ハキダメにつる

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zoom RSS 「俊足」1

<<   作成日時 : 2008/03/02 21:40   >>

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「俊足」1
「ねえ、買って買ってよお」

 夕飯の支度をしているお母さんの後ろに立って圭太は言った。

「ダメ!」にべもない。

「ねえねえ」

「だめったらダメ! 先月新しいの買ったばかりでしょう」

「あれはサッカー用だろ。今度のは違うんだよ。靴底がね、左右で違うんだ。コーナーでスゴイ差がつくし、みんな持ってるんだ。あれがなくちゃ徒競走で負けちゃうんだよ」

「徒競走のためだけに靴を買うほど、うちはお金持ちじゃありません」

「なんだ、それ。姉ちゃんになら洋服とか買うくせによ」

「中学生と小学生は違います」




 今日の体育は来週にせまった運動会のための徒競走の練習だった。いまどきの徒競走はアトランダムに組んだ四人組ではなく、似たようなタイムの者同士、男女関係なく組まされる。
 圭太たちの小学校の校庭は斜めに70m切り取るのが精一杯だ。三四年生の徒競走は直線の70m走。五年生になった圭太たちは、トラックの3分の2周ほど走る100m走だ。コーナーが二つある。

「だーかーらー、これで走ると全然違うんよ」じゅんぺいが言った。

「おれも違うと思った」タケちゃん。

「オレも」直毅。

 幼稚園の時からずっと一着のじゅんぺいは別として、タケちゃんも直毅も口を揃えてそう言って、靴底を圭太の方に向けた。
 それは“アキレ○”から発売されて、小学生に絶大な人気を誇る“瞬足”シリーズ。売りは“左右非対称ソール”といって靴底に刻まれた溝だ。それが従来のものと違って、左回りのコーナーで抜群の威力を発揮するという。

「それだけじゃねえよ。スタンディンググリッドっていってここんところなんだけどさ、スタートする時、ガッチリ地面を踏んでる感じで全然違うんだ」

「早くしないと売り切れちゃうかもよ。商店街の靴屋さ、おれと同じタイプの黒、あと一足しかなかったもん」

「オレなんて駅ビルの“ビッグウェンズデイ”まで行ったよ。お母さんがあそこならあるだろうって、JJ−164の黒、人気あるからさあ」

 彼らの話を聞いているうちにいてもたってもいられなくなる圭太。今の話、周りのみんなも聞いていたんじゃないか、そんでもってクラスのみんなが運動会までに買って履いてくるんじゃないかしら、と気を揉んだ。
 今日も三着だった。毎年三着か四着だ。ただでさえそう速くもない足で、これがなかったらもっと惨(みじ)めに負けるような気がしてきた。こうなったら、何がなんでも欲しくなる。





「ねえ」ねばる。

「しつこいよ。あんたが言ってることいちいち聞いたらキリがない」

「他に何も欲しいって言わないからさあ。お願い。マジ頼む。あれ買って」

「ダメ。あれがないと負けるとか言うけど、あってもどうかしら。だって、いつもビリかブービーじゃない」

「何だよ、それ。ビリとか言うな。自分の子が信じらンねえのかよ。あれがあれば一番だよ」

「な訳がない。一番は一番でも履きなれた靴が一番。それでなくても、今、足が大きくなってるところでしょ。どうせ買っても三月(みつき)ともちません」

「ケチ! 出してくれたっていいじゃんか。たったの2625円なんだよ」

「ケチじゃありませんよ。『たったの』言うけど、そういうのが無駄遣いって言ってるの」

「ケチじゃんか! いいよ、自分で買うから!」







<つづく>


“瞬足”クリック


 暖かい日があって桜に想いを巡らせました。少し開花には早いけれど季節の先取りです。桜と“アキレ○”の運動靴で思いついたお話、四話ほど続くでしょうか。よろしくおつき合いください。

今日のBGM→クリックドラゴンクエスト(全般/他)間奏曲

 年齢を問わず読んでいただきたくてお目障(めざわり)かもしれませんが読み仮名を付けます。


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コメント(25件)

内 容 ニックネーム/日時
いや〜主人公の気持ちわかるな〜
何故か、自分の親だけ買ってくれないって思うんですよね
それで、粘ったら親と大喧嘩になったり(笑)
孫琳
2008/03/02 22:14
わかる、わかる。
それがあればって思う気持ち。
私だったら買っちゃうんだけどな。
ホント息子にはアマアマだからな。
でもさ〜今時の子ってお年玉とかたくさん溜め込んでそうだから自分で買わせたほうがいいかもね。

2008/03/02 22:30
わ、孫琳さん。来てくださって嬉しいな、ありがとう。
>何故か、自分の親だけ買ってくれないって思うんですよね
親側から言わせてもらうと一度ダメって言ったら引っ込みがつかないところあるんですよ。本当は子どもの言う通りだって、わかった後もです。一貫した姿勢を見せなきゃとか思うんです。だから大した理屈はなかったりします。どうぞ、粘っちゃってください。
>大喧嘩
してるうちが花ですよ。相手の言い分がわかりますから。話さなくなったらお終いです。
つる
2008/03/02 23:29
舞さん、いつもありがとう。
ふふふ、アマアマなんですか。
親って子どもにダメと言いながらもグラグラきちゃいますよねえ。
>それがあればって思う気持ち。
子どものこと言えませんよ。未だに、新発売の化粧品を手にした時、そう思ったりしますもん。
>お年玉
うん。そういうふうに工夫して手に入れたものは大事にする気がします。
つる
2008/03/02 23:37
なんだか自分の中学生時代を思い出します。スラムダンク・ブームに乗っかってバスケ部に入ったんですが、みんな履いてるバッシュがNIKEなんですよね。それでぼくも大してうまくないのに、NIKEのバッシュさえ買えば何とかなるような気がして、親に「買って」とせがみました。前に履いてたバッシュがボロかったこともあって、なんとか買ってくれることになったんですが、買いに行ったらNIKEが品切れで、結局は違うメーカーの奴にしましたけど(笑)よくありましたね、こういう経験。今は……う〜ん……。
shitsuma
URL
2008/03/03 01:09
あ、shitsumaさん。嬉しいな。来てくださってありがとう。
>スラムダンク
みんな好きですよねえ。わたしもです。何か夢がありますもんね。流川とか気絶するほどカッコいいです。
靴に限らず、男子って形から入るというかグッズものに弱いような気がします。だけどバスケはやっぱ足元見ちゃいますよね。ホント。センスのいいシューズ履いてると、上手そうに見えてしまいますもん。騙されますね。本当だったら、素晴らしいプレイでダサいシューズをカッコよく見せなくてはいけません。
>NIKEが品切れで、
そんなもんです。
>今は……う〜ん……。
ということは大人買いができるようになったってことですか?それともそれほど欲しいものが無くなったのか。どちらにしても手に入れた時の喜びが薄れている大人ってやつは、さみいしいもんです。
つる
2008/03/03 01:37
欲しいもの・・学位かな。
お金じゃ買えないんだよおお(涙
圭太君の必死さが懐かしいです。
小学生の流行はすさまじいですからね。
neon1914
2008/03/03 08:25
三月ともたない……。そうですよねー。

私の靴や服は何年でも使えるけど、子供のものはワンシーズンで小さくなってしまう。高いのはもったいないです。
七花
2008/03/03 17:05
何となく分かるなこの気持ち。
上手い人が持ってる道具を見ると、自分も同じのがあればって思うんですよね。そうじゃなくても男の子はファッションから入りたがりだから。

URL
2008/03/03 20:06
>欲しいもの・・学位かな。
きゃっ!かっこいいわ、neon1914さん。来てくださってありがとう。
自分が手に入れにくいものほど価値があるような気がしますよね。だから、交際を申し込まれても簡単にOKしてはいけないのです。関係ないか。
neon1914さんの言う通り、お金で買えないものに価値を見出したいです。
>小学生
へんな話、女子高生の口コミよりも速い伝達機能を持ちあわせているんじゃないだろうか。あの熱意を何か他のものにぶつけていただきたいです。
つる
2008/03/03 20:30
あ、七花さん、いつもありがとう。
三月もたないのは、サイズだけではなくて、消耗も激しいですよ。自転車やバイクのタイヤじゃないんだから、サイド削るって…、どーしたらこんな履き方できるんだって思いました。傘も尋常な壊れ方じゃなかったです。
>私の靴や服は何年でも使えるけど、
ほんとほんと。でも欲しくなっちゃう。子どものこと、言えません。
>高いのはもったいないです。
なのに、時々散財の神が降臨されるのは何故なんでしょう。
つる
2008/03/03 20:40
あ、鯨さんも共感してくださいましたか?来てくださってありがとう。
>上手い人が持ってる道具を見ると、
そうらしいんです。うちはサッカーのゲームシャツが売るほどあります。イラねー。
ファッションと書いてあったけど、鯨さんはかなりのお洒落さんとみました。違ってたらごめんなさい。なんか良いファッション情報あったら教えてくださいな。およそStussyなんかとは縁のなさそうな輩しかいないんです。
つる
2008/03/03 20:50
私も子供の頃は、よくねだったなぁ。「みんな持ってるし」「よそは、よそ」と言われて却下でしたけど。
ねぇ、新しい冷蔵庫買って〜!Kちゃん家は、勝手に氷ができるんだよ。ドラム式の乾燥機も欲しいなぁ。
成長はしていません(笑)
ia.
URL
2008/03/03 21:45
お、小学生シリーズスタートですか!

今にして思うと、徒競走とか受験とかはどうでもいいことだったんだよな。
人生で重要なのは運かもしれない!
運がくく!また見てね byひと昔前の最後にお菓子を上に投げて飲み込むサザエさん。

銀河系一朗
2008/03/03 22:21
あ、ia.さんドモドモ。いつもありがとう。
よくねだったほうなのですか?わたしは逆に一度だけ言ってダメだったらアキラメ派でした。親の気持ちが変わるなんて思えなかったもの。今ならわかるんですよね。熱意です。熱意があれば人は動かせるって、今わかっても遅いよ。
>「よそは、よそ」
の後に「自分は、自分」とか続いたりしますよね。都合が悪くなると、そんなこと言われました。ふだんは「誰それちゃんを見てごらんなさい」です。そんな親だけにはなりたくなかったのに…。
>冷蔵庫と乾燥機
おお!大物狙いですね。うまくいきますように。
つる
2008/03/04 00:24
こんばんは^^分かるなぁ。スニーカーも欲しかったし、アディダスの帽子も欲しかったし、あとウチはファミコン買ってもらえなかったんですよねぇ。あれはマジで泣けた。今思い出しても悲しくなるなぁ。こんごの展開めっちゃ楽しみ♪
レイバック
URL
2008/03/04 00:25
銀河系一朗さん、いつもありがとう。
このお話は例の小学生ものぢゃないんですよ。あれね。連載始めたら、たぶん一年くらいかかりますよ。よそ見ばかりしてますからね。そんなわけで、意気地がなくて取り掛かれないでいます。で、その前に小学生の練習というか、そんな感じです。
>運
そうだとしたら、もう「ある」人と、「ない」人が、決まってるんじゃない?
やだ。なさそう、わたし。

最後のサザエさん、ワロタ。
つる
2008/03/04 00:36
あ、レイバックさん!わあぁっっ!!←一応抱きついて泣いてる。
見てください。短編競作企画がオワタというのにどうしたことでしょう。みなさんが来てくださって嬉しい悲鳴をあげてます。
>スニーカーも帽子も
うん。わかる。レイバックさんておしゃれな感じするもの。たくさん欲しいものがあったでしょう。
>ファミコン
出始めのやつですよね。クリーム色と赤やつ。うちもダメだったけれど、じいちゃんが買っちまいましてね。ゲーム脳の出来上がりですよ。あ、じいちゃんと言えばこの後、でてきます。楽しみと書いてくださっても、所詮じいちゃんですから、そんな感じでショボイ話なんです。レイバックさんには、はじめから懺悔とカミングアウトしてしまおう。
つる
2008/03/04 00:55
おお。よしよし(笑)やはり連載モノを途中から読むのはキツいですからね。今まではロムっててもコメしづらい人も多かったんじゃないかな?読みきりの短編を時折混ぜたり、あと人物紹介のページなんかがあると親切ですよね。僕も正直ウェブで長編を読むのは苦手なもんで、自分ではなるべくストレス無く読んでもらえるように意識してるんですけど、読者増えませんねぇ(笑)更新ペースにも限界があるし。それにしても物書きブログで毎日更新してる人はスゴイですよねー。お祖父さんのお話。なんかすげー泣けそうな気がするんですけど^^;
レイバック
URL
2008/03/05 00:52
レイバックさん、泣く胸を貸してくださってありがとう。でもやっぱりワッキーとは違うね(ウソばっか)。
ロム専でも見ていただけるだけありがたいですよ。連載を読んでもらえる工夫かあ。短編っていっても、これみたいにやはりある程度長さがでちゃいます。だいたい自分が書きたいことを押し付けで見ていただいてるようなものだから、押し付けられた方は、いい迷惑ですよね。ははは。
>物書きブログで毎日更新してる人はスゴイ
うん。時間があるのか。時間の使い方が上手いのか。<つづく>
つる
2008/03/05 21:30
<つづいた>ところでレイバックさんでも読者増えない?ほんと?そう言えば、ほら「ぼくちゅう」ってあるじゃないですか。ランキング一位の「ぼくたちと駐在さんの700日戦争」ってやつ。あれ4月に映画が公開されるでしょう?はじめの頃読んでいたけど、あれってエントリーしてブレイクするのにいくらも経ってないんですよね。組織票?文庫化された時もそう思ったけど、今回の映画化で確信しましたよ。一種のプロジェクトだったんじゃないかって。そう思わなくちゃ、地味〜に一人一人のポチを期待するこっちはやってられませんもん。>お祖父さんのお話そうならないよう頑張ります。最後は笑って終わるはず。レイバックさんにはもうラストが見えてるかな。
つる
2008/03/05 23:17
「ぼくちゅう」すごいですよねー。あれはすごすぎる。英語版のブログも公開されてるんだって。実際はどうなんでしょうね?^^; でも夢見させてくれるだけいいかな(笑) 
レイバック
URL
2008/03/07 00:42
え?英語版?へえ〜
本当に作者はただの一般人だったのか、はたまたプロジェクトの一員だったのか。真実はどこにあるのか。殺しのないミステリーが書けそう。
「ぼくちゅう」も、はじめは面白いんですよ。あとはなんかつぎたしつぎたしみたいでね。なんでもそうだけど、最初と終わりが定規でピッと引かれたような作品が一番ですよ。映画も2とか3とかって尻すぼみだもの。
つる
2008/03/07 02:12
僕は変な子だったな。
靴もファッションも無頓着だった。
兄弟、または親族間の同年代の子たちとあつまって、お菓子とか出されると、たいがい、僕はいつも取るのが最後で、アレ僕のないやー、って困った顔して頭掻いてるような子(笑)
―今は…多少マシかな。

読んだら、子供の頃に思いを馳せてしまった。グッジョブ。
火群
2008/03/09 02:44
>アレ僕のないやー
これに泣いた。さいきん涙もろいのよ。

なんか妙に納得してしまった。火群さんて、今もそんな雰囲気ありますよ。人を押しのけてまで我を通すことなんて、なさそうだもの。そして来てくださって、ありがとう。
皆さんが共感してくださっったり、思い出を呼び起こしたりの、きっかけになって嬉しいです。結局わたしの場合、奇をてらっても共感を呼ばないんだってわかった。普通の話の方がいいみたい。だけど、ちょっとだけそこんところに味付けする――それが難しい。
つる
2008/03/09 19:43

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