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zoom RSS 「理想の高校生」EAST SIDE STORY 18

<<   作成日時 : 2008/01/23 20:24   >>

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EAST SIDE STORY 18
「あ、松本君。どこ行くの。カルタ――」

 ドスンッ!

「きゃっ!」

 すれ違った林さんがくるっと半回転した。男子の体当たりに負けない彼女のフィジカルはハンパじゃない。
 それを見もしないで、直毅は階段を駆け下りると駐輪場に走った。
 ポケットに自転車の鍵がなかった。サブバックだ。

「っだよっ!」

 踏んでた踵を上履きに押し込むと、閉じられた校門の鉄柵に飛びついて、錆びだらけのフレームを乗り越えた。
 国道までのだらだらとした坂道を転がるように駆け下りて、黄色信号を突っ切った。
 
 心臓がうそだうそだと波打って、コンクリートを踏む足音が何で何でと繰り返した。

 国道沿いの直線をひた走りブリッジで折れると、飛ぶように橋を越え、道なりに右へ続く歩道を駆け抜けた。
 
 
 む、むらさめのきりたちのぼる、
 す、すみのえのゆめのかよいぢ、
 め、めぐりあえてくもがくれにし、
 ふ、ふくからにむべやまかぜを、
 さ、さびしさにいづこもおなじ、
 ほ、ほととぎすただありあけの――  


 覚えたての“一字決まり”がループして、

 せ、せをはやみわれてもすえに、

 せをはやみ、

 瀬を早み、 

 瀬を早み 岩にせかるる 滝川がはの われても末に あはむとぞ思ふ



 止まった。

 白いタイルのビルの前に立つと、はあはあと肩で息をする直毅。

 ニッコリマートの大きな看板が外されるところだった。
 閉店したコンビニをいつまでも見世物にしたくないとでもいうふうに、すでに業者が入って商品を搬出したり、改装に向けて棚のレイアウトを変更したりしていた。

 直毅はビルの裏手に走った。
 フェンス越しに、二階の右から二番目のベランダを見る。
 そこに揺れていたはずのカーテンがなかった。

「うそだろ」

 金網を掴んだ手と、くっつけたおでこに跡がつくほど見つめる直毅。



 そこにスウェット上下のジュリエットがいた。

 彼女はベランダから覗き込むようにして、滑り台の彼に言葉を投げる。

「でも、来たんだ」

「約束だもんね、男の」

「言っとくから」

「来たって、クソするニーチャンが」

「いいよ。そんなの」

「逃げて!」
 

 ううん。
 
 いなかった。


 
 あんなに青々と茂っていた中庭の雑草も金網に絡んだ蔦も褐色に色を変え、今はその面影さえもない。
 フェンスのこちら側にうな垂れる彼も、すでに立ち枯れていた。



 表通りに戻ると、近所の人が噂話をしていた。405号室の遠藤さんとパンチパーマのオバサンだ。

「あらあらもう撤収なんだ」

「聞いたんやけど夜逃げ同然やったらしぃなあ」

「あら、奥さんは店舗の賃貸契約が切れるからって言ってたわよ」

「最後の見栄やったんとちゃうか?気ィ強そうな人やったし。ま、きれい好きやったけどな」

「いくら店がきれいでもさ、それで客が入るわけじゃないからね」

「そやな、それになんぼフランチャイズ言うたかて、所詮脱サラの素人経営ではあかん。算盤(そろばん)勘定は大阪人にまかせとったらええんや」

「ははは、そりゃそうだ」

「くだらねえ」 直毅が吐き捨てるように二人に言った。

「何よ。アンタ」ジロリと睨む遠藤さん。

「くだらないこと言ってんなっ!」怒鳴った。

 我慢できずに元来た道を駆け出した。

「なんやねん、あれ?お〜こわ」

「刃物持ってなくて助かったわ〜」





 ブリッジまで走ると息が切れた。
 
 川下から這うように靄(もや)が上ってくると、みるみる視界が悪くなって辺(あた)りは静かな霧雨に包まれた。
 佐藤さんの住んでいた街が、幾重にもオーガンジーが重られたように薄くなっていく。

 しばらく立って見ていたが、欄干に目を落とすと、

「あ」

 驚いた。
 だって、ひとりぼっちのはずの『サトウ』さんが、いつのまにか『松本君』と不恰好な相合傘を差していた。
 傘の柄を挟んで濡れないように肩を寄せている。
 
 佐藤さんは此処(ここ)に来た。

「聞いてねえ」

 ひとりごと。

「てか聞いてねえし……」



【あふことの 絶えてしなくは なかなかに 人をも身をも 恨みざらまし】  
中納言朝忠(ちゅうなごんあさただ)  



 ポケットで着信音が鳴った。じゅんぺいからだ。

《カルタ大会オワタ ○l ̄L〓二組の優勝〓部活でんの〓体育館で筋トレ中心のメニューだと》 
 
《でる》

 かじかんだ手でそれだけ打つと、もう一度欄干に目をやった。
 
 それから頬の雨を左肩で拭(ぬぐ)うと、肩を落としてトボトボと歩き始めた。


《一組も二組も優勝目指して頑張って下さい。じゃ、元気でね。佐藤ゆみこ》

 
 白く吐かれた長い息。

 その溜息が言ってる。



 「もう会えないんだ」

  

 


<つづく>


■あふことの 絶えてしなくは なかなかに 人をも身をも 恨みざらまし/
中納言朝忠(ちゅうなごんあさただ)

<口語訳>
あなたと会って、愛し合うことが一度もなかったのならば、かえってあなたのつれないしうちも、わたしの身の不幸も、こんなに恨むことはなかったでしょうに。会ってしまったばっかりに、この苦しみにはとてもたえられそうにありません。参考
URL

○l ̄L→ 「orz」 もしくは 「OTL」とも表記されます。ってか常識?


担当編集者「直毅が左肩で拭った“頬の雨”ってほんとに雨だったんですかね」

つる「さ〜どーなんでしょー(長島元監督風に)」

担「書いてて雨か涙かわかんないんですか」

つる「わかんないさ、だって全知の視点なんだもの〜。突っ立ってるだけじゃ泣いてんだか泣いてないんだか彼の気持ちなんてわかんないよ」

担「ほ〜ほ〜。で? 足音や溜息は喋るんだ」

つる「ニゲロっ!」


 今日のBGM→「僕のそばに」
 歌詞→クリック
 動画→クリック

 年齢を問わず読んでいただきたくてお目障(めざわり)かもしれませんが読み仮名を付けます。



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コメント(4件)

内 容 ニックネーム/日時
佐藤さん・・・(ノ_<。)

踏んでた踵を〜駆け抜けた。疾走感と音の感じがいいすね。つるさん柵越え好きだなぁ(笑)

関西弁微妙に直してみました。(あくまで僕のリズムなので、そのままでも全然いけると思います)
「聞いたんやけど夜逃げ同然やったらしぃなあ」「最後の見栄やったんとちゃうか?気ィ強そうな人やったし」「そやな、それになんぼフランチャイズ言うたかて、所詮脱サラの素人経営ではあかん。そもそもやな、算盤(そろばん)勘定は大阪人にまかせとったらええんや」
レイバック
URL
2008/01/24 01:37
レイバックさん、ここにもありがとう。
走ってばっかりでおにいちゃんも疲れましたよ。多分。
そして柵越えマニアのつるです。これからは一つのお話に柵越えは一つにしておこう(笑)
関西弁嬉しいです。ほんまもんや〜!さっそく手直ししてみます。
ちょっと思った。会話のテンポは悪くなるけど、例えば登場人物が十人いて十人にそれぞれの出身地言葉で喋らせたら、いちいち「と、誰誰が言った」と書かずに済むなあって。あ、常識だった?なんだ。
つる
2008/01/24 21:11
>金網を掴んだ手と、くっつけたおでこに跡がつくほど見つめる直毅
わかるなあ、青春の1ページ。
似たようなことはあったかも。

そろそろ幕がおりそうですね。
佐藤さん、ほんとに会えないんですか?
銀河系一朗
URL
2008/01/25 20:21
似たようなことあったの?
だったら銀河系一朗さんの拳で金網は変形しましたね、きっと。クスクス。おっと、笑うとこではないですね。
いつも、ありがとう。
もうすぐ終わりです。見え見えのラストに皆さんよくおつき合いしてくださり感謝しています。
それでもしみじみ感を伝えるべく頭はフル回転です。感じたことを言葉にするのは本当に難しいです。
つる
2008/01/26 15:26

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