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zoom RSS 「理想の高校生」EAST SIDE STORY 14 

<<   作成日時 : 2008/01/13 18:42   >>

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EAST SIDE STORY 14
 その夜、直毅が戻ると間もなく、母さんと一緒に直人が大人しく戻ってきた。

 誰も口を開かない。母さんは遅い夕飯の支度に取り掛かり、直人は居間で所在無げに見るともなくTVを眺めて、直毅は外で冷えたのか、トイレに入っていた。
 キーッと表でタクシーの止まる音がして、そのドアがバタンといったかと思うと、ダッと直人が二階の子ども部屋に逃げ込んだ。
 ほとんど同時にドスン! と玄関ドアに体を預ける音がして、酔っ払いが玄関に雪崩れ込んできた。
 父さんだ。半分靴を脱ぎかけて、出迎えた母さんに「直人は?」と言うと「まあ落ち着いて」の言葉に耳も貸さず「どけっ!」と振り切って、居間に突進した。空中を舞う黒い革靴。

「なおと! なおとっ! 出て来い、この野郎っ!」

 また、えらく中途半端な酔い方で戻って来たものだ。手がつけられそうになかった。ほろ酔いはとうに過ぎて、泥酔にはまだほんの少しだけ間がある。

 ドタドタと階下を歩き回って、いないと知るや、脱兎のごとく二階へ駆け上がり、鍵がかかったドアを三回目のキックで蹴破った。くの字にひしゃげた子ども部屋のドア。
 固まる直人の首根っこを引っ掴み、ほとんど転げ落ちるように降りてくると、

「出てけ! 今すぐ出て行けっ!」荒い息で言った。

 睨む直人。その眼つき。

「何だ! その目は! ぁあん? 何が気に入らない」

「何もかもみんなだっ! 父さんのそういうとこもだっ!」

「母さんにどれだけ心配かけてんだっ! さぞかし産んだ母親も草葉の陰で泣いてんだろうよ。ろくすっぽ、おっぱいも飲ませらんなかったからこうなったってな!」

 よくある母乳神話。

「わあぁっ!」

 一番痛いところを突かれて、母さんが顔を覆った。父さん、母さん泣かせた。

「そんなの関係ねェ!」

「関係あんだよ! 不憫(ふびん)に思って甘くしてりゃつけあがりやがって、ふざけんな!」

「どこが甘くだ! そっちこそふざけんなっ!」

「このバカ! その口、利(き)けなくしてやる!」
 
「やめてっ! お父さん!」

 母さんが止めるのも聞かず、父さんは「おまえって奴は、おまえって奴は」と、うずくまる直人を滅茶苦茶に殴り続けた。
 建設現場で指揮を取る父さんの大きな拳骨が、直人の顔といい頭といい体中のいたるところに奮われた。ずれる玄関マット。

「おにいちゃん来てっ! 直人が死んじゃうっ!」

 慌てた直毅がスウェットを上げてトイレから出てくると、直人に馬乗りになった父さんが下駄箱の上のポインセチアを鉢ごと振り下ろすところだった。

「きゃあ! やめてえっ!」

 母さんが止めに入るより早く、直毅が父さんの腰を蹴り飛ばした。
 ドン! と玄関ドアまで吹っ飛んでった父さん。割れる鉢。飛び散る土。
 直毅が、たたきに転げ落ちた父さんに、

「やめろ! 直人を殺す気かよっ!」と怒鳴った。

「おまえは今、親を足蹴(あしげ)にしたのか! 親を!」

 今度は父さんが直毅の腰めがけて、むしゃぶりついた。それを受け止めた直毅は、父さんの背中の上からベルトを持ってぶん回すように放(ほお)った。

「やめてっ! おにいちゃん!」

 ドスンと廊下の壁に叩きつけられた父さん。

「やめろって! 直人の話を聞いてやれよ!」

 力なんて、とうに親に勝(まさ)っていた。

 敵わないとみるや、それでも腹の虫が収まらない父さんは「おえぇ」と嗚咽しながら、二階に這って上がった。そして、子ども部屋の窓から直人の荷物を手当たり次第に放り投げ始めた。

「出てけ出てけ! 人様の物に手をつけるような奴は、うちに置かん! 今すぐ出てけっ! この大バカ野郎っ!」

 バサッ! ドン! ドスッ! ボコッ! ドカン!

 居間に戻った三人は、掃き出し窓の外にいろんなものが降ってくるのを見た。

「どうしよう、おにいちゃん」

「ほっとけ! あんな酔っ払い」

 次々と落ちてくる服、ゲームソフト、ゲーム機、漫画本、電気スタンド、CDプレーヤー、椅子、簡易本棚。
 父さんのヒートアップに比例するかのように、投げ落とされる物がどんどん大きくなっていく。 
 まるで大猿。<ドラゴンボール>の孫悟空が満月に変身するという、あの大猿のようだった。もうどうにも止まらない。山本リンダの歌を地でいってる。
 狭い庭に落ちるそれらの物音に、カラカラとご近所のサッシを開ける音がした。

「やだ、どうしよう。お隣に何言われるかわからない」

「ほっとけって」直毅が言う。

 父さんのどこにそんな力が残っていたんだろう。

「でやっ!」とウルトラマンのような声がしたかと思うと、終(しま)いに学習机が降ってきた。

 ドカッ!

 母さんがチューリップの球根を植えようと掘り返した盛り土に四分の一ほど埋まる斜めったそれ。 

 物音が止んだ。

「あれ? 静かンなった」直人。ペッとティッシュに吐いた唾がまっ赤だ。

「ちょっとおにいちゃん見てきてよ」

「やだよ。どうせいっぺんに回っちゃったんだろ」

「プッ!」

 非常時だというのに可笑しくて、直人が吹き出した。

「ははは」直毅も笑った。

「ふふふ」不謹慎だけど母さんもつられて笑った。



 口の中を切った直人の為に母さんは煮込みうどんを作った。

 久しぶりに三人で囲む夕飯。黙って食べる三人。
 コンビニで見せた直人の顔は、友人と後輩の前で精一杯の突っ張りだったのか、今は以前の素直な顔に戻って、うどんをすすりあげている。

 誰もが無言なのは、それぞれの気持ちに沈殿するものがあるからだ。

 母さんは、父さんにあれだけ拳を振るわれた直人が何も考えないわけはないだろうと口を噤(つぐ)んだ。
 直毅は、こんな時に言えば言うほど直人が逆に走ると黙っていた。
 そして、直人は二人の沈黙の裏にあるものを敏感に感じ取って何も言えないでいる。



【あはれとも いふべき人は 思ほえで  身のいたづらに なりぬべきかな】謙徳公(けんとくこう)



 今日は父さんに、この歌。





<つづく>



■あはれとも いふべき人は 思ほえで  身のいたづらに なりぬべきかな/謙徳公(けんとくこう)
<口語訳>
あなたに見すてられたわたしを、「ああ、気のどくに」と同情してくれそうな人も、今はありそうに思えません。わたしはこのまま、あなたを恋こがれながら、自分の身がむなしく消えて死んでいく日を、どうすることもできずに、ただまっているだけなのですよ。

※身のいたづらに・・・わたしがむなしく死んでしまうにちがいないという意味。参考URL


草葉の陰(1)草の葉の下。草陰。草の陰。(2)墓の下。あの世。草の陰。
      「―から見守る」(三省堂「大辞林 第二版」より)




 う〜ん、父さんはうちの父に近いです。わたしにこそ手は上げませんでしたが、弟が一度だけやられましたね〜こてんぱんに。そんときゃ、まるで「寺内貫太郎一家」みたいでした。古いよ。今となっては懐かしい。

 今日のBGM→クリック

 年齢を問わず読んでいただきたくてお目障(めざわり)かもしれませんが読み仮名を付けます。
 


↓ふう!三人称、ムズイです。描写はいいけど感覚や思考については書けないのね、まだまだ中途半端。いつも大目に見てくださってありがとう。
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コメント(8件)

内 容 ニックネーム/日時
強い親、強い教師というのは必要だと思います。
しかし、その時、絶対に守らなければならないのは、叱るという境界を越えてはいけないってこと。
「叱る」と「怒る」は似ていても、全然違う行為ですよね。
ここに登場された父は、どうやら知らせを受けてから、飲んで、酒の勢いで怒ってしまったのかなと思います。もちろん父にも息子との意思疎通で悩むところもあったのでしょうね。
雨降って地固まる風にゆくとよいですね。

P.S.昨夜はどたばたしてすみません。
悪い時には悪いことが重なるものでメールが受信できてません。つるさんのコメントで助かりました。ありがとうございます。
ひとつ前のコメントあまりに話と関係ないので削除しても結構です。非公開にしたかったのですが(謝)
銀河系一朗
URL
2008/01/14 10:04
系一朗さんに同意です。ウチの父親も酒に飲み干されるタイプだったなぁ(笑)今回はド派手な前半のシーンと後半の落ち着いたシーンの対比が映像的で良かったです^^
レイバック
URL
2008/01/14 11:46
銀河系一朗さん
いつもありがとうございます。
メール届かなかったのか。残念、力作だったのに。(笑)もう復旧したのかな。
>「叱る」と「怒る」は似ていても、全然違う行為ですよね。
あ〜あ〜急に耳が聞こえなくなりました。「叱った」ことがないかもの、つるです。だって無理ですもん。「怒る」こっちですね〜
父さんはね、このままです。自分もそうだったのですが、親と衝突してどちらかが折り合いをつけようと、そんなアクション、互いになかったですもの。ほとぼりがさめたら口を利いていた、の繰り返しでした。アメリカのホームコメディなんかで仲直りの話し合いを子ども部屋のベッドに腰掛けてする、夢でしたね。そんなわけで直毅の父さんもどこかしらいいところあるんでしょうよ。(ヒトゴト)
つる
2008/01/15 00:33
れいばっくさん
いつもありがとうございます。
レイバックさんのお父さまも「いける口」なのですね。
あれって優性遺伝のような気がします。間違いなくその子どもも飲めますもんね。(ヒトゴト)
>対比が映像的で良かったです^^
そう言ってくださってありがとう。そんなふうにポンと映像をむすんでくださる人ばかりだといいなあ。わたしね、最近思うんですよ。同じ文章を読んでも経験のあるなし、もしくは想像力のあるなしで、頭の中にむすばれる映像が違ってくるでしょ。そのへんで共感を呼ぶか呼ばないかだとすると、表現てベタなほうがいいのかなって、小難しいこと捻くりまわさなくってもいいのかなって、思っちゃったんですよね〜
ところが、それが一番難しい。
さて言うの忘れてましたが、前回の「工藤刑事」あれね、レイバックさんがモデルです。「若い方の背広」しか描写がないだろ!の突っ込みはなしね。工藤刑事はちょっとクールで妹がいる設定です。それでね、流行のツンデレなんだな、これが。当たってますかね。
つる
2008/01/15 00:59
おお、そうだったのか!
もっと描写してください!(笑)
カッコ良さそうですよね^^
工藤刑事
URL
2008/01/16 22:10
あ!工藤刑事!いやああん!

取り乱しました。失礼。

工藤刑事はね。ずっとラグビーやってたから、捜査も独自のルートがあるんですよ。それでね、今は少年課だけど、そのうち捜査一課からSPになるんです。TV「SP」の見過ぎ。あ、もちろんお父さんもデカなんですよ。
って言ってるうちに、お話がお書きたくなりました。題名は「理想のデカ」もちろん理想だから、殉職はなしで、犯人の娘さんと恋仲になるのもなしです。
つる
2008/01/17 00:08
じゃあ僕のニッキネームはラガーですね(笑)工藤主人公でスピンオフ短編。期待しています^^
工藤
URL
2008/01/18 01:42
ラガーね。メモメモっておい!
事件が浮かびませんよ、平和主義なもので。オイオイ
あとレイバックさんのプライベート情報をもう少し収集しないと無理ですね。さあ、出していただきましょうか。しまった、長女にありがちな高ピーな一面がでてしまった。撤回撤回。
書けたらいいなあ。苦い経験積みながらも目崎刑事にくっついて成長する若い刑事。でも男目線は嘘っぽくなるから、書けたとしても、妹目線のドジな工藤刑事のプライベートでしょうね。ええ、そんなとこですよ。そしてアクまでも「書く」と断言しないでコメレスを終わらせる、つるでした。
つる
2008/01/19 18:05

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