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zoom RSS 「理想の高校生」EAST SIDE STORY 13

<<   作成日時 : 2008/01/11 21:32   >>

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EAST SIDE STORY 13
 ナンジャラホイ警察署の三階にある少年課。

 同じフロアに面した申し訳程度の二つの小部屋で、五人の少年たちに順番で個別の聞き取りが行なわれていた。

 その間に目崎刑事が、パーティションで区切られた応接セットで待つ母親三人と副校長先生に、普段の子どもたちの様子などの聞き取りをした。
 ひと通り話し終わると、若い警官の出した温(ぬる)いお茶を飲みながら、世間話になった。

 「刑事さんはずっと少年課なんですか?」内山さん。

「ええ、若い頃は交番勤務もしたんですけどね。三十過ぎてからはずっとこっちですわ」

 彼は罪を犯した子の親に、決して非難めいた言葉をかけることはなかった。矛先(ほこさき)がこちらに向かないと知るや、一年生の母親は口が軽くなった。

「現場ばっかりなんですか?」

「ええ、好きなんですな、これが。ハハハ」

「失礼ですけど、お歳は――」芝さん。

「ははっ!もう数年もすれば定年ですよ。そのあと保護司になりたいと思ってます」

「まあ立派だわ」「本当、さぞかしお子さんも立派にお育ちなんでしょうね」

「いやあ、鳶(とんび)の子は鳶ですよ。それに、こういう職場ですからね、ろくすっぽ家族サービスなんてしたことがない。息子なんて、そんなんで、すっかり懲りてるもんだから、違う道を選びましたよ」

「違う道って」「警察官じゃないんですか」

「ブンヤですよ。新聞記者。だけどね『家庭を顧みないって言う意味じゃブンヤも似たようなもんだろう』って言ってやりました。わはは」きっと同じ道を歩いて欲しかったに違いない。

「新聞記者だなんてスゴイわあ、ねえ」「本当。社会の前線いってますよ」この時とばかりに持ち上げる。やがて、

 「終わりました。あ、課長、お電話です」

 と、言って工藤刑事が一年生の三人を連れて来た。

「お〜それじゃ、一年生の方は先に帰してくれてけっこう」

 目崎刑事と入れ違いにバタバタと部屋に入って来たのは、もう一人の二年生の親である留木(ためき)君のお母さんだった。

「松っちゃん(松本)ママ!」

「ああルーキー(留木)のママ」

「ごめんねえ、いつも」

「ううん、こっちこそ」

 幼稚園からのママ友。留木さんは商店街の焼き鳥屋を切り盛りするお嫁さんさんだ。口うるさい義父母によく仕(つか)えている。

「で、どうなった」

「まだ取調べ中よ」

 しばらく黙っていると、電話を終えた目崎刑事が戻って来た。

「あっ!刑事さん。この前(バイク)と言い今度の事と言い、ご迷惑をおかけして申し訳ございませんでした!」立ちあがった留木さんが、深々と頭を下げた。

「あ〜お母さん。大変だなあ、あなたも、ご商売なさってるのに。そして息子さんもなかなか忙しい」と言って笑った。

「ワアッ!」

 と、泣き出す留木さん。彼の言葉に気が緩(ゆる)んだ。

「ぼんどに(ほんとに)じょうぼでえ(仕様もない)ぶずご(息子)で、ズズッ」グスングスン。

「いいんですよ、こうして親が来てくれる家(うち)は、まだいいんです」

「……」

「今ね、ニッコリマートさんから連絡あったんだけど、前にも、あの二人何かやらかしてるって?」

「はあ、漫画本を何冊か」母さんが消え入りそうに答えた。

「盗ったんだね」

「はい、それで初めてだったもんで『親も来たことだし、誰でも魔が差すことはあります』って学校にも警察にも連絡しないで下さったんです」

「そうか〜あそこの店長も人がいいからなあ。いっそのこと、そん時にしょっぴかれた方が二度目はなかったかもしれないなあ」

「はあ」

「でね、前の事はいいって言うんですよ、店長が。そう言われちゃあ、こっちとしてもそれについて何もしようがない。そんなわけで今回の件についてだけ処理するって事になるんだけど」そう言って冷めたお茶を飲んだ。

「これからどうなるんでしょう」母さん。

「バイクん時は十三歳だったから、児童相談所の方だったけれども、十四歳になっちゃったからね、今度はそうもいかない」

「というと」

「家裁の方に上げることになる。決まりだから」

「か、家裁」留木さん。

「うん、家庭裁判所ってやつだね。それで三ヶ月以内を目安に、そこの少年部ってとこから呼出状が来ます」

「よ、呼出状――」目が泳ぐ留木さん。

「三ヶ月って、そんなにかかるんですか」母さん。

「そうね、遅くてもそれくらいまでにはっていう意味ですよ。なにしろ、いろんな事件がありますからね。家裁調査官も息子さんたちの事件に、かかりきりになるわけにはいかない」

 恐縮する二人。

「呼出状が来たら日にちの変更は大方認められませんからね。都合をつけて親子揃って行ってくださいや。そこで調査官と親子の聴取、まあ面接みたいなものなんですがね、それをして、審判(大人の事件でいう裁判)開始か不開始かを決定するわけなんです。だけど、多分大丈夫でしょう」

「大丈夫って」

「審判不開始の決定が出るだろうってことですよ。呼び出しに応じない親とか、反省の色が見えない子どもだとか、余程のことがない限りそこでだいたい終わりになる筈です。それに、これからどうなるってことよりも、まず普段の生活が大切ですな。彼らが落ち着いて生活できるようにしてやってください」

「はい」

「我々のやってることって後手後手にまわざるをえんのですよ。同じ学校で同じような教育を受けたって、家庭環境は百人百様ですからね。個人の資質もあるけれど、どうかすると、そん中でこぼれてしまう子がいる。ほんとは、そうなる前が大事ってことです」

「あの、刑事さん」母さん。

「何でしょう」

「非行に走る子っていうのは何かしら問題を抱えている子なんでしょうか」

 母さんには、<生(な)さぬ仲>という負い目がある。

「ありますね。本人の自覚あるなしに係わらず、あると私は思ってます。よくメディアが貧困だったり、片親だったり、コンプレックスだったりと理由付けしてますけどね。じゃあそういう人たちの全てが罪を犯すかって言うとそういうわけじゃない。ほとんどの人はそれでも普通の社会生活を送れるんですよ」

「はあ」

「だから単純なものじゃないって思います。小さな事でも複雑に絡み合っていると、そう思いますね。だけどそれだって人に寄るんですよ。気にする人と気にしない人がいるようにね。他人には、なかなかわからないもんです」

「あのう、あんまり人の事は言えないンですけど、巻主君とかどうなりました?」

「あ〜バイクに関係してた彼ね。あんまり教えられないけど、保護観察中です。いろいろ事情があるんです、彼も。何もないわけじゃあないんだ」
 
 神妙な顔で頷く二人。

「終わりました」そう言って、工藤刑事に連れられて二年生の二人が戻って来た。



 始めのうちはうすらとぼけていた二年生二人も、一年生の供述から辻褄が合わなくなり、最後には一年生三人に万引きを指示したことを認めた。
 ただ、万引きの現行犯ではなかったので、窃盗の罪ではなく、器物損壊の罪になった。
 十四歳以下の三人は児童相談所に通告、十四歳の二人は家庭裁判所に送致された。



「これがその器物損壊に当たる本ですな」

 出された本はエロ本だった。本の綴じ込み付録を切り裂いた、ということらしい。まっ赤になる母親二人。『穴があったら入りたい』とはまさにこういう状況を差すのだろう。

「あんたって子はもう!」留木さんがルーキーを睨(にら)んだ。

「怒らないでやってくださいよ、お母さん。正常に発達してるってことですから、ハハハ」

「そうだよ」

「バカッ!」

「あとで店に買い取りに行ってくださいや」

「――わかりました」

「じゃ、そんなとこで」
 
「ほら! 刑事さんに何て言うの!」子どもの頭を叩く(はた)く留木さん。叩かれて『何だよ』と言うふうに腕を振り払い、精一杯突っ張ったけれども、

「すいませんでした」渋々と言った。

「直人はどうなの」母さんも肘で小突くと、

「すみませんでした」ふてくされたように、直人が言った。

「課長、あれ」横から工藤刑事。

「ああ、そうだ。お母さん、法律だから仕方ないけど、一応お子さんの写真と指紋をとらせて貰いました」

「し、写真と指紋」クラッとよろめいた留木さん。

「はい」留木さんを支えて母さんが言った。

「君ら、二度と悪いことはできないぞ。この先、おじさんがコレを使うことがないようにできるか? もちろんできるよなぁ。おじさん、君たちを信じてるから」工藤刑事と顔を合わせると二人して子どもたちに笑いかけた。

「信じてるから」

 その言葉に安堵の雰囲気が流れた。ベタなセリフが、こんな時によく似合う。
 
 少年課の人たちの対応に、虚勢を張っていた子どもたちの顔が変わってくる。まるで<北風と太陽>みたいだった。
 


 人は模倣する動物だ。小遣いが不足して、同じ溜まり場にいた、顔見知りの巻主君から、万引きの手口や、狙いやすい店や、盗品を換金するルートを教わった。何故なら、十八歳未満の彼らはそれらを中古売買店に持ち込むことはできないからだ。当然手数料を取られる。それでも中学生にとってはおいしい金額だった。
 上手くいくと味を占めて、今度は危ない橋を渡らいよう後輩を使った。巻主君とて、そのまた先輩から教わったのだ。そしてその先輩も。そのまた先輩も。
 連鎖だった。罪の意識というハードルが低い子どもたちにチェーンメールのように蔓延(はびこ)っていくそれ。
 どこかでこうしたことを食い止めなければならない。自分で気づくことができなけてば、補導も一つのきっかけだ。



 月が署を出た四人を照らす。

 あんまり明るくて、母さんと留木さんは空を仰いだ。

 今は夜空の月でさえ眩し過ぎて、また留木さんが泣いた。



【ながらへば またこの頃や しのばれむ 憂(う)しと見し世ぞ 今は恋しき】
藤原清輔朝臣(ふじわらのきよすけあそん )




<つづく>



■ながらへば またこの頃や しのばれむ 憂(う)しと見し世ぞ 今は恋しき/藤原清輔朝臣(ふじわらのきよすけあそん )
<口語訳>
もし生きながらえたならば、辛いことの多い今のことが、懐かしく思い出 れるだろうか。かつては辛いと思った昔が、今では懐かしく思われるのだから。参考URL


刑事クリック

家庭裁判所クリック

審判不開始クリック

生(な)さぬ仲クリック

チェーンメールクリック

参考にしたサイト
http://www.pref.kagawa.jp/police/syounen/higai/tetuzuki1.htm
http://law.e-gov.go.jp/htmldata/S23/S23HO168.html




 いい味だしてる<中高年のおっさん>ていませんか。わたしが一番始めにヤられちまったのは、倉本聰脚本の「昨日、悲別で」に出演する、確か千秋実が演じた場末の映画館の館長さんでした。閉館が決まって、最後に黒澤明監督の「生きる」を上映するんですが、お客が入らないんですね。客席でスクリーンを見つめる彼の演技に号泣しました。おっさんにはペーソスが備わっているんです。そんなおっさんから吐き出される、深みのある言葉、そんなのが伝わるといいな。

 チェーンメール――悪質なものもあるようです。でも<バトン>だって、何の意識もなく次へ回すという意味では似たようなものではないかと思いました。皆がしていても「これへん」「これおかしいんじゃないか」そんな意識をいつも持っていたいです。

 今日のBGM→クリック

 年齢を問わず読んでいただきたくてお目障(めざわり)かもしれませんが読み仮名を付けます。
 


↓直人、あと二回引っ張ります。お付合いください。
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コメント(8件)

内 容 ニックネーム/日時
どうして犯罪を犯したかを、自分で噛み砕かないと、再犯の可能性が残るでしょうね。
万引きはスリル目的と、物自体(換金用含め)目的とふたパターンあるんじゃないかな。

なんか現代っ子って「我慢」が教育されてない気がします。
「我慢って、スゴイ、大事なワケ」と矢沢永吉も言ってましたね。

やっぱり我慢を教えるのは家庭なんだろうな。
どうやってとか聞かないで(笑)
でも、例えば紙おむつを使わず、不快を教えるなんてのも有効なのかもしれないですね。
銀河系一朗
URL
2008/01/11 23:44
銀河系一朗さん、いつもありがとう。
>どうして犯罪を犯したかを、自分で噛み砕かないと、再犯の可能性が残るでしょうね。
ここキッツイわあ。直人の物語ではないので、納得の得られない〆方かもしれないです。
>「我慢って、スゴイ、大事なワケ」
永ちゃんが、そんなことを言っていたのか。CMかな。前園も「イジメかっこ悪い」と言ってましたね。インパクトのある人の口からメディアに伝わると社会的な影響が大きいですよね。
>やっぱり我慢を教えるのは家庭なんだろうな。
我慢ね。青信号赤信号教えるのと訳が違いますからね。言っても取り込む力が無ければだめです。取り込む力をつけてやれなかったのも親なんですけどね。難しいです。
我慢を知るのに一番手っ取り早い方法は不便させることでしょうね。わたしの父はホッキャードー出身なんですけど、小学校に行くのに熊の出るような道を鈴つけて、片道二里(8`)歩いたそうです。そういうことだと思います。
つる
2008/01/12 00:28
>どうして犯罪を犯したかを、自分で噛み砕かないと、
つい、最近よくテレビニュースの特集で見る
万引きを思い出して一般論を言ってしまいました。申し訳ありません。
詳しく書けませんが、昔、警備してた時も、
おとなしそうなコがつまらないものを複数
万引きしたんですね、それはスリルを求めた
んだろうと思うんです。
で、本人が、その万引きは自分の中で価値が
低いスリルに惑わされたんだと理解できれば
やめられると思います。

>「我慢って、スゴイ、大事なワケ」
矢沢の言葉はたしか古い対談で観たもので
彼の信者は不良(私も?)がいっぱいいたけど、矢沢の言葉を頼りに我慢して、自分の道を進めたんだろうなと思いますよ。
そういう仲間が歳とっても最近のコンサートでジャンパーやタオル一斉に投げ上げてるの観ると、みんな頑張ったよなあて思います。
銀河系一朗
URL
2008/01/12 17:18
銀河系一朗さん
ほんとうにいつもありがとう。
いんです、いんです。直人には改心してもらわないといけないのですが、作者のご都合主義にだけは付き合わせないように、あと二回書きます。それもわたしに思いつく程度の、ゆる〜い理由と解決方法ですよ。読んでくださる皆さんの支持を得られないかもしれない。そうだとしても、それが今のわたしの力と甘さなんでしょう。
>矢沢の言葉を頼りに
ヤバイ!ネタバレに近い発言をなさいましたね?これだから物書きの方は恐い。どうかそれ以上何もおっしゃらないでくださいま、シィーッ。
わたしね、ここのところ重い話を書いていて、すっかりテンション低くなっていたんです。ラストに向かって、どうにも筆が進まない。でも、こうしてコメントをいただくことで、なんだか力が湧いてきましたよ。今、ヨッシャー!って感じになってます。永ちゃんのコンサート以上の効果がありましたよ。
つる
2008/01/12 22:09
こんばんは^^今日も読みやすかったです。僕なんかが偉そうに言うのはアレなんですけど、つるさんかなりレベル上がってきてますよねー。今回もお話との距離感がちょうどいい感じだと思います。入れ込みすぎるとダメになるし、逆もまた然りですよね。万引きの顛末も、いい具合にぼんやりとしててリアルでした。
レイバック
URL
2008/01/13 02:39
先ほどは拙ブログにコメントありがとうございました。
最新話読ませていただいたんですが、そちらのコメントはまた後でさせていただきます。
実は拙メルコイで一話飛ばして更新してしまいました(ああ、なんたる失態……)
訂正に伴い、つるさんのコメントもコピペさせていただこうかと思いますが、つるさんの方で訂正ご希望でしたら、メールフォーム等で内容をお知らせいただければ幸いです。
恥ずかしいお願いで恐縮です。
銀河系一朗
URL
2008/01/13 23:37
ええっ!レベルが?ほんと?
レイバックさん、いつもありがとう。
少しだけ調子こいて平常心に戻りました。たぶんいつものムラのある文章のたまたま、いいところだったんでしょう。
だってね、久しぶりに少し前の記事を読み返したんですよ。顔から火を噴きました、へたっぴで。なんかもうね、こうして来ていただけることの有難さを感じました。
それに小説のお約束みたいなのを考えれば考えるほど頭がガチガチになって、書けないんです。あらま、レイバックさんに愚痴っちゃったよ。
まあそんなわけで、つぶやき感覚でラストまでいこうかと。そこから先はまた考えます。
>入れ込みすぎるとダメになるし、逆もまた然りですよね。
うん。伝えたいところは、どうしてこうも力が入っちゃうんだろう。俳優さんのようにどこかで自分を客観視できないとだめなんだろうな。
>いい具合にぼんやりとしててリアルでした。良かった。小さいところでそれがないと嘘くさくて読みたくなくなりますもんね。
つる
2008/01/14 00:54
銀河系一朗さん、ありがとう。
さっそくメール入れました。
それにしてもストックをお持ちの方は羨ましい。
前のコメに警備のこと書かれてますけど、その経験もひとつのお話になりそうですね。
たくさんの人に会うとたくさんの空想が広がる。
つる
2008/01/14 01:03

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