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zoom RSS 「理想の高校生」EAST SIDE STORY 12 

<<   作成日時 : 2008/01/07 18:44   >>

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画像










EAST SIDE STORY 12
 月明かりに照らされた国道沿いのガードレールに中澤先輩とじゅんぺいが
腰を掛けている。

「おまえさ、何考えてんの」

「何って」

「俺言ったよな、くだらないことすんなって」

「あ、はい」

「どっちが先」

「ハ?」

「どっちから手ぇ出した」

「オレです」

「バカ! そんなんでパクられてみ。出場停止どこンの騒ぎじゃねえぞ。そうなったら土下座なんかじゃ済まねえからな」

「ハア」

「おまえらの三年間がパアよ、パア」

「そうなる前に辞めるつもりでした」

「部活を?」

「はい」

「バカじゃねえの、おまえ。サッカー辞めて何かすることあんの」

「いやないっス」

「やっぱバカ」

「バカバカ言わないでくださいよ。わかってますから」

「何かあったのかよ」

「何かって」

「バカ。ケンカの理由に決まってんだろ」

「へへ、ちょっと」

「コレか」小指を一本立てて見せる。

「いや、こっちっス。ダチっス」親指。

「ふ〜ん。よっぽどのマブダチなんだ」

「まあ、そんな感じです」

 本当に小さな頃からどんな時だって、直毅は黙ってそばにいてくれた。上手い言葉をかける訳でもないのに、じゅんぺいにとって、それがどんなにか心強いことだったろう。

「けっこう熱いな、おまえ」

「へへ」

 ケンカの理由を聞いておいて、親指一本で納得する中澤先輩もけっこう熱い。
 じゅんぺいは手にしたままの拾った財布を見ると、

「あれ? これオレんじゃねえや」と言った。

「間違えるかよ、ふつう」

「いや、ヴィトンの同じ形なんスよ。姉ちゃんに貰って、あ! 巻主ンのだ。なんでこんなとこで趣味合うかなあ」

 中から原付免許証が出てきた。

「あ、コイツ俺知ってる」

「先輩知ってるんスか?」

「ああ、俺のダチの高校の後輩だよ。バスケ部だろ」

「あ、はい。中学ン時は。高校は知らないけど」

「高校もバスケやってたんだよ。去年ダチの試合に行ってさ、そン時、見たよ。目立つもんな。そんでダチがさ、コイツをよくイジメてるって言うから、俺止めろって言ったんだけど」

「へえ」

「女みたいな顔してんだろ」

「はあ」

「『かわいい』とか言って、余所(よそ)の高校の女までが騒ぐもんだからさ。『レギュラーでもねぇ一年坊のくせして調子こいてる』って、他の二年もイジメだしたんだよ。けっこう陰険なことやられてたらしいよ」

「へえ」

「それでも最初は我慢してたらしいんだ。一年の頃ってまだ二年に頭が上がんないよな。だけど最後には手が出ちゃったんだよ。顔はあんなだけど腕力はあったみたいで、ダチも他の奴らもボコボコにされたんだ」

「ああ、あいつ少林寺拳法やってたから」

「そうなんだ、どうりで強い筈だよ。そんで部内の暴力事件が表沙汰になる前に辞めたんだってさ。どっちにしろバスケも、あんまり上手くなかったみたいだし、いやんなったんだろうな」

「そうだったんだ」

「それに少し吃(ども)んだろ、コイツ」

「あ〜でも、まあ中学ン時はそんなでもなかったかな」

「俺んちのおふくろさ、福祉施設の公務員なんだ。前にそういう人を担当したことがあるから聞いたことあンだけど、吃音(きつおん)者って、すべての言葉に吃るわけじゃないんだって」

「へえ」

「話し始めにさ、吃りやすい音があるみたいでさ。タ行がだめとかサ行がだめとか人によって違うらしくて、例えば<凧(たこ)>だったら<カイト>とか他の言葉に置き換えたり、<空に揚げる凧>っていうふうに言葉の前に言い易い言葉をつけて話せば吃リにくいんだってよ。そういう指導を受けるんだって。だから人よりか話し始めるのがゆっくりになるみたいなんだ」

「そう言われてみればそんな感じしたなあ」

「だから中学ン時はわかんなかったんじゃね?」

「そうかも」

「高校でさ、ケンカ腰で物言われてみ。言い返す時には頭に血が上ってんだろ。無理だよ。そんで吃んだろ。そんでそこ突っ込まれてみ。あと手が出るっきゃないじゃん」

「……」

「俺さ、おふくろとこの話をしてて思ったよ。俺だったら辞めねえって。だからこそ辞めねえって。なあ、中学から高校来た時思わなかったか?」

「?」

「サッカー上手い奴ばっかって」

「あ〜思いました」

「それでおまえ辞めたくなった?」

「いえ、もっと上手くなってやるって思いました」

「俺もだよ。だから巻主のことも全然かわいそうとか思わねえ。よくいンだろ、人のこと『かわいそう』とか言う奴。あれ俺キライなんだ。おまえ、人から『かわいそう』って言われてどうよ」

「やです」

「だろ? だからさ、俺のダチも悪いけど、そっから先は本人の問題なんだよ。これから上に行けばもっと上手い奴もいンだろうし、もっとヤな奴もいンだろ。そのたびにいちいち逃げんのか?違うだろ。俺は辞めねえ。ヘタでも辞めねえし、誰かの所為(せい)でも辞めねえ。俺が自分に見切りをつけるまでやる、それだけよ。だからおまえも辞めんな」

 知らなかった。神様は意地悪だ。巻主君にきれいな顔と、そして同時に試練を与えた。

(そんなことがあったんだ)じゅんぺいは、フウと溜息ひとつ吐くと夜空を仰いだ。



【月見れば ちぢに物こそ かなしけれ 我が身ひとつの 秋にはあらねど】
大江千里(おおえのちさと)

 

 澄み切った空気に月が冴え渡り、その輝きだけで手元が見えるほどだった。
 免許証を戻した財布の中に、現金が入っていた。そこから昨日のケーキ代ほどの札を抜き取ると、

「よし!」と立ち上がった。

「なんだよ、急に」

 ちょうど横の停留所にバスが着いて、冬期講習帰りと思(おぼ)しきNバッグを背負った小学生くらいの女の子が降りてきた。

「なあ」じゅんぺいが彼女に声を掛ける。

「……」

「ちょっと頼まれてくんないかなあ」

「……」

「おにいちゃん今ここでコレ拾ったんだけど、お母さんがインフルエンザですぐ帰んなきゃなんないんだ」

「?」

「だから、おにいちゃんの代わりにコレを交番に届けて欲しいんだ」

「交番?」

「うん、そう。いい?」

 出ました。その人懐こい笑顔。彼が八重歯をのぞかせると誰だって思わず笑みがこぼれてしまう。彼女もそうだった。

「お母さん、病気なの?」

「うん」嘘に胸が痛む。けどじゅんぺいが届ける訳にはいかないだろう。

「わかった。行く」

「ありがと。おまえ、けっこうかわいいな」

「よっ! 美人さん!」先輩。

 女の子は顔を赤くして財布を受け取ると走って行った。

「この女たらし。親、病気にしやがって」

「へへ先輩には負けますよ」

「よく言うよ」

 ガードレールに長い足の片方を乗せて解(ほど)けたシューズの紐を結ぶ先輩。

「あっ! NIKE の新作ですか?」

「ワカル? ワカッチャウ?」

「どこどこ? どこで買ったんスか」

「駅ビル地下の“LONDON”だよん」

「あーっ! 今週チェックすんの忘れてたァ」

「あ! じゃおまえ、上の“BIG WEDNESDAY”行った? ニューバのいいのあったぜ。しかも三日前から30%(パー)OFFだし。俺は会員だからそっから更に10%(パー)引きだけどな」

「知らんかった〜」

「ワハハ」

 おバカな話に急降下。二人共、おしゃれさんだった。ファッションの話が合うようだ。

「先輩、“BIG WEDNESDAY”行きましょうよ〜」

「やだよ、行ったばっかだし」

「行きましょうよ〜連れてってくださいよお〜」

「ヤダネ。一人で行けよ」

「この前のブーツかっこよかったっスね〜」

「そうかァ」

「オレ惚れちゃいましたもん」

「よく言うよ。じゃ行くかァ」

「ハイ!」

 おバカな先輩とおバカな後輩、語れるバカと語れないバカでいいコンビ。歩いて駅ビルを目指した。

「お願いしま〜す。ご協力お願いしま〜す」

 駅前に立つボーイスカウトの少年が道行く人に声を掛けている。じゅんぺいは少年の首にぶら下がる歳末助け合い募金箱の前で足を止めた。

(たまにはさ、おまえもいいことしろよな。巻主)

 さっき抜いたケーキ代を捻(ね)じ込むと、

「ご協力ありがとうございま〜す」

 少年の声を背中で聞いて、中澤先輩の後を追った。

「センパ〜イ、待ってくださいよォ」


<つづく>



■月見れば ちぢに物こそ かなしけれ 我が身ひとつの 秋にはあらねど/
大江千里(おおえのちさと)

<口語訳>
秋の空にかかる月をながめていると、さまざまな思いに心が乱れて、かなしみがおしよせてきます。
秋は、わたしひとりだけのためにやってきたというわけではないのだけれど・・・。
※ちぢに・・・いろいろ、さまざまにという意味。参考URL


Nバッグ大手学習塾「日能研」の紺の3ウェイバッグですね、たぶん。

ニューバNewbalanceの略。



 「ドモリ」「ドモル」メディアで使っちゃいけない言葉ですね。口語ということでお許しください。
「かわいそう」これ、中澤先輩と同じく、わたしも嫌いです。人に対してではなく動物に言う言葉くらいに思ってます。自分は安全な場所にいて、そこから物を言う人は好きじゃないです。
 そうそう、先輩は四男の設定です。付いてくる下の子にはお兄ちゃんになりたいわけです。じゅんぺいは長男ですけどお姉ちゃんがいる第二子ですからお兄ちゃんみたいな人に付いていけるんです。そんな訳で気が合うんですね。
 ところで今sale中ですね〜。渋谷でブーツを履いてる男子をたくさん見ました。エンジニア・ブーツとかコンバット・ブーツとか呼ばれているそうですよ。オサレな子は好きですね。
 
 今日のBGM→クリック
 それにしても「スラムダンク」の流川(るかわ)君はかっこいいですねえ。うちの子にしたいわあ。(「スラムダンク」バスケット部が舞台の漫画です)

 年齢を問わず読んでいただきたくてお目障(めざわり)かもしれませんが読み仮名を付けます。
 


↓藤枝東ってU−18(アンダーエイティーン)が4人もいるんですってね、トホホ。三鷹より役者が一枚うわてだわ。こうなったら決勝は藤枝東に付いていきますよ。来週(1/14)が楽しみ。
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コメント(6件)

内 容 ニックネーム/日時
こんばんは。やっぱつるさんの会話文はいいなぁ。引き込まれましたよ。後半二人のノリが変わっていく感じも分かる。「かわいそう」「頑張れ」は使いたくないし、言われたくない言葉ですね。僕はスラムダンクでは三井が好きです^^
レイバック
URL
2008/01/09 01:07
>親指一本で納得する中澤先輩もけっこう熱い。
ここ、いいですね。
>吃音者って、すべての言葉に吃るわけじゃない
初めて知りました、そうなのか。
「かわいそう」てのは差別を際立てる言葉ですね。
銀河系一朗
URL
2008/01/09 11:41
レイバックさん、いつもありがとう。そして昨日は視点について、とてもわかりやすいサイトを教えてくださってWでありがとうございます。三人称で書いているつもりでも、何かいつもへんだなあって思ってました。視点が移動してたのね。説話調の形を取りたいので、さと子さんに喋らせようと思います。だけどな、そうすると制約があるんだよね、確か。そのへんの葛藤は、あとでまた、読書感想文で書いてみます。皆さん、気がついても優しいから指摘を控えてくださっていたようで、恥しいです。
>「かわいそう」「頑張れ」は使いたくないし、言われたくない言葉ですね。
おお、賛同者が!男性でもそうですか?パートのおばちゃんなんかに、よくいますね「あ〜ら、かわいそう」って。人を下に見てます。あの人より「まし」っていうふうに言ってます。
>僕はスラムダンクでは三井が好きです^^
「安西先生、バスケがしたいです」ですね。あれ泣きました〜三井にしては、もの凄くブチャイクな顔で言うんですよね。あの漫画は熱かったです。ホント大好き。
つる
2008/01/09 21:02
銀河系一朗さん、いつもありがとう。
いいと言ってくださってWでありがとうございます。レイバックさんにしても銀河系一朗さんにしても人を褒めることができる人は力のある人だからだと思います。そうでない人はやっかみますもんね。わたしも、なかなかそれができない。うまい人を見ると「ちきしょーやられた〜」とか思ってしまいます。
>吃音者
のくだりは軽度の人の場合と思われます。以前そういう方の書いたブログを読んだことがあるんです。大変な道のりのようです。これに限らず、子ども系のサイトをネットサーフィンすることが多いです。書くより、いつ使うんだかわからないような小ネタを拾って歩ってます。またネタばらしだ〜
>「かわいそう」てのは差別を際立てる言葉ですね。
「気の毒」これも、いやですね。わたしね、面と向かって「あなた、お気の毒ね〜」って言われたことありますよ。ははは
つる
2008/01/09 21:16
遅れながら、参上。
「かわいそう」「気の毒」…使い時、まちがうと紙一重な言葉ですよねー。
そうだ! これからは、かわいそうとか駄目だ! もののあわれを感じるべきだ! 日本人だし! これからは、こう言おう、
「あわれでおじゃる!」
 
…いや、駄目だわ(笑)

大江千里(おおえのちさと)…百人一首か。あらためて見るといい歌ですね。
火群
2008/01/13 01:32
火群さん、参上してくださってありがとう。
ハリケンジャーみたいで凄く心強いです。
火群さんは繊細なところがあるから「かわいそう」「気の毒」これらを文や言葉にする時はとても慎重だと思います。だけどなー
>「あわれでおじゃる!」
とかも言う人なんだよな〜
「おじゃる」で日光江戸村を思い出しました。団子かなんかのお土産を買って千円出したら「五百万両のお釣りでごじゃる」ってアンタ!あれ火群さんだったのかしらん。
百人一首ね。高校の時にその中の一句をしたためて渡しましたね、卒業式の時に。その当時でも友だちが笑いました。「古い」って。通用しないんだろうなあと思いながら書いてます。でも、好きなんだよなあ。
つる
2008/01/14 00:34

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