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zoom RSS 「スノーボーイ」10

<<   作成日時 : 2008/04/27 21:07   >>

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photo by Niseko Village

「スノーボーイ」10

 「ここにいれ」

 タローがわたし達に言って、リフト乗り場に向かった。
 誰か知合いでもいるのかしら。
 ジローと2人で待つゴンドラ駅の前は、足元から冷気があがった。

「しばれるね」と、わたし。

「なんもさ。東京の人だら、すぐ『しばれる』言うちゃるけんど、もっとさぶくなんねえと『しばれる』言わんべさ」

「もっと、って?」

「−10℃くらいしょや」

「ひゃ〜、そうなんだ。あのさ、ジロー」

「なん?」

「さっきのことなんだけど」

「言ったらだめだべ!」

 まただ。この子達は、言われたらマズイ事ばかりだ。

「わかった、言わない。だから教えて」

「なにばさ?↓」

「いつもこんなことしてんの?」

「いつもじゃねえべ」

「欲しいものがある時?」

「(そういう)時もあるけんど、そん時によんだわ。だいたいあんちゃんが滑ってっと、そったらことになんだわ。誰だってそうだべ。速いやつ見れば勝負とかすんべ。ふつう」

「ふつう、なんだ。ふーん」

「したけど、さっきのは特別だわ」

「特別て?」

「あんちゃんの板、あるしょや」

「ああ、あのX(ばってん)マークの」

「あン板ば持っとった人が、小久保って人の知り合いの知り合いみたいな感じで」

「あ〜それでその話が小久保君て子の耳に入ったんだ」

「うん」

「なんか怒ってたみたいだったもんね」

「したけど、次は負けねえべや。東山だらあんちゃん、絶対勝つべ」

「つ、次て――」

 軽く息を弾ませたタローが滑ってきて、わたし達をゴンドラの列に促した。あれから20分くらい経っただろうか。

「ほらっこれ! ばななにやる」

 列に並ぶと、タローはわたしにテレカのカードのようなものを見せた。それはニセコ全山共通券だった。それがあれば3つのスキー場の、どのリフトにもゴンドラにも乗れる。各スキー場を繋ぐシャトルバスにだって乗れる。

「東山の(リフト券)っかないしょや」

「そうだけど。どうしたの、これ」

「……」

 タローが不思議そうな顔になる。わたしが素直に喜ばないからだ。

「タロー。これ、どうしたの?」

「拾ったんだべ」

 嘘だ。タローの長く白い息が言ってる。たった今、賭けスノボーしてきたって言ってる。

 悪びれもしないでいるタローの顔。その目がリスになる。

《ホラッコレ! オマエニヤル!》
 昔昔、深い森がありました。
 その年の冬は長く、森の奥に住む動物達はすっかり食べるものが無くなってしまいました。
 美しいシマリスの娘も例外ではありません。お腹がすいて困っていました。すると隣の木に住む若いシマリスがやって来て、ドングリをくれると言うのです。
《いいえ。けっこうです。そのドングリは、エゾリス爺さんを半殺しにして巻き上げたものじゃありませんか。森のみんなが言ってます。そんなドングリ、貰うわけにはいきません》娘は言いました。
《ヒロッタンダ》
 娘を見る若いシマリスの目はきれいでした。娘は森の噂を信じた自分が恥ずかしくなりました。彼の言うことのほうが本当なんだと思いました。


 ううん、違う違う。危(あや)うく騙されるところだった。

「だめだよ」そう、嘘も賭けもだめだ。

「いいべ」

 尖(とん)がった上唇を、さらに尖がらせてふてくされるタロー。

「ちょっと、そこの人。乗るんですか乗らないんですか?」係員がわたし達を急(せ)かした。

 タローはわたしにカードを押し付けると、さっさとジローに続いた。「ちょ、ちょっと」後を追ってゴンドラに乗り込むわたしもわたしだ。彼らに振り回されている。







「やっぱりこんなのだめだよ。人のものを取るなんて良くない」

 わたしはさっきの話を続けた。
 ゴンドラがゆっくり振られた。終点まで8分。中は立ったままだ。

「なして?↓」ジロー。 

「どうしても。そういうもんなの」

「関係ねえべや。誰にも迷惑かかってねえしょ」タロー。

「迷惑て」

「したから〜」説明しようとするジローに、

「勝負だら仕方ねえべや」一言で片付けるタロー。

 わたしは黙った。なぜならゴンドラに乗ってしまった。彼らのしたことをいくら言葉で否定しても、自分の行為はそれを肯定している。その矛盾に気づいた。

 わたしは2人のお喋りに置いてきぼりにされる。

「は! 得したべ。これ、いらんちゅうたさ」

 ブリコのゴーグルを外したタローがあっけらかんと言った。小久保君とした賭けの対象はそれだった。
 
「いかったべさ〜。オラは手袋ば、ばくられた時、手ぇかじかんだべさ」

「あ〜小野のとこのちゃんこいのにぃ?↓ あれからなした?↓」

「ばんきりえばってるべさ。オラ、きもやけてきもやけて」

「は! アイツ調子こいてっから、そっだらうち、みんなしてあまされんべ」

「したらいいけんど。あ〜勝たさるまであづましくねえべや」

「こんつぎ、はっちゃきこくべさ」

「んだな」 

 こんなに近くにいるタローとジロー。なのに2人がものすごく遠い。



 
 彼らの理屈はわかる。

 賭けた当事者同士が納得してやってる。勝負だから勝ったら取る、負けたら取られる。それだけだ。誰にも迷惑をかけない。

 そして、タローは誰かと勝負して全山共通券を手に入れた。
 手段がまともじゃなくても動機は純粋だ。わたしが困ってるから。

 タローの気持ちは嬉しい。

 なのに、その前に善悪を口にするわたしがいる。 

 ――なんだよ。ただの大人じゃないか。

 わたしは大人になるのが嫌だった。何故なら大人が腐ると同義語だと理解していたからだ。

 ――とっくに腐ってた。

 アンヌプリ山の稜線を見ながら、そんなことを思った。

 勝負に勝っても格下の少年からブリコを受け取らなかった小久保君。
 負けて大事な板を交換したという小久保君の知り合いの人。

 なんだか潔(いさぎよ)いなあ。



 タローとジローはそういう所にいる。






<つづく> 


ブリコ→ゴーグルのメーカー。レンズがいいらしいですよ。
北海道弁参考URLクリック。



 時々、自由な発想な子供を見ると、へんな枠で括りたくないなって思います。子供達の北海道弁は雰囲気だけわかってくださればと、敢えて注釈つけません。気になったら参考URLをクリックしてください。

今日のBGM→クリック。

 年齢を問わず読んでいただきたくてお目障(めざわり)かもしれませんが読み仮名を付けます。

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コメント(6件)

内 容 ニックネーム/日時
子供のころって早く大人になりたい派と大人になんかなりたくない派に分かれますよね。
大人は汚い、なりたくないと言っても、いつかは大人にならなければならない。だったら格好いい大人になれば良いんだけど、これもまた難しいんですよね。
守られる側を過ごしたら、今度は守る側に立たされる。そうやって世代交代しながら世の中は回って行く。回る回る、時代は回る〜。

URL
2008/04/29 01:04
ぼくも子供に限らず、他人をどうしても「こういうタイプの人」という風に括りたくなります。昔一時期流行になった「動物占い」みたいな感じで。人の性格を型にはめこむことができたら楽ですしね。
でもそんな簡単に分類ができたら苦労はしないですよね……。これだから人物描写ってやつは大変です。著者の腕の見せどころですね^^
shitsuma
URL
2008/04/29 11:29
鯨さんはどっち派だったのかな?
ばなながこんなふうに思ったのは、当時のわたしがそんなふうに考えていたからなんですが、まあ、わたしのことなんてどうでもいいです。
中身が伴っていないと大人でいることも不安ですよね。格好がいい大人かあ。人によって価値観が違うからな。適当に力が抜けてるのが好きだけど、それを不真面目と言われればそれまで。
>回る
回りすぎるあの歌を思い出しました。
いつもコメントくださってありがとう。
つる
2008/04/29 22:16
shitsumaさん。ほんとそう。初めて知合った人はどうしてもそれまでの自分の経験値で分類したくなる。
わたしはとんでもない子供に出会うと精神的に翻弄されます。でもなんかわくわくします。その子の情報がある程度インプットされるまでずっとそんな感じ。ばななも只今、入力中。
人物描写は難しいね。どっちかというとセリフより行動で見せたいな。
いつもコメントくださってありがとう。
つる
2008/04/29 22:31
日本人は基本的に農耕民族だから賭けに拒否反応あるのかも。特に子供はね。
でも、それじゃあ狩猟民族がしのぎを削る国際競争には勝てないと思うんだな。




銀河系一朗
2008/05/23 00:17
銀河系一朗さん、いつもありがとう。
賭け事お好きですか?わたしだめ。儲かるイメージが湧かないの。実家の両親は麻雀も競馬もするのにね。パチンコや競馬に連れて行って貰っても○円スったら辞めよう、て決めてからします。つまり初めから損することが前提なのね。
えっ、子供は賭けに拒否反応あるの?したらこのお話は成り立たないよ。そういう子もいるってことでお願いします。
>国際競争
体格のいい子がクラスで幅をきかせるように国土が狭いとだめなのかもね。
北海道ものを書いているうちアイヌのことも調べたのね。彼らは狩猟民族だったけど松前藩に搾取されたでしょう。和人がやって来るまで、彼らは部族間で争いがあっても話し合いで解決したらしいんです。狩猟民族にもいろいろあるんだなって思いました。だけど確かに外国映画なんかではポーカーのシーンとかよく出ますね。それで愛用の釣竿とかお気に入りの腕時計とか賭けてる。あれって、ふつうなんですかね。
つる
2008/05/23 02:48

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