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<<   作成日時 : 2008/03/05 22:05   >>

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「俊足」2
次の日の水曜日。4時間授業の早帰りの日だ。

 圭太は自宅マンションの前で、じゅんぺいたちとバイバイした。いつもならする遊ぶ約束もしなかった。
 和室六畳の子ども部屋。机の上のドラえもんの貯金箱を開けると、バラバラっとお年玉の残りが1705円。もっとあるかと思ってた。ゲームソフトを二本買ったことをすっかり忘れていたのだ。

「あと千円くらいかあ」正確には925円足りない。

 ふうんと少し考えてから、圭太はキッチンの食器棚に向かった。

 下段の五つの引き出しの下から二番目。そこに予備のお金が入ってる。昨夜だってお母さんがおじいちゃんから受け取った年金を、白い封筒に仕舞うのを見たばかりだ。
 屈(かが)んで引き出しの取っ手に手をかけた。そろそろと引くと銀行のネーム入りの白い封筒が見えた。手に取って中を見ると、一万円札と千円札がたくさん入っていた。ちょっと見で何枚入っているかわからないくらいたくさんだ。
 圭太の一ヶ月のお小遣いは千円。あと三日もすればもう来月のお小遣いの日だった。
 こんなに何枚も封筒に入っているんだもの、一枚くらい抜いたってわからないだろう、お小遣いが入ったら返しておけばいいんだ、盗むんじゃない、借りるだけだ、と自分に言い訳した。
 借りるだけのはずなのに、半分開いた口から心臓が飛びだしそうだった。封筒からそろそろと千円札を一枚引き抜こうとしたときだった。

「何してるんだ」ふいを突かれて、

「わっ!」

 ビックリした圭太は尻餅をついた。真後ろに、おじいちゃんが立っていた。

「な、何って。おじいちゃんこそ何でいるの……」

 月曜日と水曜日はおじいちゃんのデイサービスの日だった。デイの日は夕方の5時過ぎまで戻らない。デイに行かない日でも、圭太とおじいちゃんは年寄りと子どもは寝るのが早いという理屈で同じ部屋なのだ。今いなかったじゃないか。しかもお母さんはパートの日。お姉ちゃんは中学校。だからこの家には誰もいないはずだったのだ。
 まさかベランダで一服しているおじいちゃんに、自分の行動の一部始終を見られてるだなんて思いもしなかった。

「今日は休んだんだよ。膝が痛むからな。おまえこそどうしたんだ。え?」 

「よっこらしょ」と大儀そうに手をついて、胡坐(あぐら)をかいたおじいちゃんが、圭太の顔を見た。

「金がいるのか?」

 いきなり大声で叱られるとばかり思っていたのに、おじいちゃんの声は普通だった。だから観念してちゃんと説明しようと思った。だけどなんだか喉の奥が詰まって、

「オレ、オレ――」言葉が出てこない。

「おまえ、もしかしたら――」

 圭太はそれだけでわかった。きっと、おじいちゃんは昨夜のお母さんとのやり取りを聞いていた。

 じっと見られて、おじいちゃんの顔から目が離せない。
 盗るつもりなんかじゃなかったこと、返すつもりでいること、本当に靴がいるってこと、今日行かないと売り切れてしまうかもしれないこと。
 でもだめだった。あとからあとから込み上げてくるものを飲み込むのに一生懸命で、何から話していいのかわからなくなった。

 ごめんなさいも言えずにコクンと頷いた。顔が振れた拍子に涙がポトンと落ちた。

「靴を」コクン。ポトン。

「買いに」コクン。ポトン。

「行こうか」コクンとしかけた圭太が「え?」と言っておじいちゃんを見た。
 
「さあ、善は急げと言うぞ。そうと決まったら支度支度。ああ、金は戻しておけ」

 ゴシゴシと袖で涙を拭う圭太の目に、なんだかすごく張り切っているおじいちゃんが映った。
 いそいそと圭太の部屋に上着と帽子を取りに戻るおじいちゃんは、とても膝の具合が悪くてデイを休んだと思えない動作だ。

「さあ、行くぞ」

 と、玄関でもう杖を手にしている。

「田舎の人だから仕方ないけど」お姉ちゃんに、おじいちゃんのことをこぼしたお母さんは、同居の始めに黒長靴だけはお願いして止めさせたけれど、それでもおじいちゃんの格好はどう見ても東京の人のそれじゃない。
 長患いのおばあちゃんを看(み)取って、いろんな事情で五男の圭太のお父さんのところへやって来た。それが今年の初めのことだ。そんなにすぐ東京に慣れろって言う方が無理だった。
 圭太は時々おじいちゃんの散歩につき合った。近所の案内がてら並んで歩くと、そんなところを友だちに見られやしないかと冷や冷やした。口にこそしなかったけれど、おじいちゃんが恥しいと思った。

「だけど、お母さんが――」お母さんは一度ダメと言ったら絶対ダメだ。

「お母さんには、じいちゃんから言うから。じいちゃんが買ってやる」

「や、わるい」

「何が悪いもんか。圭太の、年に一度の大事な運動会じゃないか。それに必要な物なら買って何が悪い。それこそ筋が通ってるってもんだ」

 そんなふうに言われたらそんな気もするけれど、おじいちゃんはまだお母さんのことをよく知らないんだ、と思った。

「さあさあ」

 と、促されて圭太はのろのろと靴を履いた。なんだか二人でいけないことをする気分だった。




<つづく>




 ああ、胸が痛い。生家の乾物屋の隣が貸し本屋でした。漫画が読みたくて読みたくて、釣銭箱から10円20円とくすねました。これはもうジャンル分けでいうところの謝罪小説の類でしょうか。

 今日のBGM→クリック(後半で使ってね)ドラゴンクエスト(全般/他)仲間 


 年齢を問わず読んでいただきたくてお目障(めざわり)かもしれませんが読み仮名を付けます。

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コメント(15件)

内 容 ニックネーム/日時
こら〜よくも泣かせたな。
思い出しちゃったよ。
死んだじいちゃんとばあちゃんのこと。
よく母親からかかばってもらったもんです。
そしてじいちゃんもろとも母親に叱られるのがオチ。
続きは想像できないけど
今夜はここまでで暖かい気持ちで眠れます。

つるさんありがとね。

2008/03/05 23:01
祖父ちゃん年金パワーの見せ所ですね。
圭太は祖父ちゃんに見つかって良かったね。一回だけのつもりがクセになってずるずる行くパターンもありますから。

URL
2008/03/05 23:26
舞さん、いつもありがとう。
じいちゃんばあちゃんを出すのは反則でしたかね。でも主人公は生活してるわけですから、家族抜きには語れない。小説の中で家族の出番を書くのは、けっこう面倒臭いです。
>そしてじいちゃんもろとも母親に叱られるのがオチ。
オチ言うなーーっ!!
すでに昨日も誰かさんにラストを予言されかけてます。たはは。
主人公に言わせたいたった一言のセリフを目指して、ああ、もうどんな物書きさんの声も聞こえない聞こえない。
つる
2008/03/05 23:37
鯨さん、いつもありがとう。
鯨さんのコメ見て、その健全さがまぶしい。圭太くらいの年はね。これでやめるんですよ、たぶん。だけど、自分もそうだったからわかるけど、本当にやめるのは、発覚したり叱られたりのきっかけじゃなくて、自分の中の「気づき」なんだと思います。
>年金
ウラヤマシス。
つる
2008/03/05 23:51
自分も一度、母親の財布から百円とった経験が。駄菓子屋でなんか買ったと思う。結局ばれなかったけど、その罪悪感は感じたな。おかげで一度きりでした。
え!オチを言われてもとぼけなきゃ。
気持ちはわかりますよ。
銀河系一朗
2008/03/06 18:09
銀河系一朗さん、いつもありがとう。
お仲間でしたね。ささ、カミングアウト同士、懺悔の部屋へと参りましょうか。
>え!オチを言われてもとぼけなきゃ。
え?それセオリーなの?
オチを予想されて、それを裏切れる着地だったらほくそ笑んじゃうし、見事大当たりだったら、認めちゃうかな。ほら、あれですよ。重松清とか石田衣良。彼らの本の帯に、泣かせることが書いてあるわけです。その手は食わないと用心して読み始めます。まんまとやっぱり泣くんです。わかっているのに、彼らはさらにそのうえをくるわけです。テクあります。
だから、オチがわかってしまっても「つるの読みたい」なんて思われたいなあ。
つる
2008/03/06 20:09
オチがわかってても、つるさんの読みたいですよ。
本の帯の文章って気になりますよね。ジャケ買いはしないけど、帯買いはします。
いっそ、「次号、どうするママ!?」と煽ってみてはいかがでしょう?
ia.
2008/03/06 23:52
いい。とても好みの展開だなぁ。こういう話に弱いんだよなぁ。話しながらこみ上げてくるところなんか最高じゃないですか。うう(泣)僕も母親の財布からくすねてキン肉マン消しゴムを買いましたよ。→即バレ→大目玉(笑) 
>圭太の行動の一部始終を見られてるなんて思いもしなかった。
書かれてないけど、この文の主語は圭太だから。圭太の行動→自分の行動、の方がいいかもですね^^

レイバック
URL
2008/03/07 00:40
よ、読みたい?
_|\○_ヒャッ ε== \_○ノホーウ!!!
ia.さん、いつもありがとう。
ふだんはね、社交辞令なんて真に受けないんですよ。でもね、G.L.C.A.のメンバーから言われちゃったからね。でへへ。
>帯買い
あそこんとこに書いてある文字に騙されますよね。売るための仕掛けってわかってるんだけど。でも、その仕掛け人たちとは、ふだんづき合いはしたくありませんね。たぶん大ボラ吹き。小っさーい話をこ〜んなに大きくするやつ……あ、大して物書きと変わらないか。
>いっそ、「次号、どうするママ!?」と煽ってみてはいかがでしょう?
トップの作品のところでやってみよっと!
つる
2008/03/07 01:43
ひゃあ、もう一人懺悔の部屋行きの方がお見えになりました。そうじゃないかと系一朗さんと二人して足踏みでお待ちしてました。もうこれで誰もいらっしゃらないかな。キョロキョロ。
レイバックさん、いつもありがとう。そしてキン肉マン消しゴムは確か消しゴムではないんですよね。
で、
>圭太の行動→自分の行動、の方がいいかもですね^^
キタ━━━━━━!!!!
こういうの待ってたんです。ええ、ええ!そうですそうです!三人称単視点!圭太の単視点!てやつでお送りしとりますぅーーーーっ。
次回も是非よろしくお願いします!
つる
2008/03/07 02:03
胸にじーんときました。感動をありがとう・・おじいちゃん、神出鬼没ですね(笑
neon1914
2008/03/07 07:29
neon1914さん、来てくださってありがとう。そしてじーんとしてくださってwでありがとう。
この部分は、ふつうすぎました。もっと捻らないと面白くないですね。まだまだ未熟です。
>神出鬼没
これ一回きりだと思うんだけど、背後に立たれるのは、ゴルゴ13でなくても、いやなものですよね。
つる
2008/03/07 19:49
つるさん、私は旦那とケンカした後は、旦那の財布から千円くらい抜いてます。一万円ならばれるけど千円ならばれないだろうと思って。
罪悪感は感じない。慰謝料だから。
おっと。
子供の純粋な気持ちを思い出して読まなきゃね。
七花
2008/03/11 00:07
補足。
年に2回か3回くらいだよ。
旦那以外の人(両親も)からとったことはないよ。
七花
2008/03/11 00:09
七花さん、いつもありがとう。
いいんだよ、いいんだよ。(夜回り先生風に)わたしもクリーニングを頼まれた旦那の背広に入ってた三千円をポッケに入れたことあります。向こうは始めから無いもんだと思ってるから、お互いハッピー。高校生ものを書いていた時に思ったんだけどね、カッコいいだけだとつまんないんだよね。そこに欠点とか弱さとかの不完全さが共感を呼ぶみたいなんだ。わたしもそう。昼寝大好き。怠け者なんです。それが人間なんだー。
つる
2008/03/11 00:38

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