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zoom RSS 「理想の高校生」EAST SIDE STORY 15 

<<   作成日時 : 2008/01/15 20:52   >>

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EAST SIDE STORY 15
 直人が風呂に入っている間のキッチン。

「二度目なの?」

「何が」

「さっきコンビニの人が言ったこと」

「ああそれ」

「そうなの?」

 黙って頷く母さん。

「何で言わねえの」

「じゃおにいちゃん、聞くけど、もしあんたのことで直人がいろいろ知ってたらどうよ」

「そうだけど」
 
 そうは言っても、直毅が言った『何でも話して、何でも聞くから』の約束を守るように、母さんは、手短かに警察署での出来事を話すと、

「あ、そうだ」

 と言って、冷蔵庫から昨日のケーキの箱を取り出した。自転車ごと倒れて潰れてしまった箱。『味に変わりはない』と言って昨日から食べている。母さんは生クリーム目がない。

 波の花のようなケーキ。

「これ美味しいね」フォークですくうように食べ始めると言った。

「うそつけ」

「ううん、嘘じゃないよ。“なんとかって言うシェフプロデュースのケーキ”って書いてあるよ。高かったでしょう。ありがとうね、おにいちゃん。一人じゃ食べきらないかもしれないけど」

 フォークを持って来て、波の花を口に運び出した直毅。

「うめえな、けっこう」

「無理しなくていいのに」

「ホントホント」

「大人になって口が変わってきたのかしらね」もう子どもじゃない息子に目を細めた。

「親父、どうすんの」

「ああ、明日お酒が抜けたらゆっくり話してみるね」

「そうじゃなくて、あそこで寝かしとくのかよ」フォークの先を上に向ける。

「あんた、動かせる?」

「遠慮しとく。吐かれたらやだし」

「ふふ、それもそうだ。あっ」

「何」

「ルーキーのママに聞いたけど、ニッコリマートさんにあんたと同級生いるって?悪かったね。その子、男?女?」

「おん、おんとこ?」

「え?」

「おとこだよ、男。それにクラスちげーし、全然関係ないよ」

 風呂から出てきた直人が、キッチンに入って来て、黙る二人。

「もう寝る」直人。

「あ、ああ、おやすみ」母さん。





 階段の上がり口で高いびきの大猿に、いつの間にか毛布が掛けられている。
 直毅はそれを跨(また)いで、子ども部屋に入った。ベルリンの壁と化したドアの内側は、家財の半分は庭だというのにとんでもないとっ散らかりようだ。



【嵐吹く 三室(みむろ)の山の 紅葉葉(もみぢば)は 竜田(たつた)の川の 錦(にしき)なりけり】能因法師(のういんほうし)



「うえ、キモワル」やっぱり生クリーム苦手。

 二人の子ども部屋は、直毅が床に布団で直人はベッドだ。

「寝た?」

 直毅が布団に足だけ突っ込んでベッドに首を伸ばした。

「……」

「なんだ、寝たのか」

 電気の紐を引いて、布団に潜り込もうとするとベッドの掛け布団がモゾモゾと動いた。

「起きてる」

「だったら言えよ」

「何」

「なあ、前にオレ言ったよな」

「……」

「バイクで捕まった時」

「何を」

「自分がさ、友達になりたくなるような自分になれって」

「……」

「聞いてる?」

「ん」

「あれ意味わかんなかった?」

「わかるよ、けど」

「けど何?」

「なんかピンとこねえ」

「そうか」

「直毅はこう言いたいんだろ。立派な人間になれって」

「立派なんて言ってねえよ」

「人間なんてさ、誰だって楽がしたいし、怠けたくなるじゃん」.

「ああ」

「聖人君子みたいになれっかよ」

「そうか」

「そうだよ。それにダチになりたい奴って、自分にないものを持ってる奴だろ。ないものはねえし」

「それもそうだな。まあ、とにかく自分に後ろめたいことだけはすんな」

「……」

「わかった?」

「聞いてる」

「そうだ、おまえ、アレ知ってた?」

「アレって?」

「オレたちに、もしかしたら弟か妹がいたかもしんないっていう話」

「知らね。何で直毅が知ってんの」

「幸子おばさんが言ってた」母さんのお姉さん。

「いつ」

「この前の幹也兄ちゃんの結婚式ン時」

 ひと月ほど前に、直毅の大好きな従兄の友也兄ちゃんの、一回りも上のお兄さんが東京で結婚した。幸子おばさんが、はるばる四国から上京して来た。

「死んだの?」

「ああ、母さんのお腹にいる時にな。生まれてこれるほど強い子じゃなかったんだろうって」

「フ〜ン」

「そのあと幸子おばさんに母さんが言ったんだって」

「何て」

「『もしかしたら神様が今いる二人を大事にしなさいって言ってるのかもね』って」

「二人って俺ら?」

「他にいンのかよ。オレたちってアトピーじゃん。おまえ日差しアレルギーになった時のこと覚えてる?」

「あ〜幼稚園の時とかいうやつ? あんま覚えてねえし」

「ちょうど夏休みだったんだ。おまえが泣くからオレも付き合って昼間は外に出らんないしさ。おまけに、長袖長ズボンのおまえが汗疹(あせも)だらけになっちゃって痒(かゆ)がって寝ねぇこと寝ねぇこと、母さん一晩中――」

「もういいよ」

「……」

「あ〜あ、直毅はいいなあ、怒らンなくて」そのへんのところだった。

「そんなことねえよ。小学校三年の時、親父にマジ殺されそうになった」

「ウソだ〜」

「嘘じゃねえよ。おまえ小さいから覚えてないんだよ。あ〜思い出したくねえこと思い出した。やだやだ」

「何で親父が怒ったんだ」

「オレが母さんに言ったことでキレたんだよ」

「何て言ったんだ」

「え〜言うのか〜」

「言って」

「『おまえなんて関係ないんだからどっか行け』」

「ははっ! そりゃ怒るわ」

「何かあの頃ってさ、いろんな事に腹が立って文句ばっか言ってたよ」

「フ〜ン、でもなんでキレなくなったんだ」

「年頃じゃね? おまえこそ昔、大人しかったのに最近ドシタ?」

「年頃じゃね? なんかみんなしてウゼ〜よ」

「心配してんだよ」

「直毅みたいに何も言われたくないよ」

「そうか? どうでもいいと思ってんじゃねえの。逆にオレいいなと思ってた時期あったよ。みんなしておまえのことばっかでさ」

「じゃ直毅も不良しちゃえばよかったじゃん」

「不良すんにも金かかるしな」

「言えてる」

「何かそんなことどうでもいくなんだよ、そのうち」

「そうかあ」

「そうだよ。オレもう寝るよ、明日もバイトだし」

「なんだよ、そっちから喋ってきたくせに。なあ、さっきの話」

「さっきって?」

「いたかもしんない弟か妹の話」

「ああ」

「どっちだったのかな」

「さあな。けどオレ、それ聞いた時に決めたことがあるんだ」

「何」

「うん。そいつにさ、いたかもしんないそいつに“かっこいいおにいちゃん”て言われるようになろうって思ったんだ」

「フ〜ン」

「じゃ、ホント寝るから、マジ勘弁して。オヤスミ」

「なあ」

「何だよ」

「ニッコリマートに同じ学校の奴がいるって話」

「……」

「ゴメン」

「いいよ。全然関係ねえ奴だし、気にすんな」ガバッと布団を被(かぶ)った。

「オヤスミ」

「おう」

 今頃になって父さんに殴られたあとが痛むのか、しばらく寝返りを打っていた直人がとうとう起き上がって、枕元の月明かりに誘われるようにサッシを開けた。
 濃紺の空に少しいびつな月が出ていた。眩(まばゆ)い光に周りの星は息を潜(ひそ)めている。
 窓枠にもたれかかって、合わない焦点で星を探すように目を細めた。


 「オレたちに、弟か妹がいたかもしんないって話だよ」

 「そいつに、かっこいいおにいちゃんて言われるようになろうって思ったんだ」



 これは効いた。

 直人は人に流されやすい子どもだった。付いていくものが悪ければ悪い方に、良ければ良い方に針が振れる。
 彼は正しい指針の先を必要としていた。


 それから少しずつ直人は変わった。
 だけど人間はそういっぺんに変われるものじゃない。
 相変わらず母さんが生活指導の堀先生に呼ばれたりもしたが、さぼりがちな部活に身を入れるようになって、続くように授業を抜け出すことも無くなっていった。
 そして直毅もよくサッカーや勉強の相手をしてやった。
 翌年の春に彼は、直毅が卒業するのと入れ替わりにナンジャラホイ高校に入学する。
 もちろんサッカー部に入部した。彼の事だから、そううまくいくことばかりじゃなかったけれど、三年の冬に母さんとクラマー(蔵間監督)を号泣させることになる。

 だけど、それはまた別のお話。
 
 何があったのかって? 野暮だな。
 
 ポジション? 次男だからね、FWに決まってる。



 ベクトルの向きが違っていただけ。
 
 そう思うんだ。



<つづく>



■嵐吹く 三室(みむろ)の山の 紅葉葉(もみぢば)は 竜田(たつた)の川の 錦(にしき)なりけり/能因法師(のういんほうし)
<口語訳>
激しい嵐がふきちらした、三室の山の紅葉の葉が、龍田川 に一面にちりしいて、まるで、錦の織物のように美しいこ とだ。参考URL




「兄弟でこんなに喋るか〜」と思われた方もいるでしょう。年にいっぺんくらいはあったりしませんか。それに、消灯後の取り留めのない話は修学旅行で皆さんも心当たりがあることでしょう。そんな感じで。 

 今日のBGM→「COSMOS」
         →歌詞
         →合唱(下の方にあります)

 年齢を問わず読んでいただきたくてお目障(めざわり)かもしれませんが読み仮名を付けます。 



↓応援していた藤枝東は破れてしまいました。ああ毎年冬の選手権が終わるとね、もう春なんだなって思うんですよ。んなバカな・・・
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コメント(6件)

内 容 ニックネーム/日時
男兄弟はいいなぁ。憧れです。実際はどうなんでしょうね?年頃になるとあんま会話しなくなるのかな??あんまりベッタリってのは気持ち悪いですもんね(笑) アニキが欲しかったなぁ。キャッチボールとかしてね^^
レイバック
URL
2008/01/16 22:16
レイバックさん、いつもありがとう。
男兄弟ね、くだらない事はよく話しますね。ただ皆のバイオリズムがばっちり合った時は良いけど、その逆は大変なことになります。仲裁に全体重を乗せた26aのフライパンを両手打ちのバックハンドです。ってさと子さんが言ってました。
アニキっていいよね。怒っても詰めが甘いというか、女みたいに逃げ道がなくなるような追い詰め方しないって、又さと子さんが言ってます。(笑)
つる
2008/01/17 00:19
「いたかもしんないそいつに“かっこいいおにいちゃん”て言われるようになろう」はしびれまましたよ。

昨日のメール、失礼なこと書いたかも。時間かけたわりに中身なくて申し訳ないです。
宮本輝が教育テレビ出てて興味深かったです。
銀河系一朗
URL
2008/01/17 09:44
銀河系一朗さん、いつもありがとう。
「かっこいい」は男子のキーワードだから外せませんね。
メールはとても参考になりました。参考というより勉強と言った方が正しい。考え考えしていたのでお返事が遅くなりました。
>宮本輝が教育テレビ出てて興味深かったです。
また、チュウトハンパな!
何て言っていたのかすご〜く気になっちゃいました。
つる
2008/01/17 21:09
あ、しびれまましたよって本当に痺れてるよ(汗)
輝さまとつるさま、音がニアミスだ。

テレビは、広告会社勤務してたのが、パニック障害でうつっぽくなり、ふと本屋で文芸誌を立ち読みして、大家の小説のつまらなさに妻に「会社辞めて小説家なる」と電話。妻も即了解。
文芸指導の方に原稿を送ると一番苦心した冒頭をバッサリ切られ逆ギレ。でもすぐ気付いて、
削る方針で新たに書いたのが「泥の河」。
バッサリ切られた残りが芥川賞の「蛍川」。
銀河系一朗
URL
2008/01/18 00:11
銀河系一朗さん、いつもありがとう。
コメント表示が遅くなってごめんなさい。どうしたわけかスパム扱いになってはじかれていました。謎だ。
>宮本輝。
作家になった経緯が面白いですね。こうして考えると世の中には埋もれている人がたくさんいるんじゃないだろうか。
彼がうつっぽくなってと書いてありましたが、書き物をする人は多かれ少なかれそうですよね。人が気にも留めないことを膨らませるんだから、へんな言い方だけど重箱の隅をつつくような面がないと書けない。読む側はいいけど、そういう人と生活を共にするのはしんどいでしょうね。そんなこと思いました。

さて、「泥の川」の舞台は、まさにわたしの生まれた頃でしょうか。リアルに想像するには是非映像を観たくなりました。あるかな?TUTAYAに。
「蛍川」読んでみます。
つる
2008/01/21 21:09

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