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zoom RSS 「スノーボーイ」11

<<   作成日時 : 2008/04/30 23:08   >>

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photo by クチコミガイド


「スノーボーイ」11

 2人とわたしの間に生じた気まずさで、窓の外を見る。進行方向の右は、オフピステの斜面だった。そこが、気まぐれに顔をだす陽に照らされてキラキラと光った。

「わあ! きれい」 

 思わず声にして、タローとジローを振返った。ゴンドラは6人乗り。居合わせた人に、独り言じゃないよ、と言い訳だ。二人は珍しいものでも見る顔で、高校生くらいのカップルを見ていた。

「チョコあるよ」女の子のほうが言った。

「あ、食べる」嬉しそうに男の子。

「はい。じゃ、あ〜ん」

 ありふれた光景。ついこの前まで、わたしにも当たり前のことだった。見てはいけない気がする。塞がりかけたカサブタがめくられる。
 タローとジローの口が「あ〜ん」に合わせて半分開(あ)いた。

「そうだ。わたし、カ○リーメイト、持ってたんだ。食べる?」思い出したわたしが「あ〜ん」に言った。

「ヤター!」「食う食う!」

 カ○リーメイトひとつで反応する2人に戸惑った。その無邪気さと、先程のしたたかさが結びつかない。

「あんなとこ滑ってみたいなあ」

 2人のゴミを受け取ってから、わたしが言った。

「立ち入り禁止区域だわ」

 そんな景色は珍しくもないのだろう。タローがつまらなさそうに言った。

「東山にもあんべ。水野の沢ってとこ」ジロー。

「あ〜」相槌を打ちながら、彼らの朝の話を思い出していた。







 ゴンドラを降りてもう1本ペアリフトに乗った。係員に誘導されるまま、わたしはジローと一緒になった。ペアシートに腰掛けると、ジローとわたしの間に隙間ができた。わざと多目に取られたその距離が少し寂しい。

「ねえ、乾燥室の熊さ」ジローに話しかける。

「ん?」

「あれ、何であそこにあるの?」

「あ〜、はじめは玄関にあったんだわ。したっけ、泊まり客がみんなビックリするだら、父ちゃんがあしこに移したんだべさ。したけど、じいちゃんは気にいらんのだわ↓」

「何でおじいちゃんは気にいらんのだべや」ジローを真似てわたし。

「ははっ。『べや』、だってぇ」

「何で? へん? ジローだってそう言ってるよ」

「女は『べや』とか言わないべや↓」

「じゃ、何て言うの」

「『べさ』、だべさ」

「あ! 今、男が『べさ』って言った」

「男は『べさ』も『べや』も使うべさ」

「そんなの、教えてくれなきゃわからないよ」

 教えての一言で、それからジローは能弁になった。あの剥製が曾じいちゃんを襲った月の輪熊だということ、大怪我をした曾じいちゃんはそれでもたった1人で熊を仕留めたんだってこと、だからおじいちゃんにとっては形見みたいなものなんだ、そんなことを言った。

「ふーん。でも、殺しちゃうなんて、なんかかわいそうだね」

「そったらことねえべ。一遍でも人を襲った熊は、又、人を襲うべ。食べ物持ってると思うんだわ↓」

「へ〜そうなんだ。今でも熊ってこの辺にいるの」

「いんべさ、ふつうに」

「怖いでしょう」

「こわい? なしてこわいべさ?」ジロー。

「?」

 あとで知ったけれど「こわい」っていうのは北海道弁で「疲れた」っていう意味なんだそうだ。

「だって遊んでて熊が出たらどうすんの。ガオー」熊を真似た。

「は! そったらことねえべ。熊は臆病だら人がいるって知れば来ねえさ」

「だって熊に襲われる人とかいるじゃん」

「あれは、知らんかった熊のほうがビックリして反撃してくんだわ↓」

「へええっ」

 わたしの関心を引き続けてジローが喋る。玄関の鷲の剥製は「響(ひびき)」という名前だとか、おじいちゃんの仕事はゲレンデのグルーミングで乗ってるマシンは330馬力だとか、だからペンションの前にあるキッカーはおじいちゃんの会社のディガーさんが作ったんだとか、真夏に30℃を越える日は一週間もないけど、真冬には−10℃以下になる日が何日もあってそんな日は鼻で息をすると鼻の穴がくっつくんだとか、生まれてくる赤ん坊は女の子なんだとか、そんな話をした。

 この子達はここで生活している。それはあまりにも東京と違う世界だ。熊をはじめ、、夏と冬で50度にもなる気温差といい、その自然環境は厳しい。
 彼らの逞(たくま)しさはそんなところからくるんだ。

 リフトの降車位置が近づいて、降りる準備のジローが寄ってきた。くっつく体を気にするふうでもないのが、なんだか嬉しかった。



* 



 東山ゲレンデのトップに立ったわたしは、腕のリフトケースをかざした。「タロー。これ、ありがとう」そこに貰ったカードが差し込んであった。

 それを見たタローが、眩(まぶ)しそうにした。

 わたしの心が晴れ晴れとしていくのがわかる。



 タローの笑顔が、彼の嘘を帳消しにする。







<つづく> 



オフピステ→ゲレンデ以外の滑走エリア。圧雪の入らない場所。
グルーミング→ゲレンデを圧雪車などで平らな状態に整地すること。
キッカー→ジャンプ台。人の手によって作られたもの、自然にできたジャンプに適した起伏なども指す。
ディガー→ハーフパイプを掘ったり整備したりする人。
スノボー用語集クリック。
ゲレンデ図クリック。
北海道弁参考URLクリック。


 わたしが子供の頃の話です。父の工場に、北海道から来た遠戚のお兄ちゃんがいました。そのお兄ちゃんのお父さんは熊に殺されたんです。形見の腕時計に熊の爪跡が残っていました。あれには、ほんとビックリしました。
 それからへんなことも思い出しました。熊の息ってもの凄く臭いんです。熊牧場で失神しそうになりました。

今日のBGM→クリック。Far Away
この曲はLIBERA という少年合唱団が歌っている「Far Away(彼方の光)」と言う曲です。以前NHKドラマになった「氷壁」(原作 井上靖)のテーマ曲なんですね。これを聞く度に澄んだ青空にそびえ立つ雪山が見えてくるんです。
ココで彼らの生声が聞けますよ。


 年齢を問わず読んでいただきたくてお目障(めざわり)かもしれませんが読み仮名を付けます。

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コメント(14件)

内 容 ニックネーム/日時
え〜!熊が出るべさ。(←合ってる?)「疲れた」が怖いなら、「怖い」は、何て言うんですか?
方言の会話文が、テンポが良くて心地いいです。
またそろそろ事件が起きるのかな?
ia.
URL
2008/05/01 00:42
うーむ。方言が見事にはまってる。それにしても滑走禁止区域ってなんであんなにいい斜面が多いんですかねぇ(笑)
つるさんの書くお話は製本された状態で、じっくりとページを捲りながら読みたいなぁ。どうやら長丁場になりそうなんで、心して通いますよ〜^^
レイバック
URL
2008/05/01 01:39
ia.さん、いつもありがとう。
たぶん「え〜!熊、でるんかい?↓」「熊、でんのかい?↓」って下がると思います。「怖い」は「おっかねえ」です。ついでに言うとゴミは「捨てる」じゃなくて「投げる」って言います。そういう意味では、わたしゃバイリンガルだ〜。わたしの父は熊鈴をつけて2里の山道を小学校に通ったそうです。親もよく子供を送りだすよね。ブルブル。
事件はね。ミステリーじゃないから大したことないんですけど、山場は3日目です。まだ2日目だね。チンタラしててごめんね。連載だと、途中のだらける部分のもっていき方がまだよくわからないなあ。気づいたことがあったらアドバイス下さい。
つる
2008/05/01 01:49
レイバックさん、いつもありがとう。
滑走禁止区域ね。これから出てくるその水野の沢って言うエリアはいずれ全面開放を目指して4シーズンに渡ってアバランチコントロールをしてきてるそうです。カナダかどっかの専門家の指導を仰いでるって読みました。近い将来あるんじゃないですか。ここがまだ無理でも、じゃがいもみそしるコースの上あたりにもまだまだいいところあるらしいし。
ところで冬のニセコで−10℃経験しました。ゲレンデの放送で聞いてぶったまげました。風がないからそれほど寒さは感じなかったけど、風があると−3℃くらい体感温度が違うって地元の人が言ってました。今はオーストリアを中心に外国の方が多いらしいです。また行きたいなあ。
>じっくりと〜
泣きそうに嬉しい。2日目の午後からテンポ良く行きます。書いてるこっちも少々飽きてきた。スノボーもでてくるけど、この女の子の心情がメインなんで、そこで期待外れだったら今から謝っちゃいます。
つる
2008/05/01 02:55
高校のとき、学校の近くで熊に会ったべや。おっかねがった。図体がでっかくて。べこくらいあったべか?
似非方言タイム終了。

方言って地元に住んでる人間は普通に使ってるから、全国どこでも伝わる言葉だと思うときありますよね。つい2年ほど前まで「うるかす」が共通語だと思ってました(^^;

追伸:明日は連休前最後のゴミ収集日。溜まったゴミを集めて縛って投げて来ないと。

URL
2008/05/01 22:44
鯨さん、ゴミ収集車に間に合いましたか?っておい!
地元の人や〜ん(;´Д`)/ 
恥しいなあ、もう。あやしい北海道弁でごめんよ。
「うるかす」で思い出した。わたしもずっと「鮭」と書いて「しゃけ」と読むと思ってましたよ。今の学校教育の「10分」と書いて「じっぷん」とふり仮名をつけさせるより、いんでないかい?
熊は昔と違って、ずいぶん里まで下りてきてるみたいですね。立ち上がると大きいものね。父が「いざとなったら熊の懐にとびこめ」とか言ってたけど、ムリ!
話し言葉でおかしいところがあったら教えてください。「刺す」が「刺ささる」とか、「書く」が「書かさる」のように受動的にいうみたいなんだけど、こういうふうにいう他の動詞に何があるのかわからないんです。
いつも来てくださって、ありがとう。
つる
2008/05/02 22:12
残念ながら津軽海峡は渡りません。ギリギリ本州に残ってます(^^;
どうも北海道や津軽と一部方言が被るようです。ややこしかったですね。おもさげながんす。
熊は自分の懐を攻撃出来ないから抱きつけば大丈夫だってのが昔の人の教えらしいですね。無理!
最近はテレビやラジオの浸透で小さい頃から方言を聞く機会が減り、自分くらいの年代では地元訛りで喋られても理解出来ないですね。方言が死んでるわ〜。
それでも「書く」を「書かさる」は使ってました。ボールペンのインクが出ないとき、
「このペン書けない」ではなく「このペン書かさらない」

URL
2008/05/03 12:19
鯨さん、ありがとう。お晩でした〜(何故か北海道では過去形)
内地(ふるっ)の方だったんですね。北海道も広いから場所によって方言も微妙に違うみたい。でも全体的に東北と似ているようです。かくいう父のご先祖さんも岩手からの入植でした。だけど浜言葉は別で荒っぽいらしいですよ。小樽の親戚の女の子がそんな感じだったなあ。でも札幌は全然違う。語尾に「さ」がつくだけみたいだった。超マイルドになってます。最近は若い人がシャレで「したっけ」「したから」「しから」「したけど」なんていう接続語を好んで使ってるみたい。
>書かさる
やっぱそうなんだ。でも「書かさらない」って言うと、自分の力の及ばない仕方のないことなんだってうニュアンスがよく伝わりますね。
>おもさげながんす。
語感がいいわあ。
「勘違いさせるようなことを言ってごめんなさい」って言うような意味でしょうか。違うか?
つる
2008/05/04 01:33
「おもさげながんす」は“申し訳ない”が訛った「もさげね」に、相手への敬意を表す丁寧な言い方“御”を加えた言葉です。
正しい発音で漢字表記すると「御申し訳ない」になります。南部訛りで「おもさげながんす」
自分の非を認めて謝るときや、何かしてもらって感謝したときに使います。
浅田次郎さんの『壬生義士伝』で初めて知りました。地元民なのに(〃´・ω・`)ゞ

URL
2008/05/04 13:16
へ〜そうなんだ。「お」と「がんす」を取って「もさげね」って音読したほうが、意味が通じますね。でも「お」と「がんす」をつけると、優しいニュアンスになりますね。「おもさげながんす」いい言葉だあ。失くしたくない言葉だけど、鯨さんがご存知ないなら、もう使われない言葉なんだろうなあ。残念だわ。

浅田次郎の「壬生義士伝」も「地下鉄に乗って」も映像化されて知った気でいました。原作読んでね〜

いつもありがとう。
つる
2008/05/04 23:13
北海道弁、調べてみて気が付いたんだけど。
群馬を代表する助動詞で「〜だんべ」あるいは「〜だんべぇ」ってのがあってさー、意味は「……だ!」という断定と「……でしょ?」という疑問なんだけど……
これ、北海道で連発するとヤバクね(笑)
怪訝な顔されたりして(笑)

冗談です^^シモネタじゃん。ゴメンナサイ。
僕ら若い世代は、いわゆる標準語でも生活できますけど、やっぱり方言って大事にしたいものですね。
火群
2008/05/10 02:49
火群さん、いつもありがとう。
調べたんだ。
>「〜だんべ」あるいは「〜だんべぇ」
全然ヤバクないんですけど。どこどこ?どこがシモネタなの?わかんないよ。
札幌弁も「〜さ」「〜しょ」くらいですかね。若者はだんだんマイルドになってきてます。
方言て、その土地の空気とか温度とか風景とか、そういう中で聞いてこそ、ですよね〜。
つる
2008/05/10 20:22
筆が乗れてますね!
子供との会話、テンポよくて楽しいです!
へえー、「こわい」て疲れる意味なんだ。

前回の子供は拒否反応てのは、親の方が子供が賭けに興味持つことに対して拒否反応を持つの意味でした。
言葉足らすだったべや。
銀河系一朗
2008/05/25 23:48
銀河系一朗さん、いつもありがとう。
乗ってる?ほんと?
読み返したらここらあたりの細かいことは、けっこう忘れてますねえ。子供とのシーンは書いてるのが楽しいです。逆に説明シーンは面倒くさい。そういうのは書いてるこっちも楽しくないから、読まされるほうは迷惑ですよね。そこらへんの工夫をもう少しできるといいんだけど。
>拒否反応
あ〜そういうことだったんですか。文にすると微妙なニュアンスがなかなか伝わりにくいものね。口語って便利。だけど、そのまま書くと文法めちゃくちゃなのね。小説のセリフってウソ。だから、本当に見えるように書くのが難しいです。
つる
2008/05/26 00:54

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