![]() photo by sports navi アドバンテージ ピーッとホイッスルが鳴ってラッキョウボールで前半のゲームがが始まった。 ナンジャラホイの布陣は4−5−1。ラッキョウのプレッシングサッカーに中盤を厚くして対応する。ワントップを張るのは柏木先輩だ。しょっぱなからボールをめぐって激しい攻防が続く。ラッキョウのボールを奪おうとナンジャラホイのプレスは一人に二人がかり。思ったより水を含んだ芝はカットに入る度に水飛沫(しぶき)があがる。滑りやすい芝。だけど転がらないボール。ショートパスを繋ぐナンジャラよりロングボールを多用するラッキョウが有利なのは誰が見ても明らかだ。高い位置からのプレスにハーフラインからこっち、ナンジャラの自陣でばかりボールの奪い合いが繰り広げられる。 「ウン。こっちだと良く見える。エ〜ト味方エンドで試合が進んでいる」「ほんと。あっち行ったら見えないもの」 「姉ちゃん。攻められてるんだよ」ヒカル。四年生の佐藤さんの弟。六年生のマモルと二人で『どうしても見たい』と姉ちゃんを拝み倒して連れて来てもらった。初めて見る目の前の高校サッカー。その迫力に目を輝かせている。 「え? そうなの?」「そうだよ。見にくくても、うちはあっちのゴールに攻めなきゃ」 ライン際のラッキョウボールに寄せたナンジャラ。ボールがタッチラインを割った。ラッキョウのスローイン。 「マイボール! マイボール!」 「違うよ。ラッキョウボールだよ」 「なんでよ。ラッキョウが出したでしょ」 「プレスかかったラッキョウがナンジャラの足に当ててわざと出したんだよ」 「なんだそれ。汚ないな。やり方が」 「ふつうだよ」 「じゃあんまり近づかない方がいいんじゃないの?」 「プレスかけなきゃボールのコースをつぶせないんだよ」 「あそうなの?」 「もう黙っててよ」 序盤は前へ前へと力強く展開するラッキョウが押し気味でナンジャラがその圧力に耐えているといった展開だった。 前半の13分。ゴール前の混戦にナンジャラホイはハンドを取られた。 「なに〜? 笛鳴った?」佐藤さん。 「ペナルティエリア内でハンドとられた」マモル。 「手なんか使ってないよ」 「使ってなくても当たってそう判断されたんだよ」 「きゃあ! ナニ? あんな近いトコからずる〜い」酒井さん。 痛いPK。難なく決められて1−0。あらあ〜まさか! というどよめき。先制点が痛い。 両チームのベンチの後ろでピッチを睨みながらビブスをつけた控えの選手のアップが始まった。二人ずつトラックのダッシュを繰り返す。 「あ〜あPK貰って、キーパー見ないで動いちゃった。あれじゃ入れてくれ言ってるようなもんだ」 三人のお母さんの後ろでワンカップ片手の年配のおいちゃんが独り言を言った。 巧みなラッキョウのフェイントでほんの少し早く動いたようにも見えた。ワンカップのおいちゃんの片手にはさきイカ。一瞬イカの袋に視線を落とした時に入った。だからたぶん適当。 「やだ。何後ろ。へんなこと言ってる」加藤君のお母さん。 「だれかの保護者かしら」 「もうちょっと年いってんじゃない?」 「やだわ。ラッキョウの応援席と間違えてるのかしら」 ボールを持った6番ニイケンの背後からラッキョウの10番が激しい当たりをくらわせる。なにが怖いって体ごと預けてくるラッキョウ。こちらのバランスが崩される。さっきから巧みにMFが転がされている。二イケンはそれを振り切って左足で送ったボールを追い駆ける。 「あっ! すげっ! 6番」マモル。 「どした? 6番がどした?」酒井さん。 「後ろからきたラッキョウに負けてない。すげえ! フィジカル強ぇ! ハンパない!」大興奮。同じポジションだからわかるのだろう。 え〜と。どんなふうにすごかったかというと、こう。 真後ろからアタックをかけるラッキョウ10番に対して、二イケンは持っていたボールを遠い方の左足で届かないところに送り右足の重心残したまま相手の当たりを堪(こら)えて振り切ってかわしスペースへ飛び出した。 あのままボールを持って踏み出していたら強い当たりに倒れる込むところだ。彼の凄いところは見えない場所からのアタックに一瞬でこうした対応をしたことだった。 これだけではない。相手の早い寄せをかわしたり、間合いをはかるのに、彼の腕の使い方は本当に上手い。でもDFのこうした職人技のようなプレイは点を決めるFWのそれと違いとても地味だ。 「へえ。よくわかんないけどとにかくすごいのね」ちょっと嬉しい酒井さん。 「あっ! また10番!」酒井さん。「なんかあのハゲ、いやだ。ほんとに高校生なのかな」たまにいる老け顔。10番は坊主頭というよりスキンヘッドに近かった。 ニイケンが10番と接触してへんな格好で手をついてこらえていた。と思ったら準備体操のようにトントントンとジャンプした。ナンジャラはFKを貰う。 「どうしたんだろう。痛そう」 「大事なとこ打ったんだ」ヒカル。 「大事なとこって?」 「ちん、うっ!」佐藤さんがヒカルの口を押さえた。酒井さん赤くなった。大事な彼氏。 「頭くるなあ。あの10番。呪いかけたろか。帰りの赤羽駅で自動改札が“中止”ってなってて焦れ!」たいした呪いじゃない。 「レギュラーは送迎バスだから電車に乗らないよ」佐藤さん。 「そっか。なんかない?」 「携帯使う時逆パカになっちゃうのは?あはは」親友の為だ。 「いいね。いいね。それ。10番の携帯が逆パカになれ!」 何度も何度も繰り出されるラッキョウのミドルシュート。その猛攻にナンジャラのDFは体を張ってゴール前を死守する。GK楢崎主将(キャプテン)も必死だ。高いボールに飛ぶ。低いボールに倒れ込む。芝の水を吸ってユニフォームも髪も、とっくにびしょびしょだ。 こぼれ球を拾ってそれでも前半の33分。ワンタッチパスが4本繋がってラッキョウゴール攻め上がったナンジャラ。左サイドの柏木先輩がラッキョウの速い寄せに一回タッチが多くてそれでも振り抜いた右のインフロントキックはDFにクリアされてタッチラインを割った。あ〜〜惜しい!というどよめき。 「ヘイ!コ ーナー、コーナー!」ルールブック片手の酒井さん。 「違うよ。スローインだよ。CK(コーナーキック)はゴールラインを割った時だよ」ヒカル。 35分。ラッキョウがロングボールを右から左へ大きく展開した。そのまま中に入れたボールを10番が受けてワンタッチで振り向きざまシュートした。悔しいけどGOAL。 オオーーーッ! というどよめき。キャアと言う悲鳴。2−0。 「オフサイッ! オフサイッ!」ルールブック奪って往生際悪く佐藤さん。 「全然違うからもう黙っててよ」マモル。 中腰で見ていた佐藤さんも酒井さんもベンチにへたりこんだ。 いやな時間帯に決められたゴール。気を取り直すかのように吹奏楽部の演奏が始まる。 佐藤さんはスタンドの下方で声援を送る直樹を見た。ここからではその表情を汲みとる事はできないけれどメガホンでグラウンドに声援を送り続けている。 声を枯らして応援する直毅。スタンドから見るフィールドは遠く感じる。 彼は故障の少ない選手だった。だから怪我で長い休養を余儀なくされる選手のようにサッカーがしたくてたまらない気持ちを味わったことがほとんどなかった。今思う。 試合に出たい。 みんなとボールが蹴りたい。 こんなにもサッカーがしたい。 勝って次の決勝に出たい。 強い衝動に突き挙げられている。ボールに触れられない我慢を強(し)いられている。 彼にできるのはそんな思いをフィールドに送り続けることだけ。 楢崎主将の肩をドンマイと言うふうに叩くと中澤先輩は前線に声を送った。「前向けっ! まえっ!」中澤先輩。「まえっ!」「まえっ!」次々と前線へ送られる声。顔こそゴールを向いていたが視線が落ちがちになっていたナンジャライレブン。ボールを追うあまり、いつのまにか前のめりなサッカーになっていた。試合中に声をかけながら見合す顔。顔。顔。あきらめてなんていないのに自信より必死さの方が勝(まさ)っている。 重いゴール前をこじ開けるどころかパスを繋げる道筋さえ見えないナンジャラ。激しいプレスに思ったような展開ができず戸惑っているように見える。ナンジャラが持つボールに横四人のラインをきっちり揃えたまま三人がかりでプレスをかけ、残り一人がカバーに入るラッキョウに、ボールを持ったナンジャラは振り回された。 ピーッと笛が鳴って2点ビハインドのまま前半終了。決めきれなかったワンチャンスが悔やまれる。インターバル10分。 冷えた見物客が洗面所に走る。売店のフランクフルトとアメリカンドッグに行列。おでんバカ売れモツ完売。 「あんだけ自由にやらしとくんだからさ。点を入れられるのも時間の問題だったんだよ。そんでもまあ、ナンジャラもよくここまで上がってきたもんだ」グビッ。 褒(ほ)めてんだかけなしてんだか。 「もうやだ。後ろのおいちゃん。うるさいんですけど」 「放っておきなよ。お酒も飲んでるし、絡(から)まれたらなんか恐い」 「すっかり前がかりなサッカーになっちゃってもう」グビッ。 「いや言う! あたし言う!」じゅんぺいのお母さんがお弁当のホイルを持ったままクルリと後ろ向きに立つと 「そんでもあれだ。8番10番あたりがビシッといいパス通すんだから、もったいないんだよな〜」 「おひとついかがですか? 娘がこしらえたんですの。ほほほ」楊枝(ようじ)を差してだし巻き卵を勧(すす)めた。8番はじゅんぺいの背番号。 「や、こりゃどうも。恐縮です」 聞けばワンカップのおいちゃんの息子さんは、十年前にナンジャラが都大会ベスト8になった時のゴールキーパーだったそうだ。新聞でナンジャラが快進撃を続けているのを知って、いてもたってもいられず、久しぶりに西が丘に来てみたくなったと言った。 その息子さんとも折り合いが悪くて三年前に「勘当してやった」そうでそれきり会ってないと言う。「『見に来てくれ』ちゅーうちが花よ」残りのワンカップをあおるとガハハと笑った。 いつかお母さんたちも子離れする時がくる。その日のことは想像もつかないけれど今こうして応援することができるひとときの幸せを噛みしめた。 <つづく> アドバンテージ。ええ、こじつけです。外野がなんだかんだうるさくてもゲーム自体は進んでいくみたいな。か、勘弁して。題名にはほんと悩まされます。 さて前半はスタンド中心でお送りしました。誰もわたしに専門的な観戦記を期待なんてしてないと思われ、こんなです。次回はハーフタイムの出来事になる予定です。 今日の応援歌は「それが大事」大事MANブラザーズ・バンド 。こんなふうに歌われます。 ♪負けないこと 投げ出さないこと 仲間を信じて戦えること それが勝利の道と きっとなってゆくから♪ここを何回か繰り返します。聞いていて胸が熱くなります。 年齢を問わず読んでいただきたくてお目障(めざわり)かもしれませんが読み仮名を付けます。 アドバンテージ反則があった場合に、反則された方が有利にゲームを進めていると主審が判断した時、ゲームを止めずに続けること。 ペナルティエリアフィールドのゴール前にある長方形の枠2つのうち広い方。 味方エンドハーフウェーラインの味方側と相手側を区別して呼ぶ時に、味方エンドと相手エンドと言う。 ハンド(ハンドリング)手・腕でボールを扱う反則。偶然手に触れた場合など、故意でなければ反則とならない。 PK(ペナルティキック)プレーヤーが自陣のペナルティエリア内で直接フリーキックとなる反則を犯した時に与えられるキック。 スローインボールがタッチラインを越えた時、最後にボールに触わったプレーヤーの相手チームに与えられるゲームの再開方法。 FK(フリーキック)反則を受けた側が得られる妨害なしのキック。相手チームはボールから9.15m(10ヤード)離れなければならない。 反則の種類によって直接フリーキックと間接フリーキックがある。 CK(コーナーキック)守備側のプレーヤーに触れたボールがゴールラインを越えた場合のゲームの再開方法。以上参考URL タッチラインフィールドの縦(長い方)のライン。 ゴールラインフィールドの横(短い方)のライン。以上参考URL プレッシングサッカー→クリック インフロントキック→クリック プレス→クリック 携帯の逆パカ反対側に折れちゃって音信不通になることです。 ワンカップワンカップ大関ですね。温めて売ってました。 ↓外野って勝手なこと言ってます。ホントホントと思ったらポチ。 人気ブログランキングへ |
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サッカーの2点ビハインドは結構キツイですねぇ。後半盛り返せるのか???ワンカップ片手のおいちゃんがキーマンになりそうですな(なんでやねんw) |
レイバック URL 2007/12/06 23:49 |
レイバックさんたら〜わかってるくせに〜 |
つる 2007/12/07 00:54 |
PKの一点は許すけど、なんで追加点をあげちゃうのオ。なんの恨みがあるのオ。きついなあ。 |
だっくす史人 2007/12/08 15:35 |
今更ながら、こういう高校生たちは実際にいると思いますよwつるさんは女性にも関わらず、男性を描写するのがお上手ですね。観察力、洞察力が学生の時分からおありだったようで・・・。 |
小屋 2007/12/08 20:26 |
だっくす史人さん、いつもありがとう。 |
つる 2007/12/08 22:50 |
小屋たん、いつもありがとう。 |
つる 2007/12/08 23:03 |
PKってフェイントかけてもいいんですよね。 |
銀河系一朗 URL 2007/12/13 23:34 |
銀河系一朗さん。いつもありがとう。 |
つる 2007/12/14 00:02 |
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