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zoom RSS 「俊足」6

<<   作成日時 : 2008/03/14 19:15   >>

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photo by flickr



「俊足」6
 次の年、圭太は六年生になった。
 運動会の前におじいちゃんは肺炎になった。春先にひいた風邪が長引いて、一月(ひとつき)もの入院になった。
 お見舞いのベッド脇で徒競争の報告をする。

「また三番だった」

 言った途端に込み上げて窓の方へ立ち上がった。そんなつもりじゃ全然ないのに、どうしてこんなに涙もろいんだろう。

「それでも最後の組の一つ前で走って、三番だなんてすごいじゃないか」

「すごかねえよ。四人で走って三番だよ。四番は女だし。じゅんぺいなんて、最後の組でまた一番だよ」

「ははは。靴はお母さんに買ってもらったのか」

「うん」

「そうか」

「うん」

 それきり何も話すことがなくて、花瓶に生けられたオンシジュームとスイトピーを指で弾いた。
 泣き虫のくせに人一倍悔しがりの圭太。運動会が終わってクラスの皆の気持ちが修学旅行の計画作りに向けられ始めてるというのに、まだ引きずっていた。
 やっぱ靴じゃない――ようやくわかった。“瞬足”のサイズは24.5cmまでだから、今履いているシューズで卒業だ。

「圭太は長距離向きだな」おじいちゃんが言うので、

「何でさ」と、圭太が振り向いた。

「じいちゃんもそうだったんだ」

「いつ」

「兵隊の頃だよ。かぞえで十九だ。“かけ足”だけは分隊の誰にも負けなかったよ」

「自慢?」 

「違うよ。短距離と長距離は別ってことだ」

「かけ足ってどんくらい走んの?」

「辻堂から鎌倉までとかそんなもんだ」

「ふーん」

 にわかには信じられない話。

 圭太も十九にさえなれば、いきなり速くなるとでも言うんだろうか。いや、今速くなきゃ意味ないんだと思った。それに、いつか靴のことでお母さんに言い返せなかったおじいちゃんのことだ。口だけの気休めかもしれない、とも思った。

「なあ、圭太。『努力は人を裏切らない』って知ってるか?」

「先生も言ってる」

「そうか」

「ねえ。じゃあ、おじいちゃんは、努力したの」

「努力もなんもないさ。農家だったもの。馬耕つってな、馬を使って田んぼを耕したり、肥えを汲んだり、薪を割ったり、毎日がいやいやの鍛錬(たんれん)みたいなもんだったよ」

「ふうん」

 読んでいた新聞をバサバサとすると、お父さんが言った。「じゃ、そろそろ行くか」

「今年は圭太の運動会も見晴山の桜も見そこなったなあ」おじいちゃんが残念そうに言った。





 帰りの車中で圭太は聞いてみる。

「ねえ、お父さん。おじいちゃんは本当に長距離が速かったの」

「さあ、どうだろ。自分ではそう言ってるけど」

「見たことないの?」

「見るも何も、戦争から帰って来た時はもう足が悪かったらしいからな。俺たち兄弟の誰も見たことないよ」

「戦争で怪我したんだ?」

「違うよ。上官に活(かつ)を入れられた、とか言ってたな。だけどあんまり戦争中の話はしないから、詳しいことは知らない」

「活って何?」

「しごきだよ。今で言うイジメ。当時は何かっていやあブン殴られてたらしいからなあ。でも親父の場合は足だろ。妬(ねた)んでやられたんだとしたら、本当に親父の言う通りなのかもしれないな。どっちにしても戦争中に生まれなくて良かったってことだよ」

「ふうん」

 本当のことはわからずじまいだった。





 それから少しして、おじいちゃんは退院した。肺炎の予後は、在宅酸素が手放せなくなった。
 秋になると順番待ちをしていた介護施設に空きが出たとかで、圭太の家からそちらへ移ることになった。
 
 おじいちゃんの荷物が運び出された和室。少ない荷物だったが、いざ無くなってみるとやはり広い。
 最初の二三日こそ、おじいちゃんの使う酸素のポコポコいう音がしない夜を寂しく思ったけれど、すぐに慣れた。
 もともと圭太の一人部屋だったところにやって来たおじいちゃん。狭い3LDKのマンションで一年と半年ちょっとの相部屋だった。
 その間は、おじいちゃんの手前、友達を呼ぶのも少しだけ気兼ねしてた。ちょうど思春期になりかかった圭太は、友達を大っぴらに呼べるようになったことの喜びの方が勝(まさ)って、いつのまにかおじいちゃんとの記憶も薄くなっていった。




<つづく>



かぞえで十九→満で十八歳。昔はこう言いましたね。
徴兵検査は満で二十歳から。おじいちゃんは志願兵だったんですね。参考URL

活(かつ)を入れる→@活の術をほどこす。A気力をおこさせる。(新選 国語辞典/小学館)



 
 「家族と顔をつき合わせている時間を分母にしたら、分子になる語り合う時間の数字はなんて小さいんでしょう。分子を少しでも大きな数字にできることを願ってやみません」つる公式発言

「けっ!『願ってやまない』とか皇室発言かよ。“ローマの休日”のアン王女じゃねえつーの。それより匂うな。じいちゃんのことをお父さんに語らせるって何かあったぞ。ああ、あれだ。“アメリカン・グラフィティ”だ。確かオリンピックに出たとか言うじいちゃんが出てくるんだったな。生年月日とオリンピック・イヤーのつじつまが合わなくて、皆にホラ吹きと思われてんだけど、それが少しでも若く見せようとした嘘から出たホントの話ってわかるのは、本人じゃなくて他の登場人物の口を借りて、だったわ。それって物語の王道だろ。そうだよ。ちっとも珍しくもなんともねえ手法よ。なんだかなあ。
次回は最終回か。うわ、ナゲー。メンドクサっ!」担当編集者独り言


 今日のBGM→クリック。ほんとの気持ち

 年齢を問わず読んでいただきたくてお目障(めざわり)かもしれませんが読み仮名を付けます。

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コメント(10件)

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何という急展開。じいちゃん最終話でポックリいったりしないですよね(・_・?)
寂しさより喜びが勝ってしまうのは何となく分かるな。そういうもんなんですよね少し酷だけど。

URL
2008/03/14 20:12
あ、鯨さんにヒットされました!
そんなわけで、じいちゃん、ここでうっすらフェイドアウトです。年寄り使うから、ここは王道行きます。年寄り、こども、動物、このへんはお約束がありますからね。動物ださないだけでも、褒めてくれ〜。そして、圭太。薄情なもんです。子どもって心を寄せてやっても、そんなもん。
つる
2008/03/14 22:35
この年頃って微妙ですよね。人前で涙は見られたくない。家族へは、感謝より気恥ずかしさのほうが強い。
さすが、つるさん。オトコゴコロがわかってますね〜♪え?子供だけ?
ヘンに正義感ぶるより、こういう素直な子供のほうが好きです。
ia.
URL
2008/03/15 09:12
ia.さん、いつもありがとう。
子どもは素っ気ないから、逆に大人の気を引きますね。言うことをきかない子どもを素直じゃないとか言う人もいますが、素直だから、我儘言ったり、主張したり、拗ねたりするんですよね。そのへんのところia.さんもよくわかってらっしゃると思いました。
そのうち、この子たちで、お話を書くつもりなんです。馴染みができたから、書きやすそう。
つる
2008/03/15 10:52
毎回、桜の写真がはってあって、ちょっとだけ季節を先取りしてますね。春の運動会なのかな? 私は春に運動会ってなじみがないので不思議な感じ。中学受験とかが多い地区では秋に運動会をしないんですってね。
あと、この子たちが今度の主役になるんですね。時代はちょっと前なのかな?
七花
2008/03/15 17:22
最近の子供と祖父の関係はそういう感じなのかな。

自分はもっと祖父に話を聞きたかった。
霊感もあったらしい。
銀河系一朗
2008/03/15 19:25
七花さん、いつもありがとう。
運動会はね。こっちは春と秋と交互だったりします。春の運動会ほどシラけるものはありませんよ。秋から半年しか経ってないから、子どもの成長があまり感じられないのね。だから秋は盛り上がりましたね。この辺は受験する子が確かに多いです。でもだんだん不景気になってきたからね。いろいろです。
>今度の主役
うん。そこなんだよね。長くなりそうで、取りかかれずにいます。直毅たちが「理想の高校生」だから、小学校を舞台にした十年くらい前の話になるかな。ゆとり教育や、少子化に伴う学校の統廃合が話題になり始めた頃の話です。「学芸会」のことを今は「研究発表会」っていうそうです。そのへんの皮肉を込めて書きたいんだけど、秋までに終わるのかな。とりあえず、その前に練習で女の子の話を書くつもりです。
つる
2008/03/15 19:50
銀河系一朗さん、いつもありがとう。
>そういう感じなのかな。
そういう感じっていうのは、喋らな過ぎってこと?それとも圭太の素っ気ない態度のこと?
家族って「あれはどこだ」とか「ご飯は何」とか目先のことはよく話すのに、肝心の話はなかなかしないなあってことで、こんなです。
系一朗さんは、おじいちゃんに話を聞きたい子どもだったんだ。おじいちゃんからしたら、かわいくて仕方なかっただろうね。うわ、霊感かあ。そこ受け継いでます?
そうそう、「心の俳句」わかりました。友蔵ですね。リンク貼ってみました。
http://www.nippon-animation.co.jp/na/maruko/
haiku.htm
つる
2008/03/15 20:07
先日せっかくブログにコメント頂いたのにこちらで誤って削除してしまいました・・。申し訳ないですm(_ _)m
トオル
2008/03/16 00:02
あ、トオルさん、わざわざありがとう。
大したコメではないです。気にしないでください。
トオルさんの記事には、時々ハッとさせられることがあります。あの記事も良かったあ。
そのあとの妹さんとの記事もじんときました。啓発されて、今度お兄ちゃんと妹の設定で何か書こうかなーって思いました。
つる
2008/03/16 01:18

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