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zoom RSS 「理想の高校生」EAST SIDE STORY 17

<<   作成日時 : 2008/01/21 20:22   >>

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画像











EAST SIDE STORY 17
 翌朝のニュースの時間だった。

「あれっ!この子、昨日うちに来た子だわ」

 母さんがTVを見てすっとんきょうな声を上げると、画面に目をやった直毅が、

「ブッ!」

 と、味噌汁を噴き出した。

 畳に四つん這いで、払い手を決める佐藤さんが映っていた。

 新春恒例のカルタ競技の名人戦とクィーン戦が一月五日の昨日、三重県大津市の近江神宮で行なわれました。今年の男子の名人位は――

「ねえ!そうよね、!ほら。うん、間違いないわ」

 箸が止まる直毅。

 ――クィーン位は和歌山県の木下早苗六段。去年の覇者である東京の佐藤ゆみこ五段は惜しくも――

 ビジュアルに耐えられないとでも言うふうに、オカチメンコの新クィーンをさらっと流したカメラは、敗者となった昨年の高校生クィーンをアップで映し出した。
 佐藤さんは髪を長く垂らした“束髪くずし”にして、刺繍の入った伊達襟を重ねたピンクの綸子(りんず)の着物を着ている。
 隣に付き添いなのか、あの嫌味な古典教師の加納先生が立っていた。

「残念でしたね」

「……」

「いやあ、ちょっと今年は体調を崩してしまったものだから」 


 アナウンサーの問いかけに、加納先生が佐藤さんの肩に手を掛けて答えた。
 
「死ね!」直毅。

 画面の彼女はふてくされたように横を向いている。

「なんか性格悪そうね、この子」未来のお嫁さんを値踏みするように母さんが言った。

「高校生ということで勉強との両立が大変だったのかな」

「……」

「いやほんと彼女は努力家ですからねえ」

「 来年はリベンジですね」

「……」

「彼女はこのままでは終わりませんよ。な?」


「ふざけんな!」

 彼は、彼女の代わりに答える加納先生に突っ込んだ。
 アナウンサーは佐藤さんのコメントが取れずに困っている様子だった。
 
「百人一首の中で何か好きな歌がありますか」

「――あ、はい」


 それでもようやく渋渋と言ったように、彼女は返事をした。

「それは何でしょう」

「――崇徳院(すとくいん)の詠んだ歌です」

「崇徳院?」

「【瀬をはやみ――】ってやつですよ」横から加納先生。

「あ〜はいはい、あの情熱的な歌ですね」

「そうなんですよ。彼女はですね、何でも物事に取り組――」


 画面が切り替わって、スタジオのアナウンサーが映った。

 次のニュースです。警視庁の発表に寄りますと、正月の五日間に全国でお餅を喉に詰まらせたという救急車の出動要請が――

「何だ、あれ」

「ほんとほんと。何なのかしらね?あの態度は。女は器量じゃないのよ。多少オカチメンコでも性格がいいのが一番。なにもあの子だけが女の子じゃあるまいし、おにいちゃんに相応(ふさわ)しい子はきっと他にもいるわよ。母さん、そう思う。うん。」

 TVに向かって呟(つぶや)く直毅に、すっかりフラレたと勘違いした母さんが励ますように言った。





 一月八日始業式。

「パスパス!」「何やってんだよ!」「いけいけっ!」「フォローッ!」

 うっすらと靄(もや)に霞んだグラウンドから早朝練習の元気な声が上がる。
 三学期が始まり、上気した部員たちの顔は新体制が本格的に始動したことを物語っている。

 一時間余りの練習を終え、まだ弾んだ息で直毅が体育館の脇を通りかかると、中から“ハイカラさん”が出てきた。
 始業式の後は恒例の百人一首カルタ大会だ。その用意なのか似たような袴姿の同好会のメンバーが慌しく出たり入ったりと忙しくしている。
 彼は佐藤さんを探すようにチラチラと見たが、その女子たちの中に彼女はいなかった。
 体育館の少し開(あ)いた鉄の扉から中を覗いた。
 がらんとした中央に緋毛氈(ひもうせん)が引かれている。
 カルタ大会の準備に追われる生徒が二三人いたが、そこにも彼女の姿はなかった。

 「佐藤いないね」

 ポンと肩を叩いて体育館を覗いたじゅんぺいが言った。

「別にそんなんじゃねえよ」

「またまた無理すんな」

「無理すんな」じゅんぺいの後ろでニイケンが笑った。




【しのぶれど 色に出にけり 我(わが)恋は 物や思ふと 人のとふまで】 
平兼盛(たいらのかねもり )




「なあ、佐藤いねえの?」

 じゅんぺいが体育館に入ろうとしたハイカラさんに声を掛けた。

「さあ、今日は来てないみたいですよ」

「ふ〜ん、サンキュ」彼女の後姿に言うと、直毅を振り返った。

「あれじゃねえの。クウィーン戦に負けちゃったからショックとか」

 小さく笑う直毅。

 ビブスのカゴを持った女子マネのしおりちゃんが、彼らの背後を通りかかった。
 じゅんぺいが彼女に何か耳打ちした。
 彼女はカゴを持ったまま猛ダッシュで走って行った。マネージャーだけあって頼まれごとに労を惜しまないタイプ。
 そして、彼女は佐藤さんと同じ八組だった。





 学活の後の事だ。
 一組の後ろの戸口で、しおりちゃんがじゅんぺいに手招きをした。
 「どうした」と立ち上がって、しばらく彼女の話にうんうんと頷くと、

「直毅! ちょっと!」とじゅんぺいが呼んだ。

「何」

「佐藤が転校した」

「う、うそだあ」ヘラヘラと言った。

「本当なのよ、松本君。担任がさっき言ったの。『おうちの事情で岡山の方に転校されました』って」しおりちゃんはマジ顔だった。

「それで?」じゅんぺい。

「あと詳しくはわからない」

 二組の前の廊下で酒井さんがニイケンのブレザーを掴んで泣いている。
『なんだなんだ』と振り返る生徒。
 注目が集まる中で、又、ニイケンの手は空中を浮遊していた。

「ゆみこが――ゆみこが! わああぁあ!」

 じゅんぺいとしおりちゃん、少し遅れて直毅が、ニイケンと酒井さんの所に駆け寄った。

「何があったんだ。泣いてないで言えよ、酒井」じゅんぺい。

「うう」

「言えよ、酒井」

「ゆみこが、ゆみこが携帯に出ないから、おとといからおかしいなって思ってたんだよ。でもいつもの電池切れかと思って、そしたら今日いないじゃない、うっく」

「そんで」

「メールが、今、お母さんからメールが来たの。お母さんの病院がゆみこんちに近いのね。朝ニッコリマートの前を通ったら閉まってたんだって。へんだなって思ったらしいの、ふつうコンビ二っていったら24時間営業でしょう。そしたら職場の人がね、言ったんだって。『店つぶれたらしい』って。信じられる? 信じらんないよね。あたし聞いてない! 何にも聞いてないから! ぁああんあんあん!」

 呆然とする直毅。
 ニイケンが、じゅんぺいが、しおりちゃんが、彼の顔を見た。

「ウソだ」

 直毅はそう言うとダッと廊下を走った。


 <つづく>



■しのぶれど 色に出にけり 我(わが)恋は 物や思ふと 人のとふまで/ 
平兼盛(たいらのかねもり )

<口語訳>
あの人を恋しく思う気持ちを人に知られないように、わたしは長い間じっとおさえて、つつみかくしていました。しかし、とうとうかくしきれずに顔色に出てしまいました。「近頃だれかを恋していらっしゃるようですね」と人がたずねるまでに・・・・。
※色に出にけり・・・顔色に出てしまった、という意味。参考URL



ハイカラさんはいからさんが通る

名人位・クィーン位クリック

近江神宮クリック



 びっくりしました。ニュースに寄ると、本当に高校生がクィーンなんですね。ありえない設定かと冷や冷やしましたが結果オーライだったようです。
 さて、佐藤さん、転校してしまいました。「どんだけ主人公にイヤな思いさせれば気が済むんだ」ってところなんでしょうが、わたしは決してSなんかではありませんよ。もたもたしているおにいちゃんがいけないのです。(笑)
 「しない後悔よりした後悔」なんかそんなこと考えました。

 今日のBGM→クリック
 歌詞→クリック

 年齢を問わず読んでいただきたくてお目障(めざわり)かもしれませんが読み仮名を付けます。
 


↓今日の東京は雪予報が外れました。
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コメント(8件)

内 容 ニックネーム/日時
衝撃的な展開ですね。
コンビニもつぶれるご時世ですが、そんなに急とは。われても末にどうなるんでしょうか。
もう話的には終わりですか?
銀河系一朗
URL
2008/01/21 23:07
銀河系一朗さん、いつもありがとう。
昨年、立て続けにご近所のコンビニが店仕舞いしました。だけど日が空かないうちに違う系列のチェーン店に変わったわけです。放置プレイしないんですよ。そんなで閃きました。
>われても末にどうなるんでしょうか。
「あはむとぞおもふ」です。「会えたらいいなあ」で終わりです。あくまで希望で終わります。何しろ連載する前に8/16の記事で最後を予告しちゃってますんでね。あと三四回で終わると思います。何か少しさみしいです。
つる
2008/01/22 01:47
つる先生。佐藤さんファンの僕の立場は・・・・・・
(;´д` )
お兄ちゃんがかわいそうじゃないですか!!!(泣)うううううう。

ところでつるさん、北村薫は読まれますか?「空飛ぶ馬」から始まるシリーズなんですが、作者が元高校の国語教師(この作品時はまだ現役だった)なので日本文学の話が良く出てきて面白いですよ。つるさんに合いそうな気がします^^既に読まれてたら蛇足ですが(笑)
レイバック
URL
2008/01/22 23:26
あれ?佐藤さんでいいの?あんな感じですよ。
ここにも連チャンでコメントをありがとう、レイバックさん。
>北村薫
検索して読んでみたくなりました。元国語教師だったというのもそそられますね。わたしね、ミステリーや推理小説はあまり読んでいないなあと思いました。読み出したら結果が気になって途中で止められなくなりませんか?
銀河系一朗さんに紹介してもらった宮本輝も気になっているんです。こちらも北村薫と同世代ですね。宿題がいっぱいだあ。
つる
2008/01/23 02:47
ツンデレに弱いんです(笑)いやー最近はそうでもないですね2、3冊同時進行するんで。僕は逆に文学を読まなきゃなぁ、純文学の人に叩かれるし(爆)
レイバック
2008/01/24 01:18
おお!ご自身がツンデレではなくツンデレ好きのほうだったんですね。なるほど。そしてレイバックさん、いつもありがとう。
確かに誰にでもお愛想のいい人って何か怪しいですもんね。ツンデレ――悪くないですよ。
最近の読み物って軽い感じのものが多いですね。本屋でパラパラッとしてわかっちゃうもの多いですもん。買ってまでして読むのもなあ、なんてのがベスト・セラーだったりします。
>2、3冊同時進行
すると、途中で止められなくならないんですね。覚えておこう。
わたしは叩いてませんよ。ただ物を知らないだけです。ごめんね。
つる
2008/01/24 21:00
あ、つるさんの事じゃないすよ!先日僕のところにコメ落としてた人の事です^^; 昔は読み出した本は必ず最後まで読んでましたが、最近は面白くない本、文章が合わない本は途中で投げてます(笑) 年を食ってくると読書傾向やスタイルも変化しますね。さぁ沢山読むどー
レイバック
2008/01/25 00:45
あ〜良かった〜
ところで
>最近は面白くない本、文章が合わない本は途中で投げてます(笑)
や〜わたしもホントそう思うんですが貧乏性なんでここまで読んだんだからなんちゃって、意地で最後まで行くことありますよ。それに年食ってるだけあって、似たようなものだと感動しにくくなってますね。それを上回るものを求めちゃってるんです。パチンコ依存症と同じです。もっともっとってなるんですよ。「セカチュー」だって「ある愛の詩」とかぶるし「タイタニック」だって「ポセイドンアドベンチャー」に比べるとなあてな具合ですよ。だけど映画で言うと「北京ヴァイオリン」小説なら「クライマーズ・ハイ」は近年にないわたしのヒットでした。たまにこういう感動があるから人生は面白い。横山秀夫を薦めてくれてサンキュウです。
つる
2008/01/25 01:18

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