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zoom RSS 「理想の高校生」EAST SIDE STORY 10

<<   作成日時 : 2008/01/03 21:56   >>

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EAST SIDE STORY 11
 スタンドをかけるのもそこそこに、直毅はニッコリマートの自動ドアを踏んだ。脇に立つ二人の女性が会話している。

「やだわあ。ほんとにうちの子が万引きなんてしたのかしら。内山さん先に入って」

「あたしだってやあよ。芝さん先に行ってよ」

(くだらねえ)

 直毅がカウンターの学生らしい店員に店長から電話を貰ったと手短に伝えると、すぐに横の事務所に通された。普段は作業員の休憩スペースであろう小さな空間に長テーブルといくつかの簡易椅子が置かれている。テーブルの上には未開封のゲームソフト、DVD、新刊の漫画単行本が雑然と並んでいた。
 テーブルの向こう側の中学生と思(おぼ)しき数人の中に、直人の顔があった。彼と隣の少年の上着は水風船を割られたような蛍光色が飛び散っている。カラーボールを投げつけられたのだろう。直樹を横目で見ると直人は目を逸(そ)らせた。
 まだどの保護者も来ていないようだ。直毅は入口近くのデスクで電話をかけている年配の男性に目礼した。電話を終えた男性が

「わたし店長の佐藤と言います」と言うので

「松本です。弟がご迷惑かけてすみませんでした」と頭を下げた。

「他の方が見えてから説明しますが、親御さんと連絡がつかないお子さんもいるので、学校の方にも連絡を取らせてもらいました。冬休みかとも思ったんですが、ちょうど副校長先生が詰めてらしたんで、来ていただけるそうです」

「はい」

「皆さんがお揃いになるまで、もうしばらくお待ち下さい」

「はい」

 直人はもう直毅を見ようともしない。ひそひそと聞こえないくらいの声でひとことふたこと隣とやり取りしていた。
 ほどなくして一年生の親が「内山です」「芝です」と二人。それから副校長先生が、続くように「松本です。この度はご迷惑をおかけしまして申し訳ありません」と平身低頭で母さんがやって来て、最後に店員の案内で背広を着た男性が二人入って来た。店長が言った。

「ああ目崎さん、忙しいところ、ご足労かけます」

「いやいや仕事ですから。それにしても佐藤店長んとこも大変だなあ」

 年配の方の背広が言った。そばで若い方の背広が目礼した。

「こちらナンジャラホイ警察署の少年課の刑事さんです。目崎さんとそちらは」店長が年配の背広を紹介すると

「工藤です」若い背広が言った。

「工藤さんです」

 警察と聞いて三人の母親と直毅は思わず頭を下げてしまう。 

「目崎さん、どうも。この間の講演会の方ではお世話になりました」副校長先生が言うと

「あ、これはこれは副校長先生どうもどうも。冬休みだというのにご苦労さんです」少年課と学校はどこかしらで繋がっている。

「ではだいたいお揃いになったんで、どういう事情か説明します。ちょうど私が上にいて店を空けてた時なんです。居合わせた店員がここにある品物を持って店を出ようとしたそっちの三人に気がついて声をかけたわけなんですよ。それで盗ったことを素直に認めたものですから店で詳しい事情を聞こうとして三人を連れて店に戻ったんです。そうだね、君」店長が刑事を案内してきた店員に言うと、

「はいそうです」

「ああ君、須藤くんも呼んで来て」

 もう一人の大柄な店員が入って来て、店長に促されると続きを話し始めた。

「加藤がその三人を連れて戻ったら、本コーナーの前にいたそこの二人が」顎を直人と隣の少年をしゃくると、

「逃げるようにドアに向かったから『待て』って言ったんです。でも止まらなくて、だから外に出たこいつらにカラーボールを投げたんです。ええ、カウンターのところにあるやつです、防犯対策の。自分、野球部だったんで命中させる自信ありましたから」

「だからオレらはやってねえちゅうの。防犯ビデオ見てくれよ、なあ」直人がうそぶいた。

「おう。誤解だよ、誤解。このダウンどうしてくれんのよ」隣の少年が言った。

「そうだわ! 防犯ビデオ! それ見せて下さい」と内山さん。

「わたしも! じゃないと納得できません! 本当にうちの子がやったっていう証拠が見たいわ」芝さんも同調する。

 店員二人が証拠の品を目の前にしても認めようとしない親に呆(あき)れて顔を見合わせた。

「見ますか?」と店長。

「いや、テープはこのまま署に持ち帰らせていただきます」若い刑事。

 直人は隣と顔を合わせてニヤついている。大の大人が何人も集まって真面目な話をしているのにだ。この二人が二年生で他の三人が一年生だった。直人は三人に『黙ってろ』とでも言うふうに視線をやった。直毅は見逃さなかった。

「おいっ! ふざけんな! だったらなんで逃げたんだ! やましいことがないなら止まんだろっ!」

 テーブル越しに直人に掴みかかった。

「お前が説明しろ! みんなが納得できるようにお前の口から言ってみろ!」

 興奮する直毅に母さんが、そして年配の刑事が『まあまあ』と背中から取り成した。

「今日はやってないって言うけどじゃ、この前はどうなんだ。店長を甘く見んのもいい加減にしろよ」カラーボールの店員が言った。

(この前?)直毅が母さんを見ると小さくなっていた。

「そんなわけで彼らが通報したわけなんですが」と店長。静まり返る室内。

「じゃ、佐藤店長。あとはこっちに預からしてもらいますわ。あとで話を聞きたいんでこっちの方に又来てもらえませんかね。忙しいとこ悪いけど」

「わかりました」

 一同が事務所を出てカウンターの前を通った。直毅は、端で後ろを向いている作業服姿の佐藤さんを見た。彼女にできる精一杯の思いやりだった。

 外に止めた覆面パトカー二台に分乗して、少年たちが警察署に連行されることになった。
 いくら覆面とはいえ、先ほど店先で大捕り物があったばかりだ。上の階の住人や、何があったんだというような野次馬が集まって、車に乗る少年たちを遠巻きに見ている。
 副校長先生と母親三名はそれぞれに署に向かう。とうとうあと二人の少年の保護者は来ずじまいだった。パトカーにペコペコと頭を下げる母さん。

 パトカーを見送った母さんが振り向いて言った。

「おにいちゃん、ありがとうね。ここからは母さんだけで平気だから」

「わかった。なんかあったら電話して」

「うん。大丈夫よ」

「あ、そうだ。父さんは?」

「忘年会。でも連絡ついたから。警察の方に間に合わなかったらそっちの方もお願い」

「わかった。母さん」

「何?」

「何でも言って。これから何でも言ってくれよ、オレ聞くから」

 うんうんと頷いて俯(うつむ)いたまま、母さんは署に向かった。

 立ち去らない野次馬の中の、全然ひそひそ話でないひそひそ話が聞こえた。405号室の遠藤さんのオバサンとパンチパーマのオバサンだ。
 
「万引きだってよ。これで何度目?」

「わからへん、ここんとこしょっちゅうやさかい。ほんまいややわあ、万引きする子の親は何考えてんのん」

「いまどきの親はあたしらの頃とは違うのよ。甘いのよ」

「なんや、この店もつぶれるちゅう噂あるらしぃわ」

「そりゃそうだわ、10円20円の商売してんだもの。こう何度も集団でやられちゃ二ッコリマートさんだっていい加減傾くわ、お気の毒に」

(くだらねえ!)

 腹が立った。誰に? きっと何もかもにだ。乱暴に自転車に跨(またが)るとペダルを漕ぎだした。無性に腹が立って、そして情けなかった。

(くだらねえ! ほんとくだらねえ!)


「ほらすぐそばに“SIX TWELVE”ができたじゃん。あそこにほとんど客取られちゃってるんだって」

「なんやつぶれるちゅう噂あるらしぃわ」


 
(佐藤ンちはつぶれるんだろうか)

 漕いでも漕いでもいくらも距離が稼げない。パンクだった。昨日自転車を倒した時から少しずつ空気が抜けていたんだろう。降りて自転車を引いてトボトボと歩いた。


 店長や刑事の険しい表情。直人の悪びれた顔。頭を下げ続ける母さん。学校で時折見る佐藤さんの寂しそうな顔。そんなのが頭に浮かんでは消える。


(それが直人のやったことなのか)

 冴え渡った群青の空に月が出ていた。煌煌(こうこう)と青いブリッジを照らし出している。



【心にも あらでうき世に ながらへば 恋しかるべき 夜半(よは)の月かな 】三条院(さんじょういん)



 のほほんと何も気がつかなかった自分を悔やむように、彼の目は前輪ばかりを追った。

 月を仰ぎ見る余裕なんてなかった。




<つづく>



■心にも あらでうき世に ながらへば 恋しかるべき 夜半(よは)の月かな /三条院(さんじょういん)
<口語訳>
心からの願いでもなく、このつらい世を生きながらえたなら ば、その時こそ、きっとこの宮中で見た夜の月が、恋しく思 い出されることだろう。参考URL


辛気臭い
(形)〔おもに関西地方で〕思うようにならなくて、じれったい。気がめいってしまうさまである。
「―・い話」(三省堂「大辞林 第二版」より)




 こういうのは書いていても筆が進みませんね。正月から辛気臭い話になってしまいました。ごめんなさい。これはまだ12月26日のお話です。

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歌詞


 年齢を問わず読んでいただきたくてお目障(めざわり)かもしれませんが読み仮名を付けます。




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コメント(6件)

内 容 ニックネーム/日時
万引き、事実はどうなのか、まだはっきりしませんね。
都立三鷹やりましたね。私は田舎出身なのでぴんと来ないけど、都立が上位に進むのは大変みたいですね。
銀河系一朗
URL
2008/01/03 22:56
銀河系一朗さん、いつもありがとう。
うん、万引きね。その説明はきっと次の次の次の回ですね。長くてすみません。
三鷹ね〜すごいですね〜夢がありますね〜
定時制との絡みで彼らの練習時間は一時間半ですってよ。それにしても一試合毎に逞しさが増してきました。さあこれからどうなるんだ。次は藤枝東が相手ですよ。どんなチームなんだろう。
つる
2008/01/04 00:29
うーんややこしい展開になってきましたねぇ。納得のいく理由があるのか?子供の行動は単純なようで複雑なところもありますからねぇ。今後に期待しています。>取った→盗った?これは状況的にはどちらでもイケそうですがw
レイバック
URL
2008/01/04 01:49
レイバックさん、いつもありがとう。
ややこしいんだけどね。ここから先、ちょっとだけ親子の情とか友情を書きたかったんで、こんなんですよ。理由はね、あるにはあるんですが果たして皆さんの納得を得られるかどうかは謎です。犯罪に限らず人間の行動にいちいち理由があるのかなって思うんですよ。今日食べたかったもの、会いたくなった人、行ってみたい場所、そういう衝動に理屈があるのかなって。犯罪はもちろんいけませんが、何か事件がある度に見識者がしたり顔でコメントするでしょう?あれって当たっているのかな。貧乏だったり片親だったり愛情不足だったりする人が全て犯罪を犯すかと言ったらそうじゃないですもんね。なんかものすごく小さなことだったりすると思います。それは本人にしかわからない。本人もわからないかもしれない。他人にはもっとわからないと思います。
>取った
盗ったの方がわかり易いですね。そっちにします。ほんといつもサンキュウです。
つる
2008/01/04 11:23
あーそれって真理かも。犯罪なんて理由が無い場合も多いはずですよね。ちょっと気分がモヤモヤしてて、ちょっとイライラしてて、そんな理由にならないような理由で起こる犯罪が多いのかも。テレビもそうだけど、警察の調書なんかも理由、動機はハッキリさせますよねぇ。
レイバック
2008/01/05 01:51
あ〜ありがとう、レイバックさん。
ちょっと言い足らなかったからコメ嬉しいです。極端だけど殺人ね、アレ、する人はする、しない人はしないらしいです。個人の資質が深く係わっているそうです。その行為に及ぶハードルが低いってことだと思います。全然ズレてるかもしれないけど遅刻しない人はしないし、するひとはするってことだと思うんです。だからそのハードルの低い人に我慢を強いることは、普通の人の我慢の比じゃないかもしれないですね。そんなこと考えました。
>テレビもそうだけど、警察の調書なんかも理由、動機はハッキリさせますよねぇ。
ねえ。マスコミが知りたがるから納得させたいんだろうけど、肝心なのは当事者同士の納得ですよね。
つる
2008/01/05 02:19

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