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zoom RSS 「マックの恋人」4

<<   作成日時 : 2008/03/30 17:33   >>

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「マックの恋人」4

 ロータリーを突っ切って商店街を抜け、ゲーセンを曲がったら川沿いに走った。この桜並木の遊歩道は何だか悲しい気持ちになる。だからいつもは遠回りだ。

 歩道からせり出した枝の柔らかな花びらが、雨に打たれて川に落ちる。川面はそんな花びらたちをはべらせて、いく筋もの白線をつくりだしていた。
 それを横目に、日の出橋、天神橋、常盤橋、御成橋、中内橋の袂(たもと)を通り過ぎた。わたしはずっとこの橋たちの名前を違う名前で覚えていた。

 2つか3つの頃だ。2人で留守番できるはずが、待ちきれなくてこの道まで来た。行ったり来たりするのになかなかお母さんは帰らない。
 お兄ちゃんはわたしに嘘ばっか言ったよ。

「これはアリンコばし。いってみな。アリンコばしって」「あいんこあして、いってみな。ヒック」
「これはおならばし」「あはっ。おなややってえ」
「だからおならばし」「やかやぁおなやあし」
「これはハナクソばし」「こえわぁはなくしょあし」 
「これはポンポコばし」「こえわぁぽこぽんあし」
「ちがう。ポンポコだよ」「ちゃう。ぽんぽこやよ。かーかん、おしょいねー」
「これは……」「こえわぁ」
「泣かないはし……」「なかないあし。あえ? にいたん、ないてうの?」


 違う。中内橋――なかないはし――これだけは本当だった。今ならわかる。でたらめ言ったのは、泣いたわたしの気を逸(そ)らすためだ。けど、最後に自分が涙声になってどうする。はは。
 2人して泣いたから、この道は悲しいんだね。

 雨の中のポワンポワンが1つずつはじけていった。
 
 足が遅いのはわたしの方だった。鬼になってばかりのわたしは、一人じゃ誰も捕まえられない。始めにわざと捕まってくれるのは、いつもお兄ちゃんだった。 
「痛い。痛いよ、お兄ちゃん」 
 痛いくらい強くお兄ちゃんに手を引かれ、それでも頑張って走ると面白いようにみんなを捕まえることができた。

 パンツだって、お兄ちゃんの友達がわたしに言った。
「おまえパンツ見えてる」 
 わたしよりまっ赤になったお兄ちゃんが「もうこっち来んな」「あっち行ってろ」て言ったんだった。

 桃缶だってそうだ。熱のあるわたしに自分の桃をくれちゃったお兄ちゃんは、残った缶汁を飲むしかなかった。

 他の意地悪だってわたしが命令を聞かないからじゃない。命令は聞いた。その後で、お母さんに言いつけるから、そうされたって仕方なかったんだ。

 わたしはよく忘れ物をする子だった。忘れた給食のエプロンも、プールの帽子を届けてくれたのも、失くしたと思ってたアイロンビーズを忘れ物箱から見つけてくれたのも、みんなお兄ちゃんだった。

 困った時は、いつだってお兄ちゃんだったじゃないか。

 昔のお兄ちゃんは優しかった。わたしが、自分に都合良く忘れてただけだ。



 川沿いにある小さな児童公園の緑の下まで来ると、二人ではぁはぁ言って止まった。そこの角を曲がってまっすぐ行けば、もう家だ。
 なんだかすごく可笑しい。お兄ちゃんも可笑しいらしい。だって、肩で息するタイミングぅが一緒なのだ。お兄ちゃんの笑った顔。こんなだったね。

「おまえさ、はぁはぁ。もうちっと男見る目つくれ。わかった? はぁはぁ」
「なんだよ、はぁはぁ。お兄ちゃん見てたら無理だよ。はぁはぁ」
「ふざけんな。こんなカッコいい奴いるかよ」
「どこがだ」

 ピカッと稲妻が走ってゴロゴロと春雷が鳴った。頭の上の緑にパラパラと雨が当たる音がする。
 幼い兄妹が雨を駆けて来る。目の前を通り過ぎる彼らの手はしっかりと繋がれていた。兄妹なんてあれくらいまでが一番いいんだよ。
  
「もう帰れ」また命令だ。
「そっちこそ帰れ」
「いいからおまえ先帰れ」
「いちいちお兄ちゃんに指図されたくない。そっちこそ帰れば」
「俺はいんだよ」
「いいって……どっか行くんだ」
「どこだっていいよ」

 そうか。彼女の所にいくんだ。どこかで待たせてるんだ。
 お兄ちゃんは、始めからわかってた。こうなるってわかってたから、彼女を先に帰らせたんだ。そいで、これから迎えに行くんだ。

 今だって優しいんだよ。わたしが気づこうとしないだけだ。

「し、仕返し」
「ぁあっ?」

 雨で聞こえないみたいだ。空模様を気にしてる。

「五十嵐君に仕返しされたらどうすんのっ?」
「いいよ、別に」

 いいって、それでもいいの? こわくないの? 1人でも平気なの? それとも部活の仲間がいるからダイジョブなの?

 お兄ちゃんが顔をクイっとした。「早く行け」ってことなんだろう。
 失礼しちゃう。こっちはワンコじゃないのよ。ハイ、心配して損しました。
 フン! てしてやった。 
 もう一度お兄ちゃんのクイっ。今度は睨まれた。
 また、フン! てしたけど、まがり角に向かって歩き始めた。少し行って振り返ると、お兄ちゃんも振り向いたところだった。 
 
 昔も今もお兄ちゃんは優しい。

 いつだって優しいんだよ。 



 ――いいなあ、お兄ちゃんの彼女は。



 まだお兄ちゃんはこっちを見ている。
 その顔に思いきりヘン顔してやって雨ん中を駆け出した。

 




                 ――了――



 お話の冒頭に「ブス」使っておいて、その解決を見ませんでした。これじゃミステリー失格です。(ミ、ミステリー?)お兄ちゃんの口から「かわいい」はシラジラしいし、かといって今更第三者でもないだろうし、あやふやなまま終わる〜。
 最後まで連載を読んでくださって、ありがとう。
 「トトロ」頼みのお話でした。

 *今、漢数字の表記に迷っています。横書きだから基本はアラビア数字と決めたけど、本当は抵抗を感じています。そして、「一つ、二つ……」「一人、二人……」が、やっぱり諦めきれません。本人しばらく試行錯誤しますが、そのうち方針も決まるでしょう。読みにくいでしょうが、もう少しだけ我慢してください。


 今日のBGM→クリック。雨音のようなサウンド。


 年齢を問わず読んでいただきたくてお目障(めざわり)かもしれませんが読み仮名を付けます。

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コメント(18件)

内 容 ニックネーム/日時
泣いちゃったよ〜、つるさん。お兄ちゃん、優しい(;へ:)
え?ミステリだったの?じゃあ、次回は「ブスの謎」で。
ia.
2008/03/30 19:02
お兄ちゃん優しいじゃん。
すっかり「ブス」は忘れたよ。

つるさん上手いね。
どんどん惹きこまれちゃう。

『兄ちゃんのクイっ』いい感じ♪

2008/03/30 20:59
あっ、完結してる。
兄ちゃんよか人。兄弟揃って不器用なだけなんですね。

次回こそはミ ス テ リ 期待してます。

2008/03/30 22:10
ia.さん、いつもありがとう。
やっぱ優しいのは、いい(良い)やね〜。We love「北風と太陽」
人の心に響くものを書きたいけれど、自分で読みすぎて最後わけのわかんないことになった。少しでもジンとしてもらえたら本望ダ〜。
>「ブスの謎」
これは古代メソポタミアあたりまで遡りそうだから、やめとくわ。
つる
2008/03/30 22:31
舞さん、いつもありがとう。
「ブス」忘れてた?敢えて触れなきゃよかったワ。
最近ズルイこと覚えましたよ。一話を短くして最終話でドーン!と長くです。昼メロの手法を見習って、小さな「Why」を残しつつ、次回へ繋げようかなって考えてます。
クイっはね。生意気なんですけど、女子に迎合しないような男子にしたかったから〜。
つる
2008/03/30 22:40
鯨さん、いつもありがとう。
たぶん鯨さんの予想を裏切ることなく着地した模様。てへへ。
うん。不器用ですね、きっと。言葉遣いも悪いし。
まあ、わたし自身があまり言葉を信用してないと言うか、行動を見ちゃいますね。言行一致が一番なんですけど、そうじゃない人のほうが多いんですもん。
>ミステリ
むり。手法も知らないし。
でも殺人に限らないなら書けるかもしんない。

わたしの名はテリー・ロバーツ。独身のOLだ。職場では「ミス・テリー」と言われている。<おわり>
つる
2008/03/30 22:58
うーむ。良かったなぁ。いくら優しくても気まずくなる時期はあるし。憎まれ口はね、しょうがないよ、照れ隠しだもん。なんだか子供の頃を思いだしちゃいましたよ(笑) とても勢いのある最終回でしたね^^
レイバック
2008/03/31 00:37
レイバックさん、いつもありがとう。
そうなんです。なんか気まずくなるのよ。不思議だ。
それと憎まれ口ね。あれって、もし憎まれ口をきかないで、フツウに話したらどんななんだろ。ウソくさい会話になるんじゃないだろうか。ホームドラマ見てて思います。ありえねえ〜て。
「お兄ちゃん、いつもボクたちのことを心配してくれてありがとう。じつは今日頼まれてたゴミ出しをウッカリ忘れてしまったんだ。ごめんなさい」「いいんだよ。年上のクセに年下のおまえに頼んだ、お兄ちゃんの方がいけなかったんだ。ごめんよ」
少なくともうちは全員に蕁麻疹でそう。
「いけねっゴミっ!」「フザケっ!氏ねよ」

え?最終回に勢いが?いつもみたいにショボくなかったってこと?わーい!それとも話の〆に向かってトーンダウンの微調整がきいてないってこと?わからん。
つる
2008/03/31 01:55
美しき兄妹愛ですね。照れ隠しをしている二人が、なんとも瑞々しくていいですね^^
つるさん、ミステリーに挑戦ですか。ぼくも十年くらいミステリーを書いていますけど、いまだに「ミステリーとは何なのか」よくわかってません。最近は自分が書いているのが本当にミステリーなのかも怪しいです^^; 要は、読者を騙す『ミスリード』が入っていれば、ミステリーだと思っているんですが……そんな一言で片付けられるものでもないですよね。定義って難しい……。
shitsuma
2008/04/03 10:31
shitsumaさん、いつもありがとう。
言葉遣いのよろしくない兄妹の話でした。
>ミステリー
事件や殺人が起きるのがミステリーだとばかり思っていました。ミステリーって会話が多いですね。謎解きの必要があるからかな。作者が一気に種明かししたいのはわかるけど、あんまり主人公一人で最後に長く喋られてもねえ。なんかそこんとこ、なかなかこのスタイルに慣れなれません。でもミステリーが男性に人気なのはわかる。物事を組み立てて考えるのは男性向きですもん。
>定義
ああ、そういうふうに捉えると広いですね。
「ミスリード」も中途半端だと作者に対して「何だ、コイツ」とか恨みがましい気持ちになるけど、あんまり見事に騙されると逆に小気味いい。
つる
2008/04/03 23:07
完全に美少女イメージで読みきりました。
ブスは自分で思ってるだけと理解(。´ω`)ノ
なんだか、けっこう甘酸っぱい系だった。
これはなんか少年少女に読んでもらいたいね。

僕は、弟が1名いるが、五歳も下なんで、憎まれ口も喧嘩もほとんどなかったなぁ。仲はいいけどね。

良い話でした。
火群
2008/04/05 02:12
あっ火群さん、いつもありがとう。火群さんのような滑らかな文章はなかなか書けません。読みづらかったのではないですか。
>美少女
だなんてそんなあ!わたし、そこまで綺麗じゃないですってばぁ。(え?)
でも読み取ってくださってありがとう。本人が思ってるよりずっとかわいいことは間違いないんですよ。バスケ部の五十嵐君から一応お声が掛かったわけですからね。ただこの子にとっては全ての基準がお兄ちゃんにあるってことで。
>弟さん
意外だったのは、火群さんに女きょうだいがいなかったことかな。でも年が離れてるってことで納得。だからサバイバル的な感じを受けないんだ。そうなんだ。
うちは1番から4番(番号制)まで7つ離れているのですが、上と下はケンカになりませんね。するのはみんな隣同士です。仲のいい兄弟いいな。たぶんうちは事件になったら必ず近所の人がモザイクで言うんです。「いつかこんなことになると思ってました」
つる
2008/04/05 21:31
コメント遅くなってごめんです。

そうそう。
結局、お兄ちゃんは、絶対、妹(弟)思いなんだよね。
収まるべきところに収まってよかったです!
銀河系一朗
2008/04/06 22:49
銀河系一朗さん、いつもありがとう。
うん。なんと言われようとここにしか着地のしようがありません。あたりまえの話をもう少し捻れるようになるといいんだけど。まあ、今風ということで。
つる
2008/04/07 00:51
やっと読みました。遅くなりました。
昔、読んでた少女マンガはたいてい主人公がブスでした。でもお目々ぱっちりでブスにみえないブスなんだよね。

あと固有名詞のことですが、雫井脩介さんの小説には「午後の紅茶」とか「コアラのマーチ」とか商品名がたくさん出てきます。10年後20年後に「なにそれ?」ってことにならないかと心配です(私が心配してもしょうがないけどね)

私は男兄弟がいないので、お兄ちゃんっていいな〜と憧れます。
今日、はなまるマーケットで見たけど、嵐の桜井翔君はときどき大学生の妹さんと二人で外食したりするんですって。いいなー、あんな素敵なお兄さん……。それでファンの人たちから羨望の眼差しで見られちゃうんだ。
七花
2008/04/10 12:58
七花さん、いつもありがとう。
固有名詞ね。あとでなにかに置き換えてもいいように書ければいいんだけど。ただ10年後20年後まで読んでくださる方がいらっしゃるかどうか、そしてわたしが鬼籍に入っていなければ、ですね。それ笑えないわ。

お兄ちゃんていいですよね。素敵なお兄ちゃんならもっといい。だけどそうだったらそうだったで、お兄ちゃんの彼女になる人に、妹として注文も厳しくなりそうよ。小姑ってやつ。ふつうのお兄ちゃんでいいかも。桜井君の妹さんはどうなるかな。
つる
2008/04/10 23:16
私に彼氏ができた時、
「変な奴じゃないならいいけど。」といって
さりげなく心配してくれたお兄ちゃんを
おもいだしました


はぁ〜、めずらしく
お兄ちゃんに逢いたくなったよ


温かいきもちにしてくれるつるさんの作品が

まあはとってもすきですo(*^-^*)o

短編!!!
これを希望します!笑


おやすみなさい
あしたも適当にやりましょー!
まあ
2008/12/17 03:18
まあさん、きてくださってありがとー!チョー嬉しいんですけど。
それにしても、今日はびっくりするほど忙しい一日でした。

へえ。まあさんのお兄ちゃんは良い人だあ。優しいところはまあさんに似てるんだ。
それと思った。お兄ちゃんからしたら、まあさんは自慢の妹よ。美人さんだしね。

うん。短編ね。わかった。なんかネタちょうだい。

さあ、明日もがんばんべー。
つる
2008/12/17 23:19

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