへ。アレ、後回しにした。早くしないとウィンタースポーツの季節が終わっちゃうからね」
担「ウィンター、て。もう春ですよ。いまさら何を言ってるんです」
つる「ちょっと遅くなっただけじゃん。いいじゃん」
担「ふーん。そんで、どんな話なんです。テーマは?」
つる「ボーダーの話だよ。いや違うな。ボーダーでてくる話。テーマは『再生』だよ」
担「『再生』はともかく、ボーダーて……スノーボード、やったことあるんですか」
つる「ないんだけどさ」
担「ないのにどうしてまた」
つる「カッコいいじゃん。何かさ、書きたくなっちゃったんだよ」
担「ダイジョブですか」
つる「うん。たぶん」
担「たぶんて……」


 今日のBGM→クリック。 Give Me Up


 年齢を問わず読んでいただきたくてお目障(めざわり)かもしれませんが読み仮名を付けます。

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コメント(22件)

内 容 ニックネーム/日時
新連載始まりましたね。数日前からトップにタイトルだけあったから気になってたんですよ。
「ばななと空飛ぶ少年の話」って、なんじゃいと思って。

URL
2008/04/04 23:53
おおおおお。すごい。スノーボードの話だ。しかもやらない人なのにちゃんと書けてる。パイプに見立てたロードギャップとか、普通の人なら考え付かないはずなんだけどなぁ。つるさんの引き出しの多さにびびったっす!続きが超楽しみ。ワクワクしてきましたよ〜♪
レイバック
URL
2008/04/05 00:21
旅行のワクワク気分が伝わってきて、楽し〜い♪
今回は恋愛ものかな?え、「再生」?
ばななちゃん可愛い♪つるさんの描く女の子は、本当に可愛らしいですね。
ia.
URL
2008/04/05 03:34
鯨さん、いつもありがとう。
誰も見ないだろうと思ったTOPを見てくださってたんだ。うん。途中でエイプリルフールの記事が入っちゃったので野ざらしになってしまった。
「ばなな」は、この女の子のニックネームで、これは会社の若い同僚があるエピソードでこんなふうに言われていたんだそうです。吉本ばななからじゃないよ。面白いからもらいました。19才の女の子と11才の男の子の話です。
つる
2008/04/05 21:57
レイバックさん、いつもありがとう。
ちゃんと書けてる?そのうちボロがでそう。スノボはね、レイバックさんのブログの横にリンク先で「SOUND OF MOUNTAIN」のTindyさんのところに行ったのね。(笑)そしたら、スノボ のこと書いてあるじゃない?子どもの友だちもやってるし、つい面白くてたくさん記事を読ませてもらったんです。そしたら、前から書きたかった設定とコラボさせちゃおうかなって思いつきました。そんなだから決して「スノーボーダー物語」ではないんです。専門的なことも知らないしね。まあ一応スキーするんでホッキャードーのことはわかるかなとそんな感じ。がっかりさせたらごめんよ。
つる
2008/04/05 22:08
ia.さん、いつもありがとう。
旅行ってちょっとのことでも気分が弾みますよね。
>今回は恋愛ものかな?
ううん。恋愛ものじゃないと思う。たぶん。19才と11才だし。くじけた「ばなな」の心が再生するっていうテーマなんだけど、うまく書けるかな。3泊4日の話なんだけど長くなりそう。
ああ、ほんとそう。ばななの書き方次第でみなさんの共感を得られるか、ですよね。わたしは本を読むときなかなか主人公に感情移入ができないほうなんです。その人に信用がおけるまで疑ってかかってるわけです。だから「なんだこいつ」で終わることが多いかもしれない。捻くれてます。だけど書くほうにまわると、ほんとうにそこがムズイ。
つる
2008/04/05 22:34
彼のブログ見ちゃいましたかー。お恥ずかしい限りですわ(笑)ニセコの雪いいですもんねー。僕が偉そうにいうような事じゃないですけど、つるさんかなり筆力が上がってるんで、期待してます。いやいやプレッシャーをかけてる訳じゃなくてマジで^^
レイバック
URL
2008/04/06 00:28
ぁあっ?筆力があんだってぇ?全然聞こえないなあ。もういっぺん言ってもらえると聞きとれるんだけど。なんつて。
レイバックさん来てくださってありがとう。
それでね、Tindyさんはいい人みたいですよ。なんかスノーボードに熱い思い入れがあるみたいでね、彼の記事からビンビンそんなのが伝わってきます。スノボにド素人のわたしは彼からお知恵を拝借しようかと目ろんでいます。技とか知らないですからね。今のところ「キックフリップ」をお借りたいなと思ってるんだけど、貸してもらえるかしらん。
「愛してる」は2度聞きたいタイプ
2008/04/07 00:46
キックフリップってのはスケートボードの技で一旦足から板を離すヤツだから、スノーボードでは難しいなぁ(笑)ネタでビンディングを外してやる人もいるけど。バックフリップじゃない?後方宙返り^^;
レイバック
URL
2008/04/07 01:07
レイバックさん、それがね、Tindyさんの2007/06/
02の記事にYouTubeの動画が貼り付けてあって、ジェシー・バートナーさんて方がやってらしてるんですよ。オサレ小技として紹介されていたんですが、これどうかな、って閃いたんですけどね。ん〜やっぱ使いたいですっ!お願いします!
つる
2008/04/07 01:54
おお!あれ見たんだ!
てっきり勘違いかとオモタw
あれはねぇオサレですよ〜
楽しみにしてます^^
レイバック
2008/04/07 02:47
レイバックさん。
あざ〜す!お借りしま〜す。とっとと借りて逃げてしまおう。
YouTubeのスノボー動画で遊んでたら時間がいくらあっても足りないっす。とほほ。困ったわ。
つる
2008/04/07 23:53
すごい、なんだこの技! 道路の上空を飛んでいくって、そんなことができるんですね! 昂奮しました^^
雪山話いいですね〜。ぼくもスノーボード好きですよ(というほどやってもないし、上手でもないですが……)続けて「2」も読みに行きますね。
shitsuma
URL
2008/04/09 01:01
shitsumaさん、いつもありがとう。
飛んでった動画は凄いですよね。ありえないんですけど。でも「あり」なんだから思い切ってそんな主人公にしました。いつもは市井にいる平凡な人々を書くんだけど、たまにはいよね。
つる
2008/04/09 01:39
面白そうな導入でしたー。機上から始まったので、一瞬、ノルウェイの森みたいなのを想像しました。どうやら違うようですが、いったいどんな話なのか、ワクワク、期待です。

ちなみに僕は、スノボーはド下手です。うちの県内にもたくさんスキー場があるというのに(笑)
火群
2008/04/12 02:52
火群さん、いつもありがとう。
「ノルウェイの森」とか出されるとこっぱずかしいんですけど。そんな大したお話じゃありません。ただ主人公が失恋して沈んだ気持ちと、断ち切りたい気持ちと、そんな時にちょっとしたことで弾む気持ちとを表すのに、飛行機の中がいいかなって思ったんです。この後はずっと雪景色の中で進むだけなんですもん。
>ちなみに僕は、スノボーはド下手です。
そっか。火群さんはお膝元だ。へたなこと書けないな。大目に見てね。謙遜してもこっちの人よりかは、よっぽどうまいんだと思います。ほんとに不思議なんだけど下手とか言う人ほどすごかったりする。テストでも勉強してる奴ほど「勉強してねー」とか言いますもん。
つる
2008/04/12 19:58
遅くなってごめんです。
いい友達ですね、失恋励ましツアーでもあるわけだ。
作家の名前で真っ向勝負とはさすがつるさんだ!
スノボーてすぐ滑れるようになるところが、スキーで大変な思いした世代にはシャクなのさ(笑)
P.S.機長の名前が違ってるような、いや錯覚かもしれません。
銀河系一朗
2008/05/08 19:03
や、やだ!銀河系一朗さんたら。
その通りです。Yamagata機長はね。実名なんですよ。だから「田中さん」にしました。英語、直してなかったよ。
>スキー
そうそうスキーですよ。ブラボー、同世代!
>失恋励ましツアー
うん。このあと、長いですよ。来てくださってありがとう。
つる
2008/05/08 23:15
ボクは、スキーもスノボもできないので、
青春時代に「私をスキーに連れてって」って映画が
流行って、みんながスキー場でそれなりのいい思い出を作ったりしているとき、こたつでみかんを食ってました。
明日、友達がウチに遊びに来るんですけど、
その夫婦ってのは、スノボで知り合って結婚した夫婦なんです。
ボクもやってみようかなあ。
・・・・・・やっぱダメだ。。。
ヴァッキーノ
URL
2010/01/29 13:53
■ヴァッキーノさん
うわ。読んでくださったんだ。恥ずかしいなあもお。
文章が滑らかでないから、さぞ読みにくかったでしょう。

>私をスキーに連れてって
青春だったんだ。
わたしは、すでに、いい大人でしたっけ。

うん。こたつみかん。いいですね。今、そんな感じ。

>スノボで知り合って
時間を共有するって大事。

スキーは歳とってもできそうだけど、スノーボードはどうかしらね。ほら、杖(ストック)がないし。

つる
2010/01/30 02:22
オジさんも若い頃はスキーをしたことがないことはないけど、年に一回一日二日・・・結局初心者のまま終わっちまいました。北海道行ったらスキーより毛ガニやらホッケでしょう!!
スノボなんて怖くて近寄れませ〜ん。

やったことないスポーツを背景でも描くなんて、すごいです!僕にもそういうフロンティア精神みたいなのがあると、も少し秘宝館もバラエティが豊富になるんですけど・・・どだい、飲みながら書きなぐってるからダメだな・・・
矢菱虎犇
2010/01/30 04:18
■矢菱虎犇さん
見られた!

ここいらへんはほんと恥ずかしいです。
書き始めて間もなかったし、知らないことを調べながら、必死でしたっけ。トオイメ

>毛ガ二、ホッケ
そうそう。あと身欠きニシンの昆布巻きとかニシン漬けとか、どんだけニシンが好きなんだよって。父が北海道出身です。

お酒を召し上がりながら書くなんてすごい。わたしだったら「てにをは」が乱れそう。



つる
2010/01/31 01:48

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